45 / 85
45.待ってくれ!
しおりを挟むこいつは犬、そう自分に言い聞かせる。
落ち着け、俺。キャッテルが言っていた、使い魔が飛びだしてきたという湖の辺りまで、後少しのはずだ。
俺は、使い魔の猫に飛び乗ろうとした。
けれど、敵は既に迫っていたらしい。ゲキファがいきなり俺の前に出て、俺を自分の背中に追いやった。
殴り倒してやろうかと思ったが、俺もすぐに異常に気づいた。
俺たち目掛けて、森の木々の向こうから、水の矢が飛んでくる。
誰かが俺たちを狙って魔法を放っているんだ。
けれどその水の矢は、俺たちに届く前に蒸発するようにして消えた。ゲキファの消去の魔法だろう。こいつがいち早く気づいて、俺たちを守ったんだ。こいつがそうしなければ、首くらい切られていたかもしれない。舐めた真似をしてくれる。
コレリールが、魔法で大きな剣を作り出し、俺たちに向かって矢を放つ人影に向かっていく。
「師匠を狙う不届き者めっ!! 僕が打ち倒してくれる!!」
大きな剣を掲げて、コレリールは湖の方に走っていく。俺とゲキファも、その後に続いた。
少し走ると、湖が見えてくる。湖が近くなるごとに、こっちに向かって飛んでくる水の矢も増える。
俺は、湖のほとりを睨みつけた。確かに感じる。魔力で気配を隠してはいるが、ほとりに何かいる!! だったら全部捕まえるのが一番早い!
俺は魔力で冷気を作り出し、湖のほとりをなぎ払った。途端に湖畔は凍りついていく。
けれど、人影は氷から逃れたようだ。凍りついた湖の上を走って逃げていく。
逃げ足の速いやつだ。
足に魔法をかけ、凍りついた湖の上を走る。
こっちを向いていたはずの人影は、俺に背を向け逃げて行く。
なんだ……? あの後ろ姿は。俺の知っているものに見える。
背後から、ゲキファたちも走って追いついてくる。
「待って! ヴァデス!! 危ないよ!!」
「師匠! 湖に……魔力を感じます!」
二人が忠告しているのは分かっている。けれど、何を言われても、俺は止まれなかった。あの走っていく後ろ姿、確かに俺は知っている。
あいつ……あの後ろ姿は!
一瞬こちらに振り向いた男の顔を見て、俺は、息を呑んだ。こちらを小馬鹿にしたような目をした、灰色の長い髪の男で、汚れなど全くない白衣を着ている。
冷静ではいられなかった。それは、俺がずっと探していた男だったからだ。
まさか…………あの男は……
「ロフズテル…………」
つい、言葉が漏れた。
懐かしい姿をしたものは、凍った湖の上を走って逃げていく。あれはずっと、俺が探し求めていたものなのに。
「待ってくれ! ロフズテル!! 止まれ!! 俺だ!! 野良猫のガキの……ヴァデスだ!! 止まってくれ!」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
全寮制男子高校生活~行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた~
雨雪
BL
スイマセン、腐男子要素どこいった状態になりそうだったんでタイトル変えました。
元、腐男子が王道学園に入学してみた。腐男子設定は生きてますがあんま出てこないかもです。
書いてみたいと思ったから書いてみただけのお話。駄文です。
自分が平凡だと本気で思っている非凡の腐男子の全寮制男子校での話。
基本思いつきなんでよくわかんなくなります。
ストーリー繋がんなくなったりするかもです。
1話1話短いです。
18禁要素出す気ないです。書けないです。
出てもキスくらいかなぁ
*改稿終わって再投稿も終わったのでとりあえず完結です~
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる