おれは忍者の子孫

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いざ、中忍体!

第100話:逃亡と悶絶

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斎藤のハグから逃れた重清は、そのまま校舎の脇を走る。

それはもう必死に。
斎藤に見初められた原因ともなった体の力を使ってのその走力に、斎藤は余裕でついてきていた。

「待つんだ、鈴木くぅーん!!」
そう、叫びながら。


その光景をたまたま見かけた、重清と同じクラスの野球部員、後藤正君は後に語る。
「よっちゃんに追いかけられていたシゲ?いやー、あれは可哀想でしたね。あの人に追いかけられて、逃げられた人いないらしいですからね。
でも、逃げていたシゲも中々速かったですからね。もしかしたら、遂に初の逃亡成功者が出るのかと期待して見てましたよ。
え?助ける??
い、いや、先生に追いかけられているわけだから、きっとシゲの方が悪いんだと思って。
ほんとに。み、見捨てたとか、ちょっと言い方ひどくないですか?
・・・だって、仕方ないじゃないですかっ!
俺だって部活でそれなりに鍛えてるつもりですけど、あれは無理ですって!
もう、なんか色々と無理なんですって!!」

その事を後に聞いた重清は、しばらくの間、後藤と目も合わせなくなったという。


「ちょっ、よっちゃん早すぎっ!!」
それはともかくとして、重清はそんなことを叫びながら走り続ける。

そして重清はふと思う。

(よっちゃん、もしかして忍者!?)
(いいえ、彼からは何の力も感じないわ。あれは、彼の純粋な身体能力によるものよ。)
突然、チーノの声が聞こえてくる。

チーノは、重清が必死に逃げているのを感じ、重清を通して周りの状況を感知していていたのだ。
出来る女、チーノなのであった。

(おぉ、チーノ!助けてっ!!)
(ごめんなさい、今、雅とお茶、じゃなくて、大事な話をしているから・・・)
(今、お茶って言ったよね!?それもう、絶対こっちに来たくないだけだよね!?)
(あ、ちょっと大変!ごめんなさい、こっちが立て込んできたから、切るわね!)

(切るってなんだよっ!ケータイかよっ!!あっ、アイツマジで反応しなくなった!だったら、プレッソ!!助けてくれっ!!)

(・・・・デンパノトドカナイトコロニイルカ、デンゲンガハイッテイナイタメ、カカリマセン。)
(あー、トンネルにでも入ったかな?じゃないっ!嘘つけよっ!そんな機能、聞いてないぞ!)
(・・・重清、すまない。)
(すまない、じゃないっ!!あぁもう!どうすりゃいいんだよっ!!)

そもそも、斎藤から追われているこの状況では、仮にプレッソ達が助けるとは言っても、斎藤の目の前で具現化することの出来ない重清に、助けを呼ぶことなど出来ないのだった。

「あらぁ、この状況で考え事なんて、余裕じゃない?」
「なぁっ!?」
重清が無駄話?をしている間に距離を詰めた斎藤の腕が、重清を包み込む。

そのまま重清は、屈強な男達に揉みくちゃにされながら連行されていくのであった。


「さてと、これで全員捕まえられたわね。」
陸上部の部室に戻った斎藤は、そう言って目の前の4人に笑顔を送る。

笑顔を向けられた重清達は、四方を屈強な男達に囲まれながら、身を縮めてパイプ椅子に座っていた。

季節は夏に差し掛かっている。
そんな中、屈強な男達の集まるその部室は、最早サウナと化していた。

「そ、それにしても、皆さん素晴らしい筋肉ですねぇ。」
いたたまれなくなった茜が汗を流しながら、そう言って周りを見渡す。

ちなみに茜は、揉みくちゃにされることを恐れて、早々に斎藤に自ら投降し、それを避けていた。
そのため、他の3人程の精神的なダメージがなかったのである。

「そうでしょう?彼らはみんな、投てきを専門にしてるからね。」
「えっと、それ以外の種目の人達は?」
「我が陸上部に、現在投てき以外の子はいないのよっ!!」
斎藤が、涙目で茜に答える。

