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一息ついて
第263話:村長は語る
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「おぉ、よくぞおいで下さいました」
3時間かけて不忍村へとやって来た一同は、そのまま村役場へと入り、村長がそれを出迎えた。
「えぇっと。その子らは?」
気の良さそうなその村長は、重清達を見ると不安そうにガクへと問いかけた。
村長の不安も無理はない。
やっと依頼を受けて忍者がやって来たと思ったら、子連れなのである。
まだ中学生にしか見えない少年少女、しかもそのうちの1人は頭に猫を乗せ、さらにその猫の頭には亀が乗っているのである。
ガクは、村長の気持ちを察し、笑顔を向ける。
「ご安心を。彼らも私と同じです。実力は私が保証します。私はこういう者で・・・」
そう言いながらガクは、村長に警察手帳を見せる。
「一応ここでは、別の簡単な事件を追っている警察官と、社会科見学の子たちということにしていただけると助かります」
「え、えぇ。わかりました」
村長は、それ以上何も言わず、ただガクの言葉に頷いていた。
この村長としては物凄く不安で仕方がないのだが、それでもこの村の異変を解決して貰えるのならばと、藁にも縋る想いなのであった。
「それで、一応依頼内容を確認させて頂きたいのですが・・・」
「わ、わかりました。と言っても、お送りした依頼書と、さほど変わり映えはしないかと思いますが・・・」
そう言いながら、村長は話し始めた。
「昔々、まだこの村に名が無かった頃の話です」
(ん?)
話し始める村長に、その場の全員が首を傾げた。
そんなことなどお構いなしに、村長は続けた。
「私のひいひいひい・・・・とにかく、だいぶ前の爺さんが、当時のこの村の取りまとめをやっていたそうです」
(ん??)
村長室に、微妙な空気が立ち込める。
「それまで、金はそこまでなくとも平和に暮らしていた村に、突然厄災が訪れたそうです」
「いや、昔話始まっちゃった――むぐっ――」
「どうかしましたかな?」
突然聞こえた声に、村長が顔を上げる。
「むぐっ!」
恒久の口を抑えたガクは、
「あ、失礼しました。続きをお願いします」
「はぁ・・・」
村長は、不思議そうにその光景を見つめながらも、頷いた。
(ガクさん!何するんですか!どう考えてもつっこむトコでしょ!)
恒久は、小声でガクに抗議した。
(いいから。もしかしたら何かヒントがあるかもしれないから、黙って聞いておこう)
ガクがそう言うと、恒久は渋々頷いていた村長へと目を向けた。
「すみませんでした。それで、その厄災というのは?」
場を落ち着けたガクは、村長へと続きを促した。
語りモードに戻った村長は、
「龍が襲って来たのです」
そう言って、恐ろしげな表情を浮かべていた。
「りゅ、龍、ですか・・・」
「まぁ、信じられないのも無理はないでしょう。どういった見た目をしていたのかなど、そういった記録も残されていないような話ですからな。私も、信じてはおりませんでした。つい最近までは」
「それって・・・」
村長の言葉に、聡太が声を漏らした。
「えぇ。この村の動物は、どれも気の強いものばかりでな。ウチの年老いた犬ですら、その辺りの猪くらいなら軽く蹴散らしたものでして」
「いやそれもう、犬じゃねーよっ!!」
恒久は、やはり我慢できずつっこんだ。
「元気の良いことで。それ程に信じられぬのなら、ウチの犬と手合わせでもしてみますかな?」
村長の挑発的な笑みに、
「え、いや、やめときます」
なんとなく恐れをなした恒久は、ただそう返した。
「そうですか。まぁ、それは置いておきましょう。
とにかく、その動物達が皆、最近ずっと怯えているのです。森の方を見て」
村長はそう言いながら、窓から見える森へと目を向けた。
「ゴクリ」
どこからともなく、誰かの唾を飲む大きな音が聞こえてきた。
「そ、それで、当時はその厄災――龍――を、どのように退けたのですか?」
ガクは、そう言って村長を見た。
「えぇ。どこからともなく現れたお人が退治した、と伝えられております。もしかすると、そのお方も忍者だったのではと思い、今回依頼させていただいたというわけです」
「ちなみにその人は、その後どうなったんですか?」
重清が、チーノをわちゃわちゃしながら村長へと聞いた。
「そのまま、この村に留まったそうです。村人達はそのお方に感謝し、その方が死ぬまで世話をしたとか」
「ではもしかすると、その方の子孫が今もこの村に?」
ガクが、村長へと期待の眼差しをむけた。
「いえいえ。そのお方は当時、既にお年を召されていたようで。誰とも結ばれることなく、お亡くなりになったと聞いております。ただ・・・」
村長は、そこで言葉を止めて一同を見渡した。
村長の語りモード奥義、『タメ』である。
「ゴクリ」
再び聞こえるその音に満足した表情を浮かべた村長は、
「そのお方の住んでいた庵は、今も大切に保存されているのです」
そう言ってニヤリと笑っていた。
(いや、タメる程の情報じゃなくね?)
