23 / 25
第23話:芦田幸太は、飛び出す
しおりを挟む
静海さんの旦那さんが事故で亡くなったことを聞いた僕は、言葉を失った。
静海さんにそんな悲しい過去があったなんて知らなかった。
愛する人を失う悲しさが、僕にはまだよくは分からない。
きっと、凄く悲しいことなんだと思う。
でも、だからといって、僕はまだ納得できない。
「その・・・旦那さんのことについては、なんと言っていいか・・・お悔やみ申し上げます」
そう言って静海さんに頭を下げた僕は、そのまま顔を上げた。
「だけどそれは・・・て、寺垣さんに厳しくする理由にはならないと思います」
微かに目を潤ませながら、静海さんはじっと僕の目を見つめていた。
「あっはっは!幸太、やっぱり酒が入っていると、ズケズケ言いたいことが言えるねぇ」
津屋さんは、そう言って大きく笑うと、静海さんの肩へと手を置いた。
「幸太の言うとおりさ。私だって何度も、あんたにそう言ったはずだよ」
津屋さんの言葉に、静海さんは黙ってその手を払い除けた。
「そんなこと、分かっているわ」
「その割に、あんた全然成長していないじゃないか」
「この年で、そう簡単に成長なんて出来ないわ」
静海さんがそう言うと、津屋さんは大きなため息をついた。
「はぁ~。ヤダヤダ。年をとると人からの忠告も聞けなくなるのかしらねぇ?
昔のあんたは、そんなんじゃなかったのに」
「私も、年を取ったのよ。あなたみたいにね」
「あんたと一緒にしないでもらいたいね!」
津屋さんは、そう静海さんに反論すると、言葉を続けた。
「幸太みたいな若造にここまで言われて、まだ変わろうとしないのかい!?
あんた、恥ずかしくないのかい?幸太は、あんたのことを心配して、こうやって話してるんだよ?
わざわざ酒まで飲んでね!」
いや、津屋さん。
確かにそうなんですが・・・
なんか恥ずかしいです。
「分かっているわよ!変わらないといけないことくらい!だけど、この年で急に自分を変えるなんて、簡単に出来ないのよ!
私達を捨てた来華に、とやかく言われたくなんてないの!!」
そう叫んだ静海さんをじっと見つめる津屋さんは、再び大きくため息をつくと、その場から立ち上がって歩き出した。
「どうせ私は、全てを捨てた女さ。だけどね、あんたの苦労だって分かっているつもりだったさ。
でもこうまで言われちゃ、私ももう何も言わないさ。
あとは勝手にするんだね」
津屋さんはそう言うと、そのまま自分の部屋へと入っていった。
言い方はキツかったけど、扉を強く閉めるでもなくその場を離れたあたり、多分津屋さんは怒っているわけではなさそうだった。
きっと、こういうやり取りがこれまで何度もあったんだと思う。
そんなことを考えながら、僕はふと吉良さんに目を向けた。
困ったような視線が、僕へと送られている。
いや、この状況で僕にどうしろと・・・
一瞬だけそう思ったけど、そもそもこの空気にしたのは僕が原因なわけだし、このまま部屋に帰るのもなんだか違う気がした。
「努力・・・」
僕は、小さくそう呟いた。
「え?」
静海さんは、僕の言葉に顔を上げていた。
「静海さんは、努力をしたって津屋さんは言っていました。
だったら、その・・・変わる努力、してみませんか?」
「言うのは簡単だけどね。さっきも言ったけれど、この年で簡単に人は変われな―――」
「それはちょっと反論したいわね」
静海さんの言葉を遮るように、吉良さんが口を開いた。
「変わろうと努力しないことを、年齢のせいにしないでほしいわね。同年代として、それには同意できないわ」
「詩乃・・・」
吉良さんに目を向けた静海さんは、小さく言葉を漏らしていた。
「ほ、ほら。吉良さんもそう言っていることだし。ね、静海さん。頑張りましょうよ!」
「幸太・・・でも、もう私、どうすればいいか・・・」
「ん?なんだよこの重たい雰囲気。幸太、あんた何やったんだ?」
その時、一升瓶を片手に酒谷さんが共有スペースへと入ってきた。
いや酒谷さん。
何してきたんですか。
なんで一升瓶とか持ってるんですか。
そんな僕の疑問などお構いなしに、酒谷さんは吉良さんから事情を聞き、笑っていた。
「智恵、あんたあたしより頭良いのに、そんなこともわからないのかよ。
そんなの簡単じゃん!謝ればいいんだよ、謝れば」
「謝るって・・・」
酒谷さんの言葉に閉口する静海さんをよそに、僕は声を上げた。
「それだ!静海さん、そうですよ!まずは謝りましょう!」
「幸太、あなたまで・・・」
そう言ってしばし考えた静海さんは、顔を上げた。
「分かったわ。謝ればいいんでしょ、謝れば」
「はい!」
静海さんにそう返した僕は、既に無くなったビールを目を向けたあと、酒谷さんの方へと歩き、手を差し出した。
