上 下
41 / 764
-第一章-スプリングフィールド王国編-

-第一章三十四節 奇妙な死骸と人キメラと特殊武器-

しおりを挟む



瘴気に侵された狩人狩りの森を進むマサツグ達の前には、噂を信じ森の中へ

入って来たであろう冒険者らしき人の遺体が所々に見つかっては転がり、

その危険度を示す様に無残な姿を晒す。ある者はあらぬ方向に首が回り…

またある者は片腕や片足が無い等…更には上半身と下半身が切り離され

スプラッター等…その様相は様々、猟奇的な姿で地面に横たわり皆恐怖に

染まった表情で息絶えていた。


__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…


「…兵どもが夢の跡……って、さすが全年齢対象…

断面図は見事なまでに影が仕事してるなぁ…

まぁ、こちとら見たくも無いから助かるけど…」


「…言ってる場合じゃないかもしれないぞ?…

最悪俺達も同じ末路を辿るかもしれないんだからな?…

常に警戒を…」


マサツグとモツが横たわる遺体の横を通り過ぎる様に歩き、噂を信じたばかりに

亡くなった冒険者達をマサツグは某有名俳句をもじりながらマジマジ見詰めると、

その遺体の断面図が黒い影で塗り潰されているのが見て取れた。全年齢対象

ゲームの為、グロテスクな描写を隠す為の影だと言う事は分かるのだがその数が

多く、マサツグが影の仕事ぶりに感心しながら歩いて居ると、モツが警戒を

怠らないようマサツグに注意を呼び掛ける。そしてそんな道中を歩いて居ると

更にその遺体や死骸の数が増え始め、一体何人が犠牲になったのか?と

考えさせられていると、奇妙な遺体を見つけてしまう。


__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…


「……ん?…あれ?…」


「あ?…如何したんだ?…」


「いや…あれ…」


モツが何かに気が付いた様子である方向を見詰めては疑問の声を挙げ、

それに反応してマサツグが尋ねる様に話し掛けると、モツはその気になる物を

指差してマサツグにある物を見せる。そこにはもはや感覚がマヒしてしまい

そうな狼の死骸が転がって居るのだが、今までの遺体や死骸とは違って黒い影が

掛かっておらず、その事を疑問に思ったモツが遺体に近付き状態を調べると、

驚きの声を挙げる。


__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ……チラッ…


「え!?…」


「何?…如何した?…って、え?…」





モツの反応にマサツグも気になったのか近付き、その影の無い死骸を調べると

そこには喉元から下腹部まで縦に切り裂かれ、まるで中身が繰り抜かれたが如く

狼の死骸に驚きを隠せない様子で戸惑ってしまう。まるで

剥製の様に残っているのは皮と骨の状態に近く、他の動物が食べたのだろうか

腹の中身が綺麗に残っておらず、グロテスク成分が無いと判断されたのか影が

無い。影が掛かっていなかった理由について二人は理解するのだが、次に

