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雑賀家お家騒動
第209話:雑賀本家にて 前編
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重清達が雑賀本家とわちゃわちゃやっているのと同時刻。
雑賀本家当主、雑賀六兵衛のいる部屋の扉が、突然蹴破られていた。
手荒な来客を迎えた六兵衛は、座椅子から立ち上がることなく扉から入ってくる相手に笑顔を向ける。
「姉上、お久しぶりです」
六兵衛の笑顔の先にいる雑賀雅は、弟を睨みつける。
「六兵衛、一体何のつもりだい?」
「姉上のおっしゃっている意味が分かりませんが?」
六兵衛は、姉から向けられた殺気も気にせず、笑顔を返した。
「この古狸が。昔の可愛かった弟は、どこにいったんだろうねぇ?」
「姉上と違って、私は何度もこの手を血に染めているんです。性格も変わって仕方がないでしょう?それよりも姉上、その殺気、どうにかしていただけませんか?怖くて仕方がない。それにこの古屋敷が、それのせいで潰れてしまいますよ」
「はぁ。本当に、可愛気が無くなったねぇ・・・」
そう言いながら、雅はその殺気を抑えていく。
「ふぅ。助かりましたよ。もう生きた心地がしなかったですよ」
「白々しい。それよりも、さっさと説明してもらおうか?」
「はて、何のことでしょうか?」
「しらばっくれんじゃないよ!何でアンタんとこの孫が、ウチの孫のいる中学に転校なんかしてきてるのかって聞いてんだよっ!!」
「あぁ、そのことですか。何でもなにも、修行のためですよ」
「何をとぼけて―――」
「まぁ、聞いてくださいよ姉上」
雅の言葉を遮った六兵衛が指を鳴らすと、雅の両手足を突然現れた鎖が拘束していく。
「こんなものであたしをどうにかできるとでも思ってるのかい?」
雅がそう返すと、座椅子にすわったままの六兵衛の体を、一本のロープが座椅子ごと縛り上げていく。
「ぐっ。やはり姉上には敵いませんね。しかし、姉上を縛るのも良いですが、姉上に縛られるのもまた・・・」
六兵衛の声を聞いた雅は、自身に巻き付いた鎖を引きちぎりながら思った。
(弟はもう、行ってはいけないどこか遠くへ行ってしまった)
と。
傍から見ると、姉を縛り、逆に姉に縛られて興奮する1人の老人である。
どうやら、充希の姉想いは、六兵衛の血の影響のようである。
誰の得にもならない光景を披露した六兵衛は、顔を紅潮させながら雅を見つめる。
「姉上、このままで良いので、私の話を聞いてもらえませんか?」
そう言われた雅は、六兵衛の拘束を解き、近くの座椅子にドカッと座って六兵衛を睨みつけながら思った。
(もう、この弟ホント気持ち悪い)
と。
その想いからも、拘束をそのままにしたくないと考えた雅を誰が責められるだろうか。
そんな本当にどうでも良いことはさておき。
「で?」
「で、とは?」
「話を聞いて欲しいんだろ?聞いてやるからさっさと話しな」
「姉上、先程の拘束は解かなくても―――」
「いいからさっさと話しな!」
「そ、そんな、先程よりも殺気が溢れてますって姉上!」
「こっちは、久しぶりに会った可愛かったはずの弟の変貌ぶりに心がついていってないんだ!さっさと話しな!!」
「・・・残念ですが致し方ありません」
そう言った六兵衛は、一息ついて話し始める。
「言っておきますが、これから話すことは私の本心ですからね。それを念頭に、お聞きください」
そう言って、六兵衛は話し始める。
「まず、姉上に相談も無く孫たちをそちらの中学校へ転校させたこと、お詫びします。しかしこれも、私の考えあってのこと。どうかお許しを」
そう言って座ったまま深々と頭を下げる六兵衛に、雅は頷いていた続きを促した。
「今回の件、あくまでも私の一存により、あの2人の力をつけるべく行ったことなのです」
「本家の血を引く2人かい?」
「えぇ、美影と充希です。もう1名、クルという者が付いておりますが・・・」
「そのクルって子、もしかして陰山の子かい?」
「さすが姉上、お察しが良い」
「はっ、察しも何も、既にこの雑賀本家には、ほとんど弟子がいないだろう。だったら、ついて行くのは陰山家の子以外にないだろうに」
雅が、呆れたようにそう言い捨てると、
「まったく。雑賀家から弟子がいなくなったのは誰のせいだと思っていらっしゃるんですか」
六兵衛は恨めしそうな目で雅を見返した。
「そんなもん、お父様がわざわざあの人の教育システムを認めたのに、それを頑なに取り入れようとしなかったアンタの責任だろう」
