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外伝〜始祖の物語〜
第8話:結
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允行は、忽然と姿を消した。
他の弟子達は皆、そのことに狼狽えていた。
そんななか、最も允行を信頼する男だけは、普段と変わらない様子で弟子達に言った。
「允行にも考えがあるのだろう。あいつは、皆とは違う力を持っている。あいつなりに、こうすることが一番良いと判断したんだろう」
「しかし師匠!彼は、一番弟子なのですよ!我々はともかく、師匠にも一言も言わずに出ていくなど・・・」
最も優しい娘、丞篭が声を荒らげた。
「丞篭がそう言うとは珍しいな」
丞篭の言葉に、男はそう返した。
珍しいと言いながらも、男には丞篭の気持ちがよく分かっていた。
それは弟子達も同様であった。
炎空「丞篭、いくら允行が好きだったからって、そこまで言うことないじゃないか」
索冥「炎空、あんたもう少し言い方があるでしょ!?好きな男が居なくなった丞篭の気持ちも考えなさい!」
麟「確かに、分かりやすかったからな」
角端「丞篭が1番、辛いよね・・・」
丞篭「・・・なんで分かったの?」
「「「「いや分かりやすすぎだから」」」」
「はっはっは。皆、丞篭を虐めるな。しかし、やっと皆、落ち着いたようだな」
男は笑いながら丞篭の肩に手を起いた。
「允行も6年後にはここに来るかもしれん。その時あいつに笑われぬよう、お前達はお前達でやれることをやるだけだ」
師の言葉に、弟子達は一様に頷いた。
それを確認した男は、弟子達に笑みを向けて自室へと戻った。
これまで後回しにしていた仕事に手を付けるために。
それは、忍力に色を付けるという仕事であった。
これまでもそれに取り掛かろうとはしていたが、忙しさにかまけて後回しにしていたその仕事を。
ならば何故、今になって取り掛かることになったのか。
それは全て、弟子の允行のためであった。
男の元を突然去った允行は唯一、黒い力を持っていた。
その允行が少しでも目立たぬよう、忍力に色を付けようと考えたのだ。
男なりの、親心であった。
男は直ぐに、作業に取り掛かった。
そして数日後。
男が契約書に忍力の色について記してしばらくすると、丞篭が男の元へとやって来た。
「師匠!何故木の力が緑なのですか!?五行で木は本来、木の力は青ではないですか!?
そう思っていたからこそ、この子には『青龍』と名付けたのに・・・」
「そう言うな。青き力の龍で『青龍』、良い名ではないか。
まぁ、見事に緑色ではあるが」
「そうですよ!これじゃ、『青龍』でなく『緑龍』です!」
「そう責めないでくれ。今、お前たちの忍力と具現獣を元に、新しい術を作っておる。それを使えば、見事に『青龍』になる、はずだ。それに木は、やはり緑の方が分かりやすいではないか。青はどちらかと言うと水の方が近い」
「そこは自信持って言ってくださいよ!それに水の力は、黒のはずです!」
「お前は硬いなぁ。分かりやすい方が、後の者の為にも良いではないか。それに、黒い力は既に、あやつが使っているしな」
「しかし、あの者の力は既にここにはおりません!」
「丞篭は允行に厳しいな。あいつにはあいつの考えがあると言っているだろう」
「それは、そうかもしれませんが・・・」
「今は、あいつを信じてやろう」
「・・・・わかりました」
丞篭が渋々ながら頷くと、男は笑って言った。
「お前も、今すぐに允行を探しに行ってもいいのだぞ?」
「い、行きませんっ!私は皆と、ちゃんと修行します!」
丞篭の言葉に、男はただ声を出して笑うのであった。
そしてこれより1年後、弟子達が師の元を離れ、旅立つ日になった。
男は弟子達が旅に出る直前に、それぞれに術を送った。
「もしも私に何かあった時には、6人全員にそれぞれ渡した術を、同じ場で使うのだ。そうすれば、いつでも私の作った、忍者の基礎を書き上げた契約書が現れるだろう」
そう言った男は、笑顔で旅立つ弟子達を見送った。
そして、1人になった男は、その場で静かに息を引き取った。
旅立つ我が子の成長に、満足しながら。
5年後、弟子達が師の元に集まった時には、そこには誰が建てたのか、師の墓が、ひっそりと建っていた。
弟子達は、それに涙した。
しかしその場には、4人しかいなかった。
炎空、索冥、麟、角端の4人であった。
旅の話をした際に、師の様子がおかしいと感じていた角端は、特に涙した。
允行ばかりか、丞篭も来ていないことに4人は困惑しながらも、師の言いつけに従い、師の、そして彼らの夢である組織について話し合った。
そして、忍者協会の前身となる組織が作られた。
しかしその長の座は、空席とされた。
いつか允行が戻ってきたときの為に。
弟子達4人は、長を支える立場として5席を設け、彼ら自身がその席につくことにした。
もちろんもう1席は、丞篭のための席である。
しかしその後、空席となった2席が埋まることはなく、代替わりしていく頃には、話し合いにより埋められていくこととなった。
弟子達のうち4人はそれぞれ多くの弟子を取り、元々草として活動していた者達を隠れ蓑とするため、炎空は甲賀、索冥は雑賀、麟は伊賀、角端は風魔と名乗り、それぞれの家系を陰ながら発展させていったという。
しかしその4人でさえも、允行と丞篭の行方を、探し出すことはできなかったそうな。
他の弟子達は皆、そのことに狼狽えていた。
そんななか、最も允行を信頼する男だけは、普段と変わらない様子で弟子達に言った。
「允行にも考えがあるのだろう。あいつは、皆とは違う力を持っている。あいつなりに、こうすることが一番良いと判断したんだろう」
「しかし師匠!彼は、一番弟子なのですよ!我々はともかく、師匠にも一言も言わずに出ていくなど・・・」
最も優しい娘、丞篭が声を荒らげた。
「丞篭がそう言うとは珍しいな」
丞篭の言葉に、男はそう返した。
珍しいと言いながらも、男には丞篭の気持ちがよく分かっていた。
それは弟子達も同様であった。
炎空「丞篭、いくら允行が好きだったからって、そこまで言うことないじゃないか」
索冥「炎空、あんたもう少し言い方があるでしょ!?好きな男が居なくなった丞篭の気持ちも考えなさい!」
麟「確かに、分かりやすかったからな」
角端「丞篭が1番、辛いよね・・・」
丞篭「・・・なんで分かったの?」
「「「「いや分かりやすすぎだから」」」」
「はっはっは。皆、丞篭を虐めるな。しかし、やっと皆、落ち着いたようだな」
男は笑いながら丞篭の肩に手を起いた。
「允行も6年後にはここに来るかもしれん。その時あいつに笑われぬよう、お前達はお前達でやれることをやるだけだ」
師の言葉に、弟子達は一様に頷いた。
それを確認した男は、弟子達に笑みを向けて自室へと戻った。
これまで後回しにしていた仕事に手を付けるために。
それは、忍力に色を付けるという仕事であった。
これまでもそれに取り掛かろうとはしていたが、忙しさにかまけて後回しにしていたその仕事を。
ならば何故、今になって取り掛かることになったのか。
それは全て、弟子の允行のためであった。
男の元を突然去った允行は唯一、黒い力を持っていた。
その允行が少しでも目立たぬよう、忍力に色を付けようと考えたのだ。
男なりの、親心であった。
男は直ぐに、作業に取り掛かった。
そして数日後。
男が契約書に忍力の色について記してしばらくすると、丞篭が男の元へとやって来た。
「師匠!何故木の力が緑なのですか!?五行で木は本来、木の力は青ではないですか!?
そう思っていたからこそ、この子には『青龍』と名付けたのに・・・」
「そう言うな。青き力の龍で『青龍』、良い名ではないか。
まぁ、見事に緑色ではあるが」
「そうですよ!これじゃ、『青龍』でなく『緑龍』です!」
「そう責めないでくれ。今、お前たちの忍力と具現獣を元に、新しい術を作っておる。それを使えば、見事に『青龍』になる、はずだ。それに木は、やはり緑の方が分かりやすいではないか。青はどちらかと言うと水の方が近い」
「そこは自信持って言ってくださいよ!それに水の力は、黒のはずです!」
「お前は硬いなぁ。分かりやすい方が、後の者の為にも良いではないか。それに、黒い力は既に、あやつが使っているしな」
「しかし、あの者の力は既にここにはおりません!」
「丞篭は允行に厳しいな。あいつにはあいつの考えがあると言っているだろう」
「それは、そうかもしれませんが・・・」
「今は、あいつを信じてやろう」
「・・・・わかりました」
丞篭が渋々ながら頷くと、男は笑って言った。
「お前も、今すぐに允行を探しに行ってもいいのだぞ?」
「い、行きませんっ!私は皆と、ちゃんと修行します!」
丞篭の言葉に、男はただ声を出して笑うのであった。
そしてこれより1年後、弟子達が師の元を離れ、旅立つ日になった。
男は弟子達が旅に出る直前に、それぞれに術を送った。
「もしも私に何かあった時には、6人全員にそれぞれ渡した術を、同じ場で使うのだ。そうすれば、いつでも私の作った、忍者の基礎を書き上げた契約書が現れるだろう」
そう言った男は、笑顔で旅立つ弟子達を見送った。
そして、1人になった男は、その場で静かに息を引き取った。
旅立つ我が子の成長に、満足しながら。
5年後、弟子達が師の元に集まった時には、そこには誰が建てたのか、師の墓が、ひっそりと建っていた。
弟子達は、それに涙した。
しかしその場には、4人しかいなかった。
炎空、索冥、麟、角端の4人であった。
旅の話をした際に、師の様子がおかしいと感じていた角端は、特に涙した。
允行ばかりか、丞篭も来ていないことに4人は困惑しながらも、師の言いつけに従い、師の、そして彼らの夢である組織について話し合った。
そして、忍者協会の前身となる組織が作られた。
しかしその長の座は、空席とされた。
いつか允行が戻ってきたときの為に。
弟子達4人は、長を支える立場として5席を設け、彼ら自身がその席につくことにした。
もちろんもう1席は、丞篭のための席である。
しかしその後、空席となった2席が埋まることはなく、代替わりしていく頃には、話し合いにより埋められていくこととなった。
弟子達のうち4人はそれぞれ多くの弟子を取り、元々草として活動していた者達を隠れ蓑とするため、炎空は甲賀、索冥は雑賀、麟は伊賀、角端は風魔と名乗り、それぞれの家系を陰ながら発展させていったという。
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