上 下
41 / 85

41.今回は

しおりを挟む

 俺は、俺を連れて逃げるゲキファの羽に触れた。手の先から羽根の魔力を吸い取ると、ゲキファの羽は俺が触れたところから光の粒になって消えていく。

「何をっ……ヴァデス!?」

 驚くゲキファを抱きかかえ、俺は森の中に降りた。すぐにゲキファは羽を作り出そうとするが、俺はそいつの手を握り、魔力の流れを止めた。これでもう、羽は作れないだろう。

「ヴァデスっ……何をっ……!」
「無理をするな。回復の魔法をかけている」

 握った手から光が溢れ、ゲキファの痛々しい傷口が塞がっていく。しかし、傷口を塞いだだけだ。まだ不十分だろうが、俺にはこれが限界だ。

「歩けるか?」
「……大丈夫だよ。ヴァデスの使い魔を探そう」
「馬鹿を言え。俺は回復の魔法が苦手なんだ。早く外へ出て、ちゃんとした手当を受けないと、命を落とすとまでは言わないが、当分の間動けなくなるぞ」
「だけどっ……!」

 そいつはなおも食い下がってくる。だが、俺には首を横に振ることしかできない。

 今すぐこいつを外に連れ出し、誰かに預けないと、こいつの回復は難しくなる。治療が遅れれば、当分魔力を使うことすらできないだろう。

 ロフズテルの使い魔は大事だが、俺を庇って負傷した奴が、当分動けなくなることを承知で連れ回すことはできない。

「来いっ! 森の外へ連れていく!」
「ヴァデスの足手まといにはならないよ……」
「……足手まといとは思わない。グダグダ言わずに乗れ!」

 俺は、俺たち二人が乗れる大きさの使い魔の猫を作り出した。森の中に、俺たちを狙ってくる奴がいるなら、地上を行ったほうが安全だ。空を飛べば狙い撃ちにされる。それくらい、コキーラの話を聞いた時に思いつくべきだった。得体の知れない使い魔がうろついていることは知っていたのに、不用意だった。ロフズテルの使い魔のことで、冷静でいられなかった。

「くそっ……! 行くぞっ……!」
「ダメだっ……大事なものなんだろ!?」
「確かにそうだ。だが、諦めるわけじゃない! 来いっ!!」

 俺はそいつを無理矢理使い魔の上に引き上げた。

 猫を操り走り出す。森の中を駆ける俺たちに、何かが駆け寄ってくる。とっさに構えるが、走って来たのは、コレリールだ!
 そいつは、大きな剣を下げて、自分に向かって飛んでくる矢を斬り払いながら、こっちに向かってくる。

「師匠!! ご無事ですか!?」
「ああ……コレリール。回復の魔法を使えるか!?」
「はい!! もちろんです!!」
「こいつの回復を頼む!」

 俺は、使い魔の猫の上のゲキファの服を引っ張りながら言うが、コレリールはあからさまに嫌そうな顔をする。

「何でそんな奴を……嫌です」
「コレリール!! 頼むっ……!」
「な、なぜそんなに必死に……」
「こいつは俺を庇って負傷したんだ!」
「……師匠を?」
「ああ……腹立たしいが、放ってはおけないんだ」
「…………分かりました」

 嫌そうに頷いて、コレリールはゲキファに回復の魔法をかけようとする。けれど、ゲキファはあろうことか、魔法をかけようとしたコレリールの手を握りしめた。

「余計な真似するな…………あと、ヴァデスから離れろ……」

 こいつ……俺の使い魔の上でぐったりして、起き上がることもできないのに、何でそんな強がりを言えるんだ……

「おい! お前、自分の体がどんな状態かくらい分かるだろう! 大人しく回復されろ!」
「…………何でこんな奴に……」

 ぶつぶつ言いながらも、ゲキファは大人しくなる。そして、コレリールの方も、嫌々といった様子で、そいつの傷に触れた。

「何でこんな奴を……貴様など、師匠の頼みでなければ、絶対に回復していないんだからな!! ありがたく思え!」
「こっちだって、お前になんか、見つけてほしくなかった」
「それにしては、魔力を飛び散らすように飛んでいたじゃないか。助けに来るはずの学内警備隊に居場所を知らせていたんじゃないのか?」
「……うるさい」

 俯くゲキファは苛立っているようだった。こいつ……そんなことしていたのか……

 むやみに突っ込んでこいつを負傷させ、救援を呼ぶことも遅れた。今回はこいつらに助けられてばかりだ。

 くそ……仕切り直しだな……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

全寮制男子高校生活~行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた~

雨雪
BL
スイマセン、腐男子要素どこいった状態になりそうだったんでタイトル変えました。 元、腐男子が王道学園に入学してみた。腐男子設定は生きてますがあんま出てこないかもです。 書いてみたいと思ったから書いてみただけのお話。駄文です。 自分が平凡だと本気で思っている非凡の腐男子の全寮制男子校での話。 基本思いつきなんでよくわかんなくなります。 ストーリー繋がんなくなったりするかもです。 1話1話短いです。 18禁要素出す気ないです。書けないです。 出てもキスくらいかなぁ *改稿終わって再投稿も終わったのでとりあえず完結です~

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

処理中です...