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-第一章-スプリングフィールド王国編-
-第一章五十五節 大興奮と食材と謎のニンジン-
しおりを挟む__ガサゴソ!…ガサゴソ!…
「ッ?…引っ掛かってる?…ッ!…そう言えばコイツを処理するの忘れてたな…
とは言え処分出来そうな場所有ったっけ?…」
{…マサツグよ…何故インベントリから取り出そうとしない?…
そっちの方が圧倒的に楽なのに……}
リンに思い当たる物を見て貰おうとマサツグがアイテムを取り出し始めるのだが、
ここである物が邪魔になると思い当たる物が取り出せず苦戦し始める。ガサゴソと
必死にカバンを弄り回すマサツグにモツが思わず困惑の眼差しで凝視し、心の中で
ツッコミを入れるのだがマサツグはそれでもカバン口からアイテムを取り出そうと
すると、まず邪魔になって居る物から取り出し机の上に置き始める。
当然マテリアルマニアのリンがそれに興味を持った様子で顔を近づけて来る
のだが、まず最初に飛び出して来たのはある意味でトラウマになる代物であった。
「……こいつがまず邪魔なんだよな…よいしょっと!…」
__…ギョロ!……
「ヒィッ!?…」
「ちょ!?…ハァ!?…な、何だよコレ!?…」
マサツグが邪魔だと言って取り出したのはサイクロプスの目玉…相変わらず
この大きさの物が如何やってこのアイテムポーチの中に納まっていたのかと
はたはた疑問に駆られるのだが、マサツグが疑問を感じる一方でいきなり
目玉を目の前に出されたクラリスとモツは戸惑いを覚えた様子で身を仰け反り
驚いた反応を見せる。勿論それは女将さんやリコちゃんの目にも止まり、
ギョッ!とした表情をされるのだが、リンだけは好奇心の塊とばかりに
顔を近づけ興味を持ち出す!
「ッ!?…うおおおおぉぉぉ!!!…これはサイクロプスの目玉!!…
それも良い感じに傷の無い一級品じゃないですか!?…」
「ッ!?…リ…リン!?…貴方これが不気味じゃ無いの!?…」
「ッ!?…何を言うんですか先輩!!!…
これは魔法学において貴重な一品なんですよ!?…
このサイクロプスの目を集光体として扱う事で…」
良い物が出て来たと言わんばかりに目を子供の様に輝かせると手を重ねて
揉み手をし始め、マサツグが片手で支えているサイクロプスの目をひたすらに
マジマジ観察していると、クラリスがリンの正気を確かめる様に疑問の声を
投げ掛ける。しかしそれを聞いたリンはすぐさまクラリスの方に振り返ると
異議有りと言った不服そうな表情で猛反論し、サイクロプスの目がどれ程に
貴重な物かの説明をコンコンとし始めようとすると、マサツグに止められる。
「いやいや…見て貰いたいのはこれじゃなくてこっち!…
これとこれと……後これ!…」
__ゴロッ…ゴロロッ……パサァ……デェ~~ン!!…ビチッ!…ビチビチッ!…
「ッ!?…な!?…」
「マサツグ!!…カバンの中どうなってんだよ!?…」
マサツグがリンを止めるよう声を掛けると取り出したのは思い当たる
アイテム三品…一つは盗賊達に襲われていた商人達を助けた際、その商人から
貰った成人男性の拳骨ほどある奇妙な泥団子三つと、妖精の国を出て行く際…
帰る時に妖精達からお礼と言って受け取ったジ〇リ感漂う葉っぱの包みと、
同じく帰る時に熊五郎から貰ったお腹が朱に近い色をした鮭…この三種を
取り出すと奇妙な泥団子は転がり鮭はまだ活きが良いのか机の上で跳ね、
マサツグのカバンからそれらが出て来た事にクラリスとモツが驚いた表情を
見せて居ると、リンがそれら三つを見るなりマサツグへ興奮気味に詰め寄り
質問し始める。
「こ!…これは!?……もっとよく見ても良いですか!?!?…」
「ッ!?…お…おう……とにかく見て貰っても…」
「遠慮なく見させて貰います!!!!」
__バッ!!…じぃ~~~!!!……
リンの圧力にマサツグが戸惑いながらも改めて鑑定をお願いすると、
リンは大歓喜した様子で疑わしき素材に顔を近づけ特徴を確認し始める。
見た目・匂い・手触り…一つ一つを入念にかつ自身の身で覚える様に
観察し出すと、リンの表情は先程までの興奮が嘘だった様に真剣な
表情に変わり、その変わり様にマサツグやモツ…クラリスまでもが
呆気に取られているとリンはモクモクと無言で観察…鑑定をし続ける。
まるで自身が知っている特徴一つ一つを照らし合わせるよう…
その場の雰囲気までもが緊張に包まれる。
__………ゴロッ…パサァ…スンスンッ……つるつる……
「……な、何だ?…この緊張感は?…
何で俺達まで緊張してる?…」
「…この子…本気になると凄いんですけど……ねぇ?…」
リンは何度も何度も素材を前に睨めっこ、確認を繰り返し…自身の中で
確信を積み上げて行くと更に緊張感を強める。その緊張感は周りに居る
マサツグ達にビリビリ伝わってはリンの様子にマサツグとモツは戸惑い、
クラリスは慣れていると言った様子でマサツグの言葉に受け答えをすると、
モツはリンの緊張感に耐えかねたのか軽く疑問の表情を浮かべては
マサツグに話し掛け始める。
「……それにしてもよく手に入れてたなぁ?…何処で手に入れたんだ?…」
「え?…あぁ……それは……
まぁ…色々遭ったんだよ……」
「ッ!……あっ!……そ、そうか…」
「…?……」
質問をする際マサツグの物持ちの良さに感心した様子で話し出し、入手経路に
ついて質問をするとマサツグはモツの問い掛けに対して何故か明後日の方を向く。
そして色々遭った…と過ぎ去った過去は戻って来ないとばかりに哀愁漂う
遠い目をし始め、そのマサツグの様子にモツが今までの話を思い出し推測…
何かを察した様子を見せてはマサツグに同情した表情で深く尋ねるのを止める。
そんな様子を見たクラリスは二人に対して不思議そうな表情を浮かべ、
リンの方も完全に確信を持てたのか元の様子を戻り出すと、怪しい笑みを
浮かべ始める。
「……うぇっへっへっへっへ!…
間違いありませんね!…これは資料で見た通り…時季知らず!…
本物を見るのは初めてです!!……えっへっへっへっへ!…」
__ビチビチビチビチビチビチ!!…
「……なぁ?…こんな事を聞きたくはないが…
本当に大丈夫なのか?…
今までで一番奇妙な顔をしているが…」
「た…多分……」
本物を見れて嬉しいのか怪しい笑みを浮かべては鮭を抱え、今にも頬擦りを
始めそうな勢いで顔を近づけると、その様子にモツが不安を覚え始める。
鮭はまるで抵抗する様にビチビチと跳ねるのだがリンが逃がさないとばかりに
抱き抱え、モツが思わずリンを心配するよう呟くとマサツグがその返答に
困り果ててしまう。そうしてリンの様子に不安を覚えてしまう中…クラリスが
リンの擁護に入るとリンの実力について話始める。
「あはははは……まぁ、多分大丈夫だと思います…
この子は一応ギルドの中では一番アイテムの扱いを心得ていますし…
それに観察眼もギルド全体だと1~2を争う位の実力はありますし……
……ただまぁ…もし粗相をしましたら…ねっ?…」
__グッ!!…ッ!?…ビクゥ!?……スッ…
クラリスはリンの素材に掛ける情熱と扱いを話し出すと大丈夫と話し、ギルドで
1~2を争う程の実力者(素材関係)と戸惑いながらマサツグとモツに説明して
いると、その間リンは鮭を抱えてクネクネと妙な動きを見せ始める。それを見た
クラリスがもしもの時の話をすると笑顔でグッ!と力を入れた様子で拳を握り、
それに反応するようリンが背筋に何かを感じたようビクッと身震いすると、
机の上に鮭を戻し始める。そして冷静になったのかリンはマサツグの方に
振り返ると咳払いを一つして自身の鑑定結果について話し出す。
「……んん!!……では!…
鑑定結果なんですけど、見事!…これらはマスターオーダーで募集の掛かって
居る食材に間違いないと言う事が分かりました!!…
まずはこの鮭なんですがギルドに有る資料と私の知識とで相違が無いので
「時季知らず」で間違い無いかと…
特徴全てが一致してますし、それにこの辺でまず鮭は出回っていません。
そしてその泥団子ですがそれも「土もどきトリュフ」で間違いありません!…
…匂いがしますから!」
「……え?…」×3
「鮭を見ている時というか…今もですけど………うん!…
香りがするんです!…トリュフの!…
この距離でも漂って来てますから中々良いトリュフだと思いますよ!」
リンが自信満々に胸を張って間違いないと言い出すとまず鮭が「時季知らず」で
あると答え始め、その答えを聞いてマサツグが静かにガッツポーズをして
喜ぶと、続けてリンは「土もどきトリュフ」の事も答え出す。その際リンは
泥団子を指差し良い匂いがする!と自信満々に答え、喜ぶマサツグ及びモツや
クラリスがその言葉で困惑し始めると戸惑いの声を漏らす。しかしリンは
そんな三人の事など御構い無しに、鑑定している時から確信が有ったと言った
様子で話して、今も匂いがするとばかりにクンクン匂いを嗅ぐとマサツグの
持って来たトリュフが良い物だと言い出す。そしてそれを聞いた三人は思わず
それぞれトリュフらしき泥団子を手に取ると鼻を近づけ確認し始めるのだが…
__……スンスン…スンスン……
「……まぁ…分かる訳ないよな?…」
「さすがに匂いまでは分からない筈だが?……」
「…全然分かりません……ッ!…ハクシュッ!…
ハクシュッ!…ハ~クシュッ!」
ゲームのシステム上…匂い等は分かり難い仕様になって居る為、トリュフの
匂いなんて当然マサツグとモツに分かる訳が無く、リンと同じNPCの
クラリスですら疑問の表情で首を傾げては分からないと答える。その後土が
鼻の中に入ったのかクラリスは可愛らしくクシャミをし、慌ててトリュフを
机の上に置くと何度もクシャミを繰り返す。その様子を心配した様子で
マサツグとモツが見詰めるのだが、その間リンはと言うと胸を張っては
三人にドヤ顔を見せて居た。
__ドヤァ!!……
「……試しに泥を落として見るか?…女将さん!…すいませんが!!…」
「ッ!…は~い!…ただいま~!…」
リンのドヤ顔にマサツグとモツが戸惑うと徐々に本当かどうかが気になり出し…
一度泥を落とせば分かるかとマサツグが考えると、女将さんに泥を落として
貰うようお願いし始める。さすがに机の上で泥を落とすのは如何か?…と考えた
末のお願いなのだが、如何やら一連の様子を見て居た女将さんも興味を持った
様子で返事をし、女将さんの代わりにリコがやって来るとマサツグから泥団子を
受け取る。
「は~い!ご用件は?」
「ッ!…じゃあこれを…この三つを洗って来て欲しいんだ。
お願い出来るかな?…」
「は~い!少々お待ちを~!」
__トトトト!……ジャア~~~~!!………トトトト!…
「…ハイどうぞ!!……」
マサツグから泥団子を受け取りリコがキッチンの方に持って行くと、
リコから女将さんへと手渡される。そしてキッチンの方で水洗いされる音が
聞こえて来ては数分後…タオルで水気を切ったトリュフがリコの手によって
運ばれ、再びマサツグの元へ帰って来る。トリュフの表面は粒々とバスケット
ボールの様な手触りにボコボコと男爵ジャガ芋の様な見た目…
その際再度匂いを嗅いでみるがやはり良い匂いと言う物が分からず、
クラリスもクシャミが落ち着いた様子で再度挑戦するがやはり分からないと
首を振る。
「ほい!ありがと!…どれ?……駄目だやっぱり分からん…」
__…スンスン!!…フルフル…
「私も駄目です…分かりません…」
「ふふ~ん!…」
リンが三人の様子を見て更にドヤ顔をして見せ、マサツグとモツがもはや
何が何だかと言った様子で困惑して居ると、女将さんも洗って居る際に
匂いを嗅いでみたのかマサツグがふと視線を送った際…キッチンの向こうで
首を横に振る。その際リコも女将さんの首を振る姿を見たのか、
マサツグの方を振り向くとマネをする様に首を横に振り、本当に匂いが
するのかが怪しくなって来ていると、クラリスが思わずポソッと呟く。
「……たまにこの子の事…人なのか?って疑う時が有るんですよねぇ?…」
「え?…」×2
「たまに有るんですよ…
指定のトリュフを取って来る訳じゃ無いですけど…
本来普通のトリュフを取って来る時でもペットモンスターや動物を
使って見つける物を一人で泥だらけになって見つけて来ますし…
もはや犬か人に化けた何かじゃないかと…」
「ちょっ!?…酷!?…」
クラリスはリンの事をジッとジト目で見詰めてはリンが人間じゃないのでは?と
疑い出し、その言葉にマサツグとモツが揃って戸惑いの声を漏らすと、リンも
慌てた表情でクラリスに視線を向ける。そうして三人の目がクラリスに向いて
いる中、クラリスは戸惑った表情でその証拠とばかりに…過去に有ったリンの
出来事を話し出しては鼻が利く事から犬なのでは?と言い出し、その言葉に
リンがショックを受けてマサツグとモツが思わず反応すると、リンが犬になった
姿を想像してしまう。
__キャンキャン!…キャンキャン!…クゥ~ン…
「……ぶほっ!?!?…ゲホッ!!…ゴホッ!!…ガホッ!!…」
「ちょ!?…何を想像したのですか!?…酷いです!!!…
私はちゃんとした人間ですぅ!!…先輩も変な事言わないで下さい!!!…」
マサツグとモツは駆け回る姿や人にじゃれ付く姿…クラリス(飼い主)に
怒られて居る姿などを想像したのか、イメージにピッタリと言った様子で
二人揃って噴出し笑い、更に勢い余って咽始めとその反応にリンが
ショックを受けた様子で二人にツッコミを入れる。そしてそのツッコミは
クラリスの方にも飛び火し始めるのだが、クラリスは慣れているのかリンの
ツッコミを流すよう残りの小包みについて尋ね出す。
「はいはい…良いから残りのその包みもお願いね…」
「扱い酷!?…何ですか!?先輩ぃ~!?…」
「…はあぁ~……気に障ったなら後で謝るから早く結果を言いなさい!…
今はマサツグさんが持っている食材がそうなのか違うのか調べるのが先決!…
…それに、今現在マスターオーダーの食材が現に目の前に有るのだから
しっかり覚えて帰る事!…これは他の冒険者達にクエストの詳細を伝える為の
貴重な情報源にもなるし…今後のギルドでのクエスト運営にも役に立つかも
しれない!…だからキッチリ覚えて帰るのよ?…」
クラリスはリンに結果報告を急かし、その態度にリンが反抗する意思を
見せては腕を振り上げ文句を言い出す。そんなリンの反応にクラリスは
溜息を吐くと呆れた様子で後で謝ると言い、今は結果が重要!とリンに
ツッコミを入れるよう再度鑑定結果を尋ねると、その重要性について
話し出す。その際、見た・感じた・触ったと言った全ての感覚を覚える様に
リンに言い聞かせ、全く動じた様子を見せないクラリスにリンは膨れっ面を
見せては渋々了解する。
「むぅ~~!!!…分かりましたよ!!!…先輩の馬鹿!…
…では、次のこの包みなんですが…」
__…ブツッ!…ドザァァ!!…
「ッ!?…ちょ!?…ちょっと!?…」
「きゃあああぁぁぁ!!…」
膨れっ面のままリンが文句を口にしつつ。小包を手に取り最後の確認をしようと
顔を近づけた瞬間!…突如小包を縛っていた紐の様な草がプツッと切れては
小包の一部がオープンし、そのオープンした所から中身がコロコロと机の上に
散乱し出すと、その様子を見たクラリスが慌てて戸惑った表情を見せる。それに
伴ってリンも零れる中身に戸惑いと困惑の表情を見せては悲鳴を上げ、マサツグと
モツも慌てた様子で中身が散らばらないよう回収すると、その場は一時大混乱と
なってしまう。
__バタバタバタバタ!!!………
「……ふぅ…とりあえずこれで全部か?…」
「多分な?…リコちゃんもありがとな?…」
「えへへへ♪…」
バタバタと回収騒ぎにその場は騒然となるもマサツグとモツが中身を回収し
終えると、一緒に中身の回収を手伝ってくれたリコにお礼を言う。リコは
マサツグとモツが回収し損ねて机の下に落ちた物を回収し、回収した物を
マサツグへ返す様に差し出すと、リコは頭を優しく撫でて貰って笑みを零す。
小包の中身は妖精らしく色々な木の実であるのだが、その内の一つ…
妙に大きいクルミ台の大きさの木の実をリンが目にすると、リンの目の色が
変わる!
「ッ!?…そ、それってもしかして!?……」
「ッ!……リン?…
その好奇心は後にして先にその包みが本当に妖精のバジルかどうかを教えて!…
それまではその木の実はお預けよ?…」
「ッ!?…うぇぇぇぇ~~~!?……分かりましたよ!…もう!!…」
何故それがここに在る!?…とリンが驚き戸惑った様子で中身が空の小包を
手にし、リンの興味がその木の実に向いた事をクラリスがいち早く察知すると、
直ぐにリンへ釘を刺す。その際クラリスは笑顔でまた背後に仁王のオーラを
纏い出し、それを見たリンがビクッと反応すると文句の言葉を口にしては
手に持っている包みの葉を確認し出す。葉っぱを鼻先に持って来て匂いを
嗅いだり、葉っぱを触って質感を確かめたりと色々最終確認と言った様子で
確信を持つと、リンは頷いて見せるのだがその表情は如何にも神妙に見える。
__…クンクン……サワサワ……コクリ…
「……?…如何したの?…違うとか?…」
「……いえ、これは間違いなく…妖精のバジルです!…
間違い無いんですが…」
「……ですが?…」
リンが神妙な表情を見せて居る事にクラリスが疑問を持ち、その表情から
違うと思ったのかリンに問い掛けると、リンは表情そのままに包みの葉を
「妖精のバジル」と肯定する。しかしそのリンの表情はやはり変わる事は無く、
リン自身違う事でこの表情と言った様子でクラリスに話し、クラリスも
そのリンの返答に疑問の表情のまま復唱すると首を傾げる。そうしてリンと
クラリスの間に奇妙な沈黙が生まれて数分の時間が経過するのだが、リンは
突如プルプルと震え出すと何かを我慢して居たのか限界とばかりに声を漏らす。
__……ぷる…ぷるぷる!…ぷるぷるぷるぷるぷる!!…
「ッ!!…へっ…」
「……へ?…」
「へっ!…へっ!!……ッ!!!…へぇ~~~くしゅん!!!!……」
__ッ!?…ガチャン!!…
リンの様子がおかしい事にクラリスが若干不安の表情を浮かべて、リンの顔を
覗き込み漏れ出る言葉を復唱していると、リンは耐え切れないのか徐々に後ろへ
仰け反って遂には大きくクシャミをする!そのリンのクシャミは宿屋中に響き、
洗い物をしていた女将さんがビクッとして皿を落としてしまう程…
勿論覗き込んで来たクラリスの顔に諸に掛かり、マサツグとモツがその様子を
見てあっ…と戸惑った表情をしていると、リンは恥ずかしそうに顔を赤くしては
静かに鼻を啜る。
__ズズズ……
「……盛大にぶっかましたね?…リンさん?…」
「ッ!?…」
「追い討ちは止めてやれ!」
リンが鼻を啜ってまた沈黙…俯いたまま固まるとクラリスもクシャミを食らった
状態で固まり、モツはただ目の前で固まる二人の女子を困惑した様子で見詰める。
ただマサツグだけは違った様子で、今までの分をやり返す様に意地悪な笑みを
浮かべてはちょっかいを入れ出し、そのマサツグのちょっかいで更にリンが顔を
赤くすると、モツが慌てた様子でツッコミを入れるようマサツグを諫める。そして
クラリスも徐々に動き出しリンを責めるのかと言った雰囲気を見せるのだが、
顔を覗き込んだのは自分のミスと自覚しているのか、眼鏡を外しては冷静に飛沫を
拭き始める。
__……カチャッ!……キュッ…キュッ…カチャッ!…
「……はあぁ~…とにかく!…
これで良く分からなかった食材の内…三種類は分かりました!…
後は確か…バニーガールキャロット?…でしたっけ?…
あそこで赤くなっている子の説明ではこの農村にあると言ってましたし…
残りの一つも頑張って見つけて下さいね?…」
__ガタッ!……コッ…コッ…コッ…コッ…ガサッ…
顔を赤くして固まるリンを尻目に眼鏡を拭き終えては掛け直し、情報を
得られたとクラリスが一人納得すると残りの一つ…バニーガールキャロットの
採取を頑張るようマサツグとモツに話し掛ける。その際リンの話を思い出すよう
この農村で手に入ると再度説明しては席から立ち上がり、自分の分の朝食代の
お金を机の上に置いて一度リンの方へ歩み寄る。リンは今だ顔を赤く両手で
隠しては動かないでおり、そんなリンにクラリスは呆れた表情を見せながらも
リンの服のポケットからパーピィの羽を一つ取り出すと、宿屋の玄関に向かい
始める。
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「…それでは皆さん!…ご健闘を祈ります!
私は一度ギルドに戻ってこの事をマスターに報告しますので!!」
「え!?…リ、リンは!?…」
「適当にお願いします!!…そのままだと持って帰れないので!…
…あっ!……用が済んだら直ぐに!!…
戻って来る様にだけ言っといて下さぁ~い!!…では!!…」
クラリスが宿屋の玄関に向かい、マサツグとモツが無事最後の食材を手に
入れられるよう願う言葉を笑顔で口にすると、玄関を開ける。そして外に
出ようとした際マサツグとモツが慌ててクラリスを呼び止めるとリンの事に
ついて質問をするのだが、クラリスは持って帰れないとまるで物の様に
言っては置いて行くと言い、マサツグとモツがその事に戸惑いを覚えていると、
クラリスはリンに対しての伝言だけを残して行く。そうしてクラリスは
宿屋を後にするとギルドに先程の情報を報告する為、ハーピィの羽を
クランベルズに向かって投げては飛んで行くのだが、宿屋に残された
マサツグとモツはただただ玄関を見詰めて困惑する。
「……さて、如何したものかね?…」
「如何たって…ニンジンだろ?……最後の食材だし…
それに依頼を達成するなら俺もマサツグと行動しないとだし……
都合よくニンジンが取れる村に居るし…」
「……とにかくモツさんが困惑してるってのは良く分かった!…」
リンを任され置いて行かれたマサツグが困惑した様子を見せては何をするかと
悩み始め、モツも困惑した様子でニンジンを取りに行くしかないと答えて
見せるが、何処かモツらしくない口調になる。その返事にマサツグは若干の
無言タイムに入るも苦笑いをしてはモツの困惑具合をツッコミ、二人揃って
ただ困惑しダイニングに居座っていると、赤面状態から復帰したのかリンが
二人に話し掛ける。
「………先輩…行っちゃいました?…」
「うおぉッ!…リ…リン!?…
何だ…もう立ち直ったのか?…」
「ッ!…その最後の食材バニーガールキャロットですが…」
「ッ!…聞こえてないフリ…だと!?…」
リンから不意に声を掛けられマサツグとモツが驚いた反応を見せるが、
直ぐに正体がリンだと分かると驚いた表情ながらも落ち着きを取り戻す。
そして先程の事を掘り返す様にマサツグがリンにちょっかいを出すよう
話し掛けるのだが、リンは気付いた反応を見せるも何事も無かったかの様に
スルーしては、バニーガールキャロットの話をし始める。リンの反応に
マサツグが更にボケる様な反応を見せるのだが、これ以上触れられたくないと
思っているのか、リンは淡々と話を続ける。
「…私に心当たりのある農家さんがいるんです!…」
「ッ!?…それ本当か!?…」
「はい…ただ妙な事を聞きまして…」
「……え?…妙な事?…」
リンが困惑した表情でバニーガールキャロットの入手について覚えが有ると
言うと、その言葉にマサツグとモツが食い付く!先程の弄って居た様子も
何処へやら…ただ最後の食材が簡単に分かると言った様子で二人はリンの話に
耳を傾けるのだが、その肝心のリンはと言うと戸惑った表情を浮かべては
変な話が有ると首を傾げて見せ、マサツグとモツもその話を聞いて戸惑った
表情をすると、リンはその奇妙な話について語り出す。
「はい…この村では確かにバニーガールキャロットを扱って居るんですが…
その出荷量が極端に少ないんです…まるで貴族向け…
それもかなりの上級層者達向けの贈答品用とでしか出して居ない様な…」
「え?…」
「…私も扱っている農家さんの場所は把握していて、何度かお邪魔した事が
有るんですが…まだ私もそのバニーガールキャロットを見た事が無くて…
…それにその農家さんの話だと何でもバニーガールキャロットは…
速くて捕まえられないらしいですよ…」
「え?…それって如何言う?…速くて捕まえられない?……」
リンが話し出したのはそのバニーガールキャロットの出荷量で、
何でも最上級クラスの人達にしか出回っていない程の希少ぶりと
二人に話すと、そのリンの言葉に二人は戸惑いを隠せない。
ただリンの言葉が本当だとするなら手に入れるのはほぼ金額的な
意味で不可能なのでは?と考えるのだが、次にリンの口から
出て来たのはそのバニーガールキャロットの金額の話では無く、
「速くて捕まえられない」と言う謎のワード…
更にリンも農家さんの家に行ってその物を見た事が無いと言い出す
始末で、マサツグとモツがリンの言葉に困惑し如何言う事かと
悩み出すと、リンは戸惑った表情ながらも二人に案内を買って出る。
「…えぇ~っと……とにかく行ってみたら分かると思います!…
もしかするとお二方なら手に入れられるかもしれませんし…
その農家さんの家まで案内するので付いて来て下さい!…」
「え?…あ、あぁ…」
「わ、分かった……?…」
リンが案内した方が速いと言った様子で付いて来る様に二人へ声を掛けると、
マサツグとモツは戸惑った反応ながらも顔を見合わせ、リンの方を振り向き
直すと付いて行く事に同意する。そうしてリンの案内で三人は宿屋を後にし
始めるのだが、その様子を見ていたリコは三人が出て言った様子をジッと
見詰めては突如興味を持ったのか…それとも何か考えを思い付いたのか…
女将さんに出掛けると声を掛ける。
「ッ!…お母さん!!…私も出かけて来る!!…」
「えぇ!?…リコは安静にして居た方が?…」
「だいじょ~ぶ!!…じっとしてたら体が固まっちゃうよ!」
リコが女将さんへ出掛けると元気に伝えては玄関へと駆け出し、女将さんが
その言葉を聞いてリコの体を心配し休む様に声を掛けるのだが、リコは大丈夫と
再度答えてマサツグ達の後を慌てて追い掛け始める。その際マサツグ達が
忘れて行った木の実を回収して自身の服のポケットに詰め込み、勢い良く
飛び出して行く我が娘を女将さんは心配そうに見詰めて居た。その一方
リンの案内でマサツグ達は何事も無くそのバニーガールキャロットを
栽培している農家の家まで辿り着くのだが、未だに速くて捕まえられないと
言う謎のワードが頭の中をチラ付き、そして何故リンがその農家の家を
知っているのかと言った疑問も湧いて来る…そうしてただ謎のニンジン
「バニーガールキャロット」に対しての疑問だけが独り歩きし続け、この後に
有る波乱万丈については全く気付く気配を見せないのであった。
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【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました
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