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-第ニ章-サマーオーシャン連合国-獣人の国編-

-第二章十九章 指名手配とギルドのアイドルとマサツグの蛮勇-

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さて、ギルドに戻って来るまでに色々あった訳なのだが…シロが麻袋を大事そうに

かつ満足げに抱えギルドにやって来ると、その様子に冒険者達は戸惑いを覚える。

何故そんな大事そうに麻袋を!?…そんな心の声が駄々洩れで聞こえて来そうな…

戸惑いの視線を向けられている事にマサツグも気付いては戸惑いつつ…ギルドの

受付カウンターの方へ歩いて行くと、ルンも気が付いた様子で対面に立つよう

カウンターの前に移動する。しかしそのルンの表情は何処か困惑に満ちている様に

見えると、マサツグはその表情に疑問を持ち…とにかくカウンターの前に立つなり

挨拶をしようとすると、ルンはまず何かを話し出そうとするのだが先に目に入った

光景について質問をしてしまう。


「ッ!…マサツグさんお帰りなさい!!…少しお話が!!…

…って、あれ?…その麻袋は?…」


「え?…あぁ…これは気にしないで…それより何かあったのか?…

何かさっきから様子がおかしいけど?…」


「ッ!!…そうでした!!…少しお話が!!…

…まずはこれを見て頂けますか?…」


「…ッ?……何?……ッ!?…」


ルンの目に入った光景…それは言わずもがなシロが麻袋を大事そうに!…

満足げに抱えている様子で、思わずその光景について疑問を持ちマサツグに

質問をすると、その問い掛けにマサツグはただ苦笑いをしながら気にしない

よう返事をする。そしてそれよりもとばかりにルンの様子がおかしい事を

気にするとマサツグは何が有ったとルンに尋ね出し、逆に問い掛けられた事に

戸惑いつつルンはハッ!と用件を思い出した様子で反応すると、マサツグに

話が有ると慌て出す。その様子にマサツグはやはり不思議そうな表情をする

のだがルンは至って真剣で、カウンターの上に何やら書類を一枚取り出し…

マサツグがその出された書類に目を向けると、そこには驚くべき事が

書かれてあるのを目にするのであった!そしてそこに書かれてあったのは!…


 ------------------------------------------------------------------------------

        「ホエールビアードの冒険者ギルドに告ぐ」


 ○○○○年◇月△日


 我々獣人…「ハーフリングス」の方にて事件となった為、ここに明記する。

 上記の日付にて重要な任務を受けていた我が臣下数名が貴殿の所属する

 ギルドの冒険者達により、暴行事件を受け負傷して帰って来た件について…

 即刻謝罪とその冒険者に対して罪を償わせる事を願う。この件に関して

 我らの女王陛下も大変お怒りになっており、解決が見込めない場合は

 「ハーフリングス」から使者を送りその者に制裁、或いはそれ相応の罪を

 与える事をここに明記させて貰い、ギルドの態度次第によっては同類の罪を

 与える事も検討しており、場合によっては戦争の火種になる事も致し方

 無しと考えて居る所存。即刻その罪人を探し出し我らに引き渡すよう

 願うものとする。尚、負傷した臣下の話ではその者は黒髪の人間で背中に

 大剣を、白髪の小さな獣人を連れていたと聞いている。該当する者を

 連れ来ない、或いはこの問い掛けに対して返答をしない場合はそれ相応の

 覚悟を決められたし。


 以上 この件が解決される事を切に願う。


 ハーフリングス 宰相

 アスモマウデル・ゲルデウス・マウニーより

 --------------------------------------------------------------------------------


