325 / 519
一息ついて
第288話:重清、クラスメイトの家に上がり込む
しおりを挟む
伊賀グラの勘違いな襲撃からしばし時は経ち、秋も終わろうかとしているある日の放課後。
「おーい、鈴木ー!お前今日、日直だったよな?
このプリント、今泉の家に届けてくれないか?」
1年3組の担任田中が、重清へと声をかけてきた。
「へ?今泉って、誰?」
田中の言葉に、重清は首を傾げた。
「お前なぁ。クラスメイトの名前も覚えてないのか」
そんな重清に、田中は呆れたように重清を見ていた。
「クラスメイト?そんな人、いましたっけ??」
「まぁ、1度も学校には来てないからな。名前は今泉健太郎。会ったことはないだろうが・・・それでも何か渡さなきゃいけないときは、日直に頼んでたんだがな」
「もしかして、不登校ってやつ?」
「まぁ、有り体に言えばな」
「へぇ。じゃぁタイミング悪く、おれのときは渡すもんなかったんですね。えっと、部活後でもいいんですか?」
「いや、早めに持っていってくれ。あんまり遅いと、今泉の家に迷惑かけちまうからな」
「あー、じゃぁ今日の部活は休みだな」
「いや、どれだけ今泉の家が遠いと思ってんるだ。直ぐ戻ってこれる距離だから安心しろ。古賀先生には、鈴木が遅れること伝えておくから。頼んだぞ」
田中はそう言ってプリントを重清へと渡し、教室を出ていった。
「まぁ、少しでも遅れたら、うちの部は間に合わないんだけどね」
聡太が、そう笑いながら重清へと話しかけた。
忍者部の部室では時が止まっており、少しでも部室に入るのが遅れた場合は、次の瞬間には修行を終えた面々と鉢合わせすることになるのである。
「ってことで、今日はおれ、休むわ」
聡太へ返した重清は、手を振って教室を出ていった。
「シゲ、変なことしでかさないといいけど・・・」
教室の出入り口を見ながら、聡太はそう、呟くのだった。
「『今泉』と。ここだな」
『今泉』と書かれた表札を見ながら、重清は躊躇いもなくインターホンへと手を伸ばした。
『はい』
すぐにインターホンか、女性の声が聞こえてきた。
「あ、1年3組の鈴木です。プリント持って来ました」
『ああ、いつも悪いわね。今出るから、少し待っててね』
その声のすぐ後に玄関の扉が開かれ、そこから今泉の母親が姿を現した。
「あら、あなた初めてくる子ね。いつも皆さんには良くしてもらって、助かるわ」
「なははー。ま、クラスメイトなんで」
重清は、今泉の母親に笑ってそう答えた。
「今泉君は?」
「え?あぁ、部屋にいるわよ」
「会いに行ってもいいですか?」
「えっ、もちろん良いけど・・・多分、会えないわよ?」
驚いたように重清へと返すと母親にべコリと一礼して、
「お邪魔しまーす!」
重清はズカズカと玄関へと上がった。
「えっと・・・今泉君の部屋、どこですか?」
「ふふふ。その階段を上がってすぐ右の部屋よ。
あの子、もしかしたら失礼なこと言うかもしれないけど・・・」
「あ、大丈夫です!そういうの、慣れてるんで!」
申し訳無さそうに言う母親に、重清はニカァっと笑いを返して階段を登り始めた。
(見たこともねぇクラスメイトの家に上がり込むなんて随分物好きだな、重清)
プレッソが、重清の中から話しかけてきた。
(そうか?会ったことないクラスメイトいたら、会いたくなるじゃん)
(ほっほっほ。重清らしいわい)
ロイが、プレッソと同じく重清の中で笑っていた。
ちなみにチーノは、忍者部を休むと聞いた途端に雅宅へと女子会に向かっていたりする。
「ここだな」
階段を登った重清は、そう呟いて目の前の扉をノックした。
「こんちはー。同じクラスの鈴木なんだけどー。今泉君いるー?」
重清の言葉に返す者はなく、ただノックの音だけが廊下に響いていた。
「あれ?いないのかな?お邪魔しまーす」
そう言いながら重清は、扉のノブへと手をかけた。
「開けるな!」
その時、突然部屋の中から声が聞こえてきた。
「なんだ、いるんじゃん!」
重清はそう言いながらも、扉を開こうとした。
「だから開けるなって!」
扉の向こうから開きそうな扉を抑えつつ、今泉が叫んだ。
「お前頭おかしいのか!?こういう時、普通扉開けようなんてしないだろ!?」
今泉の言葉に、扉を開くのを諦めた重清は、笑いながら答える。
「え?そうなの?まぁ、そんなんいいじゃん!どうせなんだし、少し話でもしようよ」
「うるさいな!帰れよ!他の奴らは、お袋に渡すもん渡して、さっさと帰ってたぞ!」
「えー、クラスメイトなのに、みんな薄情ー」
「いいから帰れよ!あと、風間ってやつに伝えろ!
