おれは忍者の子孫

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雑賀家お家騒動

第226話:鬼ごっこと女子トークと影の薄い男子たち

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「あっはっはぁ~、待ってくれよぉ~」
充希は、言いながら街中を走っていた。

それはまるで、恋人同士が砂浜で追いかけっこしているような、例の光景のようであった。

一方、充希から追いかけられているその恋人はというと・・・・

「誰が恋人よっ!!あんたも、そんな紛らわしい追いかけ方しないでよっ!!」
茜は、誰にともなくつっこみつつ、後ろから追ってくる充希へと叫んだ。

これは、恋人同士の甘い時間などではなく、ストーカー一歩手前と化したシスコンから逃げる少女の必死の逃亡なのである。

「あっはっはぁ~。このくらいのスピード、体の力を使えば直ぐに追いつける、さっ!!」
その言葉と同時に脚へと体の力を集中させた充希は、一瞬の間に茜へと追いつき、

「つ~かま~えた!!」

そのまま彼女へバックハグをかました。

「このバカシスコンがぁっ!!」
茜は、後ろから抱きつく充希の鳩尾に、思いっきり肘を叩き込んだ。

「おごっ!!」
綺麗にきまった茜の肘に、充希は悶絶して膝をついた。

「ちょっとあんた!こんなところで力を使うなんて何考えてんの!?」
茜は充希へ向き直り、蹲る充希の頭に拳骨を振り下ろして鬼の形相で睨んだ。
流石は雅の一番弟子なのである。

「あぁっ!姉上にも怒られたことのない僕が、こうも簡単に怒られるなんて!これが、愛の鞭!!」

「あぁもう!頭痛くなってきたわ!!誰か助けてよ・・・」
茜がそう呟いていると・・・

「きゃぁ~~~!充希様が悶絶しているわっ!!」
「ちょっと離しなさいよ!私が充希様を癒やしてさしあげるのよ!!」
「あなた!抜け駆けなんて許さないわよっ!」
「悶絶している充希たんもまた、良きでんなぁ~」
女子プラス長宗我部氏が現れ、充希を取り囲んでいた。

「君たち~、僕は皆のものだよ~。僕のために争わないでくれたまへ」
そんな自身を取り囲む面々に充希は、先程のダメージなど無かったかのように、周りに笑顔を振りまいていた。

「と、とりあえずは助かったわね」
茜がその様子を見ながらその場を離れようとすると、

「あら茜、あなたも雑賀君の追っかけ??」
「市花!?」
茜の友人、相羽市花が声をかけてきた。

「あんな奴の追っかけだなんて、やめてよ!それにしても、市花、『あなた』ってことは・・・」
「ち、違うわよっ!私は・・・」
そう言って市花は、充希を取り囲む一団へと乙女の表情を向ける。

「あっ、そっか。市花は長宗我部氏一筋だもんねぇ~」
「ちょっと、その呼び方は太郎左衛門君に失礼よ!」

「あー、はいはい、ごめんなさいねぇ~」
「もぉ~!それにしても茜、雑賀君の追っかけじゃなかったら、ここで何を―――」

「ちょ、みんな、そろそろ離してくれ!僕は茜とゆっくり話したいんだ!!」

「・・・茜、もしかして・・・」
「えっと・・・詳しくはここを離れてから話すわ」

ため息をついた茜はそう言って、市花と共にその場をそそくさと離れるのであった。

「あっ、ちょ、茜、待ってくれーー!!
っ!?今誰か僕の爪を切ったよね!?怖い!なんかちょっと怖くなってきた!!
ちょ、そこはダメ!ダメだから!!あぁー、姉上ぇーーーーっ!!」

充希のそんな悲痛な叫びを聞きながら。


「ふぅ~ん。あのイケメンがねぇ」
『喫茶 中央公園』の一般席で茜の話を聞いた市花は、納得したように頷いていた。

もちろん茜は、忍者部でのことについては一切触れず、ただ重度のシスコンにいきなり惚れられた(意訳)と説明しただけなのである。

「茜、とことん男運無いわね」
市花は、憐れむような目で茜を見ていた。

「いや、とことんって。わたしそんなに男運悪くないわよ!」
ムキになって言い返す茜に、市花はニヤリと笑みを返す。

「そう?光太郎君、芳正君―――」
「あぁー、もう!分かったわよ!
どうせ私は、変な男子からばっかり言い寄られるわよっ!!」

「分かればよろしい!」
市花が、勝ち誇ったように茜に笑いかけた。

この2人、保育園からの付き合いであり、市花は茜のことであれば何でも知っているのである。

なお茜に言い寄った『変な男子』の中には、かの有名な長宗我部太郎左衛門氏も含まれているのだが、おそらく市花が茜に遮られなかったとしても、彼の名前が市花の口から出てくることはなかっただろう。

なぜならば、市花にとって長宗我部は『憧れの人』であり、決して『変な男子』ではないのだから。今は。

長宗我部が茜に言い寄ったのが縁で、市花は彼の魅力に気付くことになったのであるが、それはまた、いつかの機会に・・・語られることがあるのかは、誰にも分からないのである。

そんな幼馴染2人の女子トークは、充希の再突入があるまで繰り広げられるのであった。

そして、忍者専用席を陣取っていた恒久と聡太は、そんな2人の話に聞き耳を立てつつ、宿題に励んでいるのであった。
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