おれは忍者の子孫

メバ

文字の大きさ
上 下
210 / 519
外伝〜出会いの章〜

第8話:甲賀平八 対 雑賀雅 その2

しおりを挟む
筵(むしろ)を持った平八が、雅へと向かっていきました。

「初めて仕掛けて来たと思えば、そんな術なんて。どこまであたしを馬鹿にすれば気が済むのよ!?」
雅が、筵を避けながら言いました。

そんな雅に、平八は笑いながら答えました。
「いつも言ってるだろ?私は、自分の意志で向かってこない者は、無闇に傷つけたくないんだよ」

「あたしは、自分の意志でここにいる!今まであんたを狙ってきた奴らとは、違うのよ!」
「いいや、それは違うね」

平八は、尽く雅から筵を避けられながらも、まだ笑っていました。

「何が違うのよ!?」
「君はただ、雑賀家の馬鹿馬鹿しい伝統のせいでこんなところにいるんだ。言っただろう?私は君を、悪しき伝統から守りたい、って」

「っ!?」
雅は、絶句していました。
それでもなんとか気を取り直した様子の雅は、言葉を絞り出しました。

「雑賀家を、馬鹿にするな!あたしは当主になって、雑賀家を、立て直すんだっ!だからあたしは、そのためならあんたの命だって、とってみせる!これはあたしの意志なんだ!!」

「だったら何故君は、そんなに泣いているのかな?」
平八が筵を避けられながらも、雅とのすれ違いざまにそっと雅の目に浮かぶ涙を指で拭ってそう言い、すぐにまたその場を離れました。

「っ!?」
雅が再び、言葉を失っていました。

平八の筵を避けるために激しく動いていた雅が、いとも容易く平八の接近を許し、その身に触れられたのです。

それはつまり、平八に害意があれば、その瞬間に自身の命が刈り取られていてもおかしくはないということ。

これまで天才美少女と呼ばれていた雅には、初めての経験だったと思います。


後に雅は、そんな経験、この時が最初で最後だったと言っていたわ。
まぁ、最後っていうのは、雅の強がりかもしれないのだけれど。

でもそれ以上に、彼女は戸惑っていたと言っていたわね。
それはもちろん、自身の目から流れる涙に、ね。

彼女自身、自分が涙を流していたことに気付いてはいかなかったみたい。

その時彼女の中で、何かが折れそうだったと言っていたわ。

それでも当時の雅は、そんなこと一切表情には出さずに、言ったの。


「こ、これはあれよ!汗よっ!」
「・・・うん、そうだね。女性の言い訳は、黙って受け入れるのが良い男ってもんだよね」

「勝手に言い訳って決めるなっ!!」
そう言うと雅は、筵を持つ平八から距離を取りました。

「あんたが自分の術を使うなら、あたしだって、やってやる!天才美少女と呼ばれる所以、身を持って味わいなさい!」

雅がそう言った直後、突然平八が身を躱しました。
すると先程まで平八がいた場所を、手裏剣が通り過ぎていきました。

「これは、さっき使っていた術だね―――うわっと!」

平八が話していると、いくつもの手裏剣が忽然と姿を現し、次々に平八を襲っていきました。

平八はそれらを避けながら、ブツブツと呟いていました。

その間にも手裏剣は平八を襲い続けました。

さすがの平八も、音もなく突然現れる手裏剣を全て避けることは難しかったようで、服は所々破れ、そこからは血が幾重にも流れていました。

「ぐっ」

そしてついに手裏剣が平八を捉え、いくつもの手裏剣が平八に突き刺さりました。
そのまま地に膝をついた平八は、それでも嬉々とした表情を浮かべて、雅を見上げていた。

「凄い術だ!これは、空間を曲げた術だね!?実際には別の場所にある手裏剣を、ここに呼び出しているんだね!?しかもご丁寧に、それぞれの手裏剣には別々の属性の忍力を纏わせて、術での回避にまで対策がなされている。素晴らしい!!」

「これがあたしだけのオリジナルの術のひとつよ。ほかにもいくつかあるけど―――」

「いょ~~~~~~~ぉ!ポン!!」

突然、雅の脳内にそんな音が聞こえてきたと、後日雅から聞きました。

そんなことを知らなかった私には、雅が突然平八に驚愕の表情を向けたようにしか見えませんでした。

「あ、あんたまさか・・・」
雅が、そう言葉を絞り出していました。

「お。正解だったみたいだね。さすがに、契約には制限がかかっていたみたいだけど」
手裏剣による傷を治癒の術で治しながら、平八が楽しそうに笑っていました。

「あ、あたしはこの術を作るのに長い時間を使っていたのよ!?それをあんたは、この短時間でやったというの!?」

雅のその言葉で、2人に何が起きたのか私にもわかりました。

平八は、雅が使った術を避けながら、その力の配分を分析し、その術との契約を試みたのです。
おそらくその際に、雅の脳内では術の契約者が現れたことを知らせる何かしらの音が、響いたのだと思います。

でもおそらく、雅の術は契約に制限を設けているのか、もしくは雅のみを使用者に設定しているのか、いずれにしても、平八はその術との契約にまでは至らなかったのだと思います。

雅の術は、本当にすごい術でした。
おそらく、相手が平八でなければ対応することはほとんど不可能なのではないでしょうか。
私も力の感知には自信があります。
でも、空間を捻じ曲げて突然目の前に手裏剣を出されたら、さすがの私でも対処はできないと思います。

しかもその上に、それぞれの手裏剣には別々の属性忍力を纏わせている。
雑賀雅は、本当に天才なのだと改めて思いました。

しかし、そんな雅すらも驚愕させる平八。

この2人の天才の戦いを私1人だけが見ていていいのだろうかと、私が思ってしまうほどに、目の前で繰り広げられる術の応酬は、見事なものでした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

片翼を君にあげる③

☆リサーナ☆
ファンタジー
毎週金曜日更新です(^^) 主人公ツバサは18歳の誕生日1週間前に不思議な夢を見る。 それは10年前に別れた幼馴染み、レノアと「将来夢の配達人になって必ず会いに行く」と約束した時の夢。 だが、約束と異なり彼は現在ただの学生。 15歳の時父の死を境に、夢の配達人への夢を遮られてしまった為だ。 しかし、レノアの20歳の誕生日パーティーで二人は再会。 それをキッカケに本当の気持ちに目覚め、再びあの日の約束と自分の夢を叶える為に動き出す。 この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 2022.9.2(金) 連載開始予定

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

jumbl 'ズ

井ノ上
キャラ文芸
青年、大吉は、平凡な日々を望む。 しかし妖や霊を視る力を持つ世話焼きの幼馴染、宮森春香が、そんな彼を放っておかない。 春香に振り回されることが、大吉の日常となっていた。 その日常が、緩やかにうねりはじめる。 美しい吸血鬼、大財閥の令嬢、漢気溢れる喧嘩師、闇医者とキョンシー、悲しき天狗の魂。 ひと癖もふた癖もある連中との出会い。 そして、降りかかる許し難い理不尽。 果たして、大吉が平穏を掴む日は来るのか。

処理中です...