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三歳児編
初めての学校生活を終えて
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「いやあ、まさか転入初日からそんなことが起こるなんてね」
喧嘩、ではなく制裁を見ていたヘツェトさんが、今日起こったことを聞いて気楽そうに言った。どうも帰りの遅い俺を心配して探しに出たところ、林の中に入っていく悪魔族の子供、アドラとネブトのことだろう、それが気になって後をつけた先で、俺を見つけたんだそうだ。
「何故我らを助けなかった?」
「何となく事情は察せられたからね。あそこで僕が助けても、あいつらは僕がいない場所で続きをするだろうし。それなら君に手を下してもらった方が早いと思ったんだ」
ちなみにベルクたちは警察のご厄介になっていた。俺の怪我が大したことなかったからその日のうちに家には帰されるだろうとのことだったけど、まあいい薬にはなったはずだ。そういう意味では、ヘツェトさんの行動は正しい。
「ふん。まあ我らとしても、自らの手で痛い目に遭わせた方が気も晴れるから良いのだがな」
「我ら? リンド君も同じ意見かい?」
「勿論だ。サケルカトルで奴らに報復することを提案したのも、リンドなのだぞ?」
うん、間違ってはいないけどね。でもその言い方じゃあ俺が自分から進んでやったみたいに聞こえるじゃないか。あれはあくまでレイズが暴走しないよう妥協しただけだからな。
「そっか! うん、良かった良かった」
あれ!? 喜んでる!?
「いやー、僕の知ってるリンド君はいい子すぎてさ。誰かに嫌な思いさせられても我慢するんじゃないかって心配してたけど、そんなことなかったみたいだね。先に手を上げるなんてこともしなかったそうだし、偉い偉い!」
お、おう。そう捉えるのか。けど確かに、やられたらやり返したくなるのは自然だし、子供がその気持ちを我慢することはできないだろうからな。アルファと契約しているリンド少年がすぐに仕返しするのは当然と言えば当然か。
(ふっふっふ、我の提案を聞いておいて良かったであろう?)
(ああ。この件に関してはレイズが正しかったな。ありがとう)
(うむうむ。もっと感謝するが良い)
レイズが上機嫌になる。いつもこうだといいんだけど。
しかし、うん、相手が子供だからと慎重になっていたけど、よく考えたら俺も子供なんだもんな。もっとそういう意識を持たないと。それに気付かせてくれたレイズには感謝しなきゃ。
……いや、ちょっと待てよ? レイズの助言の結果年相応の振る舞いになったってことは、もしかしてレイズの精神年齢は子供に近い……?
(む、何やらバカにされているような気がするのだが)
(気のせい気のせい。メチャクチャ感謝してるよ)
そうだよ、レイズの助言は魔界の子供がどうするか考えた上でのものだったんだ。そうに決まってるじゃないか。あははは。
「それより、オード君って子が気になるんだって?」
自分を納得させている内に、話題が次に移る。
「うむ、その通りだ。繰り返しになるが、下校時には無意識に怪しげな香りを発し、リンドが正気を失いかけたのだぞ?」
レイズは黙って放置してたけどな。
「あやつの魔法における才能が、非凡であることに疑いはない。このままでは無意識に行使した魔法によって小さくない被害が起きかねん。それとも学校というものは、幼児が魔法を扱うという事態を想定しておるのか?」
「いいや。幼い内から魔法の才能を認められた子供が通う学校ならそれなりに対策はしてあるけど、あの学校はそうじゃない。上級生になってから素質を認められる子が出てくることは想定しているかもしれないけど、下級生の内から、それも魔力を放出するどころか魔法を発現させる生徒なんて想定外もいいところだよ」
ああ、やっぱりそうなのか。そりゃあレイズ以上の魔法の才能を持つ子供がポンポン現れるわけないものな。
「今更ではあるが、運営者の意識がその程度でよく我らの転入が許されたな。我が言うのもなんだが、魔物と契約した子供も危険性はあやつと然程変わらぬであろうに」
「そこは別の理由があるのさ。それにリンド君は優しい子だって分かってるしね」
「別の理由とは何だ?」
「それは内緒」
へツェトさんは笑みを浮かべた口元に人差し指を立てる。どうやらその仕草は前世と似た意味を持つみたいだ。俺は少し安心する。
「……それで、想定外の生徒に対し、どう応じるつもりなのだ?」
「どう応じるつもりかと問われてもなぁ。僕にできることは、オード君が魔法を使ったかもしれないことを学校側に伝えるくらいで、その後のことには関与できないし」
「随分と関心が薄いのだな。関係ない子供のことなどどうなってもいいという考えか」
「そういう君はどうなのさ?」
「我に関係ない者が危険な目に遭ったところで、知ったことではない」
れ、レイズ……?
「だが奴らはリンドの級友だ。ようやく繋がりを持てた同年代の子供に何かあれば、リンドは悲しむだろう。契約相手として、そのような事態は看過できぬ」
れ、レイズ……!
「成程ね。君の言い分ももっともだ。僕としても、リンド君に悲しい思いをさせるのは本意じゃないし、子供たちが危険な環境に置かれているのをそのままにしておくのは忍びない」
「しかしどうにもできない、と?」
「残念ながらね。ほら、僕って悪魔族だろう?」
苦笑いしながら、ヘツェトさんが自分の頭の上から生える二本の角を指し示す。
「この辺りは比較的マシだけど、それでも色眼鏡で見られることは多々あってね。下手に動くと逆効果になる可能性も大いにあるんだ。例えば今言った、オード君が魔法を使ったかもなんて伝えることでさえ、まともに取り合ってもらえないどころか、明らかに魔法を使っていても見て見ぬふりをするかもしれない」
「何故だ? 事実を述べているだけではないか」
「そうなんだけどねぇ。向こうはありもしない裏を読もうとしちゃうんだよ。養子であるリンド君に下等な妖魔族が近付いてほしくないから悪質な噂を流したんだろう、なんてさ。そう思っちゃったら最後、本当に魔法が使えるんじゃないかなんて怪しんでも、まず認めようとしない。結果的に事実確認が遅れて、悪い方向に転がっちゃう、なんてことも十分ありうるんだ」
そ、そんなことが起こりうるのか……。いや、前世でも自分が信じたいものしか信じない人ってのは一定数いたもんな。それと同じか。
まあ俺たち全員、自分が信じたいものを信じているわけだが、信じたくないものも信じようとする姿勢を忘れちゃいけないよな。もしかしたらいつの間にか信じられないようなことに出くわすかもしれないんだから。転生とか。
「ふん、愚の骨頂だな。しかし、そうなるとどうしたものか……」
俺の思考が飛躍している間に、話が行き詰まる。そうだった、今はオードくんのことを考えないと。
もし何かの弾みでオードくんが危ない魔法を使ったりでもしたら大変なことになる。子供が相手なら最悪死んでしまうことだってあるだろうし、オードくんも加害者として罪を背負っていかなくちゃならなくなる。そんな結末だけは何としてでも回避しないと。
しかし大人であるヘツェトさんからの証言が意味をなさないとなると、かなり厳しいな。考えたくないけど、俺の言葉でさえヘツェトさんに言わされているものとして扱われる可能性がある。俺と契約している魔物として認知されているアルファ――レイズの言葉も同様だ。そうなると学校側に働きかけての解決というものは極めて難しくなる。
いっそオードくんに魔法の才能があると知らせて、いち早く魔力を制御できるよう協力しようかとも考えたが、六歳前後の子供の精神で制御しきれるものとも思えないので諦めた。下手すると威力だけ強まった魔法が激情のままに振るわれるかもしれないし。
うーん、何かいい方法は……。
「それなら一つ、妙案があるんだけど」
「何?」
レイズの言葉と俺の思考が重なる。ヘツェトさんはにこっと笑って考えを口にした。
「リンド君がオード君を守ればいいのさ。オード君が身の危険を感じなければ、無意識に魔法を使うなんてことも起こらないだろう?」
「無茶を言うな。精神に作用する香りを放つ者の近くに居続けろとでも言うのか?」
「そこはほら、今みたいに君が表に出ればいいんだよ。リンド君が話した内容を君が伝えれば、子供同士で会話することだってできるし。君だって、リンド君のためならそのくらいの苦労、訳ないだろう?」
「………………」
レイズが口ごもる。成程、へツェトさんはそう考えるのか。確かにそれならどうにかなりそうだ。
「わかった」
だけど、レイズに負担をかけるのは俺の望むところじゃない。
「リンド君かい?」
「うん。ぼくがオードくんをまもる」
「あー……まあそれでもいいんだけど、それだとリンド君が大変だろう? 今日も変な気分になったんじゃないかい?」
「まほうのれんしゅうをすればだいじょうぶ。それに、もしものときは、アルファがたすけてくれるから」
「……魔法の練習ってのは、アルファに聞いたのかい?」
俺が頷くと、へツェトさんはやれやれと苦笑いする。
「それはそうかもしれないけれど、しかし、うーん、参ったね。僕としてはあまりリンド君に無理をさせたくないんだけど」
「ぼくも、アルファにはむり、させたくない」
「………………」
今度はへツェトさんが口を閉ざす番だった。どう答えるべきか迷っているようだ。
「ぼくならだいじょうぶ。だから、ぼくがオードくんをまもる!」
畳み掛けるように言葉を続ける。内容は全く根拠のないものだったけど、世間を知らない幼児にとっては、自分ならできるという自信があればそれで十分だ。
さあ、どうでる――?
「……うん、分かった。そこまで言うならリンド君に任せるよ。ただし無理そうだったら、すぐにアルファに任せること。いいね?」
――子供の意思を尊重して譲歩する、か。裏でどんな打算をしたかは分からないけど、そういう姿勢は好ましいな。
「うん!」
そんな考えはおくびにも出さず、俺は無邪気に返事をする。
かくして、比較的穏やかだと思っていた学校生活は一日にして、常に精神力が試される緊張感のあるものへと変貌したのであった。
喧嘩、ではなく制裁を見ていたヘツェトさんが、今日起こったことを聞いて気楽そうに言った。どうも帰りの遅い俺を心配して探しに出たところ、林の中に入っていく悪魔族の子供、アドラとネブトのことだろう、それが気になって後をつけた先で、俺を見つけたんだそうだ。
「何故我らを助けなかった?」
「何となく事情は察せられたからね。あそこで僕が助けても、あいつらは僕がいない場所で続きをするだろうし。それなら君に手を下してもらった方が早いと思ったんだ」
ちなみにベルクたちは警察のご厄介になっていた。俺の怪我が大したことなかったからその日のうちに家には帰されるだろうとのことだったけど、まあいい薬にはなったはずだ。そういう意味では、ヘツェトさんの行動は正しい。
「ふん。まあ我らとしても、自らの手で痛い目に遭わせた方が気も晴れるから良いのだがな」
「我ら? リンド君も同じ意見かい?」
「勿論だ。サケルカトルで奴らに報復することを提案したのも、リンドなのだぞ?」
うん、間違ってはいないけどね。でもその言い方じゃあ俺が自分から進んでやったみたいに聞こえるじゃないか。あれはあくまでレイズが暴走しないよう妥協しただけだからな。
「そっか! うん、良かった良かった」
あれ!? 喜んでる!?
「いやー、僕の知ってるリンド君はいい子すぎてさ。誰かに嫌な思いさせられても我慢するんじゃないかって心配してたけど、そんなことなかったみたいだね。先に手を上げるなんてこともしなかったそうだし、偉い偉い!」
お、おう。そう捉えるのか。けど確かに、やられたらやり返したくなるのは自然だし、子供がその気持ちを我慢することはできないだろうからな。アルファと契約しているリンド少年がすぐに仕返しするのは当然と言えば当然か。
(ふっふっふ、我の提案を聞いておいて良かったであろう?)
(ああ。この件に関してはレイズが正しかったな。ありがとう)
(うむうむ。もっと感謝するが良い)
レイズが上機嫌になる。いつもこうだといいんだけど。
しかし、うん、相手が子供だからと慎重になっていたけど、よく考えたら俺も子供なんだもんな。もっとそういう意識を持たないと。それに気付かせてくれたレイズには感謝しなきゃ。
……いや、ちょっと待てよ? レイズの助言の結果年相応の振る舞いになったってことは、もしかしてレイズの精神年齢は子供に近い……?
(む、何やらバカにされているような気がするのだが)
(気のせい気のせい。メチャクチャ感謝してるよ)
そうだよ、レイズの助言は魔界の子供がどうするか考えた上でのものだったんだ。そうに決まってるじゃないか。あははは。
「それより、オード君って子が気になるんだって?」
自分を納得させている内に、話題が次に移る。
「うむ、その通りだ。繰り返しになるが、下校時には無意識に怪しげな香りを発し、リンドが正気を失いかけたのだぞ?」
レイズは黙って放置してたけどな。
「あやつの魔法における才能が、非凡であることに疑いはない。このままでは無意識に行使した魔法によって小さくない被害が起きかねん。それとも学校というものは、幼児が魔法を扱うという事態を想定しておるのか?」
「いいや。幼い内から魔法の才能を認められた子供が通う学校ならそれなりに対策はしてあるけど、あの学校はそうじゃない。上級生になってから素質を認められる子が出てくることは想定しているかもしれないけど、下級生の内から、それも魔力を放出するどころか魔法を発現させる生徒なんて想定外もいいところだよ」
ああ、やっぱりそうなのか。そりゃあレイズ以上の魔法の才能を持つ子供がポンポン現れるわけないものな。
「今更ではあるが、運営者の意識がその程度でよく我らの転入が許されたな。我が言うのもなんだが、魔物と契約した子供も危険性はあやつと然程変わらぬであろうに」
「そこは別の理由があるのさ。それにリンド君は優しい子だって分かってるしね」
「別の理由とは何だ?」
「それは内緒」
へツェトさんは笑みを浮かべた口元に人差し指を立てる。どうやらその仕草は前世と似た意味を持つみたいだ。俺は少し安心する。
「……それで、想定外の生徒に対し、どう応じるつもりなのだ?」
「どう応じるつもりかと問われてもなぁ。僕にできることは、オード君が魔法を使ったかもしれないことを学校側に伝えるくらいで、その後のことには関与できないし」
「随分と関心が薄いのだな。関係ない子供のことなどどうなってもいいという考えか」
「そういう君はどうなのさ?」
「我に関係ない者が危険な目に遭ったところで、知ったことではない」
れ、レイズ……?
「だが奴らはリンドの級友だ。ようやく繋がりを持てた同年代の子供に何かあれば、リンドは悲しむだろう。契約相手として、そのような事態は看過できぬ」
れ、レイズ……!
