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番外編.触手です

10.いりますー!

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 地図を見ていたら、ランドラーは、俺が握っていた触手に気づいたみたいだ。

「それ……」
「あ、こ、これは……」
「フラデアラス様の……触手ですよね? 元気になったんですか?」
「はい……」

 触手を見下ろしたら、ちょっとだけ魔王様のこと、思い出してしまった。

 怒ってるかな……魔王様。だけど、俺だって怒ってるんだ!!

「でも、なんだかぐったりしていませんか?」
「え……?」

 ランドラーの言うとおりだった。さっきまで触手は元気そうにウネウネ動いていたのに、今はしぼんで全く動かない。しかも、弱々しい光を放っては消えてを繰り返している。どうしたんだ?

「どうしよう……なんでこんなに元気ないんだ?」
「水が足りないんじゃないんですか?」
「へ??」
「多分、強い魔力に当たって、ぐったりしちゃってるんですよ。水をいっぱいあげれば、元気になると思います。それでここに来たんじゃないんですか?」
「いえ……たまたまここを見つけて……あの! 空いてるタライ、借りていいですか!?」
「えっと……多分、タライだと大きいので、あの桶を使っていいですよ」

 彼が指したのは、大きなタライの端にあった、かなり小さな桶。

 俺はそれに水を入れて、持っていた触手を、そっと中に入れた。すると触手は少しずつだけど動き出す。ちょっとは元気になったみたいだ。

「よかった……」

 だけどホッとしたのも束の間、ドアの方から声がした。

「ランドラー? 誰かいるんですか?」

 魔王様かフラデアラスかと思って、体が震えた。けれど、ドアからこっちを覗き込んでいたのは、俺たちがフラデアラスの話を聞いていた時に、お茶とお菓子を持ってきてくれた執事さんだ。

 彼は、ランドラーと一緒にいる俺を見て、首を傾げた。

「イウ様……? 何をされているのですか?」
「あ、あの……俺は……ま、魔王様には話さないでください! 俺がここにいること!!」
「話しません」

 ……わりとあっさり話さないって言ってくれたな……魔王様から逃げてきたこと、咎められるかと思ったのに。

 執事さんは、俺を鋭い目で睨んで言った。

「それで、こんなところで何をされているのです? もしかして……フラデアラス様がまた何か失礼なことをしましたか?」
「いえ……そんなことは……」
「嘘をつかなくていいのです。フラデアラス様が何かしたのなら、すぐに私に話してください」
「ほ、本当に……そんなんじゃないです……」
「そうですか……」

 ランドラーが、桶の中の触手を指して言った。

「イウ様は、触手を元気にしようとしてくれていたんです。見てください」

 桶の中の触手は、さっきより元気になったみたいで、元気に動いてる。

「これで、この街に来る道も安全になりますか?」

 俺が執事さんに聞いても、執事さんはあんまり興味なさそう。

「確かになるかもしれませんが……私はもう、これを機に触手をなくしてもいいと思っています」
「え……? なんでですか?」
「幸い、この辺りの魔物なら、退治に来てくれる魔法使いも集まるようになりましたし、触手がなくなったのは、餌である魔物がいなくなったからです。もう放っておいてもいいと思っています」

 すると、ランドラーが目を輝かせて言った。

「魔物がいれば、触手復活!?」
「何考えてるんですか……」
「だって僕、あの触手、好きです! 可愛いじゃないですか!! あれ目当てでこの街に来る人もいるくらいだし、せっかくだから、あっていいと思います!」
「いりません」
「いりますーー!」

 ここでも触手の是非を言い争ってる……

 いると言って聞かないランドラーは、急に真面目な顔になって言った。

「それにあれは魔物を餌としなくても生きることができるはずじゃないですか。それが急に枯れるのは不自然です!! 何があったのかの調査は必要だと思います!」

 急に真剣な顔で言われて、執事さんは目を丸くする。

「どうしたんですか……急に真面目なことを言って……」
「魔王様が仰ってたんです!」
「……受け売りですか。あなたは触手で遊びたいだけでしょう?」
「あ、バレましたー?」

 ランドラーは楽しそうに笑って、地図に丸をつけて渡してくれた。

「はい。イウ様。離れに丸つけておきました! もう深夜だし、外は暗いので、気をつけて戻ってください!」
「ありがとうございます……」
「がんばってくださいねー」

 執事さんも「フラデアラス様が失礼なことをしたら、私に話してください」って言ってくれる。

「フラデアラス様は今、触手に夢中になってしまっているので…………その触手、少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
「これですか……?」

 俺が触手を渡すと、執事さんは、それを少しちぎってしまう。

「え……」
「大丈夫です。こちらを……」

 執事さんがそれを握ると、触手のかけらは細いリボンに姿を変える。そして彼は、それを俺の手首に巻きつけた。

「これで、その触手の動きを自在にコントロールできるはずです。ですからくれぐれも、それを屋敷内で暴れさせたりしないように、気をつけてください」
「あ、ありがとうございます!! 俺、頑張ります!!」

 俺は二人にお礼を言って、その部屋を後にした。
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