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第一部

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 アキナ監修のもと、ブラックデーモン達の設定作りが完了した。俺の、必死の奮闘により、3人とも女性という点と、名前、髪型は、かろうじて生かしてもらうことができた。

 当初の設定とは、だいぶ異なるが、やむをえまい。俺も、この世界の住人ではないので、この世界のリアリティというものが分からないのだ。アキナの意見に頼らざるをえないところがある。

「今回は、魔王城に一番近い町に行ってみたいと思う。近場の町がどうなっているのかを見てみたい」

 ザクロ達がうなずく。

「だけど、俺は、地理が分からない。姉さんは分かる?」

 俺は、ブロンドツインテールのパインに問うた。

「あんた、昔っから、本当に計画性ないよねえ。行き先くらい、事前に調べておくもんでしょう」

 おお、こいつめ。すっかり、キャラになりきっている。

「はは。ごめんごめん」
「東の山を越えた先に、サイハテっていう町があるよ」

 東を指しながら、呆れ顔のパインが言った。

「よし。じゃあ、サイハテに行ってみよう」

 俺は、顔だけをアキナのほうへと向けた。

「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね。ちゃんと、帰ってくんのよ」

 アキナは、明るく言うと、こちらに背を向けてしまった。

「ああ」

 こんな、何気ないやりとりで、少し、力が湧いてくるような気がした。俺は、やはり、魔王である前に人間だということか。
 今なら、姫に寝室を与えて、足繁あししげく通ったという歴代の魔王の気持ちが、少し分かってしまう。もしや、歴代の魔王達も、中身は人間だったのか。いや、まさかな。

 俺は、ザクロ達のほうへと向き直る。

「出発だ!」

 そう言って、俺は、いつものように超空間に入り、玉座の間を出て、まずは、上空を目指して泳いだ。

 人間と魔物の共存を目指す。

 アキナに言われて、はらは決まったが、具体的に何をすればいいのかは、相変わらず分からない。
 希望が見えたような気分になっていたが、状況は何も変わっていないのだ。

 今のところ、俺は、勇者達の進撃を止めることくらいしか、できることが思い浮かばない。それを続けた先に、光はあるのだろうか。

 勇者は、なぜ魔物を殺すのか。魔物が、人間の平和を乱すからか。しかし、魔物は、実際に平和を乱しているのだろうか。それであれば、ストラリアをはじめとする、魔物を引き上げさせた地域は、平和になっているのだろうか。

 しばらくの間、上空で考えていたが、いくら待っても、ザクロ達が追ってくる気配がない。
 不審に思った俺は、一度、玉座の間まで戻り、超空間を抜けた。
 目の前には、ザクロ達と、背を向けたアキナが立っている。

「あれ? どうしてついてこないの?」

 ザクロ達は、なんのことだか分からないという顔をしている。

「ついていくもなにも、あんた、そこに立ったまんまじゃない」

「いや、超空間に行ってたんだけど」
「超空間? なにそれ?」

 ああ、そうか。

 ブラックデーモン達は、超空間に入れないのか。となると、俺単体はともかく、パーティでの移動には、ワープが使えないということだ。
 仕方がない。今回は、飛んで移動することにしよう。

 ふと、アキナの背中を見て、俺は、今さらながら、アキナに聞きたいことを思い出した。

「アキナ。お前は、どうして魔物達に攻撃されなかったんだ」

 以前にも、似たような質問をしたことがあるのだが、そのときは、会話が噛み合わず、ちゃんとした返答を得られなかったのだ。

「どうしてって、言われても、ねえ」

 振り向いたアキナも、困惑顔だ。

「あんたが、攻撃しないようにって、命令してくれたんじゃないの?」

「いや、そういう命令を出した覚えもないんだけど」

 近くを走り回っていた、ドラキャットが、こちらのほうへ振り返り、近づいてくる。

「命令されなかったからだニャン」

「どういうことだ?」
「ボクらは、命令がない限り、勇者パーティ以外の人間を、そうそう襲ったりしないニャン」

「あれ? そうなのか」

 ザクロ達にも、目で問うてみたが、今は人間になりきっているせいか、とぼけた反応をされた。

 しかし、これは朗報だ。これが本当であれば、人間と魔物の和解は、そう難しくない気がする。そうなると、やはり、問題は勇者か。

「なんで、勇者と魔物は殺し合うんだ?」
「それは分からないニャン。あいつらは、ボクらを見つけると、すごい顔して切りかかってくるんだニャン。こっちも死にたくないニャン。られる前にるしかないニャン。首を狙うのが効果的だニャン」

 最後の情報は要らんが、やはり、勇者と魔物は、不倶戴天ふぐたいてんの敵同士であるらしい。なぜなんだろう。ドラキャットの話を聞く限りだと、勇者が攻撃をしてくるので、魔物は防衛をしているだけにも思える。

 そこへアキナが加わってくる。

「んー、でも、わたしがストラリアに居たとき、町の人間が、魔物に襲われるっていう被害が、何件もあったんだよね。だから、勇者達は、町の平和を守るために戦ってるんだと思ってたんだけど」

「でも、命令はされてないんだよな?」
「ボク達はされてないニャン!」

 これは、どういうことだろう。

 俺は、一度変身を解き、フルグラの姿へと戻り、その場の魔物達に問うてみた。しかし、ストラリアの人間を襲ったものは居なかった。ウソをつかれているだけかもしれないが。
 改めて、勇者パーティ以外の人間には、手を出すなと命じて、俺は、再びフレークの姿へと変身した。

「この子達に命令しても、意味ないんじゃない? この子達、ずっとここに居るんだし」

「だからこそだよ。一応、念のため」

 アキナに、もしものことがあったら、困る。そう思ったのだ。
 俺の意図が分からなかったのか、アキナは、なんだか納得のいってない顔をしていた。

「しかし、町の人間が被害にあってるのを知っておきながら、こいつらと、ここまで旅してくるとは、いい度胸してるな」

 アキナは、得意げに、ふっと笑った。

「まあね」

「じゃあ、改めて、行ってくる」
「うん。気をつけて」

 俺は、ザクロ達に言う。

「サイハテの町まで、飛んでいこう」

 俺が、玉座の間の扉まで飛んで移動すると、ザクロ達が走って追いかけてくる。

「なんで飛ばないの?」
「いや、わたし達、人間だし。飛べないよ」

 パインが答えた。

「いや、飛べるでしょ。あんた達、ブラックデーモンでしょ」
「え!? わたし達、人間だよ!」

 真剣な顔で応えるパインに、ため息をつく俺。

「いや、ごめん。たしかに、人間になりきれとは言ったけど、もうちょっと臨機応変に行こう。このままじゃ、話が進まないから」

 3人は、目を見合わせる。

「はーい」

 3人ともが、間延びした返事をした
 
 扉を開け、通路に出て、俺達4人は上空へと飛び上がった。

「念のため聞くけど、超空間は本当に知らないんだよね?」

 超空間のことは、本当に、3人とも知らないようだ。やはり、飛んで移動するしかあるまい。

 サイハテは、魔王城の東、人間では登ることのできない、高山の向こう側にあるらしい。
 魔王城は、周囲を高山に囲まれており、サイハテから魔王城まで、普通に行こうとした場合、高山に沿って、魔王城の西側まで迂回してから、洞窟を通るしかない。

 しかし、空を飛んで最短距離で行けば、あっという間だ。高山を越えると、すぐに、サイハテらしき町が見えてきた。

「直接、町に降りると怪しまれるだろうから、少し離れた場所に下りてから、徒歩で町に入ろう」
「でも、勇者も、移動魔法を使ったときは、空を飛んで移動するんじゃない?」

 パインがもっともな意見を述べた。
 なるほど。そう言われたら、そうかもしれん。

「でも、一応、安全策を取って、徒歩で入ることにしよう」
「オッケー」

 この辺は、雪原地帯になっており、近くに、身を隠せるような場所が見当たらない。仕方がないので、町から少し離れた、適当な場所に降り立ってから町へと向かった。

 周囲には、改めて見渡すまでもなく、頭が3つある巨大なイヌやら、頭が5つあるドラゴンやら、俺が、まだ見たこともない魔物がうようよしていた。
 さすが、魔王城の最寄りの町だ。

 周囲の魔物達が、俺らを襲ってくる気配はない。それはおそらく、俺らが本物の勇者パーティでないことが分かっているからだろう。

「周りの魔物から見て、俺が、魔王だってことは分かるのか?」

 ザクロとベリーには、いまいち話しかけづらく、どうしても、自然とパインに聞いてしまう。

「見ただけじゃ分からないと思う。でも、あんたが自分の口で名乗れば、それで伝わるはず。わたしにも、上手く言えないけど、感覚的にそんな感じ」

 なるほど。襲われはしないが、名乗らなければ、魔王だとはバレない。人間のふりをして、隠密行動をするのであれば、そちらのほうが都合がいいか。

 雪原をうろつく巨大な魔物達をかいくぐり、無事に、サイハテの入り口まで来ることができた。

 入り口のすぐ近くにいた、おっさんに話しかけてみることにする。

「こんにちは」
「こんなところまで、よくきたな。ここはサイハテの町だ!」

 そう言ったおっさんは、早速、好奇の目を向けてきた。

 おいおい。若干、不審がられてる気がするぞ。アキナ。このパーティ、リアリティないんじゃないのか。
 ここで文句を言っても仕方がないので、先手を打って、説明することにしよう。

「実は、俺の父が行方不明になってしまって、家族で、父を探す旅をしてるんです。あ、俺は勇者フレークといいます」

 パーティメンバーが俺に続く。

「フレークの姉、パインです。私にとっても、大切な父なので、フレークが、父探しの旅に出るって言い出したときに、一緒に行こうって決めて、慌てて魔法使いになったんです」

「母のベリーです。いつものように、仕事に出かけた夫が戻らず、それとほぼ同時に魔物が出現し始めたので、何かあったに違いないと思い、子どもたちと話し合って、旅立つことにしました。子どもたちを助けられるよう、僧侶になりました」

「フレークの祖母、ザクロじゃ。まあ、居なくなったのは、あたしにとっちゃ義理の息子だがね、孫達にとっちゃ大事な父親じゃ。この老いぼれが、最後にひと花咲かせようと思っての。老骨に鞭打って、やってきたんじゃよ」

 ザクロは、若干、苦しそうにヒューヒューと呼吸音を鳴らしながら言った。

「お、おばあさんが、戦士なんだな」

 おっさんは、怒涛どとうの家族設定に、若干、押され気味だ。

「そうよ。まだまだ、若いものには負けんわい」

 ザクロはニヤリと笑い、腰に差した棒を素早く抜いて、おっさんのほうへ突き出しながら言った。
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