433 / 519
新学期と
第384話:呑気な雑賀家
しおりを挟む
「おばあちゃん。私達から次の当主を選ぶのはまぁ、分かったけど・・・」
麻耶が戸惑いながらも雅へと目を向けた。
「そうそう。別に選ばなくったって、こういう時って普通、浩兄ちゃんなんじゃないの?」
重清が、麻耶の言葉に続けた。
「・・・・・・」
重清から名前を挙げられた浩は、押し黙ったまま雅を見つめていた。
「まぁ、順当に考えたら、ウチの長男である平太の長兄の浩ってのがスジなんだろうが・・・
そんな普通、面白くないじゃないか」
雅はそう言って、邪悪な笑みを浮かべた。
「面白くないって。ばあちゃん、だったらどうやって決めるつもりなんだ?」
浩の隣から太が尋ねると、
「そりゃもちろん、強さでさ」
雅の邪悪な笑みが、その邪悪さをさらに増した。
「今からあんた達には、3対3の手合わせをしてもらう。もちろん、兄弟で組んでね。
そして勝った方の兄弟の中から、3人で話し合って当主を差出し・・・じゃなくて、推薦してもらうよ」
「・・・・・・」
雅の言葉に浩は無言を貫き、重清の兄である公弘と裕二が目を合わせて肩をすくめるなか、麻耶が声を上げた。
「待っておばあちゃん。それだと、私達が不利よ。重清には、おじいちゃんの具現獣だったチーノがいるのよ?それに、雑賀本家の具現獣だったロイまでぶん取ってるわ」
「いや、ぶん取ってるって失礼じゃね?」
「まぁ、ウチからしたらぶん取られた感じになるけれど、いずれ重清は私の夫になるんだから、問題はないわよね」
「いや、今のには別の意味で問題があるけどね」
余計な口出しをする美影に、重清は冷静につっこんだ。
「そうよね・・・ごめんなさい重清。プロポーズは、あなたの方からやりたいわよね」
「美影は相変わらずだね」
「相変わらず可愛いだなんて・・・」
「拍車がかかってた!裕二兄ちゃん!美影、拍車がかかってた!」
「いや俺にふるなよ」
相変わらずの美影の都合の良い耳に頭を抱える重清に、裕二は呆れながらもつっこんだ。
「はぁ。重清が話しだすとすぐに脱線するね」
「いや、今のおれのせいじゃなくない?」
ため息をついた雅は、重清の抗議の声を無視して言葉を続ける。
「チーノ、ロイ。あんた達は、あたしと一緒に見学だよ。重清にアドバイスする事も禁じるからね」
「えぇ~。アドバイスもダメなの?」
重清は不満そうに口を尖らせた。
「もちろんだよ。特にチーノ。感知した情報を重清に教えるんじゃないよ」
「えぇ。心得たわ。平八だって、重清の純粋な力だけで戦って欲しいでしょうからね」
「ふむ。仕方ないのぉ。重清、プレッソ、頑張るのじゃぞ」
チーノが頷き、ロイはそんなチーノの頭へとプレッソの頭からは飛び移って2人に声をかけた。
「だってよ、プレッソ」
「なんで他人事なんだよ」
呑気にプレッソへと笑う重清に、プレッソは重清の頭の上に飛び乗ってつっこんだ。
「でも、兄ちゃん達と一緒に戦うのって始めてだね。そういえば、兄ちゃん達の武具って何なの?」
「ん?あぁ、俺のは―――」
公弘がそう答えようとしていると、雅が口を挟んできた。
「あとの話は、向こうに行ってからだよ」
雅がそう言いながら壁に手をかざすと、そこに扉が現れた。
「じゃぁみんな、向こうに―――」
「あっ!お袋、少し待ってくれ!」
雅の言葉を止めて、重清の父雅史が突然立ち上がり、そのまま台所の方へと走っていった。
「まさかあの人・・・」
雅史の妻綾が不安そうにその背を見つめながら呟いた。
そして1分後、雅史は焼酎の瓶とお湯の入ったポットを持って現れた。
「あなたねぇ。これから息子達が命を賭けて戦うっていうときに・・・」
綾は呆れた声で夫を見つめていた。
「いや、命は賭けないからな?」
裕二が母へとつっこんでいると、麻耶達の母、浩子が割って入った。
