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番外編.触手です

5.つけてるんじゃない! 護衛だよ!

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 テアフィザンに持ってきてもらった服を着ながら、俺は触手と薬を、風呂にあった桶に入れて、露天風呂を走った。二人はあっちか!!

 風呂の塀をよじのぼろうとしたけど、全然届かない。

「テア! 足場になってくれ!」
「イウ、やはりやめよう!! ルイアは横暴だが、魔王だ!! 王の後をつけるような真似をしてはならない!!」
「つけてるんじゃない! これはっ……ご、護衛だよ!! 護衛!! 魔王様をお守りするためだ!!」
「無理があるぞ……!!」

 言いながらも、テアは、俺に魔法をかけてくれる。すると、フワッと俺の体が浮き上がった。

「わっ……! わ!!」

 ふわふわと浮く俺の体は、塀を越えて、風呂の外に降りることができた。
 露天風呂の向こうは庭だったようで、背の高い庭木がいくつも立っている。

 俺の後から、テアフィザンもついてきて、俺が途中で手放してしまった触手を入れた桶も、持って来てくれた。

「大丈夫か? イウ! 万が一にも怪我などしていないか!?」
「してない! テアのおかげだ! ありがとう!」

 だけど、テアフィザンはどうしても心配みたい。おろおろしながら、俺の体を見てくる。

「ほ、本当に怪我してないか? イウの体に傷がついたら、私は死罪だ!! 本当に傷はついていないか!?」
「ついてないし死罪になんかならないし魔王様はそんなことしないし、させないって! それより、魔王様を追おう!」

 魔王様の声が聞こえた方に、俺は走り出した。背後からテアフィザンもついてくる。

「い、イウ! 本当に行くのか!? 今ならまだ引き返せるぞ!!」
「引き返したりしない!! 魔王様が何話してるのか確かめる!」
「……触手のことじゃないか? あ、ああ、脱衣所にフルーツ牛乳があったんだが、飲むか?」
「飲む!!」

 果物の柄の牛乳瓶を受け取って、魔王様を追う。途中で、もらったフルーツ牛乳を開けようとしたけど、瓶の蓋が開かない!

「こ、これ、どうやって開けるんだ?」

 フルーツ牛乳の瓶を渡したら、テアフィザンは、爪でその蓋を取ってくれる。

「あ、ありがとう……すげ……冷えてる……」

 冷たくて甘くて、乾いていた喉も潤って、気持ちいい……

 一気に飲んで庭木を抜けていったら、裏口から母家へ入っていく二人が見えた。

「いた……テア! 追うぞ!」
「イウ!! ふ、普通に出て行ってルイアに聞こう! 絶対にその方がいい!」
「やだ!!」

 だって、もうここまできて引き返すなんてできない!!

 俺も、テアをつれて、屋敷に入る。

 すると、美しい絨毯が敷かれた廊下の向こうの角を、フラデアラスと魔王様が歩いていくのが見えた。

「あっちだ!!」
「イウ! 待て!! そんなに走ったら見つかる!!」

 テアフィザンが、俺の手をぎゅっと握って、体が微かに熱くなる。熱はすぐに引いたけど、それ以降、俺とテアフィザンの足音がしなくなった。

「な、なんだ?」
「追跡のための魔法をかけた……ルイア相手に、どれだけ効くか分からないが、ないよりはマシだろう」
「あ、ありがとう……テア……」
「礼はいい。いますぐやめよう! 部屋に帰ろう!」
「な、なんだよ……魔法かけてくれたくせに……」
「私はとにかく見つかりたくないだけだ。戻ろう! ルイアに見つかる前に!」
「テアは先帰ってていいよ。俺、魔王様が部屋に帰るとこ、見届けてから帰るから!」
「それじゃ遅い! 遅いぞイウ!! それでは、ルイアが部屋についた時に、イウが部屋にいないじゃないか!!」