「……これに身に覚えは?…」


「……はあぁ~…なるほど?…これは面倒だな…」


「ッ!?…と言う事はやっぱり!!…」


マサツグの目の前に出されたのは「ハーフリングス」と言う名の知らない国

からの苦情文!…と言うよりは実質的な指名手配書であり、一通り目を通すと

そこにはここに辿り着くまでの時間で起きたあの喧嘩について…マサツグが

全面的に悪い!と書かれた文章が明記されてあった。それもマサツグがその国に

対して何らかの誠意を見せないと戦争が起きる等…物騒な事が書かれて有り、

更に一番下にはあのナンパ集団の口から出て来た名前…アスモマウデルの

名前が書いて有る事も目にする。ギルドの方でもこの警告文に書いてある人物が

誰を指しているのか分かっている様子で、ルンがマサツグに対し事実確認を

取るよう言葉を掛けると、マサツグはその問い掛けに対し一人面倒臭そうな

表情を見せては書類をジッと見詰める。その際マサツグからは同時に若干の

焦りを覚える様子も見て取れ、その様子からルンも察した様子でただ戸惑った

反応を見せて居ると、マサツグはその書類を見詰めてはふとある疑問を持ち出す。


{……あれからそんな時間は経っていない筈…

…なのに何でこんな警告文が?……

オマケにわざわざこんな国絡みの大事にまで発展させて…

あのナンパしている様にしか見えなかった状態にそれ程の意味が有ったのか?…

……まぁ…何方にせよ……}


疑問と言ってもまぁ…よぉく考えたら直ぐ分かる事なのだが、この警告文が

ギルドに届くスピードが余りにも速過ぎるのである!…あの事件から逃げ出し

そこから道具屋へ…掛かっても大体一時間掛かるか掛からないか程度の話なの

だが、いつその国まで行って宰相の耳に入り!…この文章が作られたのかと

考えると、やはり疑問しか出て来ないのである!間違い無くその獣人達の国は

ここからだと遠く…そんな一時間未満で行ったり来たりが出来る筈が無いと

考えると、更に宰相に耳に入るまでにも時間が掛かる筈と冷静に考える!…

オマケにここまで大事になる様な!…ましてやあのナンパにそこまでの意味が

有る様に思えず、マサツグ自身この警告文自体が偽物なのでは?と考える

のだが、ルンがマサツグの様子等お構い無しにある気になる話をし始める。


「…実は最近この町で不穏な動きを見せるならず者達が居るようで、

そのならず者達が獣人だとか?…何でも女性ばかりに声を掛ける

ナンパ集団だとかで、言う事を聞かなかったら無理やり何処かへ連れて

行こうとするらしく!…現在ギルドでもそんなならず者達に対して

警戒を強めては指名手配にしようと思っていたのですが…

その矢先にこの警告文が!…

この警告文を受けてギルドは何か危機を感じては一度大事を取ると、

その指名手配の話は白紙に!…」


ルンが戸惑い気味に話し始めたのはあのナンパ集団について…ルンが言うには

マサツグ達が見つけた時と同様、無理やり何処かへ連れて行こうとするなど

迷惑行為を働いていたらしく、ギルドの方でも見かねて指名手配にしようと

動いていたらしいのだが…同時刻にこの警告文が届いてはその出方を怪しみ、

一度待ったを掛けると有耶無耶になっって消えたとルンがマサツグに話し、

その話を聞いてマサツグも改めてナンパ集団の容姿を徐に思い出すと、確かに

そのナンパ野郎達の頭にケモ耳が付いていた事を思い出す。


「ッ!…獣人のナンパ集団?……そう言えば…耳が…」


「…現在ハーフリングスはギルド非加盟国で更に鎖国状態の為、

この警告文の詳しい調査は出来ません!…オマケに内容が疑わしい事から

この警告文が本当に真実で有ると分からない限りは動かないと、

ギルドの方でも断固とした態度を取ると決めているようですが…

ギルドマスター自身は如何にも気になる事が有るらしくて…

本人に確認をする様にと言われたのです……

一応こちらの裁量でまだ指名手配はされない事になっていますが…

