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27.こっそり進めないかな……
しおりを挟むトリステリクさんは、僕から剣を遠ざけてしまう。とったりしないのに……
そして、使い魔の竜から降りながら言った。
「……ったく、能天気な野郎だ! 魔物が出るかもしれないんだぞ! も、もっと緊張感を持て!!」
「すみません…………つい、珍しいものだったんで……」
「そうでもねーよ……だいぶ俺好みに強化はしてあるが……冒険者なら、愛用の武器くらいは持ってるだろ」
「……僕、冒険者の方に会ったのも初めてで…………そんな風に装備を使うんだなって思ったら、なんだか嬉しくて……」
「はあ? 冒険者なんか、どこにでもいるだろ。王都の方にも、でかい冒険者ギルドがあったはずだ。なんで会ったことねーんだ?」
「え……えっと……」
僕は昔から、恥晒しは顔を見せるなって言われて、屋敷の奥で魔法の道具と武器の整備だけずっとさせられてたから、冒険者になんて、会えなかった。だからこうしてトリステリクさんと話すと、初めて知ることがたくさんあるんだ。だけど、そんなこと説明するのもな……
「え、えっと……僕、武器の整備をしていて………………わああっっ!!!!」
話しながら、僕も使い魔の竜から降りようとしたら、頭から落ちそうになった。
リールヴェリルス様が抱き止めてくれたけど、早速また落ちそうになって、ひどく恥ずかしい。
トリステリクさんも、心配そうに言った。
「……大丈夫か? せっかく宿に着いたんだし、落ち着けよ……」
「は、はい……ありがとうございます」
僕はそう言って、リールヴェリルス様に振り向いた。
「り、リールヴェリルス様……今日はここで休んでいかれるんですよね?」
「うん。すぐに国境の砦に向かってもいいけど、この辺りには、思ったより魔物が増えているようだし、竜族の国に入ってからの魔物の状況も知っておきたい。情報収集と、しばらくはここで装備を整える。それに、いくつかここでしか売っていない道具も揃えておきたい……フォルイトの魔力も回復させたいしね」
「あ、ありがとう……ございます…………」
僕がお礼を言うと、リールヴェリルス様は微笑んでくれた。
だけど、国境近くの砦と聞いて、僕はひどく恐ろしくなった。
竜族の国へ行くためには、国境の砦の門から出なくてはならない。この辺りの魔物の討伐を担っているのもそこで、その砦を管理しているのは、キディアスの一族だったはずだ。もうあいつらには会いたくない……留守の間に通れたりしないかな……
リールヴェリルス様が、トリステリクさんにたずねた。
「後でここを案内してくれるか? 周辺の魔物の状況も知っておきたい」
「は、はいっ……あ、この辺の魔物の状況なら、宿の主の方が詳しいと思います。俺、案内します!」
そう言って、トリステリクさんは、宿の方に走って行った。
僕も、リールヴェリルス様に連れられて宿に入ると、そこは、広い玄関で、いくつかのテーブルと椅子が並んでいた。
壁には一面、大きな本棚があって、ズラッと本が並んでいる。まるで図書館だ。本は、魔法に関するものもあるけど、魔法の道具に関するものもあるみたい。
すごい……あんなにたくさん……後で読ませてもらおう……
だけど……
今度はお客さんどころか、宿の人まで誰もいない。奥にあったカウンターにもいない。なんだか怖くなってきそうだ。
「な、なんで……誰もいないんでしょうか……」
僕がビクビクしながら周りを見渡して言うと、トリステリクさんが苛立った様子で答えた。
「全員、魔物退治に出かけてるんだろ……どうせ客なんていねーしな……奥の方に行けば、宿の主がいるはずだ。呼んで来てやるよ。待ってろ!!」
そう言って、彼は、奥にあった扉の方に走っていく。
けれどその時、僕たちが入ってきた扉の方から、激しい轟音がした。扉は吹き飛んで、森の中で何度も見た巨大な虫のような魔物が中に飛び込んでくる。
嘘だろっ……みんなが利用する宿にまで、魔物が入ってくるなんてっ……!!
それは、扉の一番近くにいたリールヴェリルス様に飛びかかろうとしている。
僕は、咄嗟に檻の道具を投げていた。それは一瞬で巨大化すると、魔物だけを閉じ込める。この檻の道具、ここに来るまでの間に、また少し強化しておいたんだ。
檻は捕らえた魔物ごと小さくなっていき、小さな石のようになって床に落ちる。
やった…………強化してから初めて使ったけど、うまくいった!!
魔法は苦手だけど……これはまた少し得意になった気がする。
リールヴェリルス様が、僕の頭を撫でてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
「そっ……そんな……リールヴェリルス様の檻の道具のおかげです……」
「フォルイトの実力だよ」
彼が微笑んでそう言ってくれると、嬉しくなる。
僕でも、リールヴェリルス様の役に立てるようになれたのかな……
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