おれは忍者の子孫

メバ

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いざ、中忍体!

第90話:ある少年の。

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「はぁ、今日も学校。行きたくないよ。」
僕は、そう呟きながらも、仕方なくゆっくりと支度を進める。

「行ってきます。」
自営業を営んでいる両親にそう言って、僕は家を出て、ゆっくりと学校に向かう。

ゆっくりと、周りから不自然に見えないようにゆっくりと、僕は歩みを進める。
少しでも、アイツと顔を合わせる時間を短くするために。

何人かの同級生が、
「そんなにゆっくり歩いてたら遅刻するぞ!」
そんな声を僕にかけながら、追い抜いていく。

僕は別に、クラスの人気者ってわけじゃない。
だけど、クラスメイトに会えば一言二言は話すくらいの立ち位置にはいると思う。
いわゆる、『可もなく不可もなくなヤツ』って立ち位置に。
多分アイツ以外のみんなは、僕の事をそう思っていると思う。
でも別に、悪い風にも思われてはいないはず。
だからこその、『可もなく不可もなく』なんだから。

そんなことを考えていたら、いつも頭に黒猫を乗せている同じ中学の1年生らしい男の子が、最近増えた白猫と一緒に、僕の隣を駆け抜けていく。
1年生らしいと思ったのは、3年目になるこの通学路で、彼らを見かけるようになったのが2ヶ月くらい前からだから。

彼はいつも友達と登校しているみたいだけど、たまにこうして、猫達と一緒に1人で走っているんだ。

「やっべぇ!遅刻しちまうよーー!」
そう言って、おにぎりを食べながら。

こういうときは、食パンを咥えて走るものなのでは?と思ってクスリと笑っていると、おにぎりを食べる彼の後ろの白猫が、僕をチラッと見た気がした。
あの猫に見られると、何故かドキッとする。
なんとなく、エロい感じがするんだ。
猫にエロさを感じるなんて、絶対に友達には言えないよね。
確実に馬鹿にされる自信があるよ。

そんなことを考えていたら、憂鬱な通学路が少しだけマシになる。
名前も知らない彼と猫達には、実は結構感謝してたりするんだ。
1年くらい前から、歩くのか憂鬱になった通学路で、僕を少しだけ現実から見をそらしてくれる、そんな彼らに。


ゆっくりと歩いてはみたものの、やっぱり学校には着いちゃうよね。

チャイムが鳴るのと同時に教室に入ると、何人かのクラスメイトが、声を掛けてくる。
僕はそれに答えながら席に着いた。

「芦田、おはよう!」
「お、おはよう、近藤くん。」

アイツが声をかけてきた。
アイツは、近藤は僕が最後まで言い切る前に、自分の席へと戻っていった。
でもそれは、僕に対しての嫌がらせなんかじゃない。
ただ、丁度先生が入ってきたから。

周りのみんなも、きっとそう思ってるよ。
いつだってそうなんだ。
近藤は、決してみんなの前で人の嫌がるような事はしない。
優しい優しい優等生なんだ。

近藤は、成績優秀で、スポーツ万能。クラス委員もしている、絵に描いたような優等生なんだ。
僕なんかにも、気さくに優しく話しかけてくれる、頼れる男。

でも僕は、近藤の本性を知っている。僕だけが。

近藤からいつも話しかけてこられるおかげで、クラスでは『近藤くんと仲の良いヤツ』として僕は認識されている。
実際、はたから見たらそうなのかもしれない。
でも、僕らは決して仲良くなんてない。


「芦田、一緒に帰ろうぜ!」
授業が終わると、近藤がいつものように僕に声をかけてくる。
僕だけに見えるように、これから始まることを思い浮かべているかのような笑顔で。

「う、うん。」

僕はただ、それに従うしかない。
やっぱり、あんな意見箱なんて、なんの役にも立たないじゃないか。
え、知らないの?この学校では、『本当に困っている人の前に意見箱が現れる』って噂。
実際、僕の前にも現れたんだよ、意見箱。
もちろん、『いじめられてる。助けて』って入れたさ。
でも、何にも変わらないよ。あんな噂、信じた僕がバカだったんだよ。


僕らは、いつものように学校から少し離れた廃屋へとやって来た。

「さぁて。楽しい楽しい時間の始まりだな、おい。」

そう言って近藤は、いつものように後ろから僕の首に腕を回して僕の首を絞めつけてくる。
普通こういう時って、殴ると思わない?
でも、近藤はそんなことはしない。
殴ったりしたら、痕が残るだろ?
近藤は、そんな証拠が残るようなことはしない。

それでもたまにどうしてもむしゃくしゃするときは、殴ってくることもある。
そんな時は、お腹を一発だけ、殴ってくる。
本当は、それでも殴り足りないみたいだけど。

そんなことを考えていたら、息もできずに意識が遠のいてきた。

僕の意識がなくなる前に、近藤は僕を放す。
そして、僕が苦しそうに息をするのを楽しそうに見てるんだ。
悪趣味な奴だろ?
たぶん近藤は、人を痛めつけるのだけじゃなくて、人が苦しむのを見るのも好きなんだ。

だから僕は、いつも以上に苦しそうに演技をする。
「ちっ。なんかイライラすんな。」
そう言って近藤は、突然僕のお腹を蹴り上げた。

さすがに効いたよ。
演技も入れていたとは言え、本当に苦しくて息をするのに夢中だったからね。
そんな時にお腹なんて蹴られたら、さらに息ができなくってシャレにならないよ?

なんでやり返さないのかって?

怖いんだよ。近藤が。
暴力をふるわれるからじゃないんだ。
なんていうか、近藤は、悪なんだよ、悪。

普通イジメってさ、1人をみんなでよってたかってやるじゃん?
暴力じゃなくっても、陰で何かやるにしても、集団でやるじゃん?

でもさ、近藤は違うんだよね。たった1人で、僕をイジメるんだ。
誰かとつるんで、なんて絶対にない。
もしもばれたら、誰も助けてくれないかもしれないのに。
それでも近藤は、たった1人で僕をイジメるんだ。

近藤は、集団でしか人をイジメられないような弱虫なんかじゃない。
僕には、それがすごく怖い。
なんていうか、ただそこには悪意しか感じられないんだ。
周りに流されるでもなく、空気を読んだわけでもない。
ただ、痛めつけたいからやる。
それが近藤なんだ。

僕なんかが、やり返せるわけないんだよ。

お腹を蹴られて息も絶え絶えな僕を見て笑った近藤は、また僕の後ろに回って首を絞めてくる。
さっき蹴られたから、まだ全然息が出来ていなかったのに。
もう既に、気が遠くなってきたよ。

その時、誰も来ないはずの廃屋の扉が開いて人影が入ってきたんだ。

「あれー、誰かいるーー」
なんとなく、棒読みな感じの声とともに。

遠のく意識の中で僕は、入ってきた影の足元に、2匹の猫がいたのを見た気がした。
でも、そんなわけ、ないよね。
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