「あら、いいじゃない。息子達の成長を見ながら飲むのも。なんだか、運動会みたいだわ」
「ね、義理姉さんまで」
「いいじゃないですか、綾義理姉さん。ウチの娘達は忍者にしなかったから、その分甥と姪の成長を楽しみたいわ」
桔平の妻、彩花はそう言うと雅へと目を向けた。
「ね、お義理母様、いいでしょう?どうせだったら、少し食べるものもほしいわね。私、ちょっと作ってきますね!」
彩花はそう言うと、台所の方へと走り出した。
「ほら、行くわよ綾ちゃん」
「はいはい、わかりましたよ」
浩子がそう言うと、綾もため息混じりにそう言って2人で彩花を追っていった。
「まったく。当主を決める大事な手合わせだというのに。
まぁ、皆の成長を楽しみにする気持ちもわかるけどねぇ」
苦笑いを浮かべた雅は、孫達へと目を向ける。
「ってことで、始めるのが少し遅れそうだから」
そう言うと雅は、自身の作り上げた扉へと再び手をかざした。
「部屋を2つ、作っておいた。向こうに行って、作戦でも練ってな。
時間はこっちに合わせてるから、あんまり時間は無いと思っておくんだよ」
そう言うと雅は、義理の娘たちの元へと歩き始めた。
「えぇっと・・・」
なんとも緊張感の無い母たちに重清が呆然としていると。
「・・・・先に行かせてもらうぞ」
浩がそう言って扉の先へと進んでいき、太と麻耶も慌てるようにそれについて扉へと入って行った。
「なんか浩兄ちゃん、怒ってない?」
浩の様子に重清が首を傾げると、
「浩さんには思うところがあるんだろうさ」
「公弘兄ちゃん、それってどういうこと?」
「ま、そのへんの話も含めて、あとはあっちで話そうか」
公弘はそう言って、雅の作り上げた扉の方を指した。
こうして重清達兄弟もまた、扉の先へと足を進めた。
その場には、既に酒盛りを始めた父達3人の騒ぐ声だけが残されたのであった。
麻耶が戸惑いながらも雅へと目を向けた。
「そうそう。別に選ばなくったって、こういう時って普通、浩兄ちゃんなんじゃないの?」
重清が、麻耶の言葉に続けた。
「・・・・・・」
重清から名前を挙げられた浩は、押し黙ったまま雅を見つめていた。
「まぁ、順当に考えたら、ウチの長男である平太の長兄の浩ってのがスジなんだろうが・・・
そんな普通、面白くないじゃないか」
雅はそう言って、邪悪な笑みを浮かべた。
「面白くないって。ばあちゃん、だったらどうやって決めるつもりなんだ?」
浩の隣から太が尋ねると、
「そりゃもちろん、強さでさ」
雅の邪悪な笑みが、その邪悪さをさらに増した。
「今からあんた達には、3対3の手合わせをしてもらう。もちろん、兄弟で組んでね。
そして勝った方の兄弟の中から、3人で話し合って当主を差出し・・・じゃなくて、推薦してもらうよ」
「・・・・・・」
雅の言葉に浩は無言を貫き、重清の兄である公弘と裕二が目を合わせて肩をすくめるなか、麻耶が声を上げた。
「待っておばあちゃん。それだと、私達が不利よ。重清には、おじいちゃんの具現獣だったチーノがいるのよ?それに、雑賀本家の具現獣だったロイまでぶん取ってるわ」
「いや、ぶん取ってるって失礼じゃね?」
「まぁ、ウチからしたらぶん取られた感じになるけれど、いずれ重清は私の夫になるんだから、問題はないわよね」
「いや、今のには別の意味で問題があるけどね」
余計な口出しをする美影に、重清は冷静につっこんだ。
「そうよね・・・ごめんなさい重清。プロポーズは、あなたの方からやりたいわよね」
「美影は相変わらずだね」
「相変わらず可愛いだなんて・・・」
「拍車がかかってた!裕二兄ちゃん!美影、拍車がかかってた!」
「いや俺にふるなよ」
相変わらずの美影の都合の良い耳に頭を抱える重清に、裕二は呆れながらもつっこんだ。
「はぁ。重清が話しだすとすぐに脱線するね」