何をやったらこんな事になるのだ?…と困惑し始めて居ると更にある事を

マサツグが見つけてはモツに指摘する。


「…ッ!?…モツ!これ?…」


「え?…如何し…ッ!?…」


「この傷跡……あの冒険者の奴と一緒だ!…

それもこっちは何度も何度も噛み付いて食い破った感じの!…

…本当にヤバいかもしれないぞ?…これ?…」


マサツグは狼の腹を開いた傷跡に指を差し、あの森の入口に近い最初の方で

見つけた冒険者の遺体同様の噛み傷が有る事をモツに見せると、モツも

マサツグの指摘で漸く気付いた反応を示して驚く。その際その傷跡からは

余程飢えていたのか幾度と無く噛み付いた様子が見て取れ、傷口はボロボロで

見るも無残な状態である事を確認すると、何が居るのかと戸惑い始める。

そしてモツもその傷跡を見て気付いたのかマサツグにある事を確認するよう

質問をし始める。


「……ッ!…なぁ、マサツグ?…これ…人間の噛み跡に似てないか?…」


「え?…」


「最初の人の方は良く見てなかったからアレなんだが…

この傷跡良く見たら人が噛んだ様な歯形に似てるだろ?…

ほら…この顎のラインに歯の刺さり具合…多分人間なんじゃ?…」


モツが噛み跡を人間の物と断定しマサツグが戸惑って居ると、モツは傷口に

指を差しては形状を確認させるよう所々を指し示し、自分の思う理由に

ついて説明する。そしてマサツグもその話を聞いてハッ!と驚いた表情を

見せては納得出来たのか黙って説明を聞き続け、道具屋の店主の話を

思い出してはモツに話し掛けようとする。


「…じゃあ…それってあの店主の話が…」


__…ガサガサッ!……ッ!?…バッ!!…


「……今のは!?…」


「…さっきみたくキツネじゃないってのは確かっぽい!……

音が違ったし!…寧ろサイズ的にはこっちの方が大きく聞こえた!!…」


マサツグがモツに店主の話をしようとした瞬間、背後の草むらから突如音が

聞こえ始めてマサツグ達の警戒心は一気にMAXへ上昇させられる!

狼の死骸から離れる様に飛び跳ねて剣に手をやり、その音が聞こえた草むらを

注視しつつマサツグに確認を取ると、マサツグも聞こえたと言った様子で

モツに返事をする。先程みたく勘違いじゃない嫌な予感をビシビシと感じつつ、

二人が剣を構えて居ると徐に風が森の中を吹き始めたかと思えば、瘴気が

マサツグ達の体に纏わり付くようネットリと流れる。


「……ただでさえ視界が悪いわ!気味が悪いわ!面倒臭いわ!って、

言ってんのにぃ~~!!!…今度は何だ!?…」


「落ち着けマサツグ!!…冷静さを欠いたら終わりだと思え!!…

…でもまぁ…確かにかなり面倒だな!……

如何やら向こうはこっちが気付いた事に警戒してか出て来る気配を見せないし…

こっちも相手が一体だけとは限らない限り迂闊に動けないし…

四面楚歌に変わりわないか……せめて敵の位置と数だけでも分かれば!!…」


「…?…敵の位置が分かれば?……ッ!!…そうか!!…」


マサツグが纏わり付く瘴気に苛立ち、辺りを見渡し無暗に攻撃を繰り出そうかと

剣を抜き始めると、モツがマサツグを落ち着かせるよう檄を飛ばし始める!

