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40.誤算

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「が、学内警備隊の方じゃないんですか?」

 そいつはキョロキョロして、俺の背後にいたゲキファを見つけたようだ。

「げ、ゲキファ……? 何でこんなところに……」
「ここで事故があったと聞いて来た。柵が壊れて、使い魔が逃げたらしい。知らないか?」
「柵が壊れた!? 何ですかそれ!! 初めて聞きました……」

 どうやらこいつも、柵が壊れたことを知らないようだ。だとすれば、やはり誰かが故意に柵を壊したのか……

 俺はそいつに近づいて言った。

「……他に逃げ遅れた奴はどれくらいいる?」
「え、えっと……多分、十人くらいだと思います……湖のあたりで実習をしていたら、突然、変な形の使い魔が飛び出して来て……みんな、散り散りに逃げたんです。何がどうなっているのか、僕にもわからなくて……」
「……コレリールを知らないか?」
「確か、使い魔を追って行ったと思います。この先です!! 湖があるんですけど、そこから使い魔が飛び出して来て、みんな散り散りになって逃げたんです!! だけど、何人かは使い魔に向かって行って……その中に、コレリールもいたはずです!!」
「分かった……」
「あ、あの……!! あなたは? この学園じゃあんまり見かけないですよね……?」
「……俺のことはいい。さっさと行け!!」
「は、はいっ……もちろんです! ほんとぉに……ぁりがとうございました!」

 礼を言うそいつの口の端が吊り上がる。目の端より高く、こめかみのあたりまで。

 口が裂けたっ……!?

 そいつの体の中の魔力が膨れ上がるのを感じる。

 しまった……!!

 俺は、即座に応戦しようとした。しかし、相手は既に俺の目の前まで迫っている。

 覚悟を決め、自分自身に防御の魔法をかける。多少のダメージはこれで防げるはず。
 腕の一本くらい持って行かれることも覚悟したが、俺に飛びかかってこようとしていた男は、ゲキファに蹴り飛ばされた。

 男はそばの木に叩きつけられるが、痛みを感じないのか、ニヤリと笑っていた。その視線は、自分を蹴り飛ばしたゲキファの足に向けられている。

 ゲキファの足には、そいつが残した爪が突き刺さっていた。

 罠だ。そう気づいた時にはもう遅い。

 突き刺さった幾つもの爪が爆発する。とっさに魔法で体を守ったのだろう、ゲキファが倒れることはなかったが、その体は大きく焼けてしまっている。

「ゲキファっ!!」

 すぐにそいつに駆け寄る。ゲキファの下半身は火傷だらけだ。すぐにその体に回復の魔法をかけようとしたが、ゲキファは俺の手を握り、背中に羽を作って空に飛び上がった。

 そのままゲキファは、俺を連れて森の中を飛んでいく。

「お、おいっ……ゲキファっ!?」
「……逃げなきゃ…………あいつ、何かの術にかかってる」
「さっきの男かっ!? それは見ればわかるっ! お前はさがっていろ! 俺が飛ぶっ!」

 もう、森の中にあいつの姿は見えない。けれど、いつどこから狙ってくるかわからない。今の、大怪我をしたゲキファに、俺を連れて飛んで逃げるのは無理だ。

 それなのに、ゲキファは羽を閉じようとしない。

「…………ヴァデスは俺のそばにいて。危ないから。周りから……異常な魔力を感じるっ!!」

 そう言って彼は羽を大きく羽ばたかせる。すると、俺たちに向かって来ていた水の矢が、俺たちに届く前に破壊されて落ちていく。

 まだ攻撃が来るのかっ……さっきのあいつの仕業か? くそっ……やはりこの森は異常だ。
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