おれは忍者の子孫

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雑賀重清の目標

第410話:現岡 愛具凛

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「あら。あなた、あの時から全然成長していないじゃないの」
黒い忍力を纏うグリの蹴りを華麗に避けながら、智乃の姿となったチーノは妖艶な笑みを浮かべた。

ちなみに今の智乃は、エロさを抑えていない本気モードである。

「ちっ。相変わらずムカつく猫めっ!だったら、ワタシの本気、見せてやるよっ!!」
グリは智乃へと叫ぶと、身に纏う黒い忍力を高めていった。

立ち昇るその力はグリの背後へと集まり、やがて文字を作り上げていった。

獣具現じゅうぐげん

「獣具現?なるほど、以前襲ってきた獣達は、貴方の仕業だったというわけね」
智乃はグリの力に驚くこともなく、その文字を見つめていた。

「そのとおりだよ!だけどね、あれはワタシの力のほんの一部なんだよっ!」
グリがそう言うと、文字を作り上げていた力がグリの体へと集まり、覆っていった。

すると、グリの体が変化を始めた。

背中からは大きな翼が生え、太くたくましいゴリラのような腕、そしてその先からは鋭い爪が姿を現し、脚はヒョウのように俊敏そうなものへと変わっていった。

「これがワタシの力!獣具現をこの身に宿す、『獣化具現』!」
翼で宙へと飛び上がったグリは、そう叫ぶと智乃へと向かって降下を始めた。

「っ!」
智乃は降下するグリを避けるべくその場から飛び退くも、地面スレスレでその翼をはためかせてグリは、智乃を追うように急カーブした。

「くっ!」
そのままの勢いで繰り出されるたくましい腕を振るったグリの拳が智乃へと直撃し、智乃はそのまま近くの木へと叩きつけられた。

「へぇ、やるじゃないの。私が攻撃を受けるとは思わなかったわ。それにしてもその姿・・・」
服についた汚れを軽くはたき落としながら、智乃はそう言ってグリの姿を見つめ、

「以前襲ってきた、伊賀グラの『獣装じゅうそうの術』を使った姿にそっくりね」
そう言ってグリへと笑みを向けた。

その途端、グリの表情は険しいものへと変わり、獣の脚でそのまま智乃へと向かって跳んだ。

「兄さんと一緒にしないで!」
そう叫びながら繰り出される拳を避けながら、智乃はなおもグリへと話しかける。

「やっぱり、貴方はあのグラの妹なのね。お兄さん、あなたのこと探していたわよ?」
「うるさいうるさいうるさいっ!!」
智乃の言葉に逆上しながら、グリは次々と智乃に攻撃を繰り出し、智乃はそれをただ片手で受け続けていた。


現岡うつおか神楽かぐら、忍名伊賀グラと、甲賀グリ、本名現岡愛具凛あぐりは、智乃の言うとおり兄妹である。

元は仲の良いこの兄妹の間に溝ができたのは、グリが忍者として契約をした時であった。

元々優秀であった兄に対する引け目を感じていた愛具凛は、それでもいつも優しい兄を心から慕っていた。

しかし、彼女が忍者としての契約を結び、黒い忍力を出した際に発せられた、兄と同じ師である教師の言葉に、愛具凛は打ちひしがれた。

『兄は優秀なのに、まさか妹は出来損ないとは』

教師としてあるまじきこの言葉は、多感な中学生1人の心を簡単に打ち砕いた。

その後、捨て忍として契約を破棄された彼女は、その時の記憶を失いこそしたものの、何故かその心には兄への劣等感だけ色濃くが残った。

時を同じくして、彼女と同じく社会科研究部忍者部へ入部した親友からの突然の憐れむような視線も、彼女の心に影を落とした。

更には、これまで妹に対して優しかった兄の神楽も、社会科研究部忍者部へ妹を誘ったの負い目から、どこか態度が余所余所しくなってしまっていた。

そんな彼女の前に現れたのが、ゴウであった。

彼女は、ゴウに誘われるままに彼と契約し、再び忍者となった。

そして、全てを思い出した。

教師の心無い言葉、親友の悲しげな視線、そして、兄の悔やむような表情。

彼女は絶望した。簡単に優劣を決めつける教師に、助けようともせずただ悲しそうな顔だけを投げかける親友に、そして、己の行いを簡単に悔やむ兄に。

彼女の怒りや悲しみは、自身をそんな想いにいざなった忍者という存在へと向けられた。

その時から彼女は、捨て忍などという言葉を作り上げた忍者の全てを憎むようになった。

捨て忍と呼ばれる自分達だけがその力を残し、それ以外の忍者の全てを消すべく、彼女は力を磨いたのであった。

そして現在。

彼女は磨きに磨き上げた力を、目の前の幼女へとぶつけていた。

幼い見た目にも関わらず妖艶で、どこか母のような優しさすらも内包するその幼女は、圧倒的なほどの体格差にも関わらず、愛具凛の繰り出す攻撃の全てを受け止めていた。

まるで彼女の憎しみの全てを受け入れるかのように。

そして次の瞬間、幼女の姿が愛具凛の視界から消え、

「貴方の憎しみは、雑賀平八と重清の相棒である私が受け止めるわ。貴方はもう、憎しみなんかではなく愛のために生きなさい」
そんな悲しげな声とともに、愛具凛の意識は闇へと落ちていくのでった。

首に受けた優しい衝撃に意識を刈り取られた愛具凛の目からは、一筋の涙が流れていた。
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