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三歳児編
しんゆうとのわかれ
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「ええっと、今日は残念なお知らせがあります。リンドくんが、おうちの事情で引っ越すことになりました。もうこの学校には来られません」
…………え?
うそ、そんな、リンドくんが、がっこうにこれないって、……え?
「……かちにげかよ」
「引っこしって、そんな、でも……」
なかよしになったこたちだけじゃなくて、ベルクくんやゼラちゃんもなにかいってた。だけど、ぜんぜんきこえない。からだじゅうから、あせがでてきた。
「はいはい静かに。それと、リンドくんからみんなへのメッセージがあります。代わりに先生が話しますね。えー、『みじかいあいだだったけど、たのしかった。またどこかであおうね』。以上です」
「せんせー、リンドはどこにひっこしたんですか?」
「先生も知りません。とても急でしたから……」
キットくんのしつもんに、せんせいがこたえる。それをきいて、からだがつめたくなっていくのをかんじた。
「マジかよ……」
「もっとあそびたかったのにな」
「きゅうにひっこしなんて、どうしたんだろうね?」
「なにかりゆうがありそうどすなぁ」
りゆう、そうだ、ボクのせいだ。ボクがリンドくんに、おおけがさせちゃったから、ボクが……!
いつのまにか、てからとげがでていた。このとげで、リンドくんのてをさしちゃったんだ。みぎてのとげで、ひだりてを……。
ツプ
ひだりてからまっかなちがでた。いたい。でも、いたくない。こんなのぜんぜん。だってリンドくんは、もっといたかったはずだから。
「せ、せんせぇ! オードくんが!」
ヘレンちゃんがきゅうにボクのなまえをさけんだ。ボクのせいだって、わかったのかもしれない。きっとまた、みんなにきらわれる。ボクはまた、ひとりになる……。
あかいちが、とげをながれていく。
「お、オードくん、血が!」
せんせいがボクをみておどろいたようにいう。こんなのぜんぜんいたくないのに。リンドくんにあえないこととくらべたら、どうでもいいのに。
せんせいがなにをそんなにあわてているのかわからないまま、てくびをつかまれてほけんしつにつれてかれる。
「おや、どうしましたか?」
「この子が自分の手を刺してしまったんです。すみませんが、よろしくお願いします」
ジュディせんせいはそういうと、ほけんしつからでていった。あしがへびみたいなほけんしつのせんせいが、ちかづいてくる。さいしょにみたときはびっくりしたけど、いまみてもやっぱりちょっと、きもちわるい。
「ふむ、血は出てるけど、深くはなさそうだね。しかしどうして自分を刺したりなんかしたんだい?」
ボクはこたえない。よくわからなかったし、どうでもよかったから。
「……自分の体なんだ。大切にしなさい」
せんせいはちをふくと、なにかのびんのふたをとって、そこからみずをたらした。
「うっ……」
「痛いだろう? またこういう目に遭いたくなかったら、今度から気を付けなさい」
「……いたくなんて、ない……っ」
なみだがこぼれる。いたいけど、こんなのぜんぜんいたくない。
「リンドくんは、ボクなんかより、もっと……!」
「……詳しく訊いてもいいかな?」
「……う、うう……」
それからボクは、ゆっくりはなした。あくまぞくのおとなたちにこわいことをされそうになったこと。そこでリンドくんをたすけようとして、ぎゃくにきずつけてしまったこと。そのせいで、リンドくんともうあえないこと。ボクがまた、ひとりになること。
「そうだったのか……」
せんせいが、はあっていきをだした。きっとボクのしたことにあきれてるんだ。あたりまえだよね。
「オード、どうしてリンドが君を止めたと思う?」
「……ボクに、ひとをきずつけてほしくなかったから」
リューリさんがいってたことだった。リンドくんは、ボクがわるものにならないようにしてくれたんだって。
「その通りだ。リンドは君を守るために行動した。なのに君は、リンドが守ろうとした君自身を傷つけている。それを知ったら、リンドは悲しむんじゃないかな?」
「でも、ボクはゆるせないんだ!」
大きなこえでいった。ちょっとだけ、せんせいがだまる。
「許せないというのは、君自身をかい?」
頷いた。
「リンドが許しても?」
頷いた。せんせいはまた、はあっていきをだした。
「これではリンドが救われないな。それで? 君は何をしたら、君に許してもらえるんだい?」
「……わかりません。たぶん、ずっとゆるせないとおもいます」
「……成程な」
せんせいのこえが、なんだかおもくなった。
「だったらお前はもう二度と、リンドに会おうとするな」
「え……?」
「お前は自分を痛めつけることでリンドとの繋がりを感じたいだけだ。そんな奴が傍にいては、リンドも前に進めない。彼の邪魔をするな。もっとも、リンドに許されても自分を許せないと言うからには、近づこうなんて発想は出てこないだろうが」
「せ、せんせい……?」
どうしちゃったんだろう? わるいのはボクで、ボクがボクをゆるさないのは、まちがってないはずなのに。どうしてせんせいはおこってるんだろう?