しかしモツもマサツグの気持ちが分からなくも無いのか、現状を冷静に見ては

敵に囲まれて居る事を想定し、如何動くかで頭を悩ませて動かない敵に若干の

焦りを感じると、愚痴を零し始める。しかしそのモツが何気に言った愚痴が

きっかけでマサツグがハッ!と何かに気が付いた様子で反応すると、何故か

徐に目を閉じては集中し始める。


__スゥ…………ッ!!…


「モツさん!!…モツさん!!!…」


マサツグが目を閉じ周囲の気配を感じる様に精神を研ぎ澄ませていると、

マサツグの五感に敵性反応の感じられる。マサツグの前に1…モツの前に1…

モツの右の草むらに1…マサツグの左の草むらに2…全部で五体居ると

暗闇の中で赤い光源が見えると言った反応を感じては目を閉じたまま、敵に

聞こえないようモツに小声で呼び掛け始めると、モツが辺りを警戒しながらも

振り返っては返事をする。


「…ッ!!…ん?…如何したんだ?…って、マサツグさん?…」


「モツさん…俺の前に一体。

モツさんの前と右に一体ずつ、そして俺の左に二体…」


「え?…」


モツがマサツグの方に振り返り返事をする際…マサツグが目を閉じながら

話し掛けて来た事に戸惑いを覚えて居ると、マサツグはモツに敵の位置と

数を教える。そして勿論急にそんな事を言い出すものだからモツは困惑し、

マサツグの言う方を一応と言った様子で確認すると嫌な気配は確かに

感じられ、そんなマサツグの様子にモツが戸惑いながらも如何言う事かを

尋ね始める。


「…確かに気配は感じるけど…何で分かった?……」


「モツが敵の位置と数が分かればって言った時にさ?…

時代劇でよく見る目を閉じて気配を探るアレをやって見たら…案外出来た。」


「案外出来た。……って、そんな簡単に出来れば苦労は……ッ!?…

見える!!…私にも見えるぞ!!!」


モツの問い掛けに対しマサツグが目を閉じたまま気配を探り、敵の動きが

無い事を確認しては正直に話し始める。何の苦労も無くやってみたら出来たと

言った様子でマサツグが話し、その話を聞いてモツが試しに目を閉じて同じ事を

やり始めると、マサツグ同様気配を探る事に成功する。その際某ニ○ータイプに

目覚めた赤い大佐の様なセリフを口にし、そのモツの言葉に反応するよう

草むらの中に潜んでいた者達が飛び出すとマサツグ達に襲い掛かる!


__ガサガサ!!…バッ!!!…


「うわっぶな!!!…って、え?…」


「何だ?…これ!?…」


マサツグとモツが草むらから飛び出して来た物に反応して回避を試みると

目を開き正体を確認する。敵の位置が分かっていた為回避は難なく成功し

剣を抜いて構えて見せるのだが、そのマサツグ達の目の前に居たのは

あの道具屋の店主が話していた通りの化け物で、頭が人間の頭部の狼達の

群れであった。その容姿は人面犬等と言う生易しい物ではなく、ちゃんと

人間の頭に狼の体と…まるで無理やりくっ付けたかの様な、自然さが

何処にも感じられないバイオでハザードなクリーチャーであった。

更に気味が悪い事に接合がちゃんと出来ていないのか頭はグラグラと下を

向いて揺れては接合部をマサツグ達に見せ、生気の無い死人の顔を見せては

舌をダランと出し、死んだ魚の目でマサツグ達を見詰めて来る。中には頭が

取れ掛かってはブラブラと…何故生きて居られるのか不思議に思わせる様な

恐ろしい姿の者もおり、その化け物犬全部が所々腐れ落ちてはマサツグ達に

敵意を向けていた。


__ア゛…ア゛ァ゛…ア゛ア゛ァ゛……


「…明らかにヤバい奴ですよね?……これ完全に作られてますよね!?…」


「…そうにしか見えないんだが!?……」


「ほんの出来心でバイオでハザードなんて言ってたけど…

まさかこんな事になるなんて!?…」


今までにゾンビ犬と言うのは画面の向こうで嫌と言う程見て来たマサツグと

モツなのだが、間近で触れ合えるVR空間での接敵はさすがに初めてで戸惑いを

隠せない。ましてやその化け物がジリジリと詰め寄って来るのだからその焦りは

尋常では無く、樹を背にして剣を構えて如何したら良いかで悩み始めるが、

当然すぐに答えは出て来ない。完全にゾンビ犬に包囲されて逃走が困難な

状態で、とにかく戦えるかどうかを調べる為に慌てるマサツグを尻目にモツが

動き出し始める!


「ッ!!…とりあえず鑑定!…鑑定アプレェィザァル!!…」


__ピピピ!…ヴウン!…


 -----------------------------------------------------------------------

 「人キメラ A-10型」  

 Lv.14

   HP 2750 ATK 160    DEF 50

        MATK   0   MDEF   0


 NO SKILL

 -----------------------------------------------------------------------

「…勝てない事は無いか!!…幸いスキルも持っていない!!…

やるしかないか!!!…」


__ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!……


モツが人キメラの情報を慌てながらも得る事に成功し、その情報から

戦えない事も無いと判断をして居ると、人キメラの群れは呻き声を上げながら

マサツグ達に向かい襲い掛かり始める!それに反応して二人も剣を握り直し

襲い来る人キメラに立ち向かって行くのだが、やはり容姿に抵抗を覚えるのか

嫌な顔をしつつも剣を構える!


