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28.僕はもう彼と出発してるんです
しおりを挟むホッとしたのも束の間、激しい怒鳴り声が宿の中に響いた。
「…………なんだっ……!? 今のはっ……!!」
ゾッとするようなその声に、僕は、聞き覚えがあった。驚いて振り向くと、壊れた扉のところに、数人の男たちが立っている。あのパーティー以降、二度と会いたくないと思っていた奴らだった。
「……なんなんだ! 今のはっ……なぜあんなことができる!?」
そんな風に驚きたいのはこっちの方だ。
入口の方からゾロゾロ数人の男たちが入ってくる。豪華なマントに記された、王城の討伐隊である証拠の輝かしい紋章を、これ見よがしに見せつけて歩くその一行は、ランギルヌス殿下の魔物討伐部隊に所属している、数人の魔法使いたちだ。
そして、その真ん中で、レグッラが驚いてこちらを指差していた。
なんであいつらがこんなところにっ……まさか、追っ手……!?? 僕らを追ってきたのか? あのパーティーで、だいぶ腹を立てていたみたいだし……
だけど、レグッラはランギルヌス殿下の護衛のはずだ。じゃあ……ランギルヌス殿下もいるのか!?
そう思ってキョロキョロしてみたけど、ランギルヌス殿下はいない。あんなことがあった後だし、腹を立てて僕らを拘束に来て怒鳴りつけていそうなのに。
レグッラの顔を見ると、地下に連れて行かれて、枷をつけられて、激しく痛めつけられた時のことを思い出してしまう。それに、城でしょっちゅう蹴られていたことも。魔法の道具の整備が間に合わなくて、何度も殴られて、激しく怒鳴られ続けたことも。
なんで……こんなところにいるんだ……また、ひどいことをされなきゃならないのか?
城でのことを思い出して、ひどく恐ろしくて、僕は気分が悪くなってきた。ひどい動悸がして、軽く眩暈がしてくる。気持ち悪い……
城でレグッラに会うことなんてしょっちゅうだったし、あの時からこいつのことは苦手だったけど、こんな風に怖がることはなかった。むしろ、いつも諦めの感情ばかりが湧いて、抵抗する気も起きないくらいだったのに。
だけど今は……あの日々が戻ってくるような気がして、怖くてたまらない。
リールヴェリルス様と会ってから、城でのことを思い出すことなんて、なかったのに。
怯える僕を、リールヴェリルス様が抱きしめて隠してくれる。
するとレグッラは、あの城にいた時のように、僕を怒鳴りつけた。
「……フォルイト!! なんだ今のは!! なぜお前があんな魔物を捕らえることができるっ……!? 答えろっっ!! どういうつもりだ!!!!」
あんな魔物……? さっきの、見てたのか?
だけど、なんでそれで僕が怒鳴られているんだ?
ひたすら僕を怒鳴りつけるレグッラを、リールヴェリルス様が睨みつけた。
「フォルイトを怒鳴るな。こいつの能力に、お前らが気づかなかっただけだ」
「……そいつの能力だと……? ……まさか……その無能に、そんな力があるわけがない…………!」
そう言いながらレグッラは、僕が握っている檻の道具を睨んでいた。
リールヴェリルス様は、その男を睨みつけて言った。
「全く目障りな連中だ……お前、確か、俺のフォルイトをあの会場で殴った男だな?」
「黙れっ……! は、反逆者どもめっ!! ランギルヌス殿下のパーティーを台無しにしておきながらっ……のうのうとこんなところで遊び歩いてっ……許されると思っているのかっ……! ランギルヌス殿下のご命令だっ……お前たちを拘束する!!」
「王族のパーティーをぶち壊した俺を追ってくるのが、お前たちだけか? ……もう見捨てられているんじゃないか? お前たち」
「な、なんだとっ……くっ、口の減らない男だ! パーティーを台無しにした反逆者の分際でっ……! 今すぐ王城に戻り、謝罪してもらおうか!!」
それを聞いてリールヴェリルス様は、顔は全く笑っていないのに笑い声を上げた。
「パーティーだと? ああ、あの、悪趣味でくだらないくせに豪華絢爛なあれのことか? 台無しとは心外だな。俺は、迷惑な馬鹿騒ぎをお開きにしてやっただけだ」
「き、き、貴様っ…………無礼にも程があるわっ……!」
「無礼はどっちだ……国境がこんなことになっているときに、ここの安全を守るための砦の主は、豪華なパーティーで遊び惚けてましたって暴露に来たのか?」
リールヴェリルス様がそう言うと、トリステリクさんが、レグッラたちを睨みつける。
あの討伐隊のパーティー、ランギルヌス殿下の隊長就任を祝うためとはいえ、各地で魔物が増えている最中に行われたって、リールヴェリルス様が言ってた。
国境周辺までこんなことになっている時に、討伐隊の隊長になる人がそんなことをしているなんて、魔物に苦しめられている人たちからしたら、ひどく腹立たしいことだろう。
リールヴェリルス様は、肩をすくめて言った。
「それで? さっきから謝罪だのなんだの、偉そうに言っているが、いつになったらかかってくるんだ?」
「な、なんだとっ…………か、かかって行く必要など、ないだろう! 貴様らが大人しく拘束されればいいだけのことだ!」
「全くそんなつもりはないし、そんなことをしなくてはならない理由もない。さっさと来い。その方が、俺は都合がいい…………」
リールヴェリルス様に言われて、レグッラたちは黙ったまま。
リールヴェリルス様は、すでに魔法をいつでも放てる体勢になっている。
だけど……
僕は、彼の服を強く掴んで止めた。
「……フォルイト?」
リールヴェリルス様が、心配そうに僕を見下ろしている。だけど、あの時、一番最初にパーティーを台無しにしたのは僕だ。僕があの会場に飛び込んで喚いたんだ。僕を利用して、リールヴェリルス様を殺すつもりだったんだろうって。
あいつらだって、王子殿下のもとから来ている。下手に抵抗すれば、リールヴェリルス様が責められる。
怯えている場合じゃない。彼を守らなきゃ。
僕は、檻の道具を握った。それはすぐに人が数人入れるくらいに大きくなって宙に浮き上がる。
レグッラたちは、さっき僕がこれで魔物を捕らえたところを見ている。これがなんなのかも分かるようで、驚きの声を上げて、数歩下がっていた。
僕たちは、拘束される気なんてない。あのパーティーで、僕を見せ物にして拷問して……リールヴェリルス様のことも、殺す気だったくせに。
「…………帰ってください。僕はリールヴェリルス様と旅に出たんです。王家だって……許可したはずです!」
「……っ!」
生意気な口をきいた僕に腹を立てたらしく、レグッラが僕に杖を向ける。
だけどその時、宿の壊れた扉の方から、ザワザワと人の声がした。
振り向けば、数人の男たちが宿の中に入ってくる。どうやら、この宿で働いている人たちみたいだ。武器を下げているところを見ると、魔物退治から帰ってきたところなんだろう。
彼らは、すぐに僕らに気づいたみたい。トリステリクさんの知り合いらしく、トリステリクさんは彼らに駆け寄っていった。
「お前らっ……! 無事だったのかっ!!」
「トリステリク? お前こそ……ど、どこ行ってたんだ!! 心配したんだぞ!!」
そう言って、口々に彼の無事を喜ぶ面々に、トリステリクさんは少し照れくさそうに「悪い……」って、頭を下げていた。
そして、トリステリクさんの仲間のうちの一人が、僕らに気づいたらしい。
「……あっ!! と、討伐隊の方ですか!?? よかった……助かった!! 来てくださって……あ、ありがとうございます!!」
そう言って、彼は僕の方に駆け寄ってくる。「ありがとうございます! 助かりました!」って言ってくれるけど、僕は、討伐隊なんかじゃないんだ。
「……ち、違います…………すみません……僕は、討伐隊なんかじゃないんです」
「え…………」
すると、トリステリクさんが、レグッラたちを睨みつけて言った。
「討伐隊は、あっち。今はパーティーの話をしたいらしいけど」
それを聞いて、レグッラは、トリステリクさんを怒鳴りつけた。
「だ、黙れっ……!! 我々は、今は討伐隊ではないっ……! その男たちを拘束しに来たんだっ……!!」
焦り始めたレグッラに、リールヴェリルス様が冷たく言う。
「俺たちを捕らえるのは、王子殿下の命令だと言ったな? 王家からじゃないのか?」
「そ、それはっ…………ど、どっちからでもいいだろう!」
「どちらからでもよくはない。何しろ、王家からは魔物の討伐に集中するようにと、通達が来ているはずだからな」
「な、なぜそれをっ……!」
「俺たちの旅の状況は逐一報告することになっている。ここへ来るまでの魔物の状況や、国境近くで魔物がひどく増加していることも、すべてだ。優秀な伝達係が、恐ろしい速さで伝達してくれているんだ。なあ?」
リールヴェリルス様にそう言われて、クイヴィーアさんは嬉しそうに笑う。
ますます顔色が悪くなるレグッラを、リールヴェリルス様は鼻で笑って言った。
「もちろん、王城の情報も入ってきている。お前たちがここにいて、そんなことを喚くのは、どうせあの間抜けな王子の独断だろう? 俺たちは、拘束されてやる気なんてない。これだけ魔物が増えていることが貴族の間で噂になり、王家の方も、誰からも白い目で見られているパーティーのことで喚くよりここの魔物を片付けろと、珍しくまともなことを言っている。お前の言うことに従ってやるいわれはない」
「ぐっ……!」
言葉を詰まらせるレグッラ。王家からの命令と言う大義名分をこの場で打ち消されちゃったんだから、もう反論することもできないらしい。
今しがた討伐から帰ってきた面々の一人が言う。
「あの……王家の討伐隊の方ですよね? 魔物討伐に来てくださったんじゃないんですか……?」
「だ、黙れっ……! ま、魔物だなっ……!! そ、それならっ……! これからなんとかしてやるっ……! これから装備をとりにいく! そこで待ってろ!!」
そう言い捨てて、レグッラは僕らの方には「貴様らはそこで待っていろ!!」と喚いて、うろたえている部隊を連れ、宿を出ていった。
リールヴェリルス様が、破壊された扉を魔法で修復して、外に出たレグッラたちに向かって言う。
「外には魔物が多いらしい。この宿と周辺の民家と民たちは俺が守っておくから、お前たちは思う存分、魔物を退治をしてこい」
「なんだとっ……! おいっ……!! 待て! リールヴェリルス!!」
青ざめるレグッラを無視して、リールヴェリルス様は、修復したばかりの扉をバタンと閉めてしまった。
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