「いや、今のおれのせいじゃなくない?」
ため息をついた雅は、重清の抗議の声を無視して言葉を続ける。
「チーノ、ロイ。あんた達は、あたしと一緒に見学だよ。重清にアドバイスする事も禁じるからね」
「えぇ~。アドバイスもダメなの?」
重清は不満そうに口を尖らせた。
「もちろんだよ。特にチーノ。感知した情報を重清に教えるんじゃないよ」
「えぇ。心得たわ。平八だって、重清の純粋な力だけで戦って欲しいでしょうからね」
「ふむ。仕方ないのぉ。重清、プレッソ、頑張るのじゃぞ」
チーノが頷き、ロイはそんなチーノの頭へとプレッソの頭からは飛び移って2人に声をかけた。
「だってよ、プレッソ」
「なんで他人事なんだよ」
呑気にプレッソへと笑う重清に、プレッソは重清の頭の上に飛び乗ってつっこんだ。
「でも、兄ちゃん達と一緒に戦うのって始めてだね。そういえば、兄ちゃん達の武具って何なの?」
「ん?あぁ、俺のは―――」
公弘がそう答えようとしていると、雅が口を挟んできた。
「あとの話は、向こうに行ってからだよ」
雅がそう言いながら壁に手をかざすと、そこに扉が現れた。
「じゃぁみんな、向こうに―――」
「あっ!お袋、少し待ってくれ!」
雅の言葉を止めて、重清の父雅史が突然立ち上がり、そのまま台所の方へと走っていった。
「まさかあの人・・・」
雅史の妻綾が不安そうにその背を見つめながら呟いた。
そして1分後、雅史は焼酎の瓶とお湯の入ったポットを持って現れた。
「あなたねぇ。これから息子達が命を賭けて戦うっていうときに・・・」
綾は呆れた声で夫を見つめていた。
「いや、命は賭けないからな?」
裕二が母へとつっこんでいると、麻耶達の母、浩子が割って入った。
「あら、いいじゃない。息子達の成長を見ながら飲むのも。なんだか、運動会みたいだわ」
「ね、義理姉さんまで」
「いいじゃないですか、綾義理姉さん。ウチの娘達は忍者にしなかったから、その分甥と姪の成長を楽しみたいわ」
桔平の妻、彩花はそう言うと雅へと目を向けた。
「ね、お義理母様、いいでしょう?どうせだったら、少し食べるものもほしいわね。私、ちょっと作ってきますね!」
彩花はそう言うと、台所の方へと走り出した。
「ほら、行くわよ綾ちゃん」
「はいはい、わかりましたよ」
浩子がそう言うと、綾もため息混じりにそう言って2人で彩花を追っていった。
「まったく。当主を決める大事な手合わせだというのに。
まぁ、皆の成長を楽しみにする気持ちもわかるけどねぇ」
苦笑いを浮かべた雅は、孫達へと目を向ける。
「ってことで、始めるのが少し遅れそうだから」
そう言うと雅は、自身の作り上げた扉へと再び手をかざした。
「部屋を2つ、作っておいた。向こうに行って、作戦でも練ってな。
時間はこっちに合わせてるから、あんまり時間は無いと思っておくんだよ」
そう言うと雅は、義理の娘たちの元へと歩き始めた。
「えぇっと・・・」
なんとも緊張感の無い母たちに重清が呆然としていると。
「・・・・先に行かせてもらうぞ」
浩がそう言って扉の先へと進んでいき、太と麻耶も慌てるようにそれについて扉へと入って行った。
「なんか浩兄ちゃん、怒ってない?」
浩の様子に重清が首を傾げると、
「浩さんには思うところがあるんだろうさ」
「公弘兄ちゃん、それってどういうこと?」
「ま、そのへんの話も含めて、あとはあっちで話そうか」
公弘はそう言って、雅の作り上げた扉の方を指した。
こうして重清達兄弟もまた、扉の先へと足を進めた。
その場には、既に酒盛りを始めた父達3人の騒ぐ声だけが残されたのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
ランキングで全てが決まる世界でチート変身能力でランク鑑定士をやりながら俳優ランキング1位目指してます!
