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雑賀重清の目標
第444話:青臭い討論
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「何をそんなに驚いている?」
足元に倒れる美影に、允行は目を落とした。
「お父様が、契約忍者を―――」
「何を言うか。貴様も以前は、そうであったではないか。
よく思い出してみろ。貴様が、貴様ら姉弟が、なぜ雑賀日立の思想を素直に受け入れたのかを。
貴様らの父、雑賀兵衛蔵がいたからではないのか?」
允行の言葉に、美影は沈黙した。
美影には、父の記憶は僅かしか残ってはいない。
いつも優しげに微笑む父の顔を思い出しながらも、美影は必死に記憶の糸を辿っていた。
確かにあの優しかった父が、日立の激しい思想を否定するとこはなかった。
父自身がその思想について語ったことは無かったが、それでも父は、よく美影達姉弟を日立の元へと向かわせていた。
それは、日立の思想を美影達に刷り込むためだったのではないか。
そんな想いが、美影の中に渦巻いていた。
「だからって!!」
その時、重清が叫んだ。
「仮にそうだったとしても、殺す必要なんてなかったじゃないか!」
そう言った重清は、美影へと視線を向けた。
「美影!お前のお父さんがどんな考えだったかなんておれは知らない!
だけど、どんな思想を持っていたからって、殺されていいヤツなんているわけないんだよ!」
「重清・・・」
重清の言葉に、美影は涙を浮かべて頷いた。
「あんたもあんただよ!」
美影に笑いかけた重清は、允行を睨みつけた。
「いくらなんでも、殺さなくてもいいじゃないか!
忍者は他にもたくさんいる!
みんなで止めれば、どんな悪い思想だってきっと―――」
「お前は何も分かっていない」
重清の言葉を、允行は遮った。
「たかだか十数年しか生きておらんお前に何が分かる?
数百年。私は数百年もの間、貴様ら忍者と、人を見てきた」
「・・・数百年・・・」
允行の言葉に、聡太が小さく呟いていた。
「根来トウに代わって学び舎に足を運ぶようになって、さらに強く感じた。人は、弱いものだと。
学校というのは、本当に面白い。あれはまさに、世の縮図だ。
弱い者同士が群れ、そしてさらに弱い者をいじめる。
弱いからこそ群れをなして多数派となり、自身よりも弱い少数派を見つけ出し、徒党を組んでイジメ抜き、それによって自身が強者だと勘違いする。
その勘違いに縋ろうとすることこそが、人の弱さを色濃く表している。
人とは、本当に弱い者だ」
允行はそう言って、小さく笑っていた。
「本当に、そうでしょうか」
その時、聡太が蚊の鳴くような声で呟いた。
「・・・聡太と言ったか。何が言いたい?」
允行の鋭い視線をものともせず、聡太は強い眼差しで允行を見つめ返した。
「人は、それほど弱くはないと思います。
ぼくも、昔はいじめられていました。
多分、母親が居なかったから。だけど、そんなぼくを、シゲは助けてくれました!」
そう叫んだ聡太に、恒久が言葉を続けた。
「シゲはバカだからな。多数派とか少数派とか関係ねぇんだよ」
「え、おれ褒められてるの?貶されてるの?」
恒久の言葉に不満そうに呟く重清を無視して、恒久は続ける。
「それになぁ、あんたの言う少数派だって、いいもんだぜ?
俺らの中学には1人、いわゆる少数派ってやつがいるんだけどよぉ」
そう言いながら恒久は、2中忍者部1年生でありショウの妹、ユウの顔を思い描いた。
「あいつは、確かに少し、みんなとは違う。だけどなぁ、そんなことなんか気にせずに、あいつは逞しく生きてんだ。
あんなに強いヤツ、そうそういねぇんだよ!」
恒久は允行へと叫んだ。
「それに―――」
恒久を押しのけて、茜が前へと進み出た。
「わたしたちは、そんなあの子を決して見放したりなんかしない!むしろ、女として見習うべきところがあるくらいよ!
いくら長く生きてるからって、あんたの尺度で人を語らないで!」
「いや、むしろお前はもっとユウから女のなんたるかを学べよ」
ボソリとつっこむ恒久を盛大にぶん殴る茜を見つめ、允行が笑みを浮かべた。
「若い。若いな、お前たちは。やはりなにも分かってはいない」
允行はじっと茜を見据えた。
「確かに、人の中にはお前たちのような強い心を持つ者がいることは認めよう。
しかし、それはごく僅かだ。
少数派は、決して多数派には敵わない。
短い生しか過ごしておらぬお前たちには、そのことが分からないだけだ」
「あぁもうっ!!」
允行の言葉を聞いていた重清が、突然叫んだ。
「多数派とか少数派とか、バカじゃないの!?
悪いことを考えるやつが多数派なんだったら、それを少数派にするのが、教育なんじゃないの!?
そのためにノリさんやじいちゃん達は頑張ってるんだろ!?
あんただって教師やってんだから、それくらい分かるだろ!?」
重清のその言葉に、允行は僅かながら沈黙した。
「・・・ふっ」
そして小さく笑った允行は、重清達を見つめた。
「もう良い。ここへお前達を呼んだのは、こんな青臭い討論をするためではない」
允行はそう言って、足元の美影の襟を掴み、持ち上げた。
「さっさと始めようではないか。忍者終焉の儀を」
足元に倒れる美影に、允行は目を落とした。
「お父様が、契約忍者を―――」
「何を言うか。貴様も以前は、そうであったではないか。
よく思い出してみろ。貴様が、貴様ら姉弟が、なぜ雑賀日立の思想を素直に受け入れたのかを。
貴様らの父、雑賀兵衛蔵がいたからではないのか?」
允行の言葉に、美影は沈黙した。
美影には、父の記憶は僅かしか残ってはいない。
いつも優しげに微笑む父の顔を思い出しながらも、美影は必死に記憶の糸を辿っていた。
確かにあの優しかった父が、日立の激しい思想を否定するとこはなかった。
父自身がその思想について語ったことは無かったが、それでも父は、よく美影達姉弟を日立の元へと向かわせていた。
それは、日立の思想を美影達に刷り込むためだったのではないか。
そんな想いが、美影の中に渦巻いていた。
「だからって!!」
その時、重清が叫んだ。
「仮にそうだったとしても、殺す必要なんてなかったじゃないか!」
そう言った重清は、美影へと視線を向けた。
「美影!お前のお父さんがどんな考えだったかなんておれは知らない!
だけど、どんな思想を持っていたからって、殺されていいヤツなんているわけないんだよ!」
「重清・・・」
重清の言葉に、美影は涙を浮かべて頷いた。
「あんたもあんただよ!」
美影に笑いかけた重清は、允行を睨みつけた。
「いくらなんでも、殺さなくてもいいじゃないか!
忍者は他にもたくさんいる!
みんなで止めれば、どんな悪い思想だってきっと―――」
「お前は何も分かっていない」
重清の言葉を、允行は遮った。
「たかだか十数年しか生きておらんお前に何が分かる?
数百年。私は数百年もの間、貴様ら忍者と、人を見てきた」
「・・・数百年・・・」
允行の言葉に、聡太が小さく呟いていた。
「根来トウに代わって学び舎に足を運ぶようになって、さらに強く感じた。人は、弱いものだと。
学校というのは、本当に面白い。あれはまさに、世の縮図だ。
弱い者同士が群れ、そしてさらに弱い者をいじめる。
弱いからこそ群れをなして多数派となり、自身よりも弱い少数派を見つけ出し、徒党を組んでイジメ抜き、それによって自身が強者だと勘違いする。
その勘違いに縋ろうとすることこそが、人の弱さを色濃く表している。
人とは、本当に弱い者だ」
允行はそう言って、小さく笑っていた。
「本当に、そうでしょうか」
その時、聡太が蚊の鳴くような声で呟いた。
「・・・聡太と言ったか。何が言いたい?」
允行の鋭い視線をものともせず、聡太は強い眼差しで允行を見つめ返した。
「人は、それほど弱くはないと思います。
ぼくも、昔はいじめられていました。
多分、母親が居なかったから。だけど、そんなぼくを、シゲは助けてくれました!」
そう叫んだ聡太に、恒久が言葉を続けた。
「シゲはバカだからな。多数派とか少数派とか関係ねぇんだよ」
「え、おれ褒められてるの?貶されてるの?」
恒久の言葉に不満そうに呟く重清を無視して、恒久は続ける。
「それになぁ、あんたの言う少数派だって、いいもんだぜ?
俺らの中学には1人、いわゆる少数派ってやつがいるんだけどよぉ」
そう言いながら恒久は、2中忍者部1年生でありショウの妹、ユウの顔を思い描いた。
「あいつは、確かに少し、みんなとは違う。だけどなぁ、そんなことなんか気にせずに、あいつは逞しく生きてんだ。
あんなに強いヤツ、そうそういねぇんだよ!」
恒久は允行へと叫んだ。
「それに―――」
恒久を押しのけて、茜が前へと進み出た。
「わたしたちは、そんなあの子を決して見放したりなんかしない!むしろ、女として見習うべきところがあるくらいよ!
いくら長く生きてるからって、あんたの尺度で人を語らないで!」
「いや、むしろお前はもっとユウから女のなんたるかを学べよ」
ボソリとつっこむ恒久を盛大にぶん殴る茜を見つめ、允行が笑みを浮かべた。
「若い。若いな、お前たちは。やはりなにも分かってはいない」
允行はじっと茜を見据えた。
「確かに、人の中にはお前たちのような強い心を持つ者がいることは認めよう。
しかし、それはごく僅かだ。
少数派は、決して多数派には敵わない。
短い生しか過ごしておらぬお前たちには、そのことが分からないだけだ」
「あぁもうっ!!」
允行の言葉を聞いていた重清が、突然叫んだ。
「多数派とか少数派とか、バカじゃないの!?
悪いことを考えるやつが多数派なんだったら、それを少数派にするのが、教育なんじゃないの!?
そのためにノリさんやじいちゃん達は頑張ってるんだろ!?
あんただって教師やってんだから、それくらい分かるだろ!?」
重清のその言葉に、允行は僅かながら沈黙した。
「・・・ふっ」
そして小さく笑った允行は、重清達を見つめた。
「もう良い。ここへお前達を呼んだのは、こんな青臭い討論をするためではない」
允行はそう言って、足元の美影の襟を掴み、持ち上げた。
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