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第10話 真のクライアント
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「兼人くん、苦しげな顔をしていますが、どうされましたか?」
「いえ、急に静かになってしまったもので、なんだかちょっと寂しくて、あと、まだ、魂の話しとか、頭が付いていかなくて・・・すみません。慣れていくように努力します」
「ゆっくり慣れていって下さい。当カウンセリングルームが向き合うクライアントは御霊ですから」
そう言うと、先生は僕の顔をじっと見つめてから、にっこりと笑った。
「あと、すみません。質問なのですが、今日の茜ちゃんのカウンセリングはカウンセリングと言えるのでしょうか?」
「そうですね~。感情もむき出しで、泣いたり笑ったり叫んだり、クライアントの話しを聞かずに自分の想いを話したり、カウンセリングとしては大失敗のようにも見えますね。しかし、私は今日のカウンセリングは成功だと思っています。なぜだか分かりますか?」
先生は相変わらずニコニコと笑いながら、僕を試すように質問をした。
「それは、クライアントの小夜さんが満足されたからですか?」
「いいえ、違います」
「茜ちゃんの成長に繋がる練習になったからですか?」
「違います。カウンセラーの練習などと言ったら、クライアントに失礼になってしまいます。では、ヒントです。今回のケースのクライアントは誰でしょうか?」
「え?小夜さんじゃ・・あ、円覚さん」
「そうです。小夜さんは、円覚さんの遺言のような手紙を見て、嫌々、このカウンセリングルームに来ただけで、本当のクライアントではありません。今回の案件の本当のクライアントは円覚さんです。兼人くん正解です」
「そういうことなんですね」
「はい。だから、茜ちゃんはカウンセラーとしてはダメなように見えたかもしれませんが、当カウンセリングルームのメンバーとして立派に活躍して役目を果たしてくれました」
「円覚さんの依頼は、小夜さんと茜ちゃんを繋いで、自分がいなくなった世界でも小夜さんが元気に生きてくれること、ですもんね」
「はい。だから、成功です。円覚さんの穢れた魂もすっかり清められて、流転できるはずです」
僕は何もしていないけど、なんだか嬉しかった。魂なんて言うと、心理学とか心理カウンセリングとは関係の無い非科学な感じがしていた。もっと言うと、胡散臭い感じがしていたけど、目の前のクライアントの本当の悩みや望みを傾聴して、クライアントの人生が健やかで清らかなものになるのであれば、それは立派なカウンセリングだと思う。
「先生、僕、心理カウンセラーになれるよう頑張りたいと思います」
「心が定まった顔をしていますね。一緒に頑張っていきましょう」
「はい」 僕は僕にしかなれないカウンセラーになりたいと心から思った。
「あ、先生は理想とするカウンセラー像はありますか?」
「ええ、ありますよ。理想のカウンセラー像とはちょっと違うかもしれませんが、このカウンセリングルームを『魂が正直になれる場所』にしたいと思っています」
僕が理解できていないのを察知して、もう一言付け加えてくれた。
「私は、魂が天命に沿っている状態が正直な状態だと思っています。その状態になるようお手伝いできるカウンセラーが私の理想のカウンセラー像です。兼人くんも自身の理想のカウンセラーを目指して頑張って下さいね。期待していますよ」
「はい!」
僕はこのカウンセリングルームが人外のとんでもない者たちをもクライアントにしていることをすっかり忘れて、とても前向きで明るい気持ちになっていた。
完
「いえ、急に静かになってしまったもので、なんだかちょっと寂しくて、あと、まだ、魂の話しとか、頭が付いていかなくて・・・すみません。慣れていくように努力します」
「ゆっくり慣れていって下さい。当カウンセリングルームが向き合うクライアントは御霊ですから」
そう言うと、先生は僕の顔をじっと見つめてから、にっこりと笑った。
「あと、すみません。質問なのですが、今日の茜ちゃんのカウンセリングはカウンセリングと言えるのでしょうか?」
「そうですね~。感情もむき出しで、泣いたり笑ったり叫んだり、クライアントの話しを聞かずに自分の想いを話したり、カウンセリングとしては大失敗のようにも見えますね。しかし、私は今日のカウンセリングは成功だと思っています。なぜだか分かりますか?」
先生は相変わらずニコニコと笑いながら、僕を試すように質問をした。
「それは、クライアントの小夜さんが満足されたからですか?」
「いいえ、違います」
「茜ちゃんの成長に繋がる練習になったからですか?」
「違います。カウンセラーの練習などと言ったら、クライアントに失礼になってしまいます。では、ヒントです。今回のケースのクライアントは誰でしょうか?」
「え?小夜さんじゃ・・あ、円覚さん」
「そうです。小夜さんは、円覚さんの遺言のような手紙を見て、嫌々、このカウンセリングルームに来ただけで、本当のクライアントではありません。今回の案件の本当のクライアントは円覚さんです。兼人くん正解です」
「そういうことなんですね」
「はい。だから、茜ちゃんはカウンセラーとしてはダメなように見えたかもしれませんが、当カウンセリングルームのメンバーとして立派に活躍して役目を果たしてくれました」
「円覚さんの依頼は、小夜さんと茜ちゃんを繋いで、自分がいなくなった世界でも小夜さんが元気に生きてくれること、ですもんね」
「はい。だから、成功です。円覚さんの穢れた魂もすっかり清められて、流転できるはずです」
僕は何もしていないけど、なんだか嬉しかった。魂なんて言うと、心理学とか心理カウンセリングとは関係の無い非科学な感じがしていた。もっと言うと、胡散臭い感じがしていたけど、目の前のクライアントの本当の悩みや望みを傾聴して、クライアントの人生が健やかで清らかなものになるのであれば、それは立派なカウンセリングだと思う。
「先生、僕、心理カウンセラーになれるよう頑張りたいと思います」
「心が定まった顔をしていますね。一緒に頑張っていきましょう」
「はい」 僕は僕にしかなれないカウンセラーになりたいと心から思った。
「あ、先生は理想とするカウンセラー像はありますか?」
「ええ、ありますよ。理想のカウンセラー像とはちょっと違うかもしれませんが、このカウンセリングルームを『魂が正直になれる場所』にしたいと思っています」
僕が理解できていないのを察知して、もう一言付け加えてくれた。
「私は、魂が天命に沿っている状態が正直な状態だと思っています。その状態になるようお手伝いできるカウンセラーが私の理想のカウンセラー像です。兼人くんも自身の理想のカウンセラーを目指して頑張って下さいね。期待していますよ」
「はい!」
僕はこのカウンセリングルームが人外のとんでもない者たちをもクライアントにしていることをすっかり忘れて、とても前向きで明るい気持ちになっていた。
完
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