「酒谷さん、すみません。一口だけ、いいですか?」
酒谷さんは僕の言葉をすぐに理解して、一升瓶を僕へと差し出した。
そのまま一口だけ、僕は一升瓶に入った焼酎を煽った。
ビールとは違うアルコールに、すこしフラフラしながらも僕は静海さんの手を取った。
「ほら静海さん!行きますよ!」
「え、ちょ、今から!?」
声を上げる静海さんを引っ張って、僕はアパートを飛び出した。
静海さんにそんな悲しい過去があったなんて知らなかった。
愛する人を失う悲しさが、僕にはまだよくは分からない。
きっと、凄く悲しいことなんだと思う。
でも、だからといって、僕はまだ納得できない。
「その・・・旦那さんのことについては、なんと言っていいか・・・お悔やみ申し上げます」
そう言って静海さんに頭を下げた僕は、そのまま顔を上げた。
「だけどそれは・・・て、寺垣さんに厳しくする理由にはならないと思います」
微かに目を潤ませながら、静海さんはじっと僕の目を見つめていた。
「あっはっは!幸太、やっぱり酒が入っていると、ズケズケ言いたいことが言えるねぇ」
津屋さんは、そう言って大きく笑うと、静海さんの肩へと手を置いた。
「幸太の言うとおりさ。私だって何度も、あんたにそう言ったはずだよ」
津屋さんの言葉に、静海さんは黙ってその手を払い除けた。
「そんなこと、分かっているわ」
「その割に、あんた全然成長していないじゃないか」
「この年で、そう簡単に成長なんて出来ないわ」
静海さんがそう言うと、津屋さんは大きなため息をついた。
「はぁ~。ヤダヤダ。年をとると人からの忠告も聞けなくなるのかしらねぇ?
昔のあんたは、そんなんじゃなかったのに」
「私も、年を取ったのよ。あなたみたいにね」
「あんたと一緒にしないでもらいたいね!」
津屋さんは、そう静海さんに反論すると、言葉を続けた。
「幸太みたいな若造にここまで言われて、まだ変わろうとしないのかい!?
あんた、恥ずかしくないのかい?幸太は、あんたのことを心配して、こうやって話してるんだよ?
わざわざ酒まで飲んでね!」
いや、津屋さん。
確かにそうなんですが・・・
なんか恥ずかしいです。
「分かっているわよ!変わらないといけないことくらい!だけど、この年で急に自分を変えるなんて、簡単に出来ないのよ!
私達を捨てた来華に、とやかく言われたくなんてないの!!」
そう叫んだ静海さんをじっと見つめる津屋さんは、再び大きくため息をつくと、その場から立ち上がって歩き出した。
「どうせ私は、全てを捨てた女さ。だけどね、あんたの苦労だって分かっているつもりだったさ。
でもこうまで言われちゃ、私ももう何も言わないさ。
あとは勝手にするんだね」
津屋さんはそう言うと、そのまま自分の部屋へと入っていった。
言い方はキツかったけど、扉を強く閉めるでもなくその場を離れたあたり、多分津屋さんは怒っているわけではなさそうだった。
きっと、こういうやり取りがこれまで何度もあったんだと思う。
そんなことを考えながら、僕はふと吉良さんに目を向けた。
困ったような視線が、僕へと送られている。
いや、この状況で僕にどうしろと・・・
一瞬だけそう思ったけど、そもそもこの空気にしたのは僕が原因なわけだし、このまま部屋に帰るのもなんだか違う気がした。
「努力・・・」
僕は、小さくそう呟いた。
「え?」
静海さんは、僕の言葉に顔を上げていた。
「静海さんは、努力をしたって津屋さんは言っていました。
だったら、その・・・変わる努力、してみませんか?」
「言うのは簡単だけどね。さっきも言ったけれど、この年で簡単に人は変われな―――」
「それはちょっと反論したいわね」
静海さんの言葉を遮るように、吉良さんが口を開いた。
「変わろうと努力しないことを、年齢のせいにしないでほしいわね。同年代として、それには同意できないわ」
「詩乃・・・」
吉良さんに目を向けた静海さんは、小さく言葉を漏らしていた。
「ほ、ほら。吉良さんもそう言っていることだし。ね、静海さん。頑張りましょうよ!」
「幸太・・・でも、もう私、どうすればいいか・・・」
「ん?なんだよこの重たい雰囲気。幸太、あんた何やったんだ?」
その時、一升瓶を片手に酒谷さんが共有スペースへと入ってきた。
いや酒谷さん。
何してきたんですか。
なんで一升瓶とか持ってるんですか。
そんな僕の疑問などお構いなしに、酒谷さんは吉良さんから事情を聞き、笑っていた。
「智恵、あんたあたしより頭良いのに、そんなこともわからないのかよ。
そんなの簡単じゃん!謝ればいいんだよ、謝れば」
「謝るって・・・」
酒谷さんの言葉に閉口する静海さんをよそに、僕は声を上げた。
「それだ!静海さん、そうですよ!まずは謝りましょう!」
「幸太、あなたまで・・・」
そう言ってしばし考えた静海さんは、顔を上げた。
「分かったわ。謝ればいいんでしょ、謝れば」
「はい!」
静海さんにそう返した僕は、既に無くなったビールを目を向けたあと、酒谷さんの方へと歩き、手を差し出した。
「酒谷さん、すみません。一口だけ、いいですか?」
酒谷さんは僕の言葉をすぐに理解して、一升瓶を僕へと差し出した。
そのまま一口だけ、僕は一升瓶に入った焼酎を煽った。
ビールとは違うアルコールに、すこしフラフラしながらも僕は静海さんの手を取った。
「ほら静海さん!行きますよ!」
「え、ちょ、今から!?」
声を上げる静海さんを引っ張って、僕はアパートを飛び出した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
光速文芸部
きうり
キャラ文芸
片桐優実は九院(くいん)高校の一年生。
小説家志望の彼女は、今日も部室でキーボードを叩いている。
孤独癖があり、いつもクールを装う彼女。
だが、謎めいた男子部員の言動にはいつも内心で翻弄されている。
さらに容姿端麗の同級生からも言い寄られ、クールな顔を保つのもひと苦労だ。
またクラスメイトとの確執もあり、彼女の周囲の人間関係はねじくれ気味。
「どうせ無限地獄なら、もっと速く駆け抜けたいわ」
疲れた彼女がため息をつく。
その時、男子部員の高柳錦司が見せてくれる「作品」とは?
「そうだ今日は読んでほしいものがある」――。
個性的なキャラクターと「日常の謎」の積み重ねの果て、彼女は誰も知らない世界を目の当たりにする。
予想不能の展開が待ち受ける青春ミステリ小説。
※電子書籍で公開中の作品を、期間限定でアルファポリスで公開するものです。一定期間経過後に削除します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
宵どれ月衛の事件帖
Jem
キャラ文芸
舞台は大正時代。旧制高等学校高等科3年生の穂村烈生(ほむら・れつお 20歳)と神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳)の結成するミステリー研究会にはさまざまな怪奇事件が持ち込まれる。ある夏の日に持ち込まれたのは「髪が伸びる日本人形」。相談者は元の人形の持ち主である妹の身に何かあったのではないかと訴える。一見、ありきたりな謎のようだったが、翌日、相談者の妹から助けを求める電報が届き…!?
神社の息子で始祖の巫女を降ろして魔を斬る月衛と剣術の達人である烈生が、禁断の愛に悩みながら怪奇事件に挑みます。
登場人物
神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳):ある離島の神社の長男。始祖の巫女・ミノの依代として魔を斬る能力を持つ。白蛇の精を思わせる優婉な美貌に似合わぬ毒舌家で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の頭脳。書生として身を寄せる穂村子爵家の嫡男である烈生との禁断の愛に悩む。
穂村烈生(ほむら・れつお 20歳):斜陽華族である穂村子爵家の嫡男。文武両道の爽やかな熱血漢で人望がある。紅毛に鳶色の瞳の美丈夫で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の部長。書生の月衛を、身分を越えて熱愛する。
猿飛銀螺(さるとび・ぎんら 23歳):富士ヶ嶺高等学校高等科に留年を繰り返して居座る、伝説の3年生。逞しい長身に白皙の美貌を誇る発展家。ミステリー研究会に部員でもないのに昼寝しに押しかけてくる。育ちの良い烈生や潔癖な月衛の気付かない視点から、推理のヒントをくれることもなくはない。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・
やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ
特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。
もう逃げ道は無い・・・・
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
Actor!〜気持ちが迷子のきみと〜
exa
キャラ文芸
長い夏休みを持て余していた大学生の長谷は、喫茶店主の頼みでちょっと人付き合いの苦手な女の子の社会勉強に手を貸すことになる。
長谷はひと夏の間に、彼女に変化をもたらすことができるのか。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる