夢の中の雪

東赤月

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悪夢

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 餌というのはつまり、深谷さんを油断させるための罠のことだった。明日二人で深谷さんの家に訪問し、僕と二人きりになる状況を作り出して、僕に襲い掛かろうとする深谷さんの隙をつき、隠れている部長が除霊する、といった手筈で除霊を行う、と部長は言った。
「明日、一時に校門前に集合じゃ。安心せい、既に深谷には昨日のうちに、日曜日遊びに行くと伝えておる。一人増えたところで問題はないはずじゃ」
 手抜かりのない部長だった。元々は、明日一人で除霊するはずだったのだろう。
 そして、夜。
 僕はベッドの上で横になりながら、今日聞いた部長の話を思い出していた。
 世の中には意思によって作用する霊力が存在し、無意識ながらに誰もが使用している。強い霊力は稀に意思を持ち、本人の気づかぬうちに成長し、意思を乗っ取る。さらに霊力を食った意思は独立を夢見て、人を精神的に死に追いやる程霊力を求める。
 きっと、今の深谷さんの霊は、独立を夢見ているのだろう。不死身の存在になろうとしているのだろう。
 けれど、じゃあその前は何が行動目的だったんだろうか。深谷さんは、何を望んだのだろうか。
 あ、とそこで気づく。
 僕は部長の話の中で、何かが引っかかっていたのだった。けれどそれが何だったかが思い出せない。
 思い出そうとしているうちに、睡魔が訪れた。

 悪夢を見た。
 目の前にいるのは、広太だ。その表情は恐怖に歪んでいる。その体に、影の手とでも言えばいいのか、全く厚みが感じられない細長いものがいくつもまとわりついていた。
 僕は必死に何かを叫んでいる。けれど体は動かず、広太はどんどん黒い何かに覆われていく。
 そして、その頭の上から――

 ハッとして目が覚めた。暗闇の中、自分の呼吸音がうるさく感じる。
 夢、だよな? どうしてあんな夢を……?
 部長から話を聞いたことで、無意識的に悪い想像をしてしまったのだろうか。深谷さんに俺と広太が捕らわれた末路、という感じで。けどそれなら、どうして部長がいなかったんだ?
「……起きよう」
 僕はもう一度眠る気にもなれず、少し早いけれど体を起こした。
 嫌な夢だったけれど、所詮は夢だ。内容からして荒唐無稽だったし、考えても意味がない。それよりも今日の除霊のことに頭を使おう。
 集合は、一時。
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