もし向こうの国がマサツグさんを指名手配にして賞金を懸けた日には!…

余計な火の粉が掛かるんじゃ?と危険視していまして…」


マサツグがナンパ集団の容姿を思い出して居る一方で、ルンの口からはギルドの

対応説明の話が話される。ギルドの方でもマサツグ同様この警告文が疑わしいと

考えているのか、事実証明が取れない限りは動かないと決めているらしく!…

その際一応マサツグに確認を取る等するもののハーフリングスに引き渡さない

方向で動いて居るらしいのだが…相手は非加盟国と言う事から素性が分からない

らしく…どんな風に動くかによって、どの様な危険が有るか等は把握出来てないと

マサツグに話し、警戒している点も含めてルンが隠さず話すと、その一部始終を

聞いていたシロは途端に麻袋を落としてはマサツグに縋り付く。


__……パサッ…ギュッ!!…


「ッ!…シロ?…ッ!…」


「………。」


シロがマサツグの脹脛に縋り付くとマサツグはそれに気付くなり振り返って

視線を落とし、名前を呼んでそのままシロの表情を確認すると言うまでもなく

不安の表情を見せて居た。この時先程まであんなに大事そうに抱えていた

麻袋を落としている事も目に入ると、マサツグはハッとした様子でシロが

不安がっている事に気が付き!…シロの気持ちを宥めるようシロの頭の上に

手を置き撫で始めると、安心させる様に声を掛け始める。


「…大丈夫だぁ!……何処にも行かないからなぁ!…」


__……ギュッ!……ッ!?……


自分があのナンパ集団を蹴散らしたからこんな事になったのか?…そんな反省の

色すら伺えるシロの表情にマサツグは頭を撫で続け、安心させるよう言葉を

掛け続けるがシロの表情は一向に変わらず、ただマサツグの脹脛にしがみ付いては

無言を貫いていた。そんな様子にルンもハッ!とシロが居る事を思い出した表情を

すると、話のタイミングを間違えたと反省した様子を見せ…その挽回とばかりに

ある事を考え付くと、マサツグにそのある事を提案し始める。


「…ッ!…そ、そうです!…この手が有ります!!…」


「ッ!!…急に如何した!?…」


ルンは慌てた様子で何かを思い付くと突如声を挙げ出し!…その声に驚いた様子で

マサツグがルンの方に振り返ると、その突然声を挙げた理由について戸惑いつつも

質問をする。その際マサツグは今だシロの頭を撫でては安心させようと試み続けて

おり、カウンターの上を覗く様にマサツグが顔を出しているのだが…ルンは構わず

自身の考えた一旦の解決策を口にすると、更にマサツグを困惑させる。そしてその

困惑させた内容と言うのは…


「…提案なんですがマサツグさん…

暫くの間この町に隠れてやり過ごすのは如何でしょうか?…」


「えッ!?……と、言いますと?…」


「この町!…ホエールビアードはサマーオーシャン連合国の共有都市なのです!…

エルフの国ユグドラド!…人魚の国マーメイディア!…

そして獣人達の国ハーフリングス!…この三つで連合国となっていまして!…

この町はその三国の共有財産であり、ある意味で独立都市となっています!!…

つまり!…この町をハーフリングスが如何こうしようと思っても他二国の同意が

無いと何も出来ない様になっているのです!」


ルンが突如提案したのはホエールビアードの町に潜伏すると言った一時的な

隠居プレイであった。それも自信満々にルンが話すものなのでマサツグが

戸惑った反応を見せながら詳しい話を聞き出すと、ルンは自信満々にその

詳しい説明を話し始める。ルンが言うにはこの町ホエールビアードはエルフの国

ユグドラド・人魚の国マーメイディア・獣人の国ハーフリングスなる三国の

管理下に置かれて居る為、一国だけがこの町を如何にかしようと思っても!…

動かしたくとも動かせない!…更に言えば無理に動かそうものなら外交問題に

なると言った説明をマサツグに話し出し、その話を聞いたマサツグがハッ!と

