おれは忍者の子孫

メバ

文字の大きさ
上 下
201 / 519
外伝~不良少年の章~

本当のエピローグ:書籍化されていないお話

しおりを挟む
「へ、平八先生!これは一体どういうことなんですか!?」
1冊の本を片手に、1人の青年が老人へと詰め寄っていた。
はたから見たら、カツアゲのようにも見えるその2人であったが、青年から詰め寄られた老人は事も無げに青年へと笑いかけた。

「いや、どういうも何も、そのまんまの意味だよ?ってあれ?このやり取り、どこかで見たような・・・ノリ、なんだっけ?」

「私もさっき、そのやり取りを読みましたよ!これでねっ!!」
古賀久則が、そう言って手に持った本を突き出した。

「あ、ノリもその本、買ってくれたんだね」
鈴木平八が、のんきな顔でそう返した。

「『買ってくれたんだね』じゃないですよ!何なんですかこれ!?私の個人情報、ダダ漏れじゃないですか!!」
「え?ノリとのこと本にするって、言ってなかったっけ?」

「聞いてない!断じて聞いてないですよ!以前、中学生時代のことをやたらと平八先生から聞かれるなぁとは思ったことはありましたけど!」
「えー。確かに言ったと思うんだけどなー」

「確かに少し前、大事な話があると呼び出されたことはありますけど!」
「そうそう。その時に話したよね?」

「話してないっ!あの時平八先生、何か話しづらそうな顔をして、その後何故か、雅様との惚気話を話すだけ話して帰られたじゃないですか!」

「・・・・・・あ」

平八が、思わず声を漏らした。

「『あ』じゃないですよ!!何してくれてるんですか!しかもこの付録!!平八先生の教育論なんてみんな読んじゃう!全国の忍者教師達がこぞって買い求めちゃいますって!!」
「えぇ~。そんなことないって~」
満更そうでもない顔で、平八の顔がデレていた。

御年73歳のデレ顔である。

「そんなことあるんですって!初忍研(初任忍者教諭研修の略)に行ったら、みんなこの本持ってたんですよ!お陰で、俺が自己紹介しただけで大爆笑だよ!マジで何やってくれてんだよ爺っ!!」
「あ、今日が初忍研か。ノリ、改めて、教員採用試験合格おめでとう!」

「ありがとうございます!じゃねーよ!俺の気持ちも考えろよっ!!」
「そんなことよりノリさぁ」

「そんなことよりって言っちゃったよ!なんだよっ!」
「さっきの口調、どうしたの?今はいつものノリに戻ってるけど、さっきまで敬語だったでしょ?凄く気持ち悪いんだけど」

「あ、忘れてた!っていうか気持ち悪いって、ひどくないですか?」
「いやだって、あれだけ言っても直らなかった口調が、ここに来て突然変わるんだよ?私、今日でノリが死ぬのかと思ったよ」

「いやどんだけだよ!じゃなくて、どんだけですか!っていうか、一応これ、平八先生の真似のつもりなんですけど」
「私、そんなにブレブレな敬語使わないよ?心外。私心外!」

「ブレブレなのは、慣れてないからなんですって!一応教師になるわけだし、その、流石に口調は改めないとなぁって思ったわけだ、じゃなくて、わけですよ」

「もうめちゃくちゃだね。私は話の筋がブレるけど、ノリは話し方がブレる、と。そんなとこまで真似しなくていいんだよ?」
「そこは真似するつもり、ないんですけどね」
ノリは、そう言って苦笑いを浮かべた。

そんなノリは気付いていなかった。
自身の事が書かれた本が、自費とはいえ出版されていることに抗議に来たはずなのに、いつの間にか思いっきり脱線していることに。

長い間平八と過ごすうちにノリは、平八との会話は脱線すらも、もはや本線なのだと錯覚してしまっているのだ。
これはもはや、平八の弟子になる唯一の弊害と言っても過言ではないのであろう。

「そういえば、ロキは一緒じゃないの?」
「あいつなら・・・デートに行きましたよ。初忍研で一緒になった子と」

「さすがロキ。手が早いね~。ノリも、少しは見習ったら?」
「私は・・・」

「もう、出会いにこだわるの、辞めたら?」
「それは・・・自分で決めたことなんで」

「まったく、変に頑固なんだから。これでも一応気にしてるんだよ?ノリが出会いにこだわってるのは、私のせいでもあるんだからさ」
「平八先生と雅様の出会いに憧れているのは事実ですけど、別に平八先生のせいとは思ってませんよ」

「まぁ、ノリがそう言ってくれるなら、私は何も言わないけどさ」
そう言って平八は空を仰ぎ、感動の声を上げる。

「それにしても、あのノリが教師になるなんてね。教え子が教師になるなんて、本当に嬉しいよ。ご両親もお喜びなんじゃない?」
「お陰様で。2人とも、泣いて喜んでくれましたよ」

「それは良かった」
そう言って笑う平八は、言葉を続けた。

「まさか、ロキまで教師になるとは思わなかったけどね」
「まぁ、ロキが教師目指した理由は、褒められたもんじゃないですけどね」

「そうかい?中学生の時からずっと、ノリという目標に向かって走りつづけてるんだよ?十分凄いさ。ロキ、喜んでたんじゃない?ノリと一緒に教師になれて」
「まさか。めちゃくちゃ悔しがってましたよ。あいつ、私が教員採用試験に落ちることを望んでましたからね。『次は、中忍体でお前の中学に勝つんだぜ!』って、息巻いてましたよ」