「どうにも抵抗覚えるが仕方がねぇ!!!…悪く思うなよ!?…」


__スッ!……フォン!!…バシュウゥゥ!!…


「ッ!?…ヤッベェ!?……」


__ボタボタボタボタ!…ドシャ!!…


マサツグの方に飛び掛かる様にして襲って来た人キメラを、マサツグは腹下を

潜る様にして回避すると続け様に人キメラの胴体を輪切りにするよう、

剣を横に振り抜く!その際レベルの割にあまり高くない防御力のせいか、

勢い余って一刀両断してしまうと人キメラは横薙ぎに耐えれずバランスを

崩しては空中でバラバラと崩れ始め、マサツグがそれを被らないよう慌てて

ドッジロールをすると、人キメラは地面に落ちて痙攣し息絶える。それを

見ていたモツが一人、細心の注意を払わないとヤバい!!…とマサツグを

反面教師に剣を構えていると、モツの方にも人キメラが襲い掛かる!


__ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!……


「ッ!?…やっぱりこっちにも来たか!!!…」


__バッ!!…スッ…ズバァン!!…ドシャァ!…


「これで!!…終わり!!!……ッ!?…」


モツにもマサツグ同様飛び掛かる様にして襲い掛かる人キメラなのだが、

モツはそれを半歩横に移動し足捌きだけで流すよう回避して見せると、

剣を上段に構えては人キメラの背中から剣を振り下ろす!その際両断しない様に

斬って落とし、人キメラが地面に叩き付けられる様にして斬られると、

ジタバタと藻掻き出し始めるのだが、モツが最後の止めとばかりに剣を

人キメラに突き立てると絶命する。しかしその人キメラに止めを刺した後…

モツがある物を見てしまうと、途端にやり切ったと言うよりは気分が

とんでもなく最悪の物に落ちてしまう…


__ポロ!…ポロポロ!…


「クッ!!!…生半可に攻撃すると泣き出すとか!…

趣味悪すぎだろ運営!!!…」


モツが見た物とは人キメラが泣きながら絶命をする所で、例え化け物に

されたとしてもその化け物は自分がなりたくてなった訳では無いと

泣いて居るのか、はたまたモツに斬られた痛みで泣いて居るのか、何方かは

分からないもののその様子は人間さながらで見ていて明らかに気分の

良い物ではない。ただでさえ人の頭で追って来る事に抵抗を覚えると

言うのに、この仕様は普通じゃないとモツが戸惑い交じりのツッコミを

入れて居ると、更に人キメラがモツに対して襲い掛かる!


__ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!……


「ッ!?…クソが!!…」


__ブォン!!…バシュウゥゥゥ!!!…


「……とにかく今はこいつらを倒す事を先決するしか方法は無いか!!…」


三体目の人キメラがモツに襲い掛かり、モツが先ほど同様半歩ズレて回避して

飛び掛かって来た人キメラの腹部に剣の先を突き立て、薙ぎ払う様に斬って

見せると斬られた人キメラの腹部から大量の腐敗した血液が飛び出し、辺りに

ばら撒かれる。モツは踏み込む様にしてその剣を振るった為その腐敗した血液を

浴びる事は無かったのだが、自分の後ろに名状しがたい状態の人キメラが居ると

考えると不気味さを感じられずにはいられなかった。そうしてマサツグが一匹、

モツが二匹倒して残り二頭となった時…残りの人キメラは自分達の分が悪い事を

理解したのか、若干こちらを見つつも草むらの中へと逃げて行くと、戦闘が

解除される。


__……バッ!!…


「ッ!……逃げて行ったな…」


__ピロリロリン!…


[マサツグは「感知サーチ Lv.1」を獲得しました。]


[モツは「感知サーチ Lv.1」を獲得しました。]