理解した表情を見せると、簡単に自身の頭の中でまとめてはルンに解釈が合って

いるかどうかを確認し出す。


「…ッ!…なるほど?…その言い分だとこの町は…

サマーオーシャン連合国の中立都市みたいなモンで?…

三国が同時に動かないと迂闊な事も出来ないって事か?…」


「はい!…その通りです!!…

この町の条例等を決める場合もその三国と一緒にギルドが参加して

決める程に確固な物です!…この町の管轄下は確かにその三国の物ですが…

委託と言う形でギルドにその管理が一任されていまして!…

この管理者を決めるのも三国が揃っていないと出来ない為、直ぐに管理者を

変える等そう言った事は出来ませんし!…

何よりこの大陸の管理をしている私達のギルドマスターはとっても頼りに

なる人です!!……まぁ…少し…いえ、かなり変わっていますが…

信頼は出来る人です!!…」


「……何かすごく不安を覚える言い回しなんだが?…」


マサツグの問い掛けに対してルンは笑顔で頷き、肯定すると更に説明を続ける。

その際どれ位にその三国の取り決めが厳しいのかを話し出し、更にこの町の

責任者をこの大陸のギルドマスターが一任されて居る事、そのギルドマスターが

頼れる人間だと言う事を話すのだが…その途中で引っ掛かりを覚える話し方を

して見せ…マサツグに不信感を与えるのだが直ぐに話を持ち直すと、ルンは

オマケと言った様子でホエールビアードの条例の一つを口にする。


「あははは……まぁ…とにかく!…

この町の条例に私利私欲での決闘!…乱闘に闇討ちと…

理由なき暴力を振るった場合は厳罰に処すと言う物が有ります!…

…まぁ…マサツグさんの場合はアレですが…ともかく!…

外に居るよりは圧倒的に安全では無いかと!…


「……うぅ~ん…確かにそうなんだが…でもなぁ~…」


__ガタガタガタガタ!!…


「……ん?…何事?…」


マサツグだけでなくシロも安心させようと必死になり法令の話を持ち出すルン!…

その際マサツグが自白した喧嘩等思う所が出て来るのだが…ルンは必死に

マサツグの無事を考えて説得し、マサツグもその話を聞いて少し考えた様子を

見せるのだが…ふとギルド内がザワ付き始めたのを感じると、マサツグ達は

視線をザワ付きの感じる方へ向け始める。するとそこには冒険者達がフルフルと

肩を震わせた様子で席に座って居たり、立って居たり…とにかく何か可笑しな

様子で俯いており、マサツグとルンが一緒になって困惑の表情を見せて居ると、

それは突然起きる!…


__ガタタタ!!…ウオオオォォォォォォォォォ!!!!…


「ッ!?…うぇえ!?…」


「ッ!?…み、みなさん!?…急に如何なされたのですか!?」


__ガチャガチャ!!…ガチャガチャ!!…


その座って居たり立って居たりと…先程まで俯いていた連中が途端に!…

それも一斉に顔を上げ出すとその場で憤怒の様相で吠え始める!その様子を

目にしたマサツグとルンは戸惑い、ルンがその吠える冒険者達に向かい

何が有ったのかを尋ね出すのだが、ただ冒険者達は先程までの話を聞いて…

更にある光景を目にしたのか様相そのままに突如として装備を手にし始めると

何やら不穏な空気を漂わせ始める!


「不埒者が!!…そのナンパ野郎共締め上げに行くぞコラアァ!!!」


「オマケに指名手配だぁ!?…

こんな小さな子を捕まえてふざけた事を!!!…

いっそカチコミを掛けて行くか!?」


「えぇ!?…ちょ!ちょっと待ってください!!…」


「とにかく!!…こんな小さな子を泣かせる奴らは絶対に許さん!!!…」


武器を手に何処へ行こうと言うのか?…ただ先程の話を聞いて居た様子で

冒険者達が立ち上り、ギルドを後にしようとするとまず標的はナンパ集団と

語り出す!この時立ち上がった冒険者達は本気でキレているのか殺気が

駄々洩れでかなりヤバい集団に見え、更に恐らくはシロの事を言っている

のだろうか指名手配にされた?…と思ってか獣人達の国にカチコミに行こう!

と言い出す始末!…そんな様子にルンは慌てて呼び止めようとすると一人の

冒険者がシロの表情を見て己を鼓舞し出し、それを聞いたマサツグがピクっと

反応した様子でシロの顔を覗き込むと、そこにはその冒険者の言う通り!…

不安の余り涙を流すシロの表情を見て取れた。


__ッ!…チラッ……


「ひっぐ!…ぐす!…ごしゅじんざまぁ~…」


「ッ!…あぁ!!…大丈夫!!…シロを置いて行かないから!!…

ほら泣き止んで!!…折角の可愛いお顔が台無しよぉ~!…」


「野朗共!!…行くぞおぉぉぉぉぉ!!!」


「「「オオオオオォォォォォォォォォ!!!!」」」


自責の念に囚われてかシロはポロポロと涙を零し、必死にマサツグの脚に

縋り付くとその涙でボロボロの顔を擦り付ける。そんなシロの様子に

マサツグも慌ててしゃがむとシロを抱き締め、泣き止むよう声を掛けるのだが

シロは泣き止まず…その間にも暴徒に近い冒険者達が町に繰り出そうと

していると、ルンだけでなく他のギルド職員達も異変に気が付いて慌てて

止めに入り始める!…この時マサツグはシロを宥めつつも冒険者達の

様子を見て…


{指名手配にされたのはシロじゃなくて俺なんだけどなぁ……

…と言うかこのノリの奴って何処にでも居るみたいだなぁ……

春野原スプリングフィールドのギルドと変らねぇや……}


と、感じてしまい…その光景に呆れを覚えると同時にふと何故か安堵してしまう

のであった。そして震えながら泣きじゃくるシロを抱えては安心させるよう

言葉を掛け続けていると、思わず溜息が出て来るのだがマサツグの中である

考えが同時に出て来る。そしてこの時…二階のバルコニーから一人…一階の様子を

見守る者が出て来ているのだが、誰も気づいて居らず…その者の視線はマサツグに

向けられている事を本人はまだ知る由も無いのであった。


「…はあぁ~………

大丈夫だシロ…お前のせいじゃない!…大丈夫だ!…

だから泣かなくて良い……ッ!…」


「…ひっくっ!……えっぐ!……」


「「「オオオオオォォォォォォォォォ!!!!」」」


「ちょ!…本当に落ち着いて下さい!!!…

このままだと本当に戦争が起きますよ!?…」


シロを宥めるマサツグの頭の中である事が思い付く一方で、ギルド職員達は

暴徒と化した冒険者達の鎮圧に掛かり切っていた!…このままだと本当に

全面戦争になりかねない!…そんな大きなうねりに成りつつ在る冒険者達に、

遂にはギルドの鎮圧武装部隊まで出る始末で!…マサツグがシロを抱えて

カウンターの前に立ち尽くし考えて居ると、ルンは鎮圧部隊に後を任せては

カウンターの方へ戻って来る。まさか一人の幼女が泣き出しただけでこの様な!…

そんな驚きを覚えつつルンがカウンターの方に戻って来るなり、今度は

マサツグがトンデモナイ事を口にし始める!


「……はあぁ~…すいません…話が逸れてしまいましたね…

で、先程のお話なんですが…」


「…なぁ?…ルン?…ここからそのハーフリングスまでどれ位掛かる?…」


「え?…」


「……ッ?…いやだからハーフリングスまでどれ位?…」


ルンがマサツグに謝り話を元に戻そうとすると、突如マサツグはハーフリングス

までの道のりを尋ね始める。その突然の問い掛けにルンは驚くとマサツグの顔を

見詰めては戸惑い…今何と?と言った表情を見せるのだが、マサツグはその表情を

聞いて居なかったのか?と誤解した様子で受け取ると、もう一度ハーフリングス

までの道のりについて尋ね出す。しかし当然ながらルンが聞き直したのはそう言う

意味ではなく、マサツグの返答を聞いてはただ戸惑った表情で違う!と言い出し、

何かを察したのかもう一度マサツグに説得するよう慌てながらも話をし始める!


「いや違います!!…何故今そのハーフリングスまでの道のりを

尋ねているのかと聞いているのです!!…いいですか!?…

今マサツグさんがハーフリングスに行けば間違いなく捕まっちゃうんですよ!?…

それどころか今行けば間違いない捕まえて下さいと言っている様なモノで!!…」


「いや?…ワザと捕まりに行くんだよ。」


「…ッ!?……ハァ!?…」


ルンの予想は如何やら的中していた様で…必死に今行けば捕まりに行く様な

モノとマサツグに説得をするのだが、マサツグは逆に捕まりに行くと話し出し…

その話を聞いてルンは更に戸惑い驚きの声を挙げると、マサツグの顔をジッと

見詰める。この時のマサツグの表情からはふざけている様子等は無く、ただ

キョトンと…真面目に考えたと言った表情を見せており、マサツグの考えが

分からないルンはただ一人困惑し始めていると、マサツグは続けてハーフ

リングスに行こうと考えた理由について話し始める。


「ルンが心配してくれるのは有り難いよ?…

確かにその方がシロにとっても一番だと思う!…

でもいつまで隠れ続けている訳には行かないだろ?…

だから自分から行って直談判をと思ってね?…

…ほら?…こう言った文章を送って来る奴は大抵腐ってて…

一度痛い目に会わないと分からないだろうからさ?…」


「い、いえいえ!…それにしても無茶が過ぎます!!…

大体捕まってしまったら即刻処刑とかも有り得るんですよ!?…

幾ら何でも!!…」


「ッ!…あ、そうか…じゃあ……

あの冒険者達みたいに乗り込んで宰相だけをぶっ飛ばそうか?…

…とにかく!…何か色々考えてたら名指しで挑発されている様な

気がして来て!…むかっ腹が立ったからぶっ飛ばそうかと?…」


「ッ!?…む、無茶苦茶すぎますよ!…マサツグさぁん!…」


マサツグが話し始めた理由にただただ困惑する事しか出来ないルンは、それでも

諦めずにマサツグに説得を試みる!…命が幾つあっても足りない!…一国を相手に

たった一人の冒険者が勝てる訳が無い!…最悪捕まって死罪になる!と言った

命に訴える説得を試みるが、マサツグは一切退かず!…死罪の話を言われても

軽く受け流してはただ宰相をぶっ飛ばす事しか考えていない様子で、シロを徐に

肩車し始めると自身の指をパキパキと!…やる気を滲ませる音を鳴らし始める。

そしてそんな様子を見せるマサツグに対しルンも匙を投げるよう諦め出すと

ただ困惑の言葉を口にし、あの姉はよくこの人の相手が出来たなと関心を抱き

始めていると、シロが漸く徐々にではあるものの落ち着きを取り戻し始める。

更に二階からマサツグを見詰めて居た者も今までの話を聞いてか興味を持った

様子でニヤッと笑うと、何故かマサツグの背筋に冷たい何かが走る!…


{……フリードちゃんから話は聞いて居たけど…

お話通りに面白い子じゃない♥…気に入ったわ♥…

ちょぉっと様子を見ててあげましょ♥…}


__ニヤァ!……ゾクウゥゥゥ!!!…


「ッ!?…ッ!?…な、何だ!?…急に悪寒が!?…

シロ?…何かって…何もある筈無いか…」


「スン!…スン!…」


突如悪寒を感じたマサツグは慌てた様子で辺りを見渡し、何も無い事を

確認すると不気味さを覚える!…そして一度はその悪寒を感じた原因を

シロなのでは?と考えたりするのだが…直ぐ冷静に考え直すと有り得ないと

言った様子で自己完結し、シロはシロで肩車をされてマサツグの頭に

縋り付くと鼻を啜って居た。そんなマサツグの悪寒の原因はと言うと

良い物が見れたと言った様子でスキップしながら、二階フロアの奥へと

戻って行き…結局マサツグは自身が感じた悪寒の原因は分からず仕舞いで、

更に一瞬ではあるものの命の危険より凶悪な物を感じた事に、戸惑いを

隠し切れないのであった。


{…さっきのは一体?…何か…身の毛もよだつ様な?…

バルデウスと会った時よりヤベェ奴に遭遇した気分だ!…}


「ごしゅじんさまぁ~…ごしゅじんさまぁ~…」


「ッ!…はいはい…何処にも行かないよ…シロを置いて行かない!…」


マサツグがただひたすらに先程の気配について色々考えていると、

シロはマサツグの頭をガッチリホールドしては甘え出し…マサツグも

シロが泣き止んで甘え出した事にホッと安堵し頭を撫で始めると、

シロは元気を取り戻すよう撫でられる事に反応して尻尾を振り始める。

そうして玄関口の方で起きていた冒険者達の暴動も遂に鎮圧された

様子で落ち着きを見せ始める中…マサツグ達の後ろから一人誰かの

歩いて来る足音が聞こえて来ると、その足音の主はマサツグの横に

立つなりルンへ今にも消えそうな声で話し掛け始める。


__コッ…コッ…コッ…コッ…


「……あのぉ~…すいません……」


