475 / 519
雑賀重清の目標
第425話:雑賀平八と甲賀ゴウ
しおりを挟む
ゴウの師が平八であるという事実を聞いたその場の面々は、驚きのあまり言葉を失っていた。
「やはり、そうだったのかい」
そんななか雅は、さほど驚いた様子もなく納得したように頷いていた。
それを見たノリは、不思議そうに雅を見つめていた。
「雅様、ご存知だったのですか?」
「いや、知っていたわけではないがね。さっきあんたも言っていたじゃないか。他者との忍者の契約は、協会への報告義務があるって。
しかもそれ自体が契約によって定められている。
それは、ずっと昔から続けられてきたことだ。
これまで捨て忍と呼ばれる者達が特殊な力を持つことは誰も知らなかった。
あの允行が言うように、これまで現れた捨て忍たちはその全てが、契約を破棄せざるを得なかったということさ。
だったら、普通の忍者にはこの男との契約は不可能ということになる。
そんな不可能を可能にできるのは、あの人以外には考えられないさ」
雅はそう言って、小さく笑っていた。
「それは、確かにそうかもしれませんが・・・しかし、何故・・・」
雅の言うことに納得できる部分はあれど、それでも師である平八の行動に、ノリは混乱していた。
確かに雑賀平八であれば、どんなに不可能と思われることもやってのけるだけの力があったのは事実である。
しかしだからといって、協会を無視して何故捨て忍をそのまま契約し続けたのか。
そう頭では考えつつも、ノリにもその理由はなんとなく察しはついていた。
そんなノリの心を読んだかのように、ゴウはノリに目を向けた。
「お前もわかっているのだろう?平八様は、捨て忍という制度に否定的だった。
あの人は、儂がこの力を発現したときに、言っていた。
『私は、いつかこの制度を無くしたいと思っている。だから君は、君自身の力でこの黒い忍力と向き合い、その忍力の可能性を探ってほしい。そしていつか私がこの制度を無くそうとしたときに、言いたいんだ。
彼らも、我々に劣らない力があるのだ、と』
とな。
平八様は儂を信じ、協会に報告することもなく、そして契約も破棄せずに儂を見逃したのだ。
だからこそ儂も平八様を信じ、必死に修行を重ねた。
そしてこの『絶対無敵』の力を手に入れたのだ。
しかし、さすがの平八様でも、捨て忍制度を無くすことはできなかった。
協会長となった平八様に、多くの忍者共が反対したために、な。
儂は絶望したよ。何も知らない忍者共が、ただ昔から続いていたという理由だけで、なおもこの力を認めようとしない事実にな」
ゴウは悲しそうな表情で、悔し気に呟いていた。
「それならば何故、あなたが平八様に協力しなかったのですか!?
あなたの力を見せれば協会だって―――」
「いや、そうはならなかっただろうね」
ノリの言葉を、雅が遮った。
「この男の力はあまりにも強力すぎる。もしも同じような力を持つ者が増えれば、我々忍者の立場が危うくなると、協会の馬鹿共は考えるだろうね」
「馬鹿共て・・・いや、否定はしませんが・・・」
現協会長、六兵衛は、雅の言葉に肩を落として呟いていた。
「そういうことだ。儂は何人かの忍者の前でこの力を使ったが、誰一人としてそのことを言いふらす事はしなかった。
皆、儂の力の存在が明るみになることで、同じような力を発現する者が現れるのを防ぎたかったのだろうな」
ゴウはそう言って、落胆するように首を振った。
(あ、そっか。じいちゃんが『自分のせいかも』って言ってたのは、大将のおっちゃんを見逃したからだったんだ)
ゴウ達の会話を聞いていた重清は、平八との会話を思い出して1人納得していた。
(まったく、平八ったら。私にまでそのことを隠さなくてもいいのに)
重清の心の中での独り言を聞いていたチーノは、悲しげなため息と共にそんなことを呟いた。
(あれ?チーノも知らなかったの?)
(えぇ。平八は、時々私との意識を遮断して、色々とやっていたのよ。ちなみに、始祖の契約書に関しても、私は何も知らされてはいなかったわよ)
(でもよぉチーノ。オイラの記憶が確かなら、あいつらが黒い忍力を使ったとき、お前何か知ってる感じじゃなかったか?)
そんなプレッソの問いかけに、
(それは、あのゴウって子のことを覚えていたからよ。
あの子があの黒い忍力を発現するまでは、私も見ていたから。その直後に、意識を遮断されたけど)
そう、チーノは不服そうに答えた。
(ふむ。そのタイミングで何かを隠すように意識を遮断されれば、チーノであれば平八が何をしたのか、想像がついても不思議ではないと思うのだがのぅ)
そんなチーノにロイは、わざとらしくそう言うと、
(それは・・・)
チーノは気まずそうに言い淀んだ。
(ほっほっほ。余計な詮索じゃったかのぅ)
ロイはそう言って笑うと、そのままプレッソの頭の上で首と手足を甲羅に引っ込めた。
(え、今のって・・・もしかしてチーノ、大将のおっちゃんの師匠がじいちゃんだって気づいてたの!?)
(そうだとしたら、どうする?)
重清が驚いて尋ねると、チーノは妖艶な猫の笑みを浮かべて重清を見つめた。
(・・・・いや、別にどうもしないけどさ。
もしそうだったとしても、それで事態が変わるわけでもないし。
チーノとじいちゃんの思い出に、踏み込むつもりもないからね)
重清がそう答えて笑うのを見たチーノは、
「重清、ありがとう」
そう、小さく呟くのであった。
「やはり、そうだったのかい」
そんななか雅は、さほど驚いた様子もなく納得したように頷いていた。
それを見たノリは、不思議そうに雅を見つめていた。
「雅様、ご存知だったのですか?」
「いや、知っていたわけではないがね。さっきあんたも言っていたじゃないか。他者との忍者の契約は、協会への報告義務があるって。
しかもそれ自体が契約によって定められている。
それは、ずっと昔から続けられてきたことだ。
これまで捨て忍と呼ばれる者達が特殊な力を持つことは誰も知らなかった。
あの允行が言うように、これまで現れた捨て忍たちはその全てが、契約を破棄せざるを得なかったということさ。
だったら、普通の忍者にはこの男との契約は不可能ということになる。
そんな不可能を可能にできるのは、あの人以外には考えられないさ」
雅はそう言って、小さく笑っていた。
「それは、確かにそうかもしれませんが・・・しかし、何故・・・」
雅の言うことに納得できる部分はあれど、それでも師である平八の行動に、ノリは混乱していた。
確かに雑賀平八であれば、どんなに不可能と思われることもやってのけるだけの力があったのは事実である。
しかしだからといって、協会を無視して何故捨て忍をそのまま契約し続けたのか。
そう頭では考えつつも、ノリにもその理由はなんとなく察しはついていた。
そんなノリの心を読んだかのように、ゴウはノリに目を向けた。
「お前もわかっているのだろう?平八様は、捨て忍という制度に否定的だった。
あの人は、儂がこの力を発現したときに、言っていた。
『私は、いつかこの制度を無くしたいと思っている。だから君は、君自身の力でこの黒い忍力と向き合い、その忍力の可能性を探ってほしい。そしていつか私がこの制度を無くそうとしたときに、言いたいんだ。
彼らも、我々に劣らない力があるのだ、と』
とな。
平八様は儂を信じ、協会に報告することもなく、そして契約も破棄せずに儂を見逃したのだ。
だからこそ儂も平八様を信じ、必死に修行を重ねた。
そしてこの『絶対無敵』の力を手に入れたのだ。
しかし、さすがの平八様でも、捨て忍制度を無くすことはできなかった。
協会長となった平八様に、多くの忍者共が反対したために、な。
儂は絶望したよ。何も知らない忍者共が、ただ昔から続いていたという理由だけで、なおもこの力を認めようとしない事実にな」
ゴウは悲しそうな表情で、悔し気に呟いていた。
「それならば何故、あなたが平八様に協力しなかったのですか!?
