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34.キノコみたいに生えてくる男

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「俺はロフズテルの使い魔を見たいだけだ。貴様らの命など、塵となって消えようが、使い魔の餌になろうが、痛くも痒くもない。むしろ、腹を抱えて笑いたいくらいだ」

 キッパリと、嘲りと共に言ってやると、コキーラが俺を見る目が厳しくなる。

「……そうかよ…………やっぱり聞いてた通りの下衆だな」

 やはり俺はこうでなくては。やっと俺は安心した。俺は俺の野望のために動いている。変に感謝などされたら気持ち悪いわ!

「ふん! そのクズに助けられるしかない貴様は惨めだな! 向こうに戻ったら、ツナ缶を積む用意をしておけ」
「ああ。帰ったら、必ず礼をする」
「は!? な、なんだと? 必要ないっ!! 貴様、俺の話を全く聞いていないだろう!! 俺は決して貴様らを助けに来たわけじゃないんだ!!」
「そうであったとしても、命を救われて、何もしないわけにはいかない。借りは……必ず返す。俺も、コガル家に生まれた男だ」
「コガル……?」

 コガル家といえば、その商才を買われ、ずっと精霊との交易の交渉を行ってきた一族だ。精霊からの信頼も厚く、交易拠点であった港町に、陛下から屋敷を授かるほどの一族だったのに、先先代が精霊族の交易相手を怒らせて、大騒ぎになった奴らじゃないか。なんでも、精霊族の積荷に支払うはずの金を誤魔化していたらしい。
 怒った精霊族は、コガル家を皆殺しにする勢いで攻め入ってこようとしていたらしいが、その時に間に入って精霊たちを宥めたのが、ドグフヴル家だったはず。ドグフヴルの力があって、コガル家は今でも王城にいて、精霊族との交渉を担っているが、実際は、ドグフヴル家の補佐程度しかしておらず、実質的には、伯爵の部下といったような立ち位置になってしまった。

 なるほど、ゲキファを恐れていたのはそのせいか。キュラブはゲキファを後継者として育て、今では精霊たちとの交渉の一部はゲキファが行っている。ドグフヴル家の後継者であるゲキファを怒らせれば、コガル家は城にいられないどころか、交渉の場から爪弾きにされ、最悪、再び精霊たちが攻め入ってくるかもしれない。

 盗みを働いたのはコキーラではないし、コキーラにしてみれば、さぞかし迷惑だったろう。八つ当たりの一つもしたくなるのはわかるが、俺は今朝のことを許した覚えはないし、こいつを助けに来たりもしない!! あくまで使い魔のためだ!

 紛れもなくそれが事実なのだが、そんな風に恩を感じられると、悪い気はしない。というか、むしろ嬉しい。そして、それを嬉しいと思う自分が嫌だ!! こんな奴に礼を言われたくないし助けに来たとも思われたくない!

 それなのに、コキーラは使い魔の上から俺に微笑んだ。

「ツナ缶でいいのか?」
「……今のは冗談だ。惨めで哀れで臆病者の貴様から受け取るものなど、なにもないわ!」
「……本当にムカつくやつだな……ツナ缶くらいならすぐに用意する」
「やめろ気色悪い!! いいか! もう一度言うぞ!! 貴様など、絶対に助けに来てないからな!! 礼を言われて嬉しいとも思ってないからな!!」

 馬鹿な奴だ。俺が今こうしているのは、ロフズテルの使い魔を探すためだというのに。

 もうさっさと森の外に放り出してしまおう。

 俺は、使い魔の鳥を操り、空に飛び立たせた。

「コキーラ、巻き込まれた奴らは何人かわからないか?」
「俺には何も…………俺も、回復したら必ず、加勢にくる!」
「馬鹿が! 来るな!! 後の連中は俺が探し出して外に放り出す! 絶対に来るなよ!」

 使い魔探しの邪魔になるやつが戻ってきたら、俺が苦労した意味がないだろう! こいつ、分かってない!

「いいか! 貴様はここには戻らずに、保健室のベッドででも寝ていろ!!」
「それと、ヴァデスに助けてもらったからって、いい気にならないように」

 隣から、聞き覚えのある的外れな忠告が聞こえた。

 ゾッとして、それは幻聴だと思いたかった。しかし、恐る恐る声のした方に振り向けば、さっきまで誰もいなかったはずの俺の隣に、平然と、まるで当然のようにゲキファが立っている。

 使い魔の上のコキーラは、突然、頭の上がらないゲキファが出て来て、真っ青だ。

「げ、ゲキファ様!? な、なぜこんなところに!? ここは危険でっ……は、早くこっちへっ……!」
「俺はヴァデスと一緒にいる。そんなことより、ヴァデスに助けてもらったからって、勘違いするなよ」
「は!?」

 何を言っているんだこいつは!

 もう話が面倒臭くなる前に、俺は使い魔を操り、学園の方まで飛ばした。コキーラが使い魔の上で何か喚いていたが、それに構うことはできず、急いで飛ばしてしまった。
 ゲキファを置いていく形になって、またあいつの心労が増えそうだ。そろそろあいつにも同情するぞ。

 俺は、いつのまにか隣にいた男を睨みつけた。

 なんだこいつ。なんでいつも、俺のいるところにキノコみたいに生えてくるんだ!! キノコでなければ幽霊だ!! 気持ち悪い!

「何だ貴様は!! なぜここにいる!?」
「ヴァデスが危険な森に入ろうとしているから……心配で来ちゃった」
「危険はお前だ!! 毎回毎回毎回毎回、俺のいる場になぜか生えてくる貴様の方が、森なんかの一億倍危険だ!!」
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