するとせんせいのたてにせんのはいった目が、ボクをにらむ。ボクは、うごけなくなる。
「甘ったれるなよ、小僧。私は怪我人には親切にするが、お前のように自分で自分を傷つける奴は反吐が出る程嫌いなんだ。自分から不幸になりにいって同情を誘おうとしているようにしか見えんからな。一人で不幸になるのは勝手だが、周りを巻き込もうとするな。目障りだ」
「ご、ごめん、なさい……!」
あやまると、せんせいはだまって、ひだりてのとげのまわりにぬのをまいてくれた。すこし、ズキッてする。
「すまない、言葉が過ぎたな。だがな、君が傷つくと周りは心配するし、私の仕事も増えるんだ。罪悪感を抱くなとは言わないし、後悔も反省もして当然だと思うが、コレは止めろ。こんなことしても、みんなの気分が悪くなるだけだ」
ボクはだまってうなづいた。せんせいもうなづいて、それからつくえのまえにもどった。
でも、それじゃあボクは、どうしたらいいんだろう?
そうおもったけど、またおこられそうだから、きけなかった。ジュディせんせいにきいてみようかとおもったけど、クラスのまえでボクがリンドくんにおおけがさせたことをいわなくちゃいけないから、やっぱりきけなかった。
そのひはずっと、じゅぎょうがおわるまでかんがえた。でも、こたえがでなかった。
「おかえりなさいませ、オード様」
ひとりぼっちでちいさないえにかえると、リューリさんがあたまをさげた。ボクは、ただいま、っていう。
「リンド様から、お手紙が届いております」
「えっ!?」
あしがとまった。リューリさんがてがみをみせる。ボクはてもあらわないで、なかをよんだ。
『ぼくとともだちになってくれて
ありがとう。こんどあうときま
でに、まほうのれんしゅうをし
ておいてね。それじゃあ、また。』
「まほうの、れんしゅう……」
それは、ボクがにがてだったものだ。そのせいでボクは、ここにひっこすことになった。あのときはもう、ボクにまほうのさいのうなんてないし、にどとまほうのれんしゅうなんてしないって、そうおもっていた。
でも、
「ねえ、リューリさん」
「はい、なんでしょう?」
「ボクに、まほうのべんきょうを、おしえてくれる?」
ボクがそういうと、リューリさんはすこしめをおおきくして、それからにっこりとわらった。
「はい、もちろんでございます。ですがその前に、手を洗いましょう」
「あ、うん。ありがとう」
ボクはてをあらいにいく。ふつうのてをあらいながら、ほんけにいたときをおもいだした。
アックにいさんも、ウエにいさんも、オンデにいさんも、みんなまほうがうまくて、ボクはぜんぜんだめだった。だからとげもうまくしまえなくて、まほうのべんきょうなんてだいきらいだった。
でも、リンドくんがしてっていうなら、ううん、もうにどと、リンドくんをきずつけるようなことをしないためなら、ボクは――!
ぬれたてをギュってして、ボクはリューリさんのところにはしっていった。
…………え?
うそ、そんな、リンドくんが、がっこうにこれないって、……え?
「……かちにげかよ」
「引っこしって、そんな、でも……」
なかよしになったこたちだけじゃなくて、ベルクくんやゼラちゃんもなにかいってた。だけど、ぜんぜんきこえない。からだじゅうから、あせがでてきた。
「はいはい静かに。それと、リンドくんからみんなへのメッセージがあります。代わりに先生が話しますね。えー、『みじかいあいだだったけど、たのしかった。またどこかであおうね』。以上です」
「せんせー、リンドはどこにひっこしたんですか?」
「先生も知りません。とても急でしたから……」
キットくんのしつもんに、せんせいがこたえる。それをきいて、からだがつめたくなっていくのをかんじた。
「マジかよ……」
「もっとあそびたかったのにな」
「きゅうにひっこしなんて、どうしたんだろうね?」
「なにかりゆうがありそうどすなぁ」
りゆう、そうだ、ボクのせいだ。ボクがリンドくんに、おおけがさせちゃったから、ボクが……!
いつのまにか、てからとげがでていた。このとげで、リンドくんのてをさしちゃったんだ。みぎてのとげで、ひだりてを……。
ツプ
ひだりてからまっかなちがでた。いたい。でも、いたくない。こんなのぜんぜん。だってリンドくんは、もっといたかったはずだから。
「せ、せんせぇ! オードくんが!」
ヘレンちゃんがきゅうにボクのなまえをさけんだ。ボクのせいだって、わかったのかもしれない。きっとまた、みんなにきらわれる。ボクはまた、ひとりになる……。
あかいちが、とげをながれていく。
「お、オードくん、血が!」
せんせいがボクをみておどろいたようにいう。こんなのぜんぜんいたくないのに。リンドくんにあえないこととくらべたら、どうでもいいのに。
せんせいがなにをそんなにあわてているのかわからないまま、てくびをつかまれてほけんしつにつれてかれる。
「おや、どうしましたか?」
「この子が自分の手を刺してしまったんです。すみませんが、よろしくお願いします」
ジュディせんせいはそういうと、ほけんしつからでていった。あしがへびみたいなほけんしつのせんせいが、ちかづいてくる。さいしょにみたときはびっくりしたけど、いまみてもやっぱりちょっと、きもちわるい。
「ふむ、血は出てるけど、深くはなさそうだね。しかしどうして自分を刺したりなんかしたんだい?」
ボクはこたえない。よくわからなかったし、どうでもよかったから。
「……自分の体なんだ。大切にしなさい」
せんせいはちをふくと、なにかのびんのふたをとって、そこからみずをたらした。
「うっ……」
「痛いだろう? またこういう目に遭いたくなかったら、今度から気を付けなさい」
「……いたくなんて、ない……っ」
なみだがこぼれる。いたいけど、こんなのぜんぜんいたくない。
「リンドくんは、ボクなんかより、もっと……!」
「……詳しく訊いてもいいかな?」
「……う、うう……」
それからボクは、ゆっくりはなした。あくまぞくのおとなたちにこわいことをされそうになったこと。そこでリンドくんをたすけようとして、ぎゃくにきずつけてしまったこと。そのせいで、リンドくんともうあえないこと。ボクがまた、ひとりになること。
「そうだったのか……」
せんせいが、はあっていきをだした。きっとボクのしたことにあきれてるんだ。あたりまえだよね。
「オード、どうしてリンドが君を止めたと思う?」
「……ボクに、ひとをきずつけてほしくなかったから」
リューリさんがいってたことだった。リンドくんは、ボクがわるものにならないようにしてくれたんだって。
「その通りだ。リンドは君を守るために行動した。なのに君は、リンドが守ろうとした君自身を傷つけている。それを知ったら、リンドは悲しむんじゃないかな?」
「でも、ボクはゆるせないんだ!」
大きなこえでいった。ちょっとだけ、せんせいがだまる。
「許せないというのは、君自身をかい?」
頷いた。
「リンドが許しても?」
頷いた。せんせいはまた、はあっていきをだした。
「これではリンドが救われないな。それで? 君は何をしたら、君に許してもらえるんだい?」
「……わかりません。たぶん、ずっとゆるせないとおもいます」
「……成程な」
せんせいのこえが、なんだかおもくなった。
「だったらお前はもう二度と、リンドに会おうとするな」
「え……?」
「お前は自分を痛めつけることでリンドとの繋がりを感じたいだけだ。そんな奴が傍にいては、リンドも前に進めない。彼の邪魔をするな。もっとも、リンドに許されても自分を許せないと言うからには、近づこうなんて発想は出てこないだろうが」
「せ、せんせい……?」
どうしちゃったんだろう? わるいのはボクで、ボクがボクをゆるさないのは、まちがってないはずなのに。どうしてせんせいはおこってるんだろう?