あなたの力を見せれば協会だって―――」
「いや、そうはならなかっただろうね」
ノリの言葉を、雅が遮った。
「この男の力はあまりにも強力すぎる。もしも同じような力を持つ者が増えれば、我々忍者の立場が危うくなると、協会の馬鹿共は考えるだろうね」
「馬鹿共て・・・いや、否定はしませんが・・・」
現協会長、六兵衛は、雅の言葉に肩を落として呟いていた。
「そういうことだ。儂は何人かの忍者の前でこの力を使ったが、誰一人としてそのことを言いふらす事はしなかった。
皆、儂の力の存在が明るみになることで、同じような力を発現する者が現れるのを防ぎたかったのだろうな」
ゴウはそう言って、落胆するように首を振った。
(あ、そっか。じいちゃんが『自分のせいかも』って言ってたのは、大将のおっちゃんを見逃したからだったんだ)
ゴウ達の会話を聞いていた重清は、平八との会話を思い出して1人納得していた。
(まったく、平八ったら。私にまでそのことを隠さなくてもいいのに)
重清の心の中での独り言を聞いていたチーノは、悲しげなため息と共にそんなことを呟いた。
(あれ?チーノも知らなかったの?)
(えぇ。平八は、時々私との意識を遮断して、色々とやっていたのよ。ちなみに、始祖の契約書に関しても、私は何も知らされてはいなかったわよ)
(でもよぉチーノ。オイラの記憶が確かなら、あいつらが黒い忍力を使ったとき、お前何か知ってる感じじゃなかったか?)
そんなプレッソの問いかけに、
(それは、あのゴウって子のことを覚えていたからよ。
あの子があの黒い忍力を発現するまでは、私も見ていたから。その直後に、意識を遮断されたけど)
そう、チーノは不服そうに答えた。
(ふむ。そのタイミングで何かを隠すように意識を遮断されれば、チーノであれば平八が何をしたのか、想像がついても不思議ではないと思うのだがのぅ)
そんなチーノにロイは、わざとらしくそう言うと、
(それは・・・)
チーノは気まずそうに言い淀んだ。
(ほっほっほ。余計な詮索じゃったかのぅ)
ロイはそう言って笑うと、そのままプレッソの頭の上で首と手足を甲羅に引っ込めた。
(え、今のって・・・もしかしてチーノ、大将のおっちゃんの師匠がじいちゃんだって気づいてたの!?)
(そうだとしたら、どうする?)
重清が驚いて尋ねると、チーノは妖艶な猫の笑みを浮かべて重清を見つめた。
(・・・・いや、別にどうもしないけどさ。
もしそうだったとしても、それで事態が変わるわけでもないし。
チーノとじいちゃんの思い出に、踏み込むつもりもないからね)
重清がそう答えて笑うのを見たチーノは、
「重清、ありがとう」
そう、小さく呟くのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】「一人で何でもできる女って嫌い」と婚約破棄されましたが、部下に慕われていました。仲間と一緒に今日も妖から都を守ります。
蜜柑
ファンタジー
*第17回ファンタジー小説大賞参加中です。応援いただけると嬉しいです。
人を喰らう異形の存在――妖がはびこる和国。妖から人々を守るのが、代々妖と戦うための特殊能力【家紋】を持つ者で構成される「対妖防衛隊」
「俺、何でもひとりでできる女って嫌いなんだよね」
首都東都を守る東都本部・精鋭部隊である第参部隊長を務める「藤宮 綾子」は、ある日婚約者で同じく防衛隊員の「神宮司 修介」から、婚約破棄を告げられる。
「俺さ、今、すごくかわいい子と付き合っているんだ。お前と違って、俺がいないとだめな子なんだよ」
彼は別の女性と婚約するために、綾子との婚約は破棄する、というのだ。
「……お一人での参加でも結構ですけど」
婚約披露宴に招待された綾子は、ひとりで参加するか悩んでいた。
そこに声をかけたのは、部下の「鈴原 彰吾」だった。
「俺じゃダメですか?……お試しでいいですから!」
一方、東都では若い女性が妖により白髪の鬼にされる事件が相次いでいた。
その陰に見え隠れするのは、かつて綾子を鬼にしようとし、父母を失った原因の妖――九十九(つくも)。
九十九と綾子の因縁はまた廻る。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
色々あって掃除婦になりました。
みるみる
エッセイ・ノンフィクション
春、子供の中学入学、通信教育費、車の保険で一気に50万円もの出費がありました。かろうじて3桁あった貯金は一気に半分に減り、さらには夫が年明けに新車でファミリーワゴンを新車で買うと宣言。
「頭金50万円で、月々のローンが二万円の車なら買っても大丈夫だと思う。」
そう言った私に夫はすかさず突っ込みを入れました。
「いやいや、それじゃ中古車すら買えねーから!っていうか、他所の家は家を建てたり新車も買いまくってるのに、なんでうちはできねーの?他所の奥さんは皆んな看護師や大企業でフルタイムで働いてるのになー。」
「‥‥。」
ぐうの音も出ずに黙る私。
自分の実家の家族の為に仕事を辞めて一年‥。自分の給料を貯めておいた通帳は、前の車が壊れて乗れなくなった為新車を買ったり、娘の歯の矯正の為に使ってしまい、いまや数百円の残金しかない状態。
「また働きたい‥。」
そう思ってはいるけど、私の自由になれる時間は週に二、三日。しかも午前中だけ。
時々夫の休みの日を利用して短期のバイトをしながらも、パート探しを続けていると、週3日で午前中だけの掃除婦のパートを発見。すぐさま応募し働き始めました。
そんな私に対して夫は一言。
「とうとうお前も落ちぶれるところまで落ちぶれたな。っていうか、なんで普通に事務員とかにならないで、そんなニッチな所を攻めるかな。頭おかしいんじゃない?」
子供達も‥
「お母さん、仕事から帰ってきたらすぐにシャワー浴びてね。」
夫の実家は‥
「‥また何でそんな所に‥。もっと良いところがあるでしょうに。っていうか、息子の給与だけで生活できないなんておかしい。絶対にやりくりのどこかで無駄があるはずよ。」
‥っていうか、そもそも掃除婦ってそんなに世間から差別されるものなの?
私は皆んなが嫌がるトイレ掃除をする事は立派な仕事だと誇りを持って言えますが!
だから家族には馬鹿にされても、自分の親に親孝行をしたいし、限られた条件の中でやっと見つけたこの仕事を辞めるつもりはありません。
それに見栄っ張りで贅沢?だけど、新築の家を建てる事を諦めて私の実家に間借りして暮らす選択をしてくれた夫の為に、大きい新車を買う頭金を少しでも多く貯めておきたい。
そんな私‥一主婦が節約をしながらお金を貯めたり、夫婦喧嘩や親子喧嘩をしたりする日々を気ままにブログ風の日記にしてみました。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
塩対応のアイドルにジョブチェンジします!
有沢真尋
恋愛
駆け出し新人アイドルである双子の妹彩菜(あやな)が、どうしても外せない舞台を前に高熱を出してダウン。
妹激推しの双子の兄玲央名(れおな)は、やむを得ず妹の代わりとしてステージに立つ。
それはとある高校の学校祭。
見事にアイドル一位の座に輝いてしまったために、学校祭の終わりまで一日アイドルとして校内に留まることになる。
世話役は美人生徒会長。
正体を知られるわけにはいかないと、玲央名はひたすら塩対応を続けるが……?
表紙はかんたん表紙メーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる