艶女ぃLIFEは眠れない

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第23話:芦田幸太は、飛び出す

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静海さんの旦那さんが事故で亡くなったことを聞いた僕は、言葉を失った。

静海さんにそんな悲しい過去があったなんて知らなかった。

愛する人を失う悲しさが、僕にはまだよくは分からない。
きっと、凄く悲しいことなんだと思う。

でも、だからといって、僕はまだ納得できない。

「その・・・旦那さんのことについては、なんと言っていいか・・・お悔やみ申し上げます」
そう言って静海さんに頭を下げた僕は、そのまま顔を上げた。

「だけどそれは・・・て、寺垣さんに厳しくする理由にはならないと思います」

微かに目を潤ませながら、静海さんはじっと僕の目を見つめていた。

「あっはっは!幸太、やっぱり酒が入っていると、ズケズケ言いたいことが言えるねぇ」
津屋さんは、そう言って大きく笑うと、静海さんの肩へと手を置いた。

「幸太の言うとおりさ。私だって何度も、あんたにそう言ったはずだよ」
津屋さんの言葉に、静海さんは黙ってその手を払い除けた。

「そんなこと、分かっているわ」
「その割に、あんた全然成長していないじゃないか」

「この年で、そう簡単に成長なんて出来ないわ」
静海さんがそう言うと、津屋さんは大きなため息をついた。

「はぁ~。ヤダヤダ。年をとると人からの忠告も聞けなくなるのかしらねぇ?
昔のあんたは、そんなんじゃなかったのに」
「私も、年を取ったのよ。あなたみたいにね」

「あんたと一緒にしないでもらいたいね!」
津屋さんは、そう静海さんに反論すると、言葉を続けた。

「幸太みたいな若造にここまで言われて、まだ変わろうとしないのかい!?
あんた、恥ずかしくないのかい?幸太は、あんたのことを心配して、こうやって話してるんだよ?
わざわざ酒まで飲んでね!」

いや、津屋さん。
確かにそうなんですが・・・
なんか恥ずかしいです。

「分かっているわよ!変わらないといけないことくらい!だけど、この年で急に自分を変えるなんて、簡単に出来ないのよ!
私達を捨てた来華らいかに、とやかく言われたくなんてないの!!」

そう叫んだ静海さんをじっと見つめる津屋さんは、再び大きくため息をつくと、その場から立ち上がって歩き出した。

「どうせ私は、全てを捨てた女さ。だけどね、あんたの苦労だって分かっているつもりだったさ。
でもこうまで言われちゃ、私ももう何も言わないさ。
あとは勝手にするんだね」
津屋さんはそう言うと、そのまま自分の部屋へと入っていった。

言い方はキツかったけど、扉を強く閉めるでもなくその場を離れたあたり、多分津屋さんは怒っているわけではなさそうだった。

きっと、こういうやり取りがこれまで何度もあったんだと思う。

そんなことを考えながら、僕はふと吉良さんに目を向けた。

困ったような視線が、僕へと送られている。

いや、この状況で僕にどうしろと・・・

一瞬だけそう思ったけど、そもそもこの空気にしたのは僕が原因なわけだし、このまま部屋に帰るのもなんだか違う気がした。

「努力・・・」

僕は、小さくそう呟いた。

「え?」
静海さんは、僕の言葉に顔を上げていた。

「静海さんは、努力をしたって津屋さんは言っていました。
だったら、その・・・変わる努力、してみませんか?」

「言うのは簡単だけどね。さっきも言ったけれど、この年で簡単に人は変われな―――」
「それはちょっと反論したいわね」
静海さんの言葉を遮るように、吉良さんが口を開いた。

「変わろうと努力しないことを、年齢のせいにしないでほしいわね。同年代として、それには同意できないわ」
「詩乃・・・」
吉良さんに目を向けた静海さんは、小さく言葉を漏らしていた。

「ほ、ほら。吉良さんもそう言っていることだし。ね、静海さん。頑張りましょうよ!」
「幸太・・・でも、もう私、どうすればいいか・・・」

「ん?なんだよこの重たい雰囲気。幸太、あんた何やったんだ?」
その時、一升瓶を片手に酒谷さんが共有スペースへと入ってきた。

いや酒谷さん。
何してきたんですか。
なんで一升瓶とか持ってるんですか。

そんな僕の疑問などお構いなしに、酒谷さんは吉良さんから事情を聞き、笑っていた。

「智恵、あんたあたしより頭良いのに、そんなこともわからないのかよ。
そんなの簡単じゃん!謝ればいいんだよ、謝れば」
「謝るって・・・」
酒谷さんの言葉に閉口する静海さんをよそに、僕は声を上げた。

「それだ!静海さん、そうですよ!まずは謝りましょう!」
「幸太、あなたまで・・・」
そう言ってしばし考えた静海さんは、顔を上げた。

「分かったわ。謝ればいいんでしょ、謝れば」
「はい!」
静海さんにそう返した僕は、既に無くなったビールを目を向けたあと、酒谷さんの方へと歩き、手を差し出した。

「酒谷さん、すみません。一口だけ、いいですか?」
酒谷さんは僕の言葉をすぐに理解して、一升瓶を僕へと差し出した。

そのまま一口だけ、僕は一升瓶に入った焼酎を煽った。

ビールとは違うアルコールに、すこしフラフラしながらも僕は静海さんの手を取った。

「ほら静海さん!行きますよ!」
「え、ちょ、今から!?」

声を上げる静海さんを引っ張って、僕はアパートを飛び出した。
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