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第二章 旅立ち
第十三話 二つ目の契約
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「あー、五月蠅い男だ。大声を出そうが出すまいが結果は変わらん」
「ふざけんな!! 結果が変わんねーから叫んでんだろうが!! 今! 船が!! 沈んでいってるんだぞ!! どーすんだよ!?」
言っている間にも徐々に船体が傾き始めてきた。つかテメ、耳をほじほじしてる場合じゃねーだろが!!
滑り台のようになりだした足元に、慌てて近くの鉄柵を握りしめた。桔梗も耳ほじをやめ同じように鉄柵を掴む。
「うわわぁぁぁっ!」
突如、誰もいないと思っていた甲板の向こう、船内へと通じる扉の中から悲鳴とともに大きな本が俺に向かって突進してきた。何事かと思って目を凝らしてみれば、そいつは大きな本を背負った……おそらくオリオと同じ年頃の十二、三歳程の少年のようだ。
「わあぁ! 滑るぅ! 助けてぇぇぇ!!」
あまりにも悲痛な叫びをあげて、手足をばたつかせながら訴えてくるそいつを受け止めてやろうと手を伸ばしたのに、俺の手前で奴はカクンと曲がりやがった。手に掴んだのはそいつが持っていた何かの鍵だけだ。それもすぐに紐が千切れ、滑り台の上を走るように桔梗に向かって駆けていった。
いや、ちょっと待て、あいつ今わざと曲がらなかったか……?
「助けてぇ! おねぃさーーーーん!!」
俺が手に残った鍵を確認している間に奴は桔梗に本ごと抱き留められていた。
「うわーんっ! 逃げ遅れちゃってたんだ、こわかったよぉー」
震えた声を出して奴は桔梗に抱きつき、胸にスリスリし始めた。桔梗もよしよしとガキの頭を撫でる。
俺がアクシデントで胸を掴んだときは平手打ちかましやがったくせに、なんなんだこの対応の違いは。なんだかムカムカしてイライラして腹が立ってきた。
しかもあのガキ……どう見てもわざと桔梗の胸に触れているのは気のせいか?
その証拠にあいつはこちらを見てニヤリと笑いやがった。間違いない、あいつ絶対わざとだ。
大体でかい本もそうだが無造作にはねた金髪や袖のない服にショートパンツ、どう見てもクロレシアの軍船に乗るような人物には見えない。逃げ遅れたとか言っていたが、怪しすぎだろアイツ。
いったい何者なんだと、ついついあのガキから引きちぎってしまった金の鍵を見つめた。もしかしたら強盗か何かでこの船に乗り込んで来た奴かもしれない。
そう思っていたら、ガキが突然大声で叫びやがった。
「あああーーーーーー!!! 何でお前がそれ持ってるんだよ!! 返せぇーーーーー!!!」
返せって、この鍵の事か?
不思議に思っていたら奴はこちらへ精一杯手を伸ばして歩いて来ようとした。床が斜めなせいでそれも叶わず、桔梗の腕の中へと舞い戻ってるが。
しかし……あいつがこれほど慌てるってことはこの鍵……。
一瞬で俺の口元が極悪な笑みに変わった。
へっ、返せと言われて「はいそうですか」と返すと思ってんのかよ?
これだけ慌てるってことは相当この鍵が大事な物に違いない。色々事情を聴くためにも、俺は千切れた紐を結んで首にかけようとした。
「やめろぉぉ!! ぼくの鍵だぞ!! 返せぇぇぇ!!」
奴は再び桔梗から手を離し、こちらに向かってきた。それより先に俺は鍵の紐を首にかける。途端にガキの絶叫がこだました。
「何するんだーーーー!!! ふざけるな! バカやろーーーーー!!!」
ああ!?なんで年下のクソガキにバカやろうなんて言われなきゃならないんだ、と思ってたらいきなり俺の首から下げた鍵とガキが背負っていた巨大な本の魔法陣みたいな図形が光を放ちだした。びっくりして鍵を握り締める。自然と俺の口から言葉が紡ぎ出された。
ちょっと待て、俺自分で何しゃべってるのか分からないんだけど!?
呪文なのか何なのか、とにかく意味不明な言葉がどんどん紡ぎ出されてくるのと同時に、ガキの体も白い光に包まれ出した。
「くそ、くそぉー! せっかく前の契約者が死んで自由になれたのにぃぃ!!」
桔梗は俺の紡いでいる言葉が理解できるのか、驚きの顔で俺とガキを交互に見ている。その間にも意味不明な言葉が俺の口からどんどん紡がれていった。
「殺してやる! テメー覚えてろよ!!」
ガキの物騒な言葉と同時に光が収束していく。鉄柵を握ったままの俺と、桔梗に掴まっていたガキ、二人してガクリとその場に膝をついた。お互い思った以上に体力を消耗しているみたいだ。桔梗に支えられながら立ち上がったガキが、先程とは違う表情のない顔でつぶやいた。
「契約は成立した。我は其方を全力で守護しよう」
言い終えると同時にガキは元の表情に戻った。俺を指さして叫んでくる。
「ぶっ殺す!! テメーぶっ殺す!!」
なんなんだ、コイツ。さっきと言ってる事矛盾してるじゃねーか。やってることも訳分かんねーし、めちゃくちゃムカつくぞ。
そんな俺を無視して、桔梗はガシッとガキの肩を片手で引き寄せて振り向かせていた。
「お前! 名前はなんという!?」
真剣な眼差しで問いかける桔梗にガキの方もたじたじだ。
「あ、えと、そ、そんなにぼくに興味ある? おねぃさん。えへ、ぼくはテンって言います❤ やだなぁ、そんなに見つめないでよ、ぼくにホレちゃったの? 恥ずかしい❤」
「そ、そうか……」
何を聞きたかったのか、テンと名乗ったガキの冗談は完全無視して少し残念そうな……それでいてほっとしたような表情でつぶやいた。気になって鉄柵を伝いながら俺も桔梗の方へと近づいていく。
「何を気にしてる? 今何が起こったんだ? お前は何を知ってる?」
俺の質問責めに桔梗が唇を噛んで答えた。
「今お前が呟いていた言葉……、私の村を滅ぼした奴が使っていた呪文に似ていた」
そこまで話した時、いきなりメリメリと言い出したかと思えば船が真ん中で割れて沈みだした。俺も桔梗もあわてて鉄柵を掴み直す。しまった、こんなところで悠長に話してる場合じゃなかった!
反対に傾き出した船体に体が持っていかれそうだ。テンもあわてて桔梗に掴まった。掴まって顔を胸に押しつけつつ怖いよーっと叫んでいたが、まぁ詳細は後で問うことにして……俺は桔梗の方に真剣な顔で視線を向けた。
「で、どうやって脱出するつもりだ?」
俺の問いかけに桔梗もさすがに真剣な顔で答えた。
「……そうだな……。泳げないか?」
桔梗の言葉には俺とテンが同時に叫んだ。
「無理に決まってんだろ!!」
「無理!!」
お互い顔を見合わせる。
「なんだ、おまえ。泳げねーのかぁ?」
「そっちこそいい年してダッサ~。ぼくはこの本が濡れたらダメなんだよ!!」
「は。ボクちゃんは本がないと生きられない根暗ちゃんでしたか! だから知らねーんだな、人間は浮くようにできてねーんだよ!!」
俺とテンの争いに桔梗が深くため息をつきつつ答えた。
「低俗な争いはやめろ。見ていて笑いしか出ない」
「「低俗なのはこいつだけだ!!」」
桔梗のツッコミには再びテンと同時に叫ぶ。
そのままテンとにらみ合ってる俺に向かって、落ち着かせるのは諦めたらしい桔梗が話しかけてきた。
「お前、地の術は使えるな? 今から船の木材を使ってボートを組み上げる。水の魔法で幕を張れば多少作りが雑でも浮くだろう。手伝え」
「はぁぁ!!?」
桔梗の言葉にテンとの争いを一旦止め、目を見開いた。マジで言ってるのかと疑ったがどうやら本気らしい。桔梗は片手で鉄柵を握ったまま反対の手を床に着けると呪文を唱えだした。ぐにゃりと足元がうねり始める。
「くそ、とんだ重労働じゃねーか……」
それでもこのまま海に沈むなんて冗談じゃない。俺も桔梗に倣って床に片手をつけ魔法を使った。
いや、正確には使おうとした……だ。そこでふとヤバいことに気付く。
「うが! しまった! 紋章触れねーじゃねーかっ……!」
俺にかかっていた封印が解除されたところで魔法を使う制約は変わらなかったらしい。しかも焦ったことで鉄柵を握っていた手がずるりと滑り、身体が真っ逆さまに海の方へと落下していく。
う、嘘だろォォォっ……!!!
桔梗は舟を作るのに必死でこちらに気付いていない。
俺は間抜けな自分を恨みつつ身体を強張らせながら、ザブンッと水の中へと沈んでいった。
「ふざけんな!! 結果が変わんねーから叫んでんだろうが!! 今! 船が!! 沈んでいってるんだぞ!! どーすんだよ!?」
言っている間にも徐々に船体が傾き始めてきた。つかテメ、耳をほじほじしてる場合じゃねーだろが!!
滑り台のようになりだした足元に、慌てて近くの鉄柵を握りしめた。桔梗も耳ほじをやめ同じように鉄柵を掴む。
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「わあぁ! 滑るぅ! 助けてぇぇぇ!!」
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いや、ちょっと待て、あいつ今わざと曲がらなかったか……?
「助けてぇ! おねぃさーーーーん!!」
俺が手に残った鍵を確認している間に奴は桔梗に本ごと抱き留められていた。
「うわーんっ! 逃げ遅れちゃってたんだ、こわかったよぉー」
震えた声を出して奴は桔梗に抱きつき、胸にスリスリし始めた。桔梗もよしよしとガキの頭を撫でる。
俺がアクシデントで胸を掴んだときは平手打ちかましやがったくせに、なんなんだこの対応の違いは。なんだかムカムカしてイライラして腹が立ってきた。
しかもあのガキ……どう見てもわざと桔梗の胸に触れているのは気のせいか?
その証拠にあいつはこちらを見てニヤリと笑いやがった。間違いない、あいつ絶対わざとだ。
大体でかい本もそうだが無造作にはねた金髪や袖のない服にショートパンツ、どう見てもクロレシアの軍船に乗るような人物には見えない。逃げ遅れたとか言っていたが、怪しすぎだろアイツ。
いったい何者なんだと、ついついあのガキから引きちぎってしまった金の鍵を見つめた。もしかしたら強盗か何かでこの船に乗り込んで来た奴かもしれない。
そう思っていたら、ガキが突然大声で叫びやがった。
「あああーーーーーー!!! 何でお前がそれ持ってるんだよ!! 返せぇーーーーー!!!」
返せって、この鍵の事か?
不思議に思っていたら奴はこちらへ精一杯手を伸ばして歩いて来ようとした。床が斜めなせいでそれも叶わず、桔梗の腕の中へと舞い戻ってるが。
しかし……あいつがこれほど慌てるってことはこの鍵……。
一瞬で俺の口元が極悪な笑みに変わった。
へっ、返せと言われて「はいそうですか」と返すと思ってんのかよ?
これだけ慌てるってことは相当この鍵が大事な物に違いない。色々事情を聴くためにも、俺は千切れた紐を結んで首にかけようとした。
「やめろぉぉ!! ぼくの鍵だぞ!! 返せぇぇぇ!!」
奴は再び桔梗から手を離し、こちらに向かってきた。それより先に俺は鍵の紐を首にかける。途端にガキの絶叫がこだました。
「何するんだーーーー!!! ふざけるな! バカやろーーーーー!!!」
ああ!?なんで年下のクソガキにバカやろうなんて言われなきゃならないんだ、と思ってたらいきなり俺の首から下げた鍵とガキが背負っていた巨大な本の魔法陣みたいな図形が光を放ちだした。びっくりして鍵を握り締める。自然と俺の口から言葉が紡ぎ出された。
ちょっと待て、俺自分で何しゃべってるのか分からないんだけど!?
呪文なのか何なのか、とにかく意味不明な言葉がどんどん紡ぎ出されてくるのと同時に、ガキの体も白い光に包まれ出した。
「くそ、くそぉー! せっかく前の契約者が死んで自由になれたのにぃぃ!!」
桔梗は俺の紡いでいる言葉が理解できるのか、驚きの顔で俺とガキを交互に見ている。その間にも意味不明な言葉が俺の口からどんどん紡がれていった。
「殺してやる! テメー覚えてろよ!!」
ガキの物騒な言葉と同時に光が収束していく。鉄柵を握ったままの俺と、桔梗に掴まっていたガキ、二人してガクリとその場に膝をついた。お互い思った以上に体力を消耗しているみたいだ。桔梗に支えられながら立ち上がったガキが、先程とは違う表情のない顔でつぶやいた。
「契約は成立した。我は其方を全力で守護しよう」
言い終えると同時にガキは元の表情に戻った。俺を指さして叫んでくる。
「ぶっ殺す!! テメーぶっ殺す!!」
なんなんだ、コイツ。さっきと言ってる事矛盾してるじゃねーか。やってることも訳分かんねーし、めちゃくちゃムカつくぞ。
そんな俺を無視して、桔梗はガシッとガキの肩を片手で引き寄せて振り向かせていた。
「お前! 名前はなんという!?」
真剣な眼差しで問いかける桔梗にガキの方もたじたじだ。
「あ、えと、そ、そんなにぼくに興味ある? おねぃさん。えへ、ぼくはテンって言います❤ やだなぁ、そんなに見つめないでよ、ぼくにホレちゃったの? 恥ずかしい❤」
「そ、そうか……」
何を聞きたかったのか、テンと名乗ったガキの冗談は完全無視して少し残念そうな……それでいてほっとしたような表情でつぶやいた。気になって鉄柵を伝いながら俺も桔梗の方へと近づいていく。
「何を気にしてる? 今何が起こったんだ? お前は何を知ってる?」
俺の質問責めに桔梗が唇を噛んで答えた。
「今お前が呟いていた言葉……、私の村を滅ぼした奴が使っていた呪文に似ていた」
そこまで話した時、いきなりメリメリと言い出したかと思えば船が真ん中で割れて沈みだした。俺も桔梗もあわてて鉄柵を掴み直す。しまった、こんなところで悠長に話してる場合じゃなかった!
反対に傾き出した船体に体が持っていかれそうだ。テンもあわてて桔梗に掴まった。掴まって顔を胸に押しつけつつ怖いよーっと叫んでいたが、まぁ詳細は後で問うことにして……俺は桔梗の方に真剣な顔で視線を向けた。
「で、どうやって脱出するつもりだ?」
俺の問いかけに桔梗もさすがに真剣な顔で答えた。
「……そうだな……。泳げないか?」
桔梗の言葉には俺とテンが同時に叫んだ。
「無理に決まってんだろ!!」
「無理!!」
お互い顔を見合わせる。
「なんだ、おまえ。泳げねーのかぁ?」
「そっちこそいい年してダッサ~。ぼくはこの本が濡れたらダメなんだよ!!」
「は。ボクちゃんは本がないと生きられない根暗ちゃんでしたか! だから知らねーんだな、人間は浮くようにできてねーんだよ!!」
俺とテンの争いに桔梗が深くため息をつきつつ答えた。
「低俗な争いはやめろ。見ていて笑いしか出ない」
「「低俗なのはこいつだけだ!!」」
桔梗のツッコミには再びテンと同時に叫ぶ。
そのままテンとにらみ合ってる俺に向かって、落ち着かせるのは諦めたらしい桔梗が話しかけてきた。
「お前、地の術は使えるな? 今から船の木材を使ってボートを組み上げる。水の魔法で幕を張れば多少作りが雑でも浮くだろう。手伝え」
「はぁぁ!!?」
桔梗の言葉にテンとの争いを一旦止め、目を見開いた。マジで言ってるのかと疑ったがどうやら本気らしい。桔梗は片手で鉄柵を握ったまま反対の手を床に着けると呪文を唱えだした。ぐにゃりと足元がうねり始める。
「くそ、とんだ重労働じゃねーか……」
それでもこのまま海に沈むなんて冗談じゃない。俺も桔梗に倣って床に片手をつけ魔法を使った。
いや、正確には使おうとした……だ。そこでふとヤバいことに気付く。
「うが! しまった! 紋章触れねーじゃねーかっ……!」
俺にかかっていた封印が解除されたところで魔法を使う制約は変わらなかったらしい。しかも焦ったことで鉄柵を握っていた手がずるりと滑り、身体が真っ逆さまに海の方へと落下していく。
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