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25.僕に教えてくれませんか?

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 魔物の破片を集めながら森に入って行くと、草むらに隠れて、人が倒れているのが見えた。

「えっ……!?? あ、あのっ……大丈夫ですか!??」

 駆け寄ろうとすると、背後から肩を掴まれ止められた。リールヴェリルス様だ。

「……俺が行くよ」
「へ!?? で、でも……」
「フォルイトは危ないから下がってて。盗賊かもしれない」
「り、リールヴェリルス様だって危険じゃっ……!」

 言いかけた僕の頭を、リールヴェリルス様は撫でてくれる。

「……俺は大丈夫。フォルイトが俺以外に近づく方が嫌だな」
「…………」

 彼は僕に微笑んで、倒れた人に近づいて行く。僕もその後ろから、クイヴィーアさんと一緒に恐る恐るついていった。

 倒れていたのは、剣士のような格好をした男の人だった。動きやすそうな防具を身につけていて、彼のものなのか、そばには大きな剣が落ちている。腕と足に切り傷があって、足の方には少し氷がついていた。そして、ぐったりと倒れたまま、目を覚まさない。

 その男のそばにしゃがんだリールヴェリルス様は、彼の体に触れて傷や体の状態を確認していた。

「……冒険者の類か…………? 魔物の毒にやられているな……」

 すると、クイヴィーアさんは首を傾げて言った。

「魔物の……ですか? さっきのあの魔物は、毒は持っていなかったようですが……」
「……おそらく、魔物と戦闘中、ここに逃げ込んだんだろう……だが、ここでも魔物に襲われて魔力が尽きたのかもな……傷は浅いが、魔力が尽きている」
「……そう言えば、この近くにギルドがありましたね。そこから来たんでしょうか……」
「……どうだろうな…………」

 そう言って、リールヴェリルス様が倒れた人に回復の魔法をかける。すると、彼の傷はすぐに塞がったけど、彼は目を覚まさない。

 リールヴェリルス様は、彼を担ぎあげた。

「連れて行くか……」

 すると、それを見上げたクイヴィーアさんが、少し意外そうに言う。

「珍しく、優しいですね」
「…………ここの状況を確かめておきたくなった。そのついでだ」
「状況って……魔物のことですか?」
「ああ……この辺りには以前から魔物が多かったはずだが、先ほどの魔物を見ても、かなり強力なものになっている。魔物にしては攻撃に統制がとれていたようだし、厄介な魔物が増えているのかもしれない……国境近くでそんな魔物が増えているなら、放っておくわけにはいかないだろう」
「珍しく、まともなことを言いますね」
「俺はいつもまともだろ? クイヴィーアは魔物のことを報告しておいて。すでに王家の管理する森に入っているのに、こんなことじゃ困るって。第一王子殿下に忠告しておいて」
「はーい!」

 リールヴェリルス様は、僕に振り向いた。

「行こうか、フォルイト」
「は、はいっ……!」

 返事をして、慌ててリールヴェリルス様について行く。

 魔物の状況になんて、僕は全然気づかなかった……やっぱり、リールヴェリルス様もクイヴィーアさんもすごい……

 さっきの戦闘の時も思ったけど、僕は知らないことが多い。戦い方も、魔法のことも。

 使い魔のところまで戻ると、すでに使い魔には馬車のような客車を引かせる用意がしてあった。竜の使い魔が大きいからか、客車の方もかなり大きい。僕らみんなが一緒に乗っても、広々とくつろげそうだ。

 リールヴェリルス様が、僕に振り向いて言った。

「ここからは、魔物が近づいてこないように魔力を抑えてゆっくり進むことになる。フォルイトはクイヴィーアと一緒に客車に乗ってて」
「………………あ、あのっ……」
「……どうしたの?」
「え、えっと………………あ、あのっ……!! す、進む間、ま、魔法のこととか……魔物のこともっ……! こ、これから向かう場所のこともっ……!! あ、あのっ…………お、教えてもらえませんか……? 僕、魔法の道具や武器に関すること以外……知らないことが多い……ので…………」
「……もちろん」
「いいんですか!???」
「うん。フォルイトと約束した魔法の道具も乗せてあるし、魔法に関する本もあったはずだから」
「リールヴェリルス様…………」
「フォルイトが落ちないようにしっかり捕まえておく鎖もあるんだけど……」
「……それはいいです…………」

 鎖は困るけど……魔法や魔物なんかのことを教えてもらえるのは嬉しい。魔法も……もう少し使えるようになるといいな……そしたら、僕でももっとリールヴェリルス様の役に立てるかもしれない。

 倒れていた人を客車に乗せて、手に入れた魔物の素材も全部乗せて、僕らは森を出発した。
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