弟からそんな目で見つめられた雅は、ため息をついて言い返した。
「それが、雑賀本家目下の問題なのですよ、姉上・・・」
弟のすがるような目に、雅は再びため息をついて六兵衛に続きを促すのであった。
雑賀本家当主、雑賀六兵衛のいる部屋の扉が、突然蹴破られていた。
手荒な来客を迎えた六兵衛は、座椅子から立ち上がることなく扉から入ってくる相手に笑顔を向ける。
「姉上、お久しぶりです」
六兵衛の笑顔の先にいる雑賀雅は、弟を睨みつける。
「六兵衛、一体何のつもりだい?」
「姉上のおっしゃっている意味が分かりませんが?」
六兵衛は、姉から向けられた殺気も気にせず、笑顔を返した。
「この古狸が。昔の可愛かった弟は、どこにいったんだろうねぇ?」
「姉上と違って、私は何度もこの手を血に染めているんです。性格も変わって仕方がないでしょう?それよりも姉上、その殺気、どうにかしていただけませんか?怖くて仕方がない。それにこの古屋敷が、それのせいで潰れてしまいますよ」
「はぁ。本当に、可愛気が無くなったねぇ・・・」
そう言いながら、雅はその殺気を抑えていく。
「ふぅ。助かりましたよ。もう生きた心地がしなかったですよ」
「白々しい。それよりも、さっさと説明してもらおうか?」
「はて、何のことでしょうか?」
「しらばっくれんじゃないよ!何でアンタんとこの孫が、ウチの孫のいる中学に転校なんかしてきてるのかって聞いてんだよっ!!」
「あぁ、そのことですか。何でもなにも、修行のためですよ」
「何をとぼけて―――」
「まぁ、聞いてくださいよ姉上」
雅の言葉を遮った六兵衛が指を鳴らすと、雅の両手足を突然現れた鎖が拘束していく。
「こんなものであたしをどうにかできるとでも思ってるのかい?」
雅がそう返すと、座椅子にすわったままの六兵衛の体を、一本のロープが座椅子ごと縛り上げていく。
「ぐっ。やはり姉上には敵いませんね。しかし、姉上を縛るのも良いですが、姉上に縛られるのもまた・・・」
六兵衛の声を聞いた雅は、自身に巻き付いた鎖を引きちぎりながら思った。
(弟はもう、行ってはいけないどこか遠くへ行ってしまった)
と。
傍から見ると、姉を縛り、逆に姉に縛られて興奮する1人の老人である。
どうやら、充希の姉想いは、六兵衛の血の影響のようである。
誰の得にもならない光景を披露した六兵衛は、顔を紅潮させながら雅を見つめる。
「姉上、このままで良いので、私の話を聞いてもらえませんか?」
そう言われた雅は、六兵衛の拘束を解き、近くの座椅子にドカッと座って六兵衛を睨みつけながら思った。
(もう、この弟ホント気持ち悪い)
と。
その想いからも、拘束をそのままにしたくないと考えた雅を誰が責められるだろうか。
そんな本当にどうでも良いことはさておき。
「で?」
「で、とは?」
「話を聞いて欲しいんだろ?聞いてやるからさっさと話しな」
「姉上、先程の拘束は解かなくても―――」
「いいからさっさと話しな!」
「そ、そんな、先程よりも殺気が溢れてますって姉上!」
「こっちは、久しぶりに会った可愛かったはずの弟の変貌ぶりに心がついていってないんだ!さっさと話しな!!」
「・・・残念ですが致し方ありません」
そう言った六兵衛は、一息ついて話し始める。
「言っておきますが、これから話すことは私の本心ですからね。それを念頭に、お聞きください」
そう言って、六兵衛は話し始める。
「まず、姉上に相談も無く孫たちをそちらの中学校へ転校させたこと、お詫びします。しかしこれも、私の考えあってのこと。どうかお許しを」
そう言って座ったまま深々と頭を下げる六兵衛に、雅は頷いていた続きを促した。
「今回の件、あくまでも私の一存により、あの2人の力をつけるべく行ったことなのです」
「本家の血を引く2人かい?」
「えぇ、美影と充希です。もう1名、クルという者が付いておりますが・・・」
「そのクルって子、もしかして陰山の子かい?」
「さすが姉上、お察しが良い」
「はっ、察しも何も、既にこの雑賀本家には、ほとんど弟子がいないだろう。だったら、ついて行くのは陰山家の子以外にないだろうに」
雅が、呆れたようにそう言い捨てると、
「まったく。雑賀家から弟子がいなくなったのは誰のせいだと思っていらっしゃるんですか」
六兵衛は恨めしそうな目で雅を見返した。
「そんなもん、お父様がわざわざあの人の教育システムを認めたのに、それを頑なに取り入れようとしなかったアンタの責任だろう」
弟からそんな目で見つめられた雅は、ため息をついて言い返した。
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