「成程ね。君の言い分ももっともだ。僕としても、リンド君に悲しい思いをさせるのは本意じゃないし、子供たちが危険な環境に置かれているのをそのままにしておくのは忍びない」
「しかしどうにもできない、と?」
「残念ながらね。ほら、僕って悪魔族だろう?」
苦笑いしながら、ヘツェトさんが自分の頭の上から生える二本の角を指し示す。
「この辺りは比較的マシだけど、それでも色眼鏡で見られることは多々あってね。下手に動くと逆効果になる可能性も大いにあるんだ。例えば今言った、オード君が魔法を使ったかもなんて伝えることでさえ、まともに取り合ってもらえないどころか、明らかに魔法を使っていても見て見ぬふりをするかもしれない」
「何故だ? 事実を述べているだけではないか」
「そうなんだけどねぇ。向こうはありもしない裏を読もうとしちゃうんだよ。養子であるリンド君に下等な妖魔族が近付いてほしくないから悪質な噂を流したんだろう、なんてさ。そう思っちゃったら最後、本当に魔法が使えるんじゃないかなんて怪しんでも、まず認めようとしない。結果的に事実確認が遅れて、悪い方向に転がっちゃう、なんてことも十分ありうるんだ」
そ、そんなことが起こりうるのか……。いや、前世でも自分が信じたいものしか信じない人ってのは一定数いたもんな。それと同じか。
まあ俺たち全員、自分が信じたいものを信じているわけだが、信じたくないものも信じようとする姿勢を忘れちゃいけないよな。もしかしたらいつの間にか信じられないようなことに出くわすかもしれないんだから。転生とか。
「ふん、愚の骨頂だな。しかし、そうなるとどうしたものか……」
俺の思考が飛躍している間に、話が行き詰まる。そうだった、今はオードくんのことを考えないと。
もし何かの弾みでオードくんが危ない魔法を使ったりでもしたら大変なことになる。子供が相手なら最悪死んでしまうことだってあるだろうし、オードくんも加害者として罪を背負っていかなくちゃならなくなる。そんな結末だけは何としてでも回避しないと。
しかし大人であるヘツェトさんからの証言が意味をなさないとなると、かなり厳しいな。考えたくないけど、俺の言葉でさえヘツェトさんに言わされているものとして扱われる可能性がある。俺と契約している魔物として認知されているアルファ――レイズの言葉も同様だ。そうなると学校側に働きかけての解決というものは極めて難しくなる。
いっそオードくんに魔法の才能があると知らせて、いち早く魔力を制御できるよう協力しようかとも考えたが、六歳前後の子供の精神で制御しきれるものとも思えないので諦めた。下手すると威力だけ強まった魔法が激情のままに振るわれるかもしれないし。
うーん、何かいい方法は……。
「それなら一つ、妙案があるんだけど」
「何?」
レイズの言葉と俺の思考が重なる。ヘツェトさんはにこっと笑って考えを口にした。
「リンド君がオード君を守ればいいのさ。オード君が身の危険を感じなければ、無意識に魔法を使うなんてことも起こらないだろう?」
「無茶を言うな。精神に作用する香りを放つ者の近くに居続けろとでも言うのか?」
「そこはほら、今みたいに君が表に出ればいいんだよ。リンド君が話した内容を君が伝えれば、子供同士で会話することだってできるし。君だって、リンド君のためならそのくらいの苦労、訳ないだろう?」
「………………」
レイズが口ごもる。成程、へツェトさんはそう考えるのか。確かにそれならどうにかなりそうだ。
「わかった」
だけど、レイズに負担をかけるのは俺の望むところじゃない。
「リンド君かい?」
「うん。ぼくがオードくんをまもる」
「あー……まあそれでもいいんだけど、それだとリンド君が大変だろう? 今日も変な気分になったんじゃないかい?」
「まほうのれんしゅうをすればだいじょうぶ。それに、もしものときは、アルファがたすけてくれるから」
「……魔法の練習ってのは、アルファに聞いたのかい?」
俺が頷くと、へツェトさんはやれやれと苦笑いする。
「それはそうかもしれないけれど、しかし、うーん、参ったね。僕としてはあまりリンド君に無理をさせたくないんだけど」
「ぼくも、アルファにはむり、させたくない」
「………………」
今度はへツェトさんが口を閉ざす番だった。どう答えるべきか迷っているようだ。
「ぼくならだいじょうぶ。だから、ぼくがオードくんをまもる!」
畳み掛けるように言葉を続ける。内容は全く根拠のないものだったけど、世間を知らない幼児にとっては、自分ならできるという自信があればそれで十分だ。
さあ、どうでる――?
「……うん、分かった。そこまで言うならリンド君に任せるよ。ただし無理そうだったら、すぐにアルファに任せること。いいね?」
――子供の意思を尊重して譲歩する、か。裏でどんな打算をしたかは分からないけど、そういう姿勢は好ましいな。
「うん!」
そんな考えはおくびにも出さず、俺は無邪気に返事をする。
かくして、比較的穏やかだと思っていた学校生活は一日にして、常に精神力が試される緊張感のあるものへと変貌したのであった。
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