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72.ちゃんとやれ

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 案の定、精霊たちは戸惑って、ゲキファを見上げて言った。

「な、なんだ貴様っ……! ヴァデスの不正を明かしにきたんじゃないのか!?」
「ヴァデスが悪いことするはずないだろ」
「違うのか?」

 まずい。早速疑われている……これじゃ茶番だ。最初からそうなっている気がするが……ここまできたら後には引けない!

 俺は、無言でゲキファの背中を蹴飛ばした。

「いっ……ヴァデス?」
「ヴァデス? じゃない。ちゃんとやれ」
「あ、うん……」

 渋々といった様子で、ゲキファは精霊たちに振り返る。

「だ、だから……ヴァデスは岩の庭園を破壊する使い魔を放っています。すでに……それは庭園に向かったようで……」
「なんだと……庭園にっ!?」
「しかも、その使い魔は、制御不能になっています。このままだと、庭園が破壊されてしまいます。森で回収され、保管されているロフズテルの使い魔を使いましょう」

 割と棒読みになっている気がするが、学園長は「ロフズテルの使い魔を?」と聞き返してくれた。

「あれを使って、どうする気?」
「ヴァデスの使い魔は、ロフズテルの使い魔のかけらから作られています。同じロフズテルの使い魔を使えば、その居場所がわかるようで……」

 それを聞いた精霊のうちの一人は、あっさりその気になったようだ。

「な、なんだとっ……! す、少し待っていろ! 精霊の国と連絡を取る……! セアガレン!! セアガレンはどこだ!?」

 喚きながら、一人の精霊は、学長室を出て行った。

 それくらい一人でできないのか? さてはあいつ、普段セアガレンになんでも押し付けてるな……

 残った精霊もう一人の精霊が、ゲキファを睨みつける。

「あのかけらは、破壊の魔法の手がかりだ。そう簡単には、外に出せない。かけらが使い魔の居場所の手がかりになると言うが、なぜそんなことがわかる? どうやって聞き出した?」
「自白の魔法を使いました」
「なんだとっ……!?」

 そいつの顔色が変わる。当然だ。

 自白の魔法と言えば、相手から聞きたいことを無理に引き出す代わりに、頭の中を操作するため、魔法をかけられたものは、ほとんどが廃人になる。禁忌の魔法の一つだ。相変わらず、こいつは、危険性への理解が低い。そして、台本も覚えていない。そこは、少し痛い目に合わせて吐かせました、だろうが。

 精霊にもすぐに疑われてしまう。

「それにしては……そいつ、元気すぎないか? 自白の魔法をかけられたようには見えないぞ」

 まずい……すでに、なんでバレてないのか不思議なくらいだ。

 すると、学園長が口を開いた。

「自白の魔法というのは、彼の言い訳でしょう。実際は、多少拷問して吐かせたんじゃないですか?」
「そ、そうだ!! それだ! そいつは俺を魔法で苦しめて拷問したんだ!!」

 俺が叫ぶと、学園長はやっぱりと言って頷く。

「伯爵家が拷問を行ったなど、露呈させたくなかったのでしょう」
「……自白の魔法はいいのか?」
「ゲキファ、よく聞き出しました」

 精霊の指摘を無視して、学園長はゲキファに微笑む。
 けれどゲキファは俯いて「はい」と、小さな声で答えただけ。こいつ、何落ち込んでるんだ。
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