おれは忍者の子孫

メバ

文字の大きさ
上 下
289 / 519
一息ついて

第252話:気まずい邂逅

しおりを挟む
「そこっ!!ダラダラするんじゃないぞ!」

2中のグラウンドに、3年生のそんな声が響いた。

「くっ!」
恒久は、声を漏らしながら、スクワットに励んでいた。

現在グラウンドでは、1組である赤組が1年生から3年生までの全員で、体育祭に向けて応援合戦の練習の真っ最中なのである。

何故応援合戦の練習でスクワットなのか。

別にスクワット自体は応援合戦とは無関係なのである。
ただ、毎年応援合戦の練習について行けない生徒が脱落することから、どのクラスでもまずは基礎体力の向上に力を注いでいるのだ。

(クソっ、やりずれーっ!!)
恒久は、必死にスクワットをしながらある一点を見つめていた。

その視線の先にいるのは、3年1組の芦田優大、の、隣の人物である。

芦田優大は、以前重清達がクラスメイトから虐められているのを救った少年である。

クラスメイトである、近藤に。

それはつまり、近藤もまた1組であるというわけで・・・

「へいへ~い、いちねぇ~ん。シャキッとしろよ~」
近藤が、ニヤニヤしながら恒久の周りをグルグルと回っていた。

それはもう、地球の周辺を周る月のように。

近藤は確かに、ドウ達と行動を共にしてはいるが、別にだからといって学校を休んでいるわけでも、転校したわけでもないのだ。

だから、近藤がその場に居ることは特段不思議でもなんでもないのである。

そして芦田は、そんな近藤から虐められていた記憶を無くし、今はクラスメイト達と下級生がサボらないように見回りをしていた。

3年生は、基礎体力作りは免除なのだ。
上級生とはいつの世も、優遇されるものなのである。

ちなみに近藤は、普段優等生を演じていることから、赤組応援団のリーダーを務めていた。

そして現在、恒久をみっちりとしごいているのである。

そんな光景を、3年生の女子達が見てコソコソと話していた。

「近藤君、あの子恒久のことに対して厳しくない?」
「もしかして、仲良いのかな?あっ、あの子、結構カッコよくない?」
「やめなって!あの子、噂のムッツリ君よ?」
「えっ、あの子が?じゃぁ近藤君、もしかしてあの子のイヤらしい視線から私達を守るために、あの子の事を見張ってるんじゃない?」
「きっとそうよ!さすが近藤君!カッコいいだけじゃなくて、紳士だわ」

そう。近藤はモテるのだ。
恒久は、近藤がモテないと勘違いしているが、近藤はモテる。
ただ、ショウと比べるとモテないだけなのだ。

結果として恒久は、ただスクワットを必死にしているだけで自身の株を急降下させ、近藤の株をバク上げするという奇跡を起こしていた。

そして当の恒久は、必死にスクワットをしながらも思っていた。

(気まずい!!)
と。

そんな恒久の想いも、仕方がないのである。

少し前に近藤と一戦交え、恒久の中では近藤に対して、ある種ライバルのような感情を抱いていた。

実力的にはまだまだ近藤が優勢なのであるが、それでも『モテない者同士』と思い込んでいる恒久が近藤に対してそう感じているのも仕方の無いことなのだ。

「次に会ったときには勝つ。勝って、アイツの目を覚まさせてやる」
そう意気込んでさえいた恒久にとって、この状況は非常に気不味いのだ。

なぜなら、今まさに『次に会ったとき』なのだから。

しかし、今近藤に対して喧嘩を売るわけにはもちろんいかないのだ。

状況が状況なのだから。

かたや近藤は、恒久が自身に対してそんな事を想っているなどとはもちろん知らない。
近藤はただ、自身に歯向かってきた恒久を公の場で、しかも正当にしごけるこの状況をただ楽しんでいるだけなのである。

そのため実際には特に気不味くも何ともないはずなのだが、恒久は勝手に1人で、気不味さと戦っているのだ。

スクワットをしながら。

恒久にとって唯一の救いは、スクワットと近藤に集中していることであった。

何故ならば、そのお陰で3年生女子の恒久に対する誹謗中傷を耳にすることが無かったのだから。

しかし恒久と同学年の男子達は、先輩女子の言葉をスクワットによって薄れつつある意識の中でしっかりと聞いていた。

それによって1年1組の男子達は、

『恒久のようにはなるまい』
という想いと恒久への同情心から、謎の一致団結を見せることとなった。

それが体育祭にどう影響するのかは、わからないが。


そんなどうでも良いことはさておき。

とにかくこうして忍者部一同は、鬼のような応援合戦の練習をこなしながら、ノリの慈悲の無い課題に取り組むこととなったのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

片翼を君にあげる③

☆リサーナ☆
ファンタジー
毎週金曜日更新です(^^) 主人公ツバサは18歳の誕生日1週間前に不思議な夢を見る。 それは10年前に別れた幼馴染み、レノアと「将来夢の配達人になって必ず会いに行く」と約束した時の夢。 だが、約束と異なり彼は現在ただの学生。 15歳の時父の死を境に、夢の配達人への夢を遮られてしまった為だ。 しかし、レノアの20歳の誕生日パーティーで二人は再会。 それをキッカケに本当の気持ちに目覚め、再びあの日の約束と自分の夢を叶える為に動き出す。 この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 2022.9.2(金) 連載開始予定

伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜第二王子に狙われてるので、セシリアは口で逃げてみせます〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「楽しみだなぁ」  第二王子・アリティーは、全てが自分の思い通りになると信じてやまない男だった。     ◇ ◇ ◇    華々しい社交界デビューを飾り、それ以降も何かと目立っている伯爵令嬢・セシリア。  デビューの日にドレスをジュースで汚された件も落ち着いて、やっと美味しく紅茶が飲めると思いきや、今度は社交界デビューであったもう一つの珍事・セシリアが王族から『第二王子・アリティーと仲良くする権利』を与えられた件が、遂に水面下で動き出す。    今度の相手は、めげない曲者権力者。  そんな彼に、義務以外の無興味事は全てゴミ箱にポイしたい伯爵令嬢・セシリアが、社交力と頭脳で立ち向かう。  そう、全ては己の心の平穏と、優雅なティータイムのために。     ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第6部作品です。 ※本作品までのあらすじを第1話に掲載していますので、本編からでもお読みいただけます。  もし「きちんと本作を最初から読みたい」と思ってくださった方が居れば、第2部から読み進める事をオススメします。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  以下のリンクを、それぞれ画面下部(この画面では目次の下、各話画面では「お気に入りへの登録」ボタンの下部)に貼ってあります。  ●物語第1部・第2部へのリンク  ●本シリーズをより楽しんで頂ける『各話執筆裏話』へのリンク  

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...