するとせんせいのたてにせんのはいった目が、ボクをにらむ。ボクは、うごけなくなる。
「甘ったれるなよ、小僧。私は怪我人には親切にするが、お前のように自分で自分を傷つける奴は反吐が出る程嫌いなんだ。自分から不幸になりにいって同情を誘おうとしているようにしか見えんからな。一人で不幸になるのは勝手だが、周りを巻き込もうとするな。目障りだ」
「ご、ごめん、なさい……!」
あやまると、せんせいはだまって、ひだりてのとげのまわりにぬのをまいてくれた。すこし、ズキッてする。
「すまない、言葉が過ぎたな。だがな、君が傷つくと周りは心配するし、私の仕事も増えるんだ。罪悪感を抱くなとは言わないし、後悔も反省もして当然だと思うが、コレは止めろ。こんなことしても、みんなの気分が悪くなるだけだ」
ボクはだまってうなづいた。せんせいもうなづいて、それからつくえのまえにもどった。
でも、それじゃあボクは、どうしたらいいんだろう?
そうおもったけど、またおこられそうだから、きけなかった。ジュディせんせいにきいてみようかとおもったけど、クラスのまえでボクがリンドくんにおおけがさせたことをいわなくちゃいけないから、やっぱりきけなかった。
そのひはずっと、じゅぎょうがおわるまでかんがえた。でも、こたえがでなかった。
「おかえりなさいませ、オード様」
ひとりぼっちでちいさないえにかえると、リューリさんがあたまをさげた。ボクは、ただいま、っていう。
「リンド様から、お手紙が届いております」
「えっ!?」
あしがとまった。リューリさんがてがみをみせる。ボクはてもあらわないで、なかをよんだ。
『ぼくとともだちになってくれて
ありがとう。こんどあうときま
でに、まほうのれんしゅうをし
ておいてね。それじゃあ、また。』
「まほうの、れんしゅう……」
それは、ボクがにがてだったものだ。そのせいでボクは、ここにひっこすことになった。あのときはもう、ボクにまほうのさいのうなんてないし、にどとまほうのれんしゅうなんてしないって、そうおもっていた。
でも、
「ねえ、リューリさん」
「はい、なんでしょう?」
「ボクに、まほうのべんきょうを、おしえてくれる?」
ボクがそういうと、リューリさんはすこしめをおおきくして、それからにっこりとわらった。
「はい、もちろんでございます。ですがその前に、手を洗いましょう」
「あ、うん。ありがとう」
ボクはてをあらいにいく。ふつうのてをあらいながら、ほんけにいたときをおもいだした。
アックにいさんも、ウエにいさんも、オンデにいさんも、みんなまほうがうまくて、ボクはぜんぜんだめだった。だからとげもうまくしまえなくて、まほうのべんきょうなんてだいきらいだった。
でも、リンドくんがしてっていうなら、ううん、もうにどと、リンドくんをきずつけるようなことをしないためなら、ボクは――!
ぬれたてをギュってして、ボクはリューリさんのところにはしっていった。
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