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番外編.触手です

8.二人で逃げてやる

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 怖くて、俺は目を瞑った。

 けれど、俺の体が触手に拘束されることはなかった。いつまで経っても体が自由で、恐る恐る目を開けると、触手は俺の目の前に浮かんで止まっていた。

「な、なんで……?」

 魔王様も、首を傾げている。

「どうしたんだ……?」

 不思議そうに、触手に触れる魔王様。けれど触手は魔王様の手を振り払ってしまう。そして小さく縮むと、俺の手の中にとび込んできた。縮んだそれは、まるで絡まり合った毛玉だ。

 どうなっているんだ……?

 フラデアラスが、俺が投げた瓶を拾って言った。

「これが原因ではないでしょうか……触手に力を与えたのは、イウ様です。先に力を分け与えたのがイウ様だから、イウ様には手出しをしないのかもしれません。一度回収して、魔王様の魔力を注いでみてはいかがでしょう?」
「そうだな……」

 魔王様は頷いて、俺が持っている触手に手を伸ばしてくる。

 そんなこと、させるもんか!!
 俺は魔王様に背を向け、触手を持って逃げ出した。

 背後から魔王様の怒鳴り声が飛んでくる。

「イウ! 触手を返せ!!」
「嫌だっ……! もう元気になったんだから試す必要なんかないだろ! 魔王様を縛るくらい元気になったんだからーーーー!!」

 叫びながら、部屋を飛び出す俺。手の中の触手がピクっと動いて、体を震わせた。すると、その一部がちぎれて魔王様たちに向かって飛んで行く。それは縄のようになって、追ってきていた魔王様たちを縛り上げた。

「イウ!! 待て!」

 魔王様は俺に向かって叫ぶけど、自分を縛る触手を力尽くで引き千切ったりはしない。大事なものだから、傷つけたくないんだろう。この触手……武器になるかも!!

「こ、これは俺が預かっておきます!! 魔王様のバーーカ!!!!」

 自分でもガキくさいって思う言葉を残して、俺はその場から逃げ出した。







 屋敷の中を必死に走って逃げて、俺は、屋敷の広い廊下の端で、息を整えていた。

 振り向いても、もう魔王様は追ってこない。

 もう魔王様には、触手、返さない! 俺を触手でいじめようなんて、酷すぎるじゃないか!! 逃げられるところまで逃げてやる!

 ……だけど、どこへ行こう……とりあえず、この触手持って部屋にでも立て籠るか……

 離れに戻ろうとしたところで、俺はアレゼに連れて行かれたテアのことを思い出した。

 魔王様は怒っていたみたいだったし、アレゼに「お前の好きにしていい」なんて言ってた。アレゼにそんなこと言ったら、テアがどんな目に遭わされるか分からない。

 何しろ、魔王様が俺を嬲る時に使う責め具を用意してるのは全部あいつ!! 手錠とか鞭とか、枷とか男根の形の玩具とか、気が狂うくらいイっちゃう媚薬とか!! この前なんか、三角木馬持ってきた。

 衣装係じゃないのかって聞いたこともあるけど、そしたら、衣装も用意できるよって言って、魔法で服を出してくれた。魔王様用のシャツとかジャケットとかマントとかブーツとか。俺用の、ほとんど布がないワンピースとか、スカート丈の短いメイド服とか犬のコスプレとか首輪とか紐同然の服とか。俺用だけおかしい。挙句の果てには、大事なところだけ隠れないドレスなんか出されて、頭が痛くなった上に、しばらく恥ずかしい格好で魔王様に朝まで犯される悪夢を見た。数日後に現実になった。

 アレゼに連れて行かれたテアが心配だ。ここへ来るまでの馬車でも、テアはぐったりしていた。触手の暴走って言ってたけど、本当だか疑わしくなってきた!

 テアを助けなきゃ……!! アレぜのもとからテアを救い出して、二人で逃げてやる!!
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