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27.分かってない
しおりを挟む「お、おい!! 離せっ……! いい加減にしろ!!」
暴れようとするが、俺を背後から抱きしめるゲキファにとっては、抵抗とも取れないようなものなのか、全く振り払えない。それどころか、ますます俺を抱きしめる力が強くなっていく。どれだけ足掻いても逃げられない腕に捕まって、俺は初めて怖くなった。
「や、やめろっ……! 離せ!! 俺は……無理矢理されるのは嫌いだ!!」
「えっ…………」
やっとそいつの手が緩む。その隙に逃げ出した俺は、走り出そうとする足を抑えた。逃げ出すのは癪だ。
俺は本気でキレているのに、そいつはあっさり俺に謝る。
「ごめん…………」
「貴様のそういう態度も腹が立つ!! あ、謝るくらいなら最初からするな!!」
「もうしないっ……!! 怖がらせてごめん……」
「怖がってなどいない!! そういうところも腹立たしいっ……魔力で強化した体で抑え込んでおきながらっ……!」
「え……? 魔力強化はしてなかったんだけど……」
「黙れっっ!! 馬鹿力め……!! す、少し力があるからっていい気になるなよ!!」
「そんなつもりじゃないよ……」
くそっ……! 何なんだこいつはっ……!
俺はついにそいつに背を向けて歩き出した。
いちいち俺のペースを乱して、どういうつもりなのか。ついてくる男に、怒りばかりが湧いてくる。
「いいか!! 俺は予定外の行動をとられるのが嫌いなんだ!! よって俺の予測の範疇をこえる貴様のことは嫌いだ!!」
「きっ…………」
「俺が貴様をそばに置いているのは、貴様が俺の知らないところで勝手な行動をとると面倒だからだ! それに、隙があれば、貴様を利用するためだ!! 分かったら、予定外の行動を取るな! 黙って犬のように大人しくしていろ! お手と言ったらお手だ!!」
「…………お手は無理だけど……」
そっちはただの冗談だよ!!
焦る気持ちから逃げるように早足で歩く俺に、ゲキファもついてくる。
「…………俺がそれ守ったら……ゲキファのそばにいていい?」
「…………守ればな」
……なんなんだ、こいつは!
利用してやると宣言されてるんだぞ!! 何でまだ俺のそばにいたいんだっ……!
俺はこんな態度なのに、何でまだついてくるんだ。
俺のことで勝手にキレたり……変な奴だ!!
カフェでのことを思い出して、勝手に俺の足は止まってしまう。
こいつ……俺のことで怒ったんだよな……変な奴……だけど、俺のことでキレる奴なんて、初めてだ。
突然俺が立ち止まり、ゲキファも立ち止まる。
「ヴァデス……?」
「…………お、俺がからかわれたことに対し、い、怒りを感じたことだけにはっ…………礼を……言ってやらなくもない……」
「……え?」
見上げたゲキファは、首を傾げている。察しの悪い奴だっ……!
顔を上げる。運悪く、ゲキファと目があう。すぐに視線を逸らしたくなる。なぜなんだ。
「……あ、ありがとう………………と言ってやらなくもない……と言っているんだ……」
何を言っているんだ。俺は……
今度は自分まで、予定外の行動をし始めた。
俺自身も何を言っているのか分からないのに、ゲキファはやけに嬉しそうに微笑む。それだけならいいのに、そいつは俺の手を握ってきた。
「お、おいっ……!」
「お手」
「は!?」
「できたから、ヴァデスのそばにいていい?」
「馬鹿! これのどこがお手だ! 急に握るな!!」
「……分かった。急に握ることはもうしない。やり直す」
「しなくていい! 離せ!!」
やっぱりこいつ、おかしい!!
手を振り払って歩き出す。ゲキファもついてくる。
「番犬でいたら、ヴァデスのそばにいていい?」
「…………お、大人しくしていたらな……」
「分かった。ご主人様」
「ご主人様はやめろ!!」
「なんで?」
「伯爵の息子のお前が俺をご主人様と呼んで学内をうろついていたら、すこぶる目立つだろう!! 目立つ行動は避けろ!」
「分かった。飼い主様」
「分かってない!! 全く分かってない!!」
なんだこいつ!! 分かる気あるのか!?
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