おれは忍者の子孫

メバ

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彼らの日常と蠢く影

第168話:不思議の国へのご招待

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「・・・・・・・」

キャンプ場から『中央公園』へ向かう車中、ノリは終始無言だった。
それも、若干不機嫌そうに。

そんな車内は、なんとも言えない重い空気が漂っていたわけだが、車内の全員がノリの雰囲気に口を出せないでいたのだった。
ちなみにこの車内、行きとは若干、メンバーが違っていた。

行きでたっぷり後悔していたケンが入り、代わりにノブがショウ達と同じあけみ姉さんの運転する車へと乗りこんでいた。

それはさておき。

車内の雰囲気に耐えられなくなった恒久が、目の前の運転席に座るノリに声をかけ始めた。

「ノリさん。なんなんだよさっきから黙りこくって。いい加減スゲー居づらいんだけど!」

そんな恒久の言葉にノリは、深いため息をつく。
「お前ら、なんでこのメンバーがこの車に集まったか、わからねーのか!?」

「な、なんでって。行きとほとんど一緒じゃねーかよ。
ノブさんとケンさんが入れ替わっただけで。」
「そ、そうだよな!そんなに怒ることじゃないよな!」

恒久がノリに返し、シンもそれに同意した。

「だから、その入れ替えがおかしいとは思わないのかって言ってんだよ!」
そんな2人の言葉に、ノリが声を荒げる。

「だ、だって、ケンが行きの車で女子トークに交れずにきつそうだったから、ノブが代わってくれたんじゃ・・・」
「あ。」
シンの言葉を遮るように、聡太が声を漏らした。

「あの、ぼく、見てました。
麻耶さんと茜が、ケンさんをこっちの車に誘導してました。
それに麻耶さんがノブさんに、『あんたはもう充分だから』って言いながらノブさんを向こうの車に・・・」

「おい、それってまさか、あの覗きの・・・」
重清が、聡太の言葉に驚愕の表情を浮かべてそう言っていると、

「あぁ、そうだよ!俺はな、覗きの件は、向こうで襲撃の話を聞いてから罰を与えればいいと思ってたさ!さすがに色々とあったからな!
でもな、お前らは怒らせちゃいけない人を怒らせたんだよ!
麻耶の祖母であり、アカの師であるあの人をな!!」
ノリが、ハンドルを殴りながら叫んだ。

「それって・・・」
そんな重清の言葉に続いて、一同が声を揃える。

「「「「だ、大魔王・・・」」」」

その時、車内のスピーカーから音楽が流れ始めた。
ネズミの国で流れてもおかしくないほどに、メルヘンな音楽が。

「おいおい、なんだよ急に!ノリさん、なんでこんな音楽流し始めてんだよっ!!」
恒久が、冷や汗を流しながら叫ぶと、ノリはそれを無視して大きく舌打ちをして、今までとは180度違う全力の笑顔を、重清達に向けてきた。

「やぁみんな、こんにちは!僕は案内人のヘハデシだよ!君たちをこれから、とぉ~っても楽しい不思議の国に連れて行ってあげるね!!」

ただしその笑顔は、これまでにないほど引きつっていたそうな。

そんな、普段のノリからは想像もできない言葉がその口から発せられるのと同時に、一同の乗った車から見える景色が瞬時に変わった。

そこは、まさに不思議の国と言ってもおかしくないほどに、メルヘンな世界だった。

周りでは、可愛い妖精達が車に向かって手を振っていた。

「な、なんだよ。いきなり風景変わったのはビビったけど、楽しそうな所じゃんか!なぁ!」
無理矢理に笑ったシンが、そう言って一同に目を向けるも、誰一人としてそれに答えることはなく、ただ外の光景を見つめているのだった。

「お、おい!あそこっ!!なんか、妖精が脱ぎ始めたぞ!!」
各々が妖精たちに目を奪われていると、恒久が嬉々とした声を上げた。

そんな恒久の声に、一同は我先にと恒久の視線の先に目を向けた。

その視線の先では、どこか色っぽい妖精が、あくせくと服を脱ぎ出していた。
そして妖精は、そのまま服をガバっと脱ぎ捨てた。

そしてそこには。

筋骨隆々とした体躯を惜しげもなく披露する、ブーメランパンツ姿のよっちゃん(斎藤先生)の姿があった。

「いやどんなイリュージョンだよっ!!」
そう恒久がつっこんでいると、周りにいた妖精たちも同じように服を脱ぎ始め、車の周りはよっちゃんで埋め尽くされていった。

それと同時に、一同の乗った車が急停車した。

それを待っていたかのように、よっちゃんズが車へと近寄ってくる。
何故か、何かを揉んでいるかのような、非常に不快な動きの手と共に。

「ちょ、ノリさんっ!何で止めてんだよっ!!」
運転席の真後ろにいた恒久が、身を乗り出してノリに掴みかかると、

「ここは終点、不思議の国だよ!皆様、素敵な時間をお過ごしください!ってんだコノヤローーがっ!!」

ノリは、そう言って目の前のハンドルを再び殴りつけた。

『弟子達が覗きをしようとしたのは、お前の監督不行き届きだ。』という、理不尽な理由でバカ弟子達に巻き込まれたことに涙しながら。

辺りには、クラクションの音だけが、虚しく鳴り響く。

そして―――

「ガラガラッ!」

車のスライドドアが、無情にも開け放たれる。

その扉の先には、辺りを埋め尽くすよっちゃんズ。
そしてその誰もが、満面の笑みを浮かべていた。
不快な手付きと共に。


「「「「「「いやぁ~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」」


その後何が起きたかを、彼らは生涯決して語ろうとはしなかったという。
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