 小声で話しながら走る俺たち。

 魔王様とフラデアラスは、廊下で立ち止まって、窓の外を見て何か話している。森の方でうまい果物が取れるとか、そういう話みたいだ。

 そして二人は、奥にあった部屋に入っていく。

 すぐにつけて行って、ドアに耳をつける。部屋の中から、フラデアラスの声がした。

「魔王様、こちらが、枯れた触手の位置を示した地図でございます……」
「ああ……」

 なんだ……触手の話か……

 魔王様は、真剣にそれの話をしているみたい。ドアの向こうから、魔王様が重い口調でフラデアラスと話す声が聞こえてくる。

「これか……」
「魔王様……何か分かりそうですか?」
「いいや。だが、魔力で少し元気になるようだ……試してみるか」
「お待ちください!! 魔王様の強い魔力を注いだら、触手が傷ついてしまうのでは……」
「細心の注意を払う」
「ですが……お、お待ちください! 魔王様!!」

 う、上手くいってるのかな? なんだかガタガタ物音がする。まだ何か話しているみたいだけど、聞き取れない。中の様子、見れないのかな?

 こっそり、ドアノブに手をかける。するとテアフィザンが、後ろで小声で悲鳴を上げた。

「イウーーーー!! 馬鹿な真似はやめろ!! 死ぬ気か!? ルイアにバレたらどうする!!」
「バレないって……!」
「相手は魔王だぞ!! イウ! 今すぐやめよう! やめて部屋に帰ろう!」
「大丈夫だって!」

 こっそり、ドアノブを回して、かすかに開いたドアから、中を覗く。

 魔王様は、箱の触手に手をかざしていて、彼の手元が優しく光っている。その光を受けて、箱から触手が飛び出してきた。それは見る間に膨らんで、あろうことか魔王様に襲い掛かる。

 あの触手、元気になったのか!? なんで魔王様を襲うんだよ!!

 即座に飛び退く魔王様とフラデアラス。けれど、箱から飛び出した触手は、なおも魔王様とフラデアラスに向かっていく。

 二人とも、なんで反撃しないんだ!? もしかして、触手を傷つけないため?!

 だけど、このままじゃ、魔王様もフラデアラスもやられてしまう。

 ここは俺がなんとかするしかない!!

 俺は、魔王様から預かった箱を見下ろした。だけど隣にいたテアフィザンは、ますます顔を青くする。

「い、イウ!! 何をする気だ!?」
「決まってるだろ! 魔王様を助けるんだ!!」
「落ち着け!! あんなもの、ルイアの敵じゃない! もう少し様子を見よう!!」
「そんなことしている間に、魔王様がやられたらどうするんだ!! 魔王様は、あの触手を傷つけるのが嫌なんだよ!」
「ま、待て! 待てイウ!! もしかしたら、触手がどれだけ元気になったか、試しているだけかもしれないだろう!!」
「へ??」

 そうなの? って思った時にはもう遅い。

 俺は、すでに触手に薬をぶっかけて、魔王様を襲う触手に向かって放り投げていた。

 だって、これで俺が預かった触手が元気になれば、魔王様を助けてくれるって思ったんだ。

 だけど、試しているだけって、どういうことだ!?

 焦るけどもう遅い。俺が投げた触手は、魔王様に襲い掛かるものに、びちょびちょのまま飛びかかっている。

 魔王様も、こっちに振り返った。

「イウ……来るな! 危ない!」
「ま、魔王様っ……!! 大丈夫ですか!?」
「馬鹿! その薬を一気にかけるなと言っただろう!!」
「え? で、でも……!」

 魔王様に襲い掛かろうとした触手は、俺が投げたものに絡みつかれて、動かなくなっている。上手くやれたと思ったのに、俺が投げたものは薬でびしょびしょで、その薬は魔王様に襲い掛かろうとしていた触手にまで伝っていく。

 すると、襲い掛かろうとしていた触手が、びくんと動いた。それはビクビク揺れながら、見る間に巨大化していく。そしてついに、見上げるほど大きくなったそれは、周りにいた人に一斉に襲い掛かった。

「わっ……! わーーーー!!」

 触手は俺たちの方にまで襲いかかってくる。けれどそれは、俺やテアフィザンのところに来る前に、光る壁に阻まれ、動かなくなった。

 俺たちのことは、多分魔王様が庇ってくれたんだろう。触手に襲われることはなかったけど、代わりに触手に絡みつかれた魔王様は、その場で動けなくなってしまった。
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