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一歳児編

お世話役決定!

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「あ、おきたよ!」
 うっすらと目を開けて最初に見たのは、俺を覗きこむヴァネッサの顔だった。そういえば前もこんなことが――って!
「おはよう、カーネルさま」
「うふふ、よくねてましたわね」
 続いてエリーゼとメアリーが顔を見せ、ようやく思い出す。そうだ、俺のお世話役はどうなったんだ!?
 ゆっくりと起き上がったところで、寝室の扉が開く。
「おお、起きられたか、カーネル殿」
 入ってきたのはガイアさんとウィンさんだ。俺はいつものようにベッドの端に移動する。
「カーネルさま、あたしにつかまって」
 しかし俺がベッドから下りるのを手伝ってくれるのは、ウィンさんでなくヴァネッサだった。
 まさか、ヴァネッサがお世話役に? いや、まだ決まってない可能性もある。ここで手を借りるのは避けるべきだ。
「だいじょぶ」
 俺は足をベッドの外に向けてうつ伏せになると、手で体を後ろに押して、慎重に足を床に下ろす。
「おお、もう一人でベッドから下りられるのですか」
「わ、私も知りませんでした。カーネル、いつの間に……?」
 うーん、ウィンさんに隠しごとをしていたみたいでなんとなく申し訳ないけれど、背に腹は代えられないよな。
 と思ったところでようやく床に足がついた。振り返ると、ヴァネッサだけでなく、エリーゼとメアリーも近くに来ている。これはもしや、改めて俺に誰かを選ばせる流れか?
「ふむ、世話役がついたことで意識が変わったのやもしれぬ。早くも上に立つ者としての自覚が目覚めたのなら、これほど喜ばしいことはない」
 なっ!? もうお世話役は決まったのか!? 一体誰に――
「どうですウィン殿、カーネル殿の世話役になるのが一人では心許ないかもしれないが、三人であれば立派に務められると思いませぬか?」
「……そう、ですね。三人とも仲がいいようですし、カーネルが危ないときも守ってくれましたから」
 え、なんで知ってるの? というか三人!?
 混乱する俺にウィンさんが近づいてくる。床に座ったウィンさんは、俺を優しく抱きしめた。
「今日の出来事は、別の部屋で見せてもらいました。三人ともカーネルのために、力を合わせて頑張ってくれましたね。ありがとう」
「え、えへへ……」
「……きょうしゅくです」
「おせわやくですもの。とーぜんですわ!」
 ウィンさんが三人に話す内容を聞いて戦慄した。まさか、お世話役候補の一人ひとりと会っていた時も見られていたのか……!?
 そのことを尋ねる間もなく、ウィンさんの声が続く。
「これからも、カーネルを支えてくれるかしら?」
「はい!」
 三人の元気な声が重なった。え、いや、ちょっと!?
 まずい、このままじゃ三人のお世話役がつくという最悪の展開になる! こうなったら今からでも涙ながらに訴えて、ウィンさんが断る可能性に――
「カーネル」
 ウィンさんは俺の肩を強く持つと、真っ直ぐ俺の顔を見る。
「あっ」
 その目に浮かんだ涙を見て、俺は何も言えなくなった。気持ちがすうっと冷めていく。
「これからは、あの子たちと過ごすのよ。寂しくなっても、我慢してね」
 ウィンさんのほうがよっぽど我慢しているだろうに、それでもウィンさんは、にっこりと笑ってそう告げた。
 ああ、これは無理だ。ここで俺が断れば、この人の覚悟を踏みにじることになる。
 そんなこと、例えMPが満タンでも、できるわけがなかった。
「わかった」
 俺はゆっくりと頷いた。
「いい子ね」
 ウィンさんはもう一度、今度は強く俺を抱きしめた。あまりにも早すぎる、母親としての子どもとの別れだ。本当はもっと沢山母親らしいことをしてあげたかったと、そう思っているに違いない。
 一年と少ししか一緒にいられなかったけど、そう確信できるほど、ウィンさんは俺に愛情を与えてくれていた。そんな人の涙を見せられたら、俺にはどうしようもなかった。
(永遠の別れでもあるまいに。少し大袈裟ではないか?)
(怒るぞ。親が子どもを奪われたようなものなんだ。そもそも誰のせいでこうなったと思ってる)
(む……。すまない、軽率な発言だった)
(分かればいいさ。……俺も少し、言い過ぎた。ごめん)
 素直に謝るレイズに毒気を抜かれて、俺も謝罪する。こういう大魔王らしからぬところがあるからレイズは憎めない。もやもやとする感情の向け先を無くした俺は、静かに溜め息をついた。
 優柔不断な選択が最悪の結果を招くなんて、確かにゲームではよくあるものだけど、まさか実際に経験することになるとは思わなかった。
 けれどこうなったら仕方がない。お世話役がつくことは受け入れよう。どうせつくのであれば、一人も三人も似たようなものだ。そう悲観せず、これから先のことに頭を切り換えよう。
 ウィンさんが離れてから、三人に向き直る。
「よろしく」
「うん! よろしくね!」
「よろしくおねがいします」
「すえながく、よろしくおねがいしますわ!」
 お世話役となった彼女らは、三者三様の笑顔を浮かべていた。これが見られただけでもいいかと、せめてそう思うことにした。
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