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番外編.触手です

21.離してくれるんですか?

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 体に力を入れて起き上がろうとするのに、全く体は動かない。もう死ぬ……

 起き上がるどころか、俺はベッドに横になってしまった。

「ルイア……テアは…………?」
「テアなら、アレゼと一緒だ。心配しなくても、テアはああ見えて、アレゼと共にいることを楽しんでいる」

 そうか? 心底嫌がっているように見えたけど……

 ますます不安になりそうになったところで、アレゼたちの寝室のドアが開いて、ぐったりしたテアが出てきた。

「て、テアっ……! だ、大丈夫……?」
「ああ…………」
「ほ、本当に大丈夫!? こ、ここ、座って!」

 ベッドを叩いて言うと、テアは俺の隣に倒れ込んでしまう。

 一応パジャマは着てるけど……パジャマ着て寝てるだけで、ぐったりとはしないはず。

 テアの後に続いて、アレゼまで出てくる。彼は今にも死にそうなテアとは違って、めちゃくちゃ元気だ。

「イウー、魔王様! おはようございます!」

 その声を聞いて、テアの体がビクッと震えた。やっぱり怯えているようにしか見えないんだが……

 それでもアレゼは楽しそう。

「テア様、もう立っているのも辛いのに、無理に歩かなくていいんですよ? 僕だって、テア様を魔法で運ぶくらい、できます!」
「い、いい……後で何をされるか分からん!」
「えー。何もしませんよー」

 そう言いながら、アレゼはテアの体に魔法をかける。すると、テアの体がふわっと浮き上がった。

「魔王様とイウがここで楽しむなら、僕たちは部屋で朝食をとります!」
「えっ……!? ま、待って! あ、アレゼっっ!!」

 いくらなんでも、今のテアとアレゼを二人にするのは心配だ。

 俺が止めると、魔王様もベッドを指差して、ここで食事をとっていけって言った。

「イウがテアを心配している。座れ」
「はーい!!」

 元気に返事をして、アレゼはテアをベッドの上の、俺の隣に下ろす。そして、自分もその横に座って、楽しそうに笑った。

「テア様、何か食べたいもの、ありますか?」
「いや……ない。できれば、まだ寝ていたい……」
「じゃあ、テア様は寝ていていいですよ」

 そう言って、アレゼは、テーブルの上のリンゴを取ると、見事な腕でウサギの形に切っていく。

 俺はその間に、隣のテアを見上げた。

「テア……大丈夫?」
「ああ……すまん。イウ。昨日は余計な真似をしてしまって……」
「え!? や、やめろよ!! テアはちゃんと止めたのに、言うこと聞かなかった俺が悪いんだからっ!」
「イウ……」

 テアが、うるうるした目で俺を見る。けれど俺は、隣にいた魔王様に抱き寄せられてしまった。

「る、ルイア……?」

 びっくりする俺の頬に、魔王様が軽くキスをする。相変わらず、独占欲の強い魔王様だ。

 そして今度は、リンゴをきれいに皿に並べたアレゼが、テアの隣に座った。

「テアさま! 果物できましたよ」
「あ、ああ」
「テア様絶対、ご飯食べられないだろうから、僕があーんってしてあげます!」
「い、いや……必要ない」
「そんなことありません!」

 アレゼがフォークに刺したリンゴを、テアに食べさせるのを見ていたら、俺も腹が減って来た。

 ベッドの上で、昨日の恨みをこめて魔王様を睨んでやるけど、そんなの、魔王様に効くはずもないんだ。

「イウ、朝食は何がいい?」
「……そんなの……食べられないです……起き上がれない……っ!」

 無理って言ってるのに、魔王様は俺を引き寄せ、キスをする。口の中に押し入ってきたのは、甘い果汁だ。

 力の入らない俺に、甘い汁を流し込んで、口の端から流れ落ちそうだったものまで丁寧に舐めとって、魔王様は楽しそう。

 昨日、もう絶対無理って言ったのに、止めるどころか手加減すらしてくれなかった魔王様に、俺はちょっと怒ってるんだ。だけど、もう抵抗どころかろくに腕も動かせなくて、されるがままだ。
 ちゅって、何度も口付けるような音を立てて、溢れたもの、全部舐めとられて、何だか恥ずかしくなってきた。

「る、ルイアっ……ひゃっ! ま、待って! んっ……!」

 待ってって言ってるのに、口の周りどころか、唇まで奪われてしまう。魔王様、俺の話聞く気、全然ない!!

 何度も唇を咥えられて、離されて。唇だけで満足できなくなったらしい魔王様に、唇の奥まで、存分に味わわれて。

 やっと、魔王様の唇が離れていくときには、濡れた唇から透明な線が伝っていた。魔王様が俺の目の前で笑う。またすぐにキスされちゃいそうな距離だ。ちょっと怯えて、それでもキスが欲しくなって震える俺から見たら、何だか勝ち誇った笑みみたいだ。

「お前の好きな果物のジュースだ。うまいだろう?」
「……おいしい……けど……んっ!」

 魔王様、俺の意見を聞く気なんて、絶対ない! あったら話してる途中にキスしたりしない!!

 またキスで甘いものを俺に流し込んでから、魔王様はニッと笑った。

「動けそうか……?」
「無理……もう今日は起きるのだって無理です……」

 だって、腰に力が入らない。それどころか、こうしてベッドの中にいるうちも、なんだか夢心地なんだ。いっぱい魔王様に愛された後で、ずっとキスされてるんだから。

 俺はこんな状態なのに、魔王様は楽しそう。

「それなら仕方ない。もう一泊していくか」
「へ?? な、なんでですか!?」

 ここに、もう一泊? 冗談じゃない。こんなところにいたら、ほんの少し回復した隙をついて、魔王様にまた抱かれる!

 もう限界なのに、驚く俺を、魔王様はまた押さえつけてしまう。
 アレゼまでもが、ポンっと手を叩いて「賛成です!」って言い出した。
 当然、俺の隣のテアが、ビクって大きく体を震わせる。

「あ、アレゼ……もう一泊? ほ、本気じゃないよな?」
「本気です! 魔王様も、こうおっしゃってるんです!! 僕だって、テア様と一緒にいたいし!」
「い、一緒にいるだけで済むのか……?」

 恐る恐るといった様子で尋ねるテアフィザンを、アレゼは笑顔で見つめ返す。無言なのが、余計に怖い。

 魔王様も楽しそう。俺にジュースをたっぷりくれて、微笑んだ。

「せっかくだ。一日あるんだし、明日まで存分に楽しもう」
「嫌です! だ、だいたいそれ……あ、明日になったら……離してくれるんですか?」
「離しはしない」
「なんでですか!?」
「代わりに抱えて連れていく。お前は私の腕の中で可愛がられているだけでいい」
「や、やだ…………そんなの嫌です!!」

 絶対それ、連れていかれるだけで済まない。絶対馬車で魔王様に抱かれ続ける。テアの方に至っては、もう真っ青じゃないか。

 そこで、こんこんってドアを叩く音がして、カゴいっぱいの触手を持ったフラデアラスが入ってくる。なぜその触手を連れてきた。

「魔王様! おはようございます!! 見てください!! 山道の触手が、全て元気になったのです!」

 魔王様は、それを見て嬉しそう。アレゼもだ。だけど、俺とテアフィザンは、体が勝手にガタガタ震えだす。

 フラデアラスの後ろから入ってきた執事さんが、丁寧に頭を下げて言った。

「原因は、フラデアラス様が魔力を注ぎすぎてしまったからのようです。魔王様の薬で、触手も全て、元気を取り戻しました」
「……そんなことより、そのかごのものは何だ?」

 目をキラキラさせながら、フラデアラスが持っていたものを指す魔王様。俺とテアは震え上がるのに、アレゼまで楽しそう。

 そして、フラデアラスも、ニコニコ笑いながら言った。

「元気になった触手たちを連れてきました。魔王様にも、アレゼさんにも、喜んでいただけると思いまして。
「そうか……」

 そう言った魔王様とアレゼが、俺たちに振り向いて、俺とテアは二人同時にビクッと震えた。

 どうやら出発まで、もう少しかかりそうだ。


*触手です*完
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