おれは忍者の子孫

メバ

文字の大きさ
上 下
489 / 519
雑賀重清の目標

第439話:青龍の逝く先

しおりを挟む
手の先から徐々に消えている青龍に、ブルーメが泣きそうな声を出した。

「パパ!?どうしちゃったの!?なんで消えてるの!?」
「落ち着きなさい、我が子よ」
青龍は優しく微笑んで、ブルーメを見つめていた。

「いつか、お主たちとともに居た男ガクのことが言っていたな。主のいない具現獣が時折現れると。
どうやら我の場合は、少し違ったようだ」
青龍はそう言って、聡太を見つめていた。

「それって、どういう・・・」
「我がこれまで生きていたのは、主より『青龍の術』を預かっていたかららしい。その役目を終えた我は、やっと主の元へ逝くことができるようだ」

「嫌だよ!もっとパパと一緒に居たいよ!せっかく卵から出てこられたのに!!」
「・・・・・・・」
泣き叫ぶブルーメをじっと見つめていた青龍は、無言のまま、笑みをこぼした。

「あれ程主の元へ逝きたいと思っていたはずが・・・まさか、いざその時になってまだ生きたいと思うとはな」
「それが、親子ってもんさ」
悲しげな笑みで呟く青龍に、雅が声をかけた。

「なるほど。子を残す親の気持ちとは、こういうものなのか。こんなことならば、もっと早くにお前に会いに来るべきだったな、ブルーメよ」
「だ、だったら、もう1度術をあなたに戻せば―――」

「無駄だ、聡太よ。お主に術を与えた時点で、我の契約書は消滅した。もう、止めることはできんさ」
「そんな・・・」
「嫌だよっ!パパぁっ!!」

「2人とも、わがままを言うんじゃないよ」
涙を浮かべる聡太とブルーメに、雅が厳しい言葉を投げつけた。

「あんた達がそうやって引き止めれば引き止めるほど、こいつが辛くなる。あんた達は、笑って見送ってやりな」
(ばあちゃん・・・)
拳を強く握って言う雅を、重清は見つめていた。

平八の指示に従ったとはいえ、平八の生を終わらせた雅の言葉は、その事実を唯一知る重清にとっても辛いものであった。

しかしだからこそ、重清には雅の気持ちがよく分かっていた。

「ソウ、ブルーメ。ばあちゃんの言うとおりだよ。
コモドさんは、やっと会いたい人に会えるんだ。ちゃんと見送ってあげなきゃ」

「「・・・・・・・・」」

聡太とブルーメは涙に濡れる目で見つめあい、強く頷いた。

「そうだね、シゲ。ありがとう。青龍さん、今までありがとうございました。
次に会うときは、ぼくとブルーメはもっと強くなります。忍者としてだけじゃなく、心も」
「ボ、ボクも!だからパパ、安心してねっ!」

「・・・・ふっ。すまんな、2人とも」
青龍は小さく微笑んで、聡太とブルーメを見つめた。

「あんたも自信を持って逝くことだね。
この2人は、もっと強くなるよ。根来のやつらよりもよっぽどね。
向こうであんたの主に、たっぷり自慢してやるといいさ」
雅は皮肉な笑みを、青龍へと向けた。

「そうだな。我の子達ならば、きっと素晴らしい成長を遂げるだろうの」
「そういうことさ。この子達のことは、このオウがしっかりと育ててくれるさ」
雅はそう言いながら、オウの背を叩いた。

「み、雅様・・・」
「オウ殿、か。どうか、この子達のことを、よろしく頼む」

「は、はい!お任せください!」
オウは青龍に、深々と頭を下げた。

オウに頷き返した青龍は、ブルーメを見つめた。

「ブルーメよ。我はこのまま、消えるだろう。だがせっかくならばこの体に残る忍力、お主にもらって欲しい」
「パパ・・・うん。パパの力、ボクが全部貰う!」

「聡太。我ら具現獣が、死後何処へゆくかはわからない。だが、もしも主達と同じところへ逝けるならば、また向こうで会おう」
「はい!」

「聡太、1つ頼まれてくれ。あの男に、允行に会ったら伝えて欲しいことがある」
「え、あ、はい」

「――――――――――」
「・・・・はい、必ず」

「うむ。では、さらばだ」
青龍は笑って頷くと、その体を光となり、ブルーメへと注がれた。

その場に居合わせた者達はそのあまりの眩しさに目を押さえた。

そして各々が目を開くと、青龍の居た場にはブルーメだけが残っていた。

一回り大きくなった、ブルーメが。

「パパの力・・・ボク、もっと強くなるよ」
ブルーメの決意のこもった声だけが、その場に響き渡るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...