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29.冷静に
しおりを挟むとにかくこれ以上騒がれては変に目立ってしまう。そして、この二人に大人しくしろと言っても、それは無駄だということに気づいた。
状況を理解し、常に臨機応変に対応策を考えるべきだ。
そう思った俺は、カフェへ戻り、テイクアウトのサンドイッチとコーヒーを持って、この時間は人気のない高台の広場へ来た。校舎から少し離れた、学園が見下ろせるここは、夜には美しい夜景が見られる場所として人気なのだが、朝のこの時間に、こんなところまで上がってくるやつはあまりいない。
今も、いくつかあるベンチには誰もいなくて、木立が揺れる音が聞こえるだけだ。
そこに二人を座らせた俺は、二人に振り返って仁王立ちになった。
「いいか!! 貴様ら!! 魔法を教える件と番犬の件は許可してやる!! だが、俺の邪魔をするなら即座に消す!! 分かったら、人の多いところで師匠だの飼い犬だのと喚くな!!」
すると、俺を見上げたコレリールが、不満そうに言った。
「しかし、師匠。僕が師匠の弟子であることは、学内に広めておくべきです! そうでないと、他の者が師匠に破壊の魔法を教わろうと近づいてくるかもしれません!!」
「来たとしても教えない。俺が弟子にするのは唯一、貴様だけだ」
破壊の魔法は、元々イメージが悪いところに、王が独裁の兵器としようとした魔法という噂までくっついて、学内では毛嫌いされている。コキーラのようにあからさまな行動に出るやつは少ないが、俺に対する印象は、その魔法を研究して追い出された下衆、そんなところだろう。
今の状況で、破壊の魔法を教わろうとしてくるのは、岩の庭園目当ての輩と見て間違いない。貴族が後ろにいるか、もしかしたら、クレレーイト公爵の回し者かもしれない。
相手にしないほうが得策だ。
「俺が破壊の魔法を教えるのはお前だけだ。余計な心配はするな…………」
何でコレリールは、さっきから俺をキラキラした目で見ているんだ……? なんだか怖いぞ。
視線が重くて、それに押されるように一歩下がるが、コレリールは俺の両手をギュッて握る。
「ありがとうございます!! 師匠っ……! ぼ、僕……頑張ります!!」
「あ……ああ……」
なにがそんなに嬉しいんだ、こいつは……
しかも、その隣にいるゲキファが、これから人でも殺しに行きそうな目で、コレリールを睨んでいる。そして、突然立ち上がったかと思えば、俺を抱き寄せてコレリールから引き離した。
「お、おいっ……! ゲキファっ! こういうことはやめろと言っただろうっ……!」
怒鳴る俺から、ゲキファはすぐに手を離す。だけど、そうしたことを失態とは思っていないらしい。
「……そいつは昨日、ヴァデスを襲ってる。危険を感じたから引き離しただけ」
「……貴様に守られずとも、俺は自分で」
「俺のこと番犬にしてくれたのに?」
また恨めしげな目で見下ろされて、俺は言葉に詰まってしまう。こいつの目、苦手だ。そんな風に、真っ直ぐに見られること、あんまりなかったからか? どうしても、目を逸らしたくなる。
「と、とにかく、突然引き寄せるのはやめろっ……! お前にそうされると、冷静でいられない……」
「………………え?」
「貴様の行動は、俺の思考を乱す。分かったら、突然抱き寄せるな」
「…………分かった」
ゲキファが承諾するのを聞いて、少し安心した。物分かりが悪いわけではないようだ。
だけで安心したのも束の間、そいつは体が触れそうなくらい近くに立って、俺を見下ろし微笑んだ。
「じゃあ、ずっとヴァデスのそばにいる」
「は!?」
全然分かってない……むしろこいつなんか嬉しそうじゃないか? どうかしてる……
「俺、ヴァデスの飼い犬だし」
「…………勝手にしろ」
説得は無駄。状況を理解し、打開策を探すんだ。もうゲキファは犬、コレリールは弟子でいい!!
そもそも、俺はこいつらを籠絡し、研究所を再興するために来たんだ。だったら、その作戦はこの上なくうまくいっているじゃないか。うん。うまく行っているんだ。
ただ一つの問題は、こいつらがいちいち睨み合いをすること。いちいち喧嘩をされたら目立つし、内部でいがみあっていては、目標を達成できない。
「いいか。貴様ら。俺の弟子と犬にしてやる。だから、いちいち睨み合うのをやめろ。目の前で言い合いをされては、俺が迷惑だ」
すると、二人とも顔を見合わせて、俺に振り向く。
「師匠、僕はこいつが気に入りません。そばにいるだけで不快です」
「よく言うよ……俺だって、コレリールがヴァデスに近づかなければ、睨んだりしない」
そしてまた始まる睨み合い。最初に戻った。ここまで俺が話したことが無駄になっている。
こいつら……もう頭から破壊してやろうか。
……冷静になるんだ、俺。
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