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一息ついて
第293話:重清、クラスメイトと共に置いていかれる
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「皆、せっかくの休みに集まってくれてありがとう!」
重清達3組が文化祭で演劇をすることが決定した翌日の土曜日、『喫茶 中央公園』に重清の声が響いた。
その日重清は、いつもの忍者専用席ではなく、一般席にいた。
何故ならば今彼は、忍者としてではなく、1人の中学生としてこの場にいたからである。
わざわざ立ち上がって叫んだ重清に、1年3組の面々が顔を向けていた。
休日とはいえ、クラスの全員が集まったわけではなかったが、それでもクラスの大半はこの場へと来ており、店内はほとんどすし詰め状態であった。
カウンターの奥では、明美姉さんが店のキャパをゆうに超える人数の飲み物の準備に、明け暮れていた。
「ったくオウさんめ。こういう時くらい手伝いに来てくれてもいいのに!」
そう、ブツブツ文句を言いながら。
(明美さん、なんかごめんなさい)
師に対する不満を呟いている明美姉さんに、聡太が心の中で平謝りしていた。
そんな中、重清は一同へと声をかけた。
「皆に送ったのが、今度の劇の大まかなストーリーです!とにかく、読んでみて!」
重清の言葉を聞いたクラスメイト達は、各々スマホに送られた文章を読み進め始めた。
そして数分後。
「これ、面白い」
クラスのアイドル、村中がボソリと呟くと、
「いいじゃないか!」
「うん、確かに面白い!」
「おいシゲ、これ誰に書いてもらったんだよ!?」
他のクラスメイト達もスマホから顔を上げ、一様に声を揃えていた。
(おぉ!今泉君!好評だよ!!)
クラスメイト達の反応に、重清がニヤけ始めていると。
「本当に、そうでっしゃろか?」
騒がしくなり始めていたはずの店内に、そんな声が響き渡った。
その声の主に、その場の全員が視線を向け、声を揃えた。
「ちょ、長宗我部氏・・・」
一同の視線を集める長宗我部太郎左衛門が、ニヤリと笑った。
「鈴木氏。確かにこの話は、面白い。しかし、文化祭の劇としては重大な欠点があります」
長宗我部はそう言って、そこにあるはずもない眼鏡をクイッとしながら重清を見つめていた。
(長宗我部氏、何キャラ目指してるんだろう)
重清が1人、脳内で脱線していると、
「じゃぁ聞かせてもらおうじゃねーか。その欠点とやらを」
そう言いながら、奥の席から今泉が姿を現した。
「い、今泉君!?来てくれたんだね!」
重清が、今泉を見て笑った。
(あれ、でも何であっちの席に。あそこには、『何嫌の術』がかかってるんじゃ・・・)
そう疑問に思いながら、重清が明美姉さんに目を向けると、その視線の先の明美姉さんがウインクを重清へと向けていた。
重清達が『喫茶 中央公園』へと集まる1時間も前のこと。
その日、重清によって貸し切りにされていた『喫茶 中央公園』に、今泉は1人来店した。
その理由は、自身の書いた台本に対する皆の感触を知りたかったから、である。
重清と同い年くらいの忍者でない少年が1人来店したのに気付いた明美姉さんは、何か事情があると察し、術から『声の漏れない機能』だけを取り除いていたのだ。
何故明美姉さんが、何か事情があると思ったのか。
それは今泉が、『何嫌の術』が掛かっているにも関わらず、必死に店の奥の席へと進んだからであったという。
そんなこととはつゆ知らず、明美姉さんのウインクを目の当たりにした重清は、
(いや、明美姉さんのウインクとか誰得?)
と、冷たい言葉を心の中で明美姉さんへとぶつけながら今泉へと視線を戻した。
(あら失礼ね。アケちゃんだって、まだまだ現役女子なのよ?)
そう頭の中で響く、チーノの声も無視しながら。
「で、長宗我部氏。何が問題なんだよ?」
重清の言葉に答えぬまま、今泉はじっと長宗我部を睨んでいた。
ちなみに、今泉と長宗我部、小学校が同じであるため、面識はあるのである。
「やはり、これを書いたのは今泉氏でしたか」
長宗我部はそう言って頷くと、じっと今泉を見つめ返した。
「そんなものは簡単です。この話では、先生方の許可が下りるわけがないのですよ」
「なに?」
今泉は、長宗我部の言葉に眉をひそめた。
「この話には、他の生徒達に伝えたいメッセージが、何もないのですよ」
「はっ!そんなことかよ!そんなもんなぁ、見る側が好きに感じれば良いことだろうが!」
「確かに、趣味で書く小説程度であれば、それでも良いでしょう。しかしこれは、中学校でやる劇の話なのです。であれば、メッセージの無い話など、先生方が許可するわけもない」
「なっ・・・」
長宗我部の言葉に、今泉は言葉を失った。
そして、その場の一同はそんな長宗我部と今泉を見つめながら思っていた。
(俺達(私達)、完全に置いていかれている)
と。
「あなたならば、きっとそんな話を書いてくれると信じていますよ。あなたの作品の、イチファンとしてね。ナウレイク先生?」
「ま、まさかお前、いつも唯一俺の作品にコメントをくれている『にゃん宗我部』か!?」
「やっと気付いてくれましたか。あれだけ素晴らしい作品を書いているのです。あなたならば、きっと先生方を納得されている作品を作り上げることができる。私も、できる限り協力しましょう」
「にゃん宗我部氏!」
「ナウレイク先生っ!!」
何故かそう言い合いながら抱き合うという、謎の友情が芽生えた長宗我部と今泉を見つめながら、3組一同はただ思っていた。
(頼む、誰か状況を説明してくれ)
と。
重清達3組が文化祭で演劇をすることが決定した翌日の土曜日、『喫茶 中央公園』に重清の声が響いた。
その日重清は、いつもの忍者専用席ではなく、一般席にいた。
何故ならば今彼は、忍者としてではなく、1人の中学生としてこの場にいたからである。
わざわざ立ち上がって叫んだ重清に、1年3組の面々が顔を向けていた。
休日とはいえ、クラスの全員が集まったわけではなかったが、それでもクラスの大半はこの場へと来ており、店内はほとんどすし詰め状態であった。
カウンターの奥では、明美姉さんが店のキャパをゆうに超える人数の飲み物の準備に、明け暮れていた。
「ったくオウさんめ。こういう時くらい手伝いに来てくれてもいいのに!」
そう、ブツブツ文句を言いながら。
(明美さん、なんかごめんなさい)
師に対する不満を呟いている明美姉さんに、聡太が心の中で平謝りしていた。
そんな中、重清は一同へと声をかけた。
「皆に送ったのが、今度の劇の大まかなストーリーです!とにかく、読んでみて!」
重清の言葉を聞いたクラスメイト達は、各々スマホに送られた文章を読み進め始めた。
そして数分後。
「これ、面白い」
クラスのアイドル、村中がボソリと呟くと、
「いいじゃないか!」
「うん、確かに面白い!」
「おいシゲ、これ誰に書いてもらったんだよ!?」
他のクラスメイト達もスマホから顔を上げ、一様に声を揃えていた。
(おぉ!今泉君!好評だよ!!)
クラスメイト達の反応に、重清がニヤけ始めていると。
「本当に、そうでっしゃろか?」
騒がしくなり始めていたはずの店内に、そんな声が響き渡った。
その声の主に、その場の全員が視線を向け、声を揃えた。
「ちょ、長宗我部氏・・・」
一同の視線を集める長宗我部太郎左衛門が、ニヤリと笑った。
「鈴木氏。確かにこの話は、面白い。しかし、文化祭の劇としては重大な欠点があります」
長宗我部はそう言って、そこにあるはずもない眼鏡をクイッとしながら重清を見つめていた。
(長宗我部氏、何キャラ目指してるんだろう)
重清が1人、脳内で脱線していると、
「じゃぁ聞かせてもらおうじゃねーか。その欠点とやらを」
そう言いながら、奥の席から今泉が姿を現した。
「い、今泉君!?来てくれたんだね!」
重清が、今泉を見て笑った。
(あれ、でも何であっちの席に。あそこには、『何嫌の術』がかかってるんじゃ・・・)
そう疑問に思いながら、重清が明美姉さんに目を向けると、その視線の先の明美姉さんがウインクを重清へと向けていた。
重清達が『喫茶 中央公園』へと集まる1時間も前のこと。
その日、重清によって貸し切りにされていた『喫茶 中央公園』に、今泉は1人来店した。
その理由は、自身の書いた台本に対する皆の感触を知りたかったから、である。
重清と同い年くらいの忍者でない少年が1人来店したのに気付いた明美姉さんは、何か事情があると察し、術から『声の漏れない機能』だけを取り除いていたのだ。
何故明美姉さんが、何か事情があると思ったのか。
それは今泉が、『何嫌の術』が掛かっているにも関わらず、必死に店の奥の席へと進んだからであったという。
そんなこととはつゆ知らず、明美姉さんのウインクを目の当たりにした重清は、
(いや、明美姉さんのウインクとか誰得?)
と、冷たい言葉を心の中で明美姉さんへとぶつけながら今泉へと視線を戻した。
(あら失礼ね。アケちゃんだって、まだまだ現役女子なのよ?)
そう頭の中で響く、チーノの声も無視しながら。
「で、長宗我部氏。何が問題なんだよ?」
重清の言葉に答えぬまま、今泉はじっと長宗我部を睨んでいた。
ちなみに、今泉と長宗我部、小学校が同じであるため、面識はあるのである。
「やはり、これを書いたのは今泉氏でしたか」
長宗我部はそう言って頷くと、じっと今泉を見つめ返した。
「そんなものは簡単です。この話では、先生方の許可が下りるわけがないのですよ」
「なに?」
今泉は、長宗我部の言葉に眉をひそめた。
「この話には、他の生徒達に伝えたいメッセージが、何もないのですよ」
「はっ!そんなことかよ!そんなもんなぁ、見る側が好きに感じれば良いことだろうが!」
「確かに、趣味で書く小説程度であれば、それでも良いでしょう。しかしこれは、中学校でやる劇の話なのです。であれば、メッセージの無い話など、先生方が許可するわけもない」
「なっ・・・」
長宗我部の言葉に、今泉は言葉を失った。
そして、その場の一同はそんな長宗我部と今泉を見つめながら思っていた。
(俺達(私達)、完全に置いていかれている)
と。
「あなたならば、きっとそんな話を書いてくれると信じていますよ。あなたの作品の、イチファンとしてね。ナウレイク先生?」
「ま、まさかお前、いつも唯一俺の作品にコメントをくれている『にゃん宗我部』か!?」
「やっと気付いてくれましたか。あれだけ素晴らしい作品を書いているのです。あなたならば、きっと先生方を納得されている作品を作り上げることができる。私も、できる限り協力しましょう」
「にゃん宗我部氏!」
「ナウレイク先生っ!!」
何故かそう言い合いながら抱き合うという、謎の友情が芽生えた長宗我部と今泉を見つめながら、3組一同はただ思っていた。
(頼む、誰か状況を説明してくれ)
と。
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