お前もいい加減、話しかけるの辞めろってな!」
「おぉー、流石ソウ。ソウも話しかけてたんだな。あいつ、良いやつだろ?」
「お前話聞いてんのかよ!?帰れっつってんだろ!?」
「えー、そう言わずにー。おれ今日暇なんだよ」
「人を暇つぶしに使うなよ!あぁ、もう!お前と話してると調子狂う!もう絶対に返事しないからな!!」
今泉はそう言うと、それ以降一言も話そうとはしなかった。
それでも重清は、ただ1人で扉の前でどうでも良いことをひとしきり話し続け、
「じゃ、今日はそろそろ帰るかな。また来るな」
「・・・もう来んな」
「おっ、最後に返事してくれたな!」
「・・・・・・」
「じゃ、またな!」
重清は扉に向かってそう言うと、階段を降りていった。
その先にいた母親は、そんな重清を下から笑顔で迎えていた。
「鈴木君、ありがとうね」
「いえいえ。おれが喋りたいこと喋ってただけなんで。それよりおばさん、また来てもいい?」
「ええ、もちろんよ。あの子があんなに楽しそうに返事しているの、久しぶりに聞いたからね」
「おっ、マジで!?」
「えぇ。今度来るときは何かお菓子でも用意してあげるわよ」
「おぉ、おばさん太っ腹!じゃぁ、コーヒーと、それに合いそうなお菓子、よろしくっ!今泉君のと、2人分ね!」
重清は図々しくもそう言ってピースして、今泉宅を後にするのであった。
「おーい、鈴木ー!お前今日、日直だったよな?
このプリント、今泉の家に届けてくれないか?」
1年3組の担任田中が、重清へと声をかけてきた。
「へ?今泉って、誰?」
田中の言葉に、重清は首を傾げた。
「お前なぁ。クラスメイトの名前も覚えてないのか」
そんな重清に、田中は呆れたように重清を見ていた。
「クラスメイト?そんな人、いましたっけ??」
「まぁ、1度も学校には来てないからな。名前は今泉健太郎。会ったことはないだろうが・・・それでも何か渡さなきゃいけないときは、日直に頼んでたんだがな」
「もしかして、不登校ってやつ?」
「まぁ、有り体に言えばな」
「へぇ。じゃぁタイミング悪く、おれのときは渡すもんなかったんですね。えっと、部活後でもいいんですか?」
「いや、早めに持っていってくれ。あんまり遅いと、今泉の家に迷惑かけちまうからな」
「あー、じゃぁ今日の部活は休みだな」
「いや、どれだけ今泉の家が遠いと思ってんるだ。直ぐ戻ってこれる距離だから安心しろ。古賀先生には、鈴木が遅れること伝えておくから。頼んだぞ」
田中はそう言ってプリントを重清へと渡し、教室を出ていった。
「まぁ、少しでも遅れたら、うちの部は間に合わないんだけどね」
聡太が、そう笑いながら重清へと話しかけた。
忍者部の部室では時が止まっており、少しでも部室に入るのが遅れた場合は、次の瞬間には修行を終えた面々と鉢合わせすることになるのである。
「ってことで、今日はおれ、休むわ」
聡太へ返した重清は、手を振って教室を出ていった。
「シゲ、変なことしでかさないといいけど・・・」
教室の出入り口を見ながら、聡太はそう、呟くのだった。
「『今泉』と。ここだな」
『今泉』と書かれた表札を見ながら、重清は躊躇いもなくインターホンへと手を伸ばした。
『はい』
すぐにインターホンか、女性の声が聞こえてきた。
「あ、1年3組の鈴木です。プリント持って来ました」
『ああ、いつも悪いわね。今出るから、少し待っててね』
その声のすぐ後に玄関の扉が開かれ、そこから今泉の母親が姿を現した。
「あら、あなた初めてくる子ね。いつも皆さんには良くしてもらって、助かるわ」
「なははー。ま、クラスメイトなんで」
重清は、今泉の母親に笑ってそう答えた。
「今泉君は?」
「え?あぁ、部屋にいるわよ」
「会いに行ってもいいですか?」
「えっ、もちろん良いけど・・・多分、会えないわよ?」
驚いたように重清へと返すと母親にべコリと一礼して、
「お邪魔しまーす!」
重清はズカズカと玄関へと上がった。
「えっと・・・今泉君の部屋、どこですか?」
「ふふふ。その階段を上がってすぐ右の部屋よ。
あの子、もしかしたら失礼なこと言うかもしれないけど・・・」
「あ、大丈夫です!そういうの、慣れてるんで!」
申し訳無さそうに言う母親に、重清はニカァっと笑いを返して階段を登り始めた。
(見たこともねぇクラスメイトの家に上がり込むなんて随分物好きだな、重清)
プレッソが、重清の中から話しかけてきた。
(そうか?会ったことないクラスメイトいたら、会いたくなるじゃん)
(ほっほっほ。重清らしいわい)
ロイが、プレッソと同じく重清の中で笑っていた。
ちなみにチーノは、忍者部を休むと聞いた途端に雅宅へと女子会に向かっていたりする。
「ここだな」
階段を登った重清は、そう呟いて目の前の扉をノックした。
「こんちはー。同じクラスの鈴木なんだけどー。今泉君いるー?」
重清の言葉に返す者はなく、ただノックの音だけが廊下に響いていた。
「あれ?いないのかな?お邪魔しまーす」
そう言いながら重清は、扉のノブへと手をかけた。
「開けるな!」
その時、突然部屋の中から声が聞こえてきた。
「なんだ、いるんじゃん!」
重清はそう言いながらも、扉を開こうとした。
「だから開けるなって!」
扉の向こうから開きそうな扉を抑えつつ、今泉が叫んだ。
「お前頭おかしいのか!?こういう時、普通扉開けようなんてしないだろ!?」
今泉の言葉に、扉を開くのを諦めた重清は、笑いながら答える。
「え?そうなの?まぁ、そんなんいいじゃん!どうせなんだし、少し話でもしようよ」
「うるさいな!帰れよ!他の奴らは、お袋に渡すもん渡して、さっさと帰ってたぞ!」
「えー、クラスメイトなのに、みんな薄情ー」
「いいから帰れよ!あと、風間ってやつに伝えろ!
