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21.「会長」って呼んだ
しおりを挟む会長に、こんな格好見られたくない。縛らなくたって、僕は会長を受け入れるのに。
僕の首に、会長は強くキスして、赤い跡を残していく。キスだけなのに、膨らんだ欲に触れられているみたい。
僕……このままっ……会長に…………
会長とならいい。会長になら、何だって捧げられる。
それなのに……何でだ。じわじわと目の周りが熱くなる。涙が流れていた。
会長が僕に触れてくれて、それはすごく嬉しくて、僕が何より望んだことだ。だから、これでいいのに……
何で会長は、僕にこんなことするんですか……?
好きだから?
それとも……僕が会長を怒らせたから? だからこんなふうに縛って、僕を抱くんですか?
……何で僕は、こんな時にまで疑うんだ……
会長は、僕に好きだって言ってくれた。いつも優しくて、僕はそれがすごく嬉しい。
それなのに。
「会長っ……ご、ごめんなさいっ……僕っ……ひどいことして……怒らせて…………」
一度口を開いて、後悔した。こんなのぶつけたって仕方ない。
会長にそんなことしたくないのに、一度溢れた僕の中の膿みたいなものが、涙と一緒に漏れ出していく。
「ごめんなさいっ…………ぼ、ぼく……役立たずで……ごめん……なさい…………ごめんなさいっ……ごめんなさいごめん……会長……」
「……その、会長っていうのも、なに? 以前は俺のこと、名前で呼んでくれてたのに」
「……だって……会長……」
だって、ここに来るまで、僕は商人の奴隷で、会長は伯爵令息だった。
実力も身分も申し分ない彼に比べて、僕は、罵られて生きてきた役立たず。
何をしても怒鳴られて、ついには売られて、売られた先でも、こんなもの買うんじゃなかったと殴られて、僕がどれだけ役立たずか、繰り返し喚かれた。
こんなものは売ってしまえと、また売られて、僕の目の前で、数枚の安い硬貨が受け渡されていた。
回復の魔法を覚えたのはその時だ。殴られた傷を治していたら、そんなことができるならと、傭兵の回復役として雇われたけど、役に立たなきゃと焦れば焦るほど上手くいかなくて、結局そこでも役立たず。ついには詐欺師と疑われて拷問された。
最後に僕を買った商人たちはマシな方だったな……怒鳴られてばっかりだったけど、食事はくれたし、暴力も振るわれなかった。
そんな僕と、伯爵令息だ。
釣り合うはずがない。
伯爵のお城で会長に会うたびに、すごく嬉しかったのに、美しい会長と、みすぼらしい自分を比べては、俯いてばかりだった。
会長は、多分ずっとこのまま、遠く手の届かない人なんだって思ってた。
だけど、この学園に来て、今は生徒会長と生徒だ。
僕も会長と同じところにいられて、同じように授業を受けられる。
以前より、ちょっと近くなった気がして、勝手に喜んでいたんだ。
だから僕は、「会長」って呼べることが、すごく嬉しかった。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ…………」
泣いている僕の頭に、会長がそっと触れる。そんなに優しくしなくていい。
それなのに、会長は僕の頬にキスをしながら、外したボタンをかけ直してくれた。
そして彼は、体を起こす。震えていた僕の手の拘束を解いて、さっきよりずっと優しい顔をして微笑んでくれた。
「会長……?」
「……また会長って呼んでる」
「………………トウィント様……」
呼び方を元に戻すと、会長は頷いてくれたけど、すぐにぼそっと言った。
「…………ごめん。無理させて」
「え?」
「俺を名前で呼んだりしたら、学園の貴族たちに目をつけられる……俺が城の方に手を回すから……それまでは、我慢する」
「……」
「ごめん……怖い思いさせて」
「え!? だ、だって……そんなのいいんですっ……!! 会長、したかったんじゃ……だったら!」
「すごくやりたいよー……好きだから」
「だったらっ……僕を気遣わなくていいんです!」
「嫌だよ。大事にしたいから、我慢して気遣われてて」
そう言って、会長は、僕を離してくれた。そして、また頬にあの慰めるようなキスをくれる。
優しいキスだ。優しくて、愛されているって思えて、それなのに怖いキスだ。
無価値な僕なんか、好きに使ってくれていい。会長になら、全部あげられる。それなのに、僕はこんな時にまで、会長の言葉を受け取れない。
最低だ。会長は優しいのに、疑ったりなんかして。何とかしたいのに、何にもできない。
会長が信じられないんじゃない。硬貨数枚の役立たずに、愛される価値があるなんて思えないだけ。
「僕だって、あなたが好きです……大好きです!! 誰よりっ……誰よりあなたが好きっ!! あなたが好きっ……! 会長が大好きで……たまに、抑えるのが苦しくて、たまらないくらいに……こんなに好きで、体だってっ……!! 会長を求めてるんです!! 好きにしてください!! 犯していいんです!! 僕なんか物ですっ……! 無価値なんだからっ……せめて今役に立ててっ……!! あなだのおもぢゃ程度にはなりまずがらああぁーーー…………」
もう、涙と鼻水と、噴き出したいらない感情のせいで、顔はぐちゃぐちゃ。声だって涙混じりでよく分からない。
会長の前でこんなところ見せたくない。嫌われる。
僕は何をしているんだ。会長を突き放して、こんなところ見せて、会長、きっと困ってる。
それなのに、会長は僕を抱きしめて、そっと宥めるように頭を撫でてくれる。彼の大きな手に体をさすられて、僕の心は少しずつ落ち着いていった。
涙も少し収まって、それでもまた嗚咽を引きずる僕に、会長は優しく言う。
「俺……ぶっ壊して繋ぎたいくらい好きだから」
「会長……」
「じゃ、トイレ行こうか?」
「へ!?」
急にそんなことを言われて、僕はびっくりして会長を見上げた。鼻水が出て顔はぐちゃぐちゃで、こんなところ見られたくないのに。
「え、えっと……」
「だってディトルスティ、勃ってるだろ?」
「で、でもっ……!
慌てる僕を、問答無用で会長は引っ張ってトイレまで連れて行ってしまう。
びっくりして、涙と鼻水は止まったけど、会長は僕をトイレに押し込んで扉を閉めて、ドアの向こうで言った。
「早くイってね」
「か、会長!? そこにいるんですか!?」
「もちろん。これからは、自慰するときも、俺のそばでするんだから。たっぷり溜まっただろ?」
「で、でも……も、もう……許してください……」
「だーめ。あ! そうだ!! 今どこいじってるか、実況してもらおうかなー??」
「い、嫌っ……会長っ!! わ、悪ふざけやめてください!!」
「大丈夫……これからずっと、俺とディトルスティは一緒なんだから」
「………………え……?」
「だからいっぱい可愛がってあげるね? ちゃんと俺のこと考えながらするんだよ?」
「会長!!」
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