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一息ついて
第300話:伊賀家とつっこみ
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「そもそも我が伊賀家は元来、つっこみの得意な家系なのだ。
幻術で相手をだまし、相手の幻術を見破る。
それが伊賀家の本質なのだ」
(なんか、詐欺師みてーだな)
恒久は、宗時の言葉に心の中でつっこんだ。
「だからその、幻術につっこむって意味がわかんねーんだって!」
宗久は宗久で、父にそう叫んでいた。
「だからお前はダメなのだ。先程の幻術による私と今の私では、大きく違うところがあったのだぞ?気付かなかったか?」
宗時はそう言って、2人を見渡した。
「違いとか、あったか?」
宗久が首を傾げていると、
「あ」
恒久から声が漏れた。
「ほう。お前は気が付いたようだな?」
宗時が恒久をじっと見つめた。
「あー、いや、違いかどうか自信はないんですけど・・・
幻術の顔よりも今の方が、若いような・・・」
恒久が恐る恐る答えると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・正解」
たっぷりとためてから、宗時がニヤリと笑った。
(いやすげーためたな!)
心の中でつっこむ恒久に、宗時は続けた。
「人の様な複雑な見た目の幻術は、必ずどこかに欠陥がある。私ですら、いくら幻術を極めようとも若干年老いた姿の私しか出すことができないくらいにな」
「そこに気が付くことができれば、幻滅の術で消し去ることができる、んですね」
恒久が納得したように頷いていると、宗久が忌々しそうに恒久を睨んでいた。
(うわー、めっちゃ睨まれてる。ってか、自分の親父の見た目くらい、お前が気付けよ!)
恒久は宗久に向けて、心の中で毒づいた。
「そういうことだ。もちろん、幻術を極めた者はその欠点も把握しているからな。そう安々と幻術とバレるようなことはしないだろうがな。もちろん私も、本気を出せばもう少し若い幻術を作ることが可能性なわけだ」
そう言った宗時が指を鳴らすと、恒久と宗時の前にもう1人の宗時が現れた。
「ぜ、全然分からない・・・」
恒久が、そう声を漏らした。
先程の幻術は、多少なりとも本物との違いに気付く事ができた恒久も、今度ばかりは全くその違いが分からなかった。
それ程までに、目の前の宗時達は瓜二つなのであった。
「まぁ、ざっとこんなもんだ。しかしよく見ると良い。幻術の方は、この辺に少しだけ白髪があるだろう?」
宗時はそう言って、自身の後頭部に手を当てた。
「こ、こんなの分かるわけないじゃねーかよ!!」
得意げに話す宗時に、宗久が叫んだ。
「まったく。お前はすぐそうやって諦める。こんなことでは、本家当主を継ぐことなどできんぞ?」
「ちっ」
宗時がそう言うと、宗久は舌打ちを返していた。
「まぁ、幻術を見破る為にも、我ら伊賀家は常に周りに気を配り、少しの変化にも敏感に反応する必要があるというわけだ。
そうしていると、自ずとつっこみたくなってくるのが伊賀の血の性だな。
まぁそのお陰で、他人のアラもよく見えるようになるわけだがな。なぁ、恒吉?」
「はひいっ!!」
扉の向こうで未だにオロオロしている恒吉に、宗時は扉越しにそう声をかけた。
(この部屋に来る前の会話も、バッチリ聞いてたってわけか)
恒久は父の心配など一切せず、宗時の言葉にこの部屋に入る前の父との会話を思い出していた。
「まぁとにかく、これで少しは、つっこみの大切さが分かっただろう?」
宗時は息子へと目を向けながらそう言った。
「・・・・・さぁ、どうだろうな」
「はぁ。お前、少しは私の言う事を真剣に聞いたらどうだ?反抗期か?」
「ちっ」
ふざけ気味に言う宗時の言葉に、宗久はたた舌打ちを返した。
「あぁ、そうだ。だったら宗久、彼と手合わせをしてみたらどうだ」
宗時は恒久を指しながら、息子へと提案した。
「は?なんで俺が末席なんかと」
「彼に、つっこみの大切さを教えてもらうといい」
ニヤリと笑ってそう言う宗時に、
「俺が?コイツに教えてもらう、だと!?
親父!ふざけた事言うのもいい加減に―――」
そう叫び声を上げるのと同時に、宗久の前に一体の動物が現れた。
先程恒久の前に現れた、あの動物であった。
「どうだ宗久。手合わせ、やるだろう?」
「・・・・・はい」
動物の角を突きつけられた宗久は、宗時の言葉に顔を歪めながらそう答えた。
そんな彼の額からは、汗が流れ出していた。
「さ、という訳で決定だ。修練場に行くぞ」
宗時はそう言って、1人部屋を後にした。
「・・・・・・」
宗久もまた、恒久をひとしきり睨みつけたあと、宗時の後を追って部屋を出ていき、残された恒久は、
(俺の意見は聞かないのな。さすが本家様)
そう心の中でぼやきながら部屋を出るべく扉に目を向け、そこにいたオロオロしている父を見て、
(クソ。絶対に、こうはならねーぞ!)
そう、心に誓うのであった。
幻術で相手をだまし、相手の幻術を見破る。
それが伊賀家の本質なのだ」
(なんか、詐欺師みてーだな)
恒久は、宗時の言葉に心の中でつっこんだ。
「だからその、幻術につっこむって意味がわかんねーんだって!」
宗久は宗久で、父にそう叫んでいた。
「だからお前はダメなのだ。先程の幻術による私と今の私では、大きく違うところがあったのだぞ?気付かなかったか?」
宗時はそう言って、2人を見渡した。
「違いとか、あったか?」
宗久が首を傾げていると、
「あ」
恒久から声が漏れた。
「ほう。お前は気が付いたようだな?」
宗時が恒久をじっと見つめた。
「あー、いや、違いかどうか自信はないんですけど・・・
幻術の顔よりも今の方が、若いような・・・」
恒久が恐る恐る答えると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・正解」
たっぷりとためてから、宗時がニヤリと笑った。
(いやすげーためたな!)
心の中でつっこむ恒久に、宗時は続けた。
「人の様な複雑な見た目の幻術は、必ずどこかに欠陥がある。私ですら、いくら幻術を極めようとも若干年老いた姿の私しか出すことができないくらいにな」
「そこに気が付くことができれば、幻滅の術で消し去ることができる、んですね」
恒久が納得したように頷いていると、宗久が忌々しそうに恒久を睨んでいた。
(うわー、めっちゃ睨まれてる。ってか、自分の親父の見た目くらい、お前が気付けよ!)
恒久は宗久に向けて、心の中で毒づいた。
「そういうことだ。もちろん、幻術を極めた者はその欠点も把握しているからな。そう安々と幻術とバレるようなことはしないだろうがな。もちろん私も、本気を出せばもう少し若い幻術を作ることが可能性なわけだ」
そう言った宗時が指を鳴らすと、恒久と宗時の前にもう1人の宗時が現れた。
「ぜ、全然分からない・・・」
恒久が、そう声を漏らした。
先程の幻術は、多少なりとも本物との違いに気付く事ができた恒久も、今度ばかりは全くその違いが分からなかった。
それ程までに、目の前の宗時達は瓜二つなのであった。
「まぁ、ざっとこんなもんだ。しかしよく見ると良い。幻術の方は、この辺に少しだけ白髪があるだろう?」
宗時はそう言って、自身の後頭部に手を当てた。
「こ、こんなの分かるわけないじゃねーかよ!!」
得意げに話す宗時に、宗久が叫んだ。
「まったく。お前はすぐそうやって諦める。こんなことでは、本家当主を継ぐことなどできんぞ?」
「ちっ」
宗時がそう言うと、宗久は舌打ちを返していた。
「まぁ、幻術を見破る為にも、我ら伊賀家は常に周りに気を配り、少しの変化にも敏感に反応する必要があるというわけだ。
そうしていると、自ずとつっこみたくなってくるのが伊賀の血の性だな。
まぁそのお陰で、他人のアラもよく見えるようになるわけだがな。なぁ、恒吉?」
「はひいっ!!」
扉の向こうで未だにオロオロしている恒吉に、宗時は扉越しにそう声をかけた。
(この部屋に来る前の会話も、バッチリ聞いてたってわけか)
恒久は父の心配など一切せず、宗時の言葉にこの部屋に入る前の父との会話を思い出していた。
「まぁとにかく、これで少しは、つっこみの大切さが分かっただろう?」
宗時は息子へと目を向けながらそう言った。
「・・・・・さぁ、どうだろうな」
「はぁ。お前、少しは私の言う事を真剣に聞いたらどうだ?反抗期か?」
「ちっ」
ふざけ気味に言う宗時の言葉に、宗久はたた舌打ちを返した。
「あぁ、そうだ。だったら宗久、彼と手合わせをしてみたらどうだ」
宗時は恒久を指しながら、息子へと提案した。
「は?なんで俺が末席なんかと」
「彼に、つっこみの大切さを教えてもらうといい」
ニヤリと笑ってそう言う宗時に、
「俺が?コイツに教えてもらう、だと!?
親父!ふざけた事言うのもいい加減に―――」
そう叫び声を上げるのと同時に、宗久の前に一体の動物が現れた。
先程恒久の前に現れた、あの動物であった。
「どうだ宗久。手合わせ、やるだろう?」
「・・・・・はい」
動物の角を突きつけられた宗久は、宗時の言葉に顔を歪めながらそう答えた。
そんな彼の額からは、汗が流れ出していた。
「さ、という訳で決定だ。修練場に行くぞ」
宗時はそう言って、1人部屋を後にした。
「・・・・・・」
宗久もまた、恒久をひとしきり睨みつけたあと、宗時の後を追って部屋を出ていき、残された恒久は、
(俺の意見は聞かないのな。さすが本家様)
そう心の中でぼやきながら部屋を出るべく扉に目を向け、そこにいたオロオロしている父を見て、
(クソ。絶対に、こうはならねーぞ!)
そう、心に誓うのであった。
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