恒久は隣の茜にボソリとつっこみ、笑いを堪えきれずに吹き出してしまった茜は、村長に頭を下げながら恒久の腹に肘をめり込ませるのであった。
3時間かけて不忍村へとやって来た一同は、そのまま村役場へと入り、村長がそれを出迎えた。
「えぇっと。その子らは?」
気の良さそうなその村長は、重清達を見ると不安そうにガクへと問いかけた。
村長の不安も無理はない。
やっと依頼を受けて忍者がやって来たと思ったら、子連れなのである。
まだ中学生にしか見えない少年少女、しかもそのうちの1人は頭に猫を乗せ、さらにその猫の頭には亀が乗っているのである。
ガクは、村長の気持ちを察し、笑顔を向ける。
「ご安心を。彼らも私と同じです。実力は私が保証します。私はこういう者で・・・」
そう言いながらガクは、村長に警察手帳を見せる。
「一応ここでは、別の簡単な事件を追っている警察官と、社会科見学の子たちということにしていただけると助かります」
「え、えぇ。わかりました」
村長は、それ以上何も言わず、ただガクの言葉に頷いていた。
この村長としては物凄く不安で仕方がないのだが、それでもこの村の異変を解決して貰えるのならばと、藁にも縋る想いなのであった。
「それで、一応依頼内容を確認させて頂きたいのですが・・・」
「わ、わかりました。と言っても、お送りした依頼書と、さほど変わり映えはしないかと思いますが・・・」
そう言いながら、村長は話し始めた。
「昔々、まだこの村に名が無かった頃の話です」
(ん?)
話し始める村長に、その場の全員が首を傾げた。
そんなことなどお構いなしに、村長は続けた。
「私のひいひいひい・・・・とにかく、だいぶ前の爺さんが、当時のこの村の取りまとめをやっていたそうです」
(ん??)
村長室に、微妙な空気が立ち込める。
「それまで、金はそこまでなくとも平和に暮らしていた村に、突然厄災が訪れたそうです」
「いや、昔話始まっちゃった――むぐっ――」
「どうかしましたかな?」
突然聞こえた声に、村長が顔を上げる。
「むぐっ!」
恒久の口を抑えたガクは、
「あ、失礼しました。続きをお願いします」
「はぁ・・・」
村長は、不思議そうにその光景を見つめながらも、頷いた。
(ガクさん!何するんですか!どう考えてもつっこむトコでしょ!)
恒久は、小声でガクに抗議した。
(いいから。もしかしたら何かヒントがあるかもしれないから、黙って聞いておこう)
ガクがそう言うと、恒久は渋々頷いていた村長へと目を向けた。
「すみませんでした。それで、その厄災というのは?」
場を落ち着けたガクは、村長へと続きを促した。
語りモードに戻った村長は、
「龍が襲って来たのです」
そう言って、恐ろしげな表情を浮かべていた。
「りゅ、龍、ですか・・・」
「まぁ、信じられないのも無理はないでしょう。どういった見た目をしていたのかなど、そういった記録も残されていないような話ですからな。私も、信じてはおりませんでした。つい最近までは」
「それって・・・」
村長の言葉に、聡太が声を漏らした。
「えぇ。この村の動物は、どれも気の強いものばかりでな。ウチの年老いた犬ですら、その辺りの猪くらいなら軽く蹴散らしたものでして」
「いやそれもう、犬じゃねーよっ!!」
恒久は、やはり我慢できずつっこんだ。
「元気の良いことで。それ程に信じられぬのなら、ウチの犬と手合わせでもしてみますかな?」
村長の挑発的な笑みに、
「え、いや、やめときます」
なんとなく恐れをなした恒久は、ただそう返した。
「そうですか。まぁ、それは置いておきましょう。
とにかく、その動物達が皆、最近ずっと怯えているのです。森の方を見て」
村長はそう言いながら、窓から見える森へと目を向けた。
「ゴクリ」
どこからともなく、誰かの唾を飲む大きな音が聞こえてきた。
「そ、それで、当時はその厄災――龍――を、どのように退けたのですか?」
ガクは、そう言って村長を見た。
「えぇ。どこからともなく現れたお人が退治した、と伝えられております。もしかすると、そのお方も忍者だったのではと思い、今回依頼させていただいたというわけです」
「ちなみにその人は、その後どうなったんですか?」
重清が、チーノをわちゃわちゃしながら村長へと聞いた。
「そのまま、この村に留まったそうです。村人達はそのお方に感謝し、その方が死ぬまで世話をしたとか」
「ではもしかすると、その方の子孫が今もこの村に?」
ガクが、村長へと期待の眼差しをむけた。
「いえいえ。そのお方は当時、既にお年を召されていたようで。誰とも結ばれることなく、お亡くなりになったと聞いております。ただ・・・」
村長は、そこで言葉を止めて一同を見渡した。
村長の語りモード奥義、『タメ』である。
「ゴクリ」
再び聞こえるその音に満足した表情を浮かべた村長は、
「そのお方の住んでいた庵は、今も大切に保存されているのです」
そう言ってニヤリと笑っていた。
(いや、タメる程の情報じゃなくね?)
恒久は隣の茜にボソリとつっこみ、笑いを堪えきれずに吹き出してしまった茜は、村長に頭を下げながら恒久の腹に肘をめり込ませるのであった。
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