二人が逃げる人キメラを確認し剣の構えを解き始めると戦闘エリアが

解除され始め、倒した人キメラがアイテムをドロップし始める。

その取得物は狼の毛皮だったり骨だったりするのだが、やはりだけでは

無いのかのアイテムも零れ始める。アイテム名はそれらしく

亡者と枕詞が付き、骨だったり歯だったり…挙句の果てには金歯等、

用途に困るそのアイテムに戸惑いを隠せないで居ると二人の元に

システムからの通知が送られて来る。通知音と共にログが表示されると

そこには先程身に着けたスキル…感知サーチ Lv.1の事が表記されており、

それを目にしたマサツグが不思議な表情を浮かべると、徐にモツへ質問をする。


「……なぁ、モツ?…

今までこんな通知あったっけ?…」


「え?…」


「いや、だから…ログには…感知サーチ?…って書いて有って…

スキル手に入れる度にこんなログ流れてたっけ?って思って…」


「えぇ…」


マサツグがモツに質問した内容は単純…

スキルを手に入れる度にこんな通知出たっけか?と言うログに全然目を

向けていないマサツグのガバガバ視野の話であった。先ほど習得した

感知サーチを例に挙げてマサツグが不思議そうな表情で質問を

すると、その問い掛けにモツが戸惑った様子で見詰めては困惑の声を

漏らす。何故ならマサツグは恐らく今までに何度もその通知を

見て居る筈なのに初めてと言った様子で話し掛けて来たからである。

そんなマサツグの問い掛けに対してモツが如何答えたものかと

悩まされて居ると、人キメラが逃げ出してから数分と経たない内に

また草むらから音が聞こえ始める。


__…ガサガサッ!…ガサガサッ!……ッ!?…


「え!?…また!?…」


「さっきの騒ぎかそれとも俺達には分からない異臭か!…

どちらにせよ面倒な事になっているのは確か見たいだ!…」


__ガサガサッ!…バッ!!……ア゛…ア゛ァ゛…ア゛ア゛ァ゛……


草むらから聞こえて来る音に反応してマサツグ達が戸惑って居ると、

その音が鳴る草むらから人キメラが飛び出して来ては、またマサツグ達を

逃がさないよう取り囲み始める。更に今度こそとばかりに仲間を呼んで

来たのか最初の五頭より多い、十数頭を引き連れ現れては先ほど同様

ジリジリと詰め寄り、追い込む様にしてその距離を縮め始める。


「ッ!?…今度は団体さんてか!?…チッ!!…面倒な!…」


「マサツグ!!目を瞑れ!!!」


「え?…」


__バシュ!!…カッ!!ッ~~~~~~~~~………


徐々に距離を縮めて来る人キメラの群れにマサツグが面倒臭いと言った様子で

剣に手を構え始め、後ろの樹に向かい後退しながらマサツグが機会を伺って

居ると、モツが突如マサツグに目を閉じるよう命令をする!その突然の命令に

マサツグが戸惑ってモツの方を振り向き、一体如何言う事かを尋ねようとした

次の瞬間!…マサツグの視界はホワイトアウトして何も見えなくなる。

ただ覚えているのはホワイトアウトする直前に何かが破裂し、突然強烈な光に

