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64.使い魔
しおりを挟む俺は、奪った使い魔の猫を抱き上げた。けれど、それは俺の腕の中でぐったりしたまま動かない。
見ると、その体の一部が透き通っている。これは……水か? この使い魔、水でできているのか?
猫の姿は、何度も揺らいで水に戻りかけている。
コレリールがそれを見て、慌てて言った。
「な、なんで……せっかく捕まえたのに!」
「……魔力がほとんど残っていないんだ」
俺が答えると、床で縛られたままのセアガレンが、ため息をついて言った。
「……それは、あの森で見つかった使い魔の破片で作った偽物だ。それを狙う者から目を逸らすために、私が作った」
「……やるじゃないか。よくできている」
なるほどな……あの使い魔をこいつが持っているなんて、おかしいと思った。回収した使い魔を一部割って、目くらましのために作らせたか。なかなかうまくできているじゃないか。
俺の賛辞が意外だったらしい。セアガレンは顔を上げた。
「お、怒らないのか……?」
「怒る? なぜだ??」
「そ、そんな小さなかけらから作られた使い魔では、なんの情報も得られないぞ。破壊の魔法の情報だって、何も……」
「貴様らは何度言えば分かるんだ? 俺は、破壊の魔法も、岩の庭園の魔力もどうでもいい。ただ、ロフズテルの使い魔を手に入れたかっただけだ」
「…………ほ、本当に?」
「もちろん、いずれ全てを手に入れるが、貴様から得られるものなど、元々大して期待していない」
「……」
水に戻りかけている小さな猫に、俺は、部屋の端にいた自分の猫の使い魔を近づけた。
俺の猫の使い魔は、ロフズテルの使い魔に近づいていき、その体をぺろぺろ舐めている。
コレリールが、それを見て不思議そうに言った。
「師匠? 何をしているんですか?」
「森で回収した魔力を返している。目を覚ますはずだ……」
水に戻りかけていた使い魔は、俺の使い魔から魔力を返してもらい、次第にその形を安定させていく。
そして、元気な猫の姿になって、俺に振り向いた。
にゃーと鳴いている猫を見て、コレリールもゲキファも、ホッとしたようだ。
「すごい……師匠! 元気になりました!!」
「可愛いねー」
口々に言って、猫の使い魔に近づくコレリールとゲキファ。
そして、縛られたセアガレンまでもが、不思議そうに使い魔を見下ろしていた。
「すごいな……小さなかけらで作ったのに……」
「お前の技術も、申し分なかったからだ」
俺が言うと、セアガレンは少し照れたように顔を赤くする。
「ま、まあ……敵の目を逸らすために作ったからな……おい、な、何か話しているぞ」
「なに?」
使い魔に振り向く。すると、猫はちょこんと座って、口を開いた。
「…………しばらく見ないうちに、ますますクソチビになったな。野良猫のガキ……」
「し、喋った!??」
驚いて飛び退くセアガレン。
ビクビクしている彼の前で、コレリールは使い魔の頭を撫でて言った。
「使い魔が話すの、初めて見ました。師匠は使い魔を使うのがお上手ですね」
「俺は今、これを操っていないぞ」
「え……? だ、だって……」
一同が、使い魔を見下ろす。それは俺たちの前で毛繕いをしているが、俺は今、確かにこれを操っていない。
基本的に使い魔は、魔力で何かを使役するもので、誰かが操らないと動かない。
俺も内心では、相当驚いていた。しかし、使い魔が話したその声を聞いた時から、気づいていた。あれは、ロフズテルの声だ。
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