「いや、いねーのかよっ!!」
すり減った精神力の中、恒久がつっこむ。
こんな中でもつっこむ彼の精神力を、誰か褒めてあげてほしい。

「そう、いないのよっ!だからこそ、あなた達は我々の希望の星なのよっ!!」
斎藤がそう叫んだとき、部室の扉が開け放たれ、同時に声が聞こえる。

「だからって、こんな方法は許せないですね。」

その声のする方へ、視線が集中する。

「「「「ノリさんっ!!」」」」
そこにいたのは、社会科研究部顧問であり、猫かぶりモードのノリだった。

「古賀ちゃん!?」
「まったく、私の方が先輩なのにその呼び方っていうのも色々と言いたいですが。斎藤先生、ちょっとやり過ぎではないですか?」
そう言って冷たい笑顔を斎藤に向けるノリ。

「そ、それは・・・でもっ、こうでもしないと、今後の陸上部が心配で・・・私が作ったこの動画さえ見てもらえば、誰でも陸上好きに洗脳、じゃなくって、陸上好きになってくれるはずなのよっ!」

「ものすごく不穏な単語が出てきた気がしますが、それは置いておきましょう。私も、あなたの陸上に対する想いが本物であることは理解しています。しかし彼らは、社会科研究部の部員です。勝手なことは、しないで頂きたい。」

「でも、でも・・・」
「はぁ。納得いただけないですか。こんな方法は取りたくなかったのですが・・・」
そう言ってノリは、スマホを取り出して画面を見せる。

「これ、奥様に見せてもいいんですか?」
画面に写っていたのは、重清に抱きついている斎藤の姿。

「な、いつの間に・・・」
「伺っていますよ?奥様は、斎藤先生がゲイなのではと心配されているそうですね?そんな奥様に、この画像を見せたらどう思われるのでしょうねぇ。」

「ひ、卑怯よ、古賀ちゃん!それに私は、妻を心から愛しているわっ!」
「えぇ、斎藤先生の日頃の言動から、私はその事を十分に理解していますよ?しかし、奥様はどうでしょう?あなたのその言葉遣いに、日々不安を感じていらっしゃるのでしょう?」

「これはただ、友達に女装家が多いから染み付いただけで・・・」
呟くようにそう言った斎藤は、言葉を続けることができず、膝をつく。

「負けたわ。私の負けよ、古賀ちゃん。今回は、引き下がってあげるわ。」
拳を強く握りしめながら、斎藤はノリを見る。
「そう言って頂けると思っていましたよ。」
ニコリと笑い返すノリを指差して立ち上がった斎藤は、

「でも覚えていなさいっ!いつか必ず、彼らを我が陸上部に引きずり込んでみせるわっ!
野郎ども!行くわよっ!夕日に向かって、走り込みよっ!!」

「押っっつ忍!!!!」
厳つい男たちが声を揃えて、出て行く斎藤に続いて走り去っていく。

「「「「ノリさぁーーーんっ!」」」」
九死に一生を得た4人が、ノリへと向かっていく。

「のごぉっ!!」
しかしそこにあるのは、学園ドラマのようなワンシーンではなく、茜の拳が腹にめり込み、悶絶するノリの姿なのであった。

「ノリさん、わたし達が必死に逃げてるときずっと見てたんですね!?最っ低!!だから恋人出来ないのよっ!!」
「ま、こりゃ自業自得ってことで。」
捨て台詞を吐いて出て行く茜のあとに、恒久もそう言って陸上部の部室を後にする。

「今回は、さすがにフォローできないかなぁ。」
そう言って、聡太は申し訳なさそうに恒久に続いた。

「えっと、なんつーか、ドンマイっ!」
重清が最後に、テキトーな感じで出ていくと、そこに残ったのはただサウナのような部室で悶絶し続けるノリだけなのであった。
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