「早速次の目標なんて、ロキらしいね。それにしてもさ・・・」
「なんですか?」

「やっぱりノリのその話し方、気持ち悪いよ」
「はぁ~~~。わかったよ。平八先生の前では、いつもの俺でいるよ!」

「そうしてくれると、すごーく助かるよ。いつか、生徒たちの前でも、素の自分が出せるといいね」
「俺より馬鹿な生徒ばっか集まったら、考えてやるよ」

「その中に、私の孫が含まれないことを祈るばかりだよ」
平八がそう言って微笑むと、ノリの心に懐かしい暖かさがこみ上げ、

「それはさすがに、ねーだろ」
そう言ってノリもまた、平八に微笑み返すのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「一人で何でもできる女って嫌い」と婚約破棄されましたが、部下に慕われていました。仲間と一緒に今日も妖から都を守ります。

蜜柑
ファンタジー
*第17回ファンタジー小説大賞参加中です。応援いただけると嬉しいです。 人を喰らう異形の存在――妖がはびこる和国。妖から人々を守るのが、代々妖と戦うための特殊能力【家紋】を持つ者で構成される「対妖防衛隊」 「俺、何でもひとりでできる女って嫌いなんだよね」 首都東都を守る東都本部・精鋭部隊である第参部隊長を務める「藤宮 綾子」は、ある日婚約者で同じく防衛隊員の「神宮司 修介」から、婚約破棄を告げられる。 「俺さ、今、すごくかわいい子と付き合っているんだ。お前と違って、俺がいないとだめな子なんだよ」 彼は別の女性と婚約するために、綾子との婚約は破棄する、というのだ。 「……お一人での参加でも結構ですけど」 婚約披露宴に招待された綾子は、ひとりで参加するか悩んでいた。 そこに声をかけたのは、部下の「鈴原 彰吾」だった。 「俺じゃダメですか?……お試しでいいですから!」 一方、東都では若い女性が妖により白髪の鬼にされる事件が相次いでいた。 その陰に見え隠れするのは、かつて綾子を鬼にしようとし、父母を失った原因の妖――九十九(つくも)。 九十九と綾子の因縁はまた廻る。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

色々あって掃除婦になりました。

みるみる
エッセイ・ノンフィクション
 春、子供の中学入学、通信教育費、車の保険で一気に50万円もの出費がありました。かろうじて3桁あった貯金は一気に半分に減り、さらには夫が年明けに新車でファミリーワゴンを新車で買うと宣言。 「頭金50万円で、月々のローンが二万円の車なら買っても大丈夫だと思う。」  そう言った私に夫はすかさず突っ込みを入れました。 「いやいや、それじゃ中古車すら買えねーから!っていうか、他所の家は家を建てたり新車も買いまくってるのに、なんでうちはできねーの?他所の奥さんは皆んな看護師や大企業でフルタイムで働いてるのになー。」 「‥‥。」  ぐうの音も出ずに黙る私。  自分の実家の家族の為に仕事を辞めて一年‥。自分の給料を貯めておいた通帳は、前の車が壊れて乗れなくなった為新車を買ったり、娘の歯の矯正の為に使ってしまい、いまや数百円の残金しかない状態。 「また働きたい‥。」  そう思ってはいるけど、私の自由になれる時間は週に二、三日。しかも午前中だけ。  時々夫の休みの日を利用して短期のバイトをしながらも、パート探しを続けていると、週3日で午前中だけの掃除婦のパートを発見。すぐさま応募し働き始めました。  そんな私に対して夫は一言。 「とうとうお前も落ちぶれるところまで落ちぶれたな。っていうか、なんで普通に事務員とかにならないで、そんなニッチな所を攻めるかな。頭おかしいんじゃない?」  子供達も‥ 「お母さん、仕事から帰ってきたらすぐにシャワー浴びてね。」  夫の実家は‥ 「‥また何でそんな所に‥。もっと良いところがあるでしょうに。っていうか、息子の給与だけで生活できないなんておかしい。絶対にやりくりのどこかで無駄があるはずよ。」  ‥っていうか、そもそも掃除婦ってそんなに世間から差別されるものなの?  私は皆んなが嫌がるトイレ掃除をする事は立派な仕事だと誇りを持って言えますが!  だから家族には馬鹿にされても、自分の親に親孝行をしたいし、限られた条件の中でやっと見つけたこの仕事を辞めるつもりはありません。  それに見栄っ張りで贅沢?だけど、新築の家を建てる事を諦めて私の実家に間借りして暮らす選択をしてくれた夫の為に、大きい新車を買う頭金を少しでも多く貯めておきたい。  そんな私‥一主婦が節約をしながらお金を貯めたり、夫婦喧嘩や親子喧嘩をしたりする日々を気ままにブログ風の日記にしてみました。  

しあわせ

のり明太
BL
ゆっくり更新してます。pixivに上げてるものと同じです。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

塩対応のアイドルにジョブチェンジします!

有沢真尋
恋愛
駆け出し新人アイドルである双子の妹彩菜(あやな)が、どうしても外せない舞台を前に高熱を出してダウン。 妹激推しの双子の兄玲央名(れおな)は、やむを得ず妹の代わりとしてステージに立つ。 それはとある高校の学校祭。 見事にアイドル一位の座に輝いてしまったために、学校祭の終わりまで一日アイドルとして校内に留まることになる。 世話役は美人生徒会長。 正体を知られるわけにはいかないと、玲央名はひたすら塩対応を続けるが……? 表紙はかんたん表紙メーカーさま

処理中です...