お前もいい加減、話しかけるの辞めろってな!」
「おぉー、流石ソウ。ソウも話しかけてたんだな。あいつ、良いやつだろ?」
「お前話聞いてんのかよ!?帰れっつってんだろ!?」
「えー、そう言わずにー。おれ今日暇なんだよ」
「人を暇つぶしに使うなよ!あぁ、もう!お前と話してると調子狂う!もう絶対に返事しないからな!!」
今泉はそう言うと、それ以降一言も話そうとはしなかった。
それでも重清は、ただ1人で扉の前でどうでも良いことをひとしきり話し続け、
「じゃ、今日はそろそろ帰るかな。また来るな」
「・・・もう来んな」
「おっ、最後に返事してくれたな!」
「・・・・・・」
「じゃ、またな!」
重清は扉に向かってそう言うと、階段を降りていった。
その先にいた母親は、そんな重清を下から笑顔で迎えていた。
「鈴木君、ありがとうね」
「いえいえ。おれが喋りたいこと喋ってただけなんで。それよりおばさん、また来てもいい?」
「ええ、もちろんよ。あの子があんなに楽しそうに返事しているの、久しぶりに聞いたからね」
「おっ、マジで!?」
「えぇ。今度来るときは何かお菓子でも用意してあげるわよ」
「おぉ、おばさん太っ腹!じゃぁ、コーヒーと、それに合いそうなお菓子、よろしくっ!今泉君のと、2人分ね!」
重清は図々しくもそう言ってピースして、今泉宅を後にするのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
全てのピノッキオたちへ
ままかりなんばん
ライト文芸
テーマパークの清掃員になるはずが、自立して動くアトラクションロボットの世話係に⁉︎
現代でファンタジーで、お仕事と恋愛の物語。
ここは夢見る国、ドリーミングランド。
そんな明るい遊園地に、怪しい噂が流れていた。
「『ケインローズの冒険』というアトラクションに人馬の幽霊が出る」
主人公、樹論信(きろん しのぶ)はそんな噂をよそにドリーミングランドの夜間清掃員としての入社式を控えていたのだが……。
【完結】誰でも持っているはずの7つのスキルの内の1つ、運び屋スキルしか持っていなかったけど、最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
誰でも持っているはずの7つのスキルの内1つ【運び屋】スキルしか持っていなかったトリスが転移魔法スキルを覚え『運び屋トリス』となり、その後『青の錬金術師』として目覚め、最強の冒険者として語り継がれるようになる物語
うたかた夢曲
雪原るい
ファンタジー
昔、人と人ならざる者達との争いがあった。
それを治めたのは、3人の英雄だった…――
時は流れ――真実が偽りとなり、偽りが真実に変わる…
遥か昔の約束は、歪められ伝えられていった。
――果たして、偽りを真実にしたものは何だったのか…
誰が誰と交わした約束なのか…
これは、人と人ならざる闇の者達が織りなす物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目です。
[章分け]
・一章「迷いの記憶」1~7話(予定)
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
人形弟子の学習帳
シキサイ サキ
ファンタジー
「3年後、成人を迎え、嫁入りをはたす
第二王女への魔法の贈り物を3つ用意せよ」
国王より、そんな命令を下された
若き魔法師団長ライルは、万能の魔法という国王からの要望に応えるべく、
生活魔法を習得した自立式の人形を用意しようと計画します。
そうして作られた、魔法式自動人形のアレン
彼は、魔法師ライルの弟子として。
また、3年後には成人する王女様への贈り物となる人形として。
師匠のライルと共に、学びの日々を過ごしていきます。
そんな彼らが、舞台となる魔法学校をはじめ、3年後の別れの日まで、共に学び、共に歩み、それぞれが向かう道を探す師弟物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる