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31.やってみたいけど……言えない……

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 それから、屋根に上がったリールヴェリルス様が結界を張ってくれて、宿と、その周辺の店の辺りを守ることができた。

 宿の状況も聞いたけど、たまにこうして、周りの店の人たちがこの地を守って、戦える人が魔物を退治しに行くらしい。けれど、魔物の数を減らすには至っていないようだ。

 宿も周辺の店も、営業はしているようだが、以前は多くの冒険者で賑わっていたここも、今はすっかり客が減り、みんなでここを守るだけで精一杯。

 デルフィルスさんは、昨日魔物を退治して来たから、しばらくはもつと考えていたけど、また宿に魔物が入ってきて、ショックを受けていたようだ。それでも、リールヴェリルス様が結界を張ってくれて、安心したみたい。

 明日から、僕らも魔物退治に同行することが決まり、しばらくはここに泊めてもらうことになった。

 予定とは少し違ったけど、今日の宿が決まり、装備も整えられそうで、僕はホッとした。

 それから、リールヴェリルス様がデルフィルスさんたちと周辺の結界を見て回ることになり、僕の方は、武器と魔法の道具の整備を頼まれた。いくつか使えなくなっている武器や道具があるらしい。

 一人でロビーに座り込んで作業を始めると、少し落ち着いた。初対面の人ばかりで、ドキドキしていたんだ。

 宿のロビーに並んだ本も見せてもらえることになって、本当に嬉しい。ついでに、デルフィルスさんが腰に下げていた剣も借りたかったけど、今から魔物がうろつく森に行くらしいし、夜に貸してもらえないか、聞いてみよう……

 こんなにたくさんの魔法に関する書物を見たのは初めてだ。魔法に関する本って、こんなにあるんだ。

 それに、リールヴェリルス様が魔法の道具をたくさん貸してくれた。ロビーのテーブルが本と魔法の道具でいっぱいになっちゃったけど、デルフィルスさんが「かまいませんよ」って言ってくれて、少しの間、ここを貸してもらうことにした。代わりに、結界の道具を整備してほしいって言われて、僕はそれの整備をしながら、結界の本も借りることにした。

 普段、武器の整備をすることの方が多いから、結界の道具を見るのは久しぶりだ。

 デルフィルスさんが渡してくれたのは、槍のような形をした、結界の道具。これを刺して結界を張るものだけど、こんなの、初めて見た。

 かなり高度な結界の道具だ……きっと、竜族の技術を使っている。竜族の魔法か……僕たちがこれから向かうのは、竜族の国。そこに、魔法の剣を取りに行くんだ。

 竜族の国には、この辺りにはない、特別な武器や道具が多くあるらしい。特に、王都の方に行くと、瀕死の人も一瞬で回復させるような武器があるって、トリステリクさんが話していた。

 見てみたい……

 だけど、僕らの目的は、リールヴェリルス様の魔法の剣を手に入れに行くこと。王都に行って、回復の道具を見てみたい……なんて言えない。

 強化した結界の槍を高く掲げる。

 立ち上がったら、手に力が入らなくて、槍を落としそうになってしまったけど、それで試しに小さな結界を張ってみると、手のひらに収まるくらいの小さな球の形の結界ができた。強度も、結界を張る速さも、これくらいなら、この宿を守ることはできそうだ。

 よかった……完成した。

「…………フォルイト」
「え? わっ…………!!」

 びっくりした……いつのまにか、すぐそばにリールヴェリルス様がいた。彼は、僕が座っているソファのすぐ隣に座って、僕のことを眺めている。

 ど、どうしよう……いつからいたんだっ!?? ぜ、全然気づかなかった……

「ごめんね。驚かせて。夢中になってた?」
「……は、はい……も、申し訳ございません! き、気づかなくて」
「いいよ。そんなの。ずっとフォルイトを眺めていてもよかったんだから」
「………………あ! け、結界の道具……できました……」
「そう……見せてもらってもいい?」
「はい! も、もちろんです!!」

 言って、リールヴェリルス様に槍を渡す。
 彼は、それを握ったり、小さな球のような結界を張って確かめていた。

 な、なんだか……緊張する……き、気に入ってもらえるかな……?

 ドキドキしながら、リールヴェリルス様の方に注目していると、彼は僕ににっこり微笑んで言った。

「………………よくできてる……随分強い結界が張れるみたいだ」
「は、はい!! あ、ありがとうございます!!」
「……魔物の素材を使ったの?」
「はいっ……! 結界を張る時の魔力の量を抑えられるかなって思って……」
「うん…………できると思う……さすがだね……」

 そう言って、リールヴェリルス様が微笑んでくれるから、嬉しくなる。

 僕……リールヴェリルス様の役に立てたんだ……

「……ありがとうございます…………そうだ! あのっ……これっ……! トリステリクさんに借りた剣……これも、強化が終わってて……」
「トリステリクが……? ………………貸してくれたの?」
「は、はい!!」

 トリステリクさんも、僕がじーっと物欲しそうに見ていたら、貸してくれたんだ。「強化が好きなのか?」って言って。魔物退治に行く時に武器がなくても平気なのかと聞いたら、他にもいくつか愛用の武器があるらしい。
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