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15.言いたいことがあるなら言え!

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 俺はゲキファに手を引かれ、店を出た。

 さすがに王に同情する。あんな調子じゃ、コレリールはこれまでにも問題を起こしてきたに違いない。死ぬ気でもみ消しに走った王は、さぞかし心労が溜まっているのだろう。

 気の毒だが、もちろん、手を緩める気はない。

 そして、後はこいつだ。

 俺は、大通りに出てからも俺の手を離さずにいる男を見上げた。

 ゲキファ・ドグフヴル。俺があの海辺の研究所にいた時に、時々顔を出していた。俺を裏切り、研究所を閉鎖し、俺の師匠であった所長を処分したキュラブ・ドグフヴル伯爵の息子。
 キュラブは魔法学に精通し、水の魔法の威力をより高める方法を編み出した学識豊かな男でありながら、港町を統べる領主として、交易の才能もあるのか、一代で寂れた港町を異国の船が絶えない交易地にまでのし上げた。海辺の研究所は、そんな港町の一角にあって、異国からきたさまざまな種族の研究者が集う場所だった。
 キュラブが首を縦に振らなければ、あの研究所の再興はあり得ない。

 そして、あいつの後継者と言われているのが、この男、ゲキファだ。

 ゲキファは大通りから離れていき、いきなり立ち止まると、俺に振り向いた。

「少し……歩ける? 寮まで送る。俺の部屋へ行こう?」
「行かない」

 キッパリと、断る。

 相手は目を丸くしているが、そんなことはどうでもいい。何を勝手なことを言っているんだ。さっき襲われそうになったのに、別の敵のところへはいきたくない。部屋など、もってのほかだ。相手の領域にそう簡単に足を踏み入れるなど、自ら罠に足を突っ込むようなものだ。

 さっきも、あの飲食店には行くべきではなかった。反省し、善処する。これも大切なことだ。

 しかし、ゲキファはなおも食い下がる。

「…………だけど、一人じゃ危ないんじゃ……」
「黙れ! 寮へは一人で帰る!」

 俺は、そいつを睨みつけた。

 こんなことを言うのは、こいつも俺の正体に気づいているからだろう。破壊の魔法を持つ俺を危険視しているのか、それとも、まさか俺の目論みに気付いたか?

 どっちでもいい。さっきのことがあって、冷静になれない。とりあえず部屋に戻って、頭を整理する!

 ゲキファを置いて歩き出すと、後ろから駆け寄ってくる足音がする。

「待ってっ……! ごめん……」
「何だ貴様は。俺に何の用だ!」
「俺のこと、覚えてない? ゲキファ! 海辺の研究所で」
「黙れ。覚えている。研究所の隅っこにいた子犬だろう」
「……覚えてて……くれたんだ…………」
「小汚い犬が俺のツナ缶を羨ましそうに見ていたから覚えていただけだ!! 言っておくが、先ほどのあれを助けたなどと勘違いするなよ。お前が勝手に入って来て、勝手に俺を連れ出しただけだ。お前が来なくても、俺は魔法で切り抜けていた」
「………………ヴァデス、もう少し、気をつけたほうがいい。コレリールは、ヴァデスの破壊の魔法に目をつけている」
「貴様にそんなことを言われなくはない!! だいたい、気をつけろと言うなら、お前もだろう!!」
「え……?」
「俺をどこへ連れて行く気だ?」

 俺は、ゲキファに振り向いた。ゲキファの目が驚愕に染まる。よほど驚いたのだろう。

 ゲキファは、俺と話しながら、周囲に結界を張ろうとしていた。俺に気づかれずに、俺と二人きりになる予定だったのだろう。だが、そんなことに俺が気づかないとでも思ったのか? 俺はすでに、結界を破る魔法を使っている。

「これが、破壊の魔法だ。驚いたか? 破壊の魔法を使う俺を相手にするなら、結界の全体に魔力を張り巡らせるか、結界に気づかれない魔法を使うかするんだな」

 たっっぷり馬鹿にしながら言うと、ゲキファは負けを認めるどころか、頭をかいて俯いた。舐めた態度だ。俺をバカにしているのか?

「二人になりたかったのだろう? おあつらえむきに夜も更けて暗く、この辺りは人通りも少ない。結界などなくとも、人など来ない。言いたいことがあるなら言え!!!!」

 俺は、自分にわからないことがあるのが嫌いなんだ。不愉快な気分になる。
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