襲われたと言う事で、マサツグが迂闊に動けず硬直して居ると誰かに手を取られ

引っ張られる感覚を覚える。


「こっちだ!!マサツグ!!!」


__パッ!……タッタッタッタッタッタ!…


その声掛けた主はモツだろう…マサツグの手を取り人キメラから逃げる為に

安全そうな方向に向かって走って行くのだが、マサツグはまだ目が見えないのか

真っ直ぐに走る事が出来ず、足が縺れそうになりながらもシパシパと瞬きさせては

モツの手に引かれ走って行く。そして人キメラも突然の強烈な光で目をやられた

のかその場で悶えてはクルクルと彷徨い出し、頭が人間なだけあってか狼みたく

匂いを辿って追って来ようともしない。その様子にモツがしてやった!と言った

様子でチラッとだけ確認してはマサツグを連れてその場を離れ、少し進んだ先の

草むらの中に隠れるようマサツグを引き込むと、人キメラから逃げ切れた事に

一安心する。


「……追って来てないな?…

…ふぅ~…閃光弾買っといて良かったぁ~!…上手く撒けたみたいだ!…

もう大丈…」


__モジモジ…モジモジ…


「……夫!?…」


人キメラから逃げ切る事が出来て一安心し、マサツグにもう大丈夫と

声を掛けて振り返るとそこには妙にモジモジとしているマサツグの姿が

有り、モツがそのマサツグの様子に困惑と気味の悪さを感じて全身に

鳥肌を立たせていると、慌ててマサツグの手を振り払う。モツが酷く

困惑した様子でマサツグを見詰めて居ると、マサツグはまだモジモジと

した様子でモツを見詰め、何を思ったのか頬を染めてモツに対して

悪ふざけとしか思えない言葉を言い出し始める。


「あ…あんなに強く引っ張られたの…私…初めて…」


「おい馬鹿止めろ気色悪い!!!…」


「えぇ!!…でも私…」


明らかにマサツグは何かを演じるようふざけているとモツが感じ、鳥肌を立て

ながらもマサツグに気色の悪い事を言うな!と文句を言うのだが、マサツグは

まだ続ける気かモジモジとしながらモツに話し掛ける。そんなマサツグの

様子にモツも更に鳥肌を立てて武者震いをし、止めないマサツグに対して

怒りを覚え始めると演技を無理やり中断させるようマサツグに剣を抜いて見せ、

スッと何の迷いも無く突きつけると修羅にでもなったかの様な形相でマサツグを

睨み始める。


「それ以上やるならこっちにも考えが有るぞ?…」


__……フッ……スッ…スッ…ズシャアァァ!!…


本気マジですんませんでしたぁぁぁーーーーー!!!!

調子に乗ってましたぁぁぁーーーーーーー!!!!」


この時のモツの目は本気になったハイドリヒより鋭く冷徹な眼光で、マサツグも

それを見てフッ…と笑みを浮かべると何も言わずにその場で正座し、両手を

地面に着いて見せるとモツに対して綺麗な土下座をし始める。やはりふざけていたと

認めるようマサツグがモツに謝り、モツがマサツグを見下すような視線を向けつつ

剣を直し始めると最終忠告をマサツグに話し出す。


「今度やったらケジメな?…問答無用で?…」


「はいいぃぃ!!

すんませんでしたぁぁぁーーーーー!!!!」


「……はああぁ~~~……っで?…

何で急にあんなとち狂った事を?…」


「いやぁ…目が見えない状態で手を引かれての逃避行…って、ある種

乙女ゲーみたいだなって?……ほら?…

追ってから逃げる為の主人公とヒロイン…みたいな?…」


恐らくマサツグ自身…先程のシチュエーションモツに手を引かれるは乙女ゲー等で言う、

一つのイベントでは!?と思い…面白半分でやってみたのだろうがこれが大不評と

その代価に自分の命を払いそうになると、慌てて何度もモツに頭を下げては

謝罪をする。そんなマサツグにモツは一際大きく溜息を吐いてその行動を取った

理由について質問をするのだが、帰って来た言葉がまさにその通りだったと

呆れて見せて例え話をし始める。


「…じゃあさっきやって見せた事を立ち位置を変えて想像してみ?……

俺の気持ちが分かるから…」


「え?…立ち位置を?…えぇ~っと…モツが俺で俺がモツだから……ッ!!!…」


モツが先ほどの出来事を立ち位置を入れ替えて想像するようマサツグに言って

聞かせると、マサツグは困惑しながらもそのモツの言う通りに立場を入れ替えて

想像してみる。マサツグがモツの手を引っぱり物陰に隠れて敵からやり過ごす…

そして安全である事伝えようとモツの方に振り返るとモジモジした様子でこちらを

見詰めるイケメンが立っており、頬を染めてマサツグを見詰めて居ると

考えると、モツの気持ちが分かったのかマサツグは一気に鳥肌を立てて戸惑い

始める。そしてその様子を見たモツがフッと軽く笑って見せると、マサツグに

近付いて肩を叩きこう尋ねる。


__……ポン…


「…な?…如何だった?…」


「……とりあえず……ゴメン…

あんなザッ〇スの姿…見たくなかったよ…」


「…俺の気持ちが分かって貰えたみたいで良かったよ……

…本当に……」


モツの問い掛けに対してマサツグがショックを受けた様子で三度謝罪をし、

モツがマサツグから距離を取り顔に手を当て天を仰ぎ始めては苦笑する。

こんな話をして居ると赤いランドセルを背負った四足歩行の白い化け物が

出て来そうな気分になるのだが、二人がそんな話をしている間にマサツグ達を

追って来ていた人キメラ達は、完全に撒いた様子で散り散りに散らばって行く。

その様子を草むらから音を立てずに、落ち着いた様子で見ていたモツと

マサツグがふぅ…と一息吐いて改めて安心して居ると、話はマサツグの武器に

切り替わる。


「そう言えばマサツグは他に武器を持っていないのか?…」


「え?…」


「いや…さっきから見ていたんだけど今だにトライアルソードだし…

まぁ、確かに最初で会って話を聞いた時ずっとソレだってのは

聞いてるけどさぁ?…単純に装備出来ないとかで実は持ってるとか無いのか?…」


モツはマサツグがずっとトライアルソードを使って居る事に限界を見たのか、

マサツグに他の武器について質問をし始めると、その質問にマサツグが戸惑い

ながら返事をする。その返事にモツは今までのマサツグの話を思い出し、

使える武器は無くとも普通に武器を持っていないかを再度尋ね直し、それを聞いて

マサツグが納得すると自身のポーチからあの武器を取り出し始める。


「あぁ!…えぇ~っと…まぁある事にはあるんだけどさ?…

実は……」


__ジィ~~…ガサゴソガサゴソ…チャキッ!…


「ッ!…刀?…珍しい…」


「何だけどな?…如何にも俺じゃあ抜けなくて…

今の俺じゃ装備出来ないんだ…」


マサツグが取り出したのはあの授賞式で貰った一本の刀、それを見たモツが

物珍しい物を見る興味を持った様子で見詰めてはマサツグから刀を受け取り、

その刀がどのような物かを確認するようマジマジと見詰め始める。そんなモツに

マサツグは刀が抜けないと残念そうに話し始めると、それを試す様にモツが刀の

柄に力を入れては鞘から抜こうとし始めるのだが…


「…ッ!…ほぅ!…どれどれ…」


__グッ!…ググッ!!…


「フン!!……ヌン!!!…オリャ!!!!…

ググググ!……ダアァ!!!…駄目だ本当に抜けねぇ!?…」


「な?…駄目だろ?…」

「はぁ!…はぁ!…何だこれ!?…バグ!?…

…いや、でもそんな事聞いた事無いしなぁ…

それに俺にはアレが付いてるし…俺で抜けないって事は…

もしかしてこの刀は……」


モツが力を入れて刀を抜こうとするがビクともせず、それでもモツは諦めずに

何度か力を入れ直し刀を抜こうと試みるが、1mmも鞘から出て居る気配は

見られない。マサツグの言う通り抜けない刀でモツも困惑してはマサツグに

刀を返しては疑問の表情を浮かべ、マジマジと再度刀を見詰めては首を傾げる。

そして自分のスキル等を鑑みてモツが知っている知識をフル回転させ、ある結論に

行き着くとマサツグにこう答え始める。


「特殊武器って奴なのか?…」


「え?…特殊武器?…」


「ある意味レア武器でゴミ武器…

武器毎に違う開放条件があって開放出来たら強武器だけど…

大抵が開放条件が分からないまま倉庫の肥やしになるって言う

トンでも武器だな!…

俺自身もこれが初めてで解放条件とかは分からないけど…

まぁ、何の気無しに持っていたら開放したとか有るらしいし

持って置いて損は無いと思うぞ。」


「…そう言うモンなのか~…」


モツが刀を特殊武器と判断しその事をマサツグに教えると、マサツグは知らないと

言った様子でキョトンとしては自身の刀に目を向ける。そんなマサツグの様子に

モツは自身が知っている特殊武器についての説明をし始め、一応強力な武器で

ある事を説明するのだが現状その解放条件等も分からないと話し、マサツグと

同じ様に刀を見詰めると悩み始める。その話を聞いてマサツグは刀が抜ける様に

なる日は来るのかと考え始めるのだが、今はクラスアップ試験の事を思い出すと、

モツと共に草むらから出てその光る樹を目指して歩き出し始めるのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

処理中です...