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一歳児編

エピローグ

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 夢を見ている。
 悲しい夢だ。
 望み通りにいったはずなのに、目の前の誰かは涙を流している。
 俺は謝ることしかできなくて、やがて目の前が暗くなる――
「ん……」
 目を覚ますと、ログハウスにあるような天井が見えた。けれど随分古いものなのか、全体的に汚れていて、所々には穴まで空いている。
「うっ……!」
 動こうとして、背中に痛みが走る。そこで背中に当たる感触がやけに固いことに気がついた。ベッドで眠っているわけではないようだ。
 そうだ! 俺は確か皆を逃がそうと魔法を使って……。まさか逃げ切れなかったのか!?
(起きたか、カーネルよ)
 戸惑う俺の心に、嬉しそうなレイズの声が響く。
(レイズ! あの後一体どうなったんだ!?)
(安心しろ。全員無事だったさ。そのことについては追々詳細を話す。今は先ず、お主が目覚めたことを祝わせてくれ)
 ……そうか。俺はあの後、ずっと眠っていたのか。
 落ち着いてくると、俺も含め全員が無事であることに対する喜びや、心配をかけてしまったことに対する申し訳なさやらが込み上げてきて、上手く感情が整理できなくなる。俺は少し時間をかけて、レイズに向ける言葉を見つけた。
(おはよう、レイズ)
(ああ。おはよう、カーネル)
 本当はもっと伝えたいことがあったけれど、今は朝の挨拶をするだけにしておいた。カーネルと契約してから毎朝していた挨拶は、下手に言葉を重ねるよりも強く、俺が戻ってきたんだと伝えることができたはずだ。
(しかしまさか、今日という記念日に目覚めるとはな。我も流石に驚いたぞ)
(記念日?)
(ああ。これ以上ない、めでたい日だ)
 はて、いつだろう。こっちの世界の言葉が分かる前は、お祭りみたいなものがあってもその意味が分からなかったしな。
 一歳になる前の記憶を掘り返していると、ガタッ、と音がした。振り向くと、ふくよかな女性が扉を開けて部屋に入ってくるところだった。この人も耳が長い。ということは魔族だろうか。
「あら、起きてたのね、リンド。さあさあ、今日はお前の誕生日なんだから、いつまでも横になってちゃいけないよ」
 そう言いながら、女性は俺を抱き起こしてくれる。
 リンドって誰だとか、この人は一体誰なのかとか、聞きたいことは他にもあったけれどとりあえず、
(誕生日って、俺の?)
(お主以外おらぬだろう)
 成る程。確かにこれ以上ない記念日かもしれない。レイズは上機嫌に続けた。
(今日でお主も二歳だ。おめでとう、カーネル)
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