あっちゅまん
ファンタジー
この世の全ての価値観は、ランキング鑑定の評点に左右され、人々はそれに熱狂する世界……。人々はランキング結果に一喜一憂し、熱狂した。一夜にしてホームレスがランキング上位になり、人々の注目を浴び投資が殺到する、そんな現象はランキングドリームなんていう呼ばれ方もした。
そして人々はその驚くべき調査鑑定評価を絶対的なものと信じるようになっていった……。
企業や旧国家、今はエリアというが、個人、権力者たちもランキングを恐れ、またその結果に左右されていくのだった。
彼らランキング鑑定組織のことを人々は、アカシックレコーズ(全てのデータを持つもの)と呼んだ。
そして、主人公・ミギト・イズウミ(未擬斗・伊豆海)はそんな世界で謎の鑑定組織・アカシックレコーズに入って、鑑定しながら俳優ランキング1位を目指していく、そんな物語です!
※私の作品の全ての登場人物・団体・セリフ・歌などフィクションのものではありますが、今まで生きてきた人生の中で触れた作品について、オマージュやパロディ、インスパイアされたものについては、全て私からのオリジナルに対する深いリスペクトがある事をここに誓います。
わかる方にはニヤリとしていただいて、温かい目で見て頂けると幸いです。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
もふもふ精霊騎士団のトリマーになりました
深凪雪花
ファンタジー
トリマーとして働く貧乏伯爵令嬢レジーナは、ある日仕事をクビになる。意気消沈して帰宅すると、しかし精霊騎士である兄のクリフから精霊騎士団の専属トリマーにならないかという誘いの手紙が届いていて、引き受けることに。
レジーナが配属されたのは、八つある隊のうちの八虹隊という五人が所属する隊。しかし、八虹隊というのは実はまだ精霊と契約を結べずにいる、いわゆる落ちこぼれ精霊騎士が集められた隊で……?
個性豊かな仲間に囲まれながら送る日常のお話。
そうせいの先導者の『そうせい』は槍聖じゃなくて創生だった ~幼馴染や国に裏切られて追放された役立たず勇者が姫巫女と開拓地で本気出す~の残骸
雨露霜雪
ファンタジー
勇者パーティから追放、国からも罪人にされた雑魚戦闘力の勇者が、お払い箱になった神託の姫巫女である第二王女と共に国外追放され、しかも強制力により離れられなくされてしまう。
だが勇者特有の大容量ストレージには、勇者パーティ用の野営道具など様々な物が収納されたままであり、野営が可能な場所さえあれば衣食住に困る事もない。
そんなこんなで仲間を増やして育成し、姫巫女が何故か殴り巫女として開花するが、開拓で街を作るスローライフ的な生活が始ま……る?
一方で、勇者の知らぬところで女神が暗躍(?)していたようで、姫巫女と噛み合わないすれ違い風なエセ恋愛もありつつも、やがては邪魔な魔王をやっつける……かもしれない正統派(?)な物語。
便利なインスタントざまぁ風の導入を使用。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に投稿しています。
※また、『カクヨム』にて先行投稿しております。
現代やおよろず(現実世界でも異世界みたいに戦うそうです何それ聞いてない!)
七瀬夏樹
ライト文芸
現代日本
表では現実主義な日常が繰り返されていた。
だがそれは見える範囲での日常。
すこし視線がズレるだけで世界というものは生活というものは180度変わってしまうのだ。
神様
妖
魔法
こんなの現実に…いるんですよね!視えるから!
そんな巻き込まれから始まる物語
表の平和に見えた世界を裏側から守っている人たちの笑いあり涙ありの奮闘劇である。
【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる