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46.トラブル
しおりを挟む「待ってくれ! ロフズテル!!」
大声で叫んでも、逃げる男は俺に振り向かない。それどころか、どんどん走って行ってしまう。
背後でコレリールが「止まってください」と叫んでいる。だけど、ロフズテルが目の前にいるんだぞ! 待てるか!!
無視して走る俺に、今度は背中に羽をつくったゲキファが、湖面の上を飛んで追いついてきた。
「ヴァデスっ……!! どうしたの!?」
「見ろ!! あの男はっ……ロフズテルだ!!」
「ヴァデス……あれは使い魔だ!!」
「……っ!! 分かっているっ……! だがっ……! ロフズテルと同じ姿だっ!! あれはっ……! あれになら、ロフズテルの居場所の手がかりがあるかもっ……!」
「……分かったっ……! 絶対に使い魔を捕まえて!」
「もちろんだ!」
俺が答えると、ゲキファは、後ろから走ってくるコレリールに向かって叫ぶ。
「コレリール!! ヴァデスを守れっ……! 怪我させたら、お前の存在ごと消す!!」
コレリールが「師匠は僕が守る!」と叫ぶと、ゲキファは、空を飛んで俺たちから離れ、俺とコレリール、使い魔を結界で包んだ。
一瞬で、俺たちと使い魔の周りを囲む広いドームのようなものができて、俺たちは半透明の魔力の壁で外界から隔離される。
これなら、結界の外に使い魔は逃げられない。
よくやったぞっ……! ゲキファっ!!
もう、俺にはあの使い魔しか見えていなかった。俺の目の前に、ロフズテルがいるかもしれないんだ。
「ロフズテル! 俺だっ!! お前をっ……お前を探していたんだ!!」
死ぬ気で叫んだ。すると、目の前を走る男は立ち止まり、俺に振り向いた。
確かに、その姿はロフズテルだ。けれど、その姿はすぐに揺らいで、大きな猫のような姿に変わってしまう。
「ロフズテル……?」
呟いて、猫に近づく。まるで本物の猫みたいだ。ガタガタ震えながら、小さく丸くなっている。
……残念だが、やっぱり本物のロフズテルではなかったようだ……
だけど、この使い魔になら、あいつの手がかりが残されているかもしれない。学生たちを使い魔化した理由だって分かるはずだ。
見たところ、かなり魔力が減っているみたいだな……あれだけの人数の学生を使い魔化しているんだし、ここに来るまでに、随分と追い回されたようだから、当然だ。
とりあえず連れ帰って、魔力を補給しないと、使い魔は魔法をかけられる前のものに戻ってしまうかもしれない。
使い魔の体に触れて、魔法をかける。すると使い魔は、見る間に縮んで、俺の前で「ニャア」と鳴いた。
これだけ小さくして隠していけば、誰かに見つかることもないだろう。こっそり連れ帰って研究してやる。
やっと俺は、ロフズテルの作った使い魔を手に入れたんだ! 感無量だ!!
目に涙まで滲んできたせいか、視界がぐらぐら揺れている。
いや、違う!! 足元が揺れているんだっ!!
「な、なんだこれはっ……!!」
足元の氷が揺れて割れていく。異常な魔力を結界の外に感じる。外から誰かが結界を破ろうとしているんだ。
コレリールが叫んだ。
「し、師匠!! 結界の外に、微かですが異様な魔力を感じます!」
「分かっている……! 外で何かあったらしいな!!」
ゲキファめ……何かトラブルでもあったのか!?
俺は、さっきまでロフズテルの姿をしていた猫を、無理矢理自分の服の中に入れると、結界と外の境界まで走った。結界の壁は磨りガラスのようになっていて、外の様子はわからない。
「おい!! ゲキファ! 何があった!? ゲキファ!!」
叫ぶと、結界の向こうからゲキファの叫び声がする。
「ヴァデスっ……! よかった……無事っ……!?」
「無事だ! 何があった!?」
「なんでもないよ……」
「なんでもないはずがないだろう!」
ゲキファの声は掠れている。息も苦しそうだ。これでなんでもないはずがない。
くそ……この森には、学生の放った使い魔が暴走している上に、始終水の矢が飛び交っている。その上、使い魔化した学生が暴れているんだ。そんな森に、あいつを一人で残すべきじゃなかったっ……!
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