「ッ!…え?…あぁ!…はい、何でしょうか?」


「ここが…冒険者ギルド…なんですよね?…」


その今にも消えそうな声にルンが反応するとマサツグの隣に視線を向け、

用件を聞き出すルンの視線に釣られてマサツグも隣に目を向けると、その隣に

居た人物に思わず驚いてしまう!何故ならそこに居たのはあのナンパ集団に

襲われて逃げた筈の獣人女性が立って居たからである。更に驚く事にその獣人

女性は着替えて居ないのか水着姿でギルドに姿を現しており、目を涙で潤ませては

必死に場所が合っている事を願う様にルンへ質問をしていたからである。

そしてそんな問い掛けに対してルンは戸惑いながら肯定すると、その獣人女性の

様子が普通で無い事に気が付き…何が有ったのかを恐る恐る尋ね始める。


「え?…は、はい…そうですが…一体如何なさいましたか?…」


「ッ!…はあぁ~…よかったぁ~……ッ!…

あっ!…貴方達は!!…」


「ど…どうも…あの後無事に逃げれたみたいで良かったです…」


「ッ!?…私を助けて下さったのに!!…

逃げてしまって申し訳ありません!!!…」


ルンが困惑気味にその獣人女性へ何が有ったのかを尋ねるのだが、

獣人女性はただ目的地に無事辿り着いた事に安堵し…ホッと胸に手を当て

落ち着きを取り戻し、そしてふと隣に誰かが居る事に気付いた様子で

振り返ると、漸くマサツグが居る事に気が付く。何故気付かない!…と

周りからツッコミを受けそうなものなのだが、マサツグは戸惑いつつも

その獣人女性が無事ここまで逃げれた事に安堵した様子で言葉を掛け、

その獣人女性もマサツグに逃げた事を謝り出すと頭を下げる。そんな様子に

マサツグは慌てた反応を見せるのだが、何より一番に困惑して居るのは

私とばかりに!…ルンは目の前の光景を見詰めてはただ困惑の表情を

見せるのであった。

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俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?

アノマロカリス
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よくある話の異世界召喚。 ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん) いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ? 王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。 だけど、夢にみた迄の異世界… 慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。 自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 現在書籍化されている… 「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」 の100年前の物語です。 リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。 そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。 その作品の【改訂版】です。 全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。 今回のHOTランキングでは最高5位かな? 応援有り難う御座います。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
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 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

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俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
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『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

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