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34.特別に褒美をやる
しおりを挟む地下牢から飛び出した俺たちは、あの会場目指して城の廊下を走った。
しばらく行くと、今度は廊下の奥から光る獣が飛び出してくる。それはまるで水のように揺らめいていて、黄金のように光り輝いていた。目や鼻はないけれど、口だけが、首まで届きそうなくらい裂けていて、俺たちに向かって、大きく口を開いて吠える。
「な、なに!?」
怯える俺の前に魔王様が出て、剣を抜いた。
「侵入者対策用の魔物だ。お前はさがっていろ」
「ま、魔物って、人の言うこと聞くんですか!?」
「人が作って使役すればな。お前、昨日私の媚薬に喘がされたばかりだろう?」
「う…………」
「伏せてろっ!!」
焼けるように光る刀身。それが飛んできた魔物を切り裂いていく。
魔物が崩れたあとには、砂浜の砂が積もっていた。
「な、なんで砂が……」
怖くて、それに近づかないようしながら俺が言うと、魔王様が苛立った様子で砂を踏みつける。
「砂に魔力を与えて使役している。面倒な真似をしてくれた……砂浜は人魚族の領域だ。荒らせば余計な諍いを生む。どおりで、交渉に時間がかかるはずだ」
「魔王様…………あ、あれ!」
今度は廊下の向こうから、何人もの兵士達が飛び出してくる。誰もがこちらに剣を向けていた。
けれど、まだ幻術が解けない魔王様のことはともかく、俺たちと一緒にいるテアフィザンのことは分かるらしい。彼らの間に動揺が広がる。
「て、テアフィザン様!?? な、なぜ……」
「剣を下ろせ。この方々達は……」
テアフィザンが言いかけたところで、兵士たちは、左右に分かれて道を開ける。その真ん中を、一人の男が歩いてきた。テトラだ。
「これはこれは……テアフィザン様。なぜそんな罪人達と共にいるのです?」
「この方々は罪人ではない。私を救い出してくださったのだ」
「なにを馬鹿な……」
「テトラ。お前のしたことはもう分かっている。今すぐ、貴様がありもしない罪で投獄したものたちを解放しろ!! 奴隷に落としたものも全てだ!! 貴様のしていることは、魔王様への反逆だぞ!!」
「反逆? 私が? なぜです? 私はただ、この街の平穏を願うばかりでございます。そこにいる罪人たちのように、無秩序に大地を荒らすものが増えていますから」
「テトラ……貴様!! この方は魔王様だぞ!!」
「ははっ……なにを馬鹿な!! その者の、どこが魔王様だと言うのです?」
「それは貴様が幻術を封じたからっ……」
「ははは!! 馬鹿らしい!! 私は何も知りません! それに、もしそうであるとして、その程度の幻術も解けず、なにが魔王だ!! その者達を捕らえろ!! 魔王様の名を語る反逆者だ!!」
テトラが叫ぶと、一斉に兵士たちが襲ってくる。
魔王様が剣を構えた。
「馬鹿どもめ! 貴様らなど、魔力を使うまでもないわ!!」
魔王様の剣にかかり、向かってきた奴らは次々倒れていく。
一人一人は大したことはないが、次々出てきて、みんなが俺たちに向かってくる。それを、魔王様は鞘をつけたままの剣で、テアフィザンは杖だけでなぎ払っていた。
魔王様もテアフィザンも、明らかに手加減している。みんな、テトラに言いくるめられているだけなんだ。
だけど、多分それだけじゃない。
みんななんだか、力が入っていない。中にはフラフラしている人もいて、もしかして、体の調子が悪いのかと思うほどだ。
そんな人が相手じゃ、魔王様も全力は出せない。加えてこっちは三人、うち一人は俺で、戦力にならないどころか、壁に並んだ、床から天井まで届きそうな大きな窓のカーテンの影に隠れていることしかできない。
どうしよう……俺だって、魔王様の力になりたい。だけど、槍はもらったけど、これで戦うなんて無謀ってわかってる。
せめて一度、相手の足を止められればいい。
あたりを見渡すと、廊下の端に、大きな花瓶が置いてあるのが見えた。
あれだ!
「避けて! 魔王様っ!!」
叫んでそれに駆け寄って、乱戦中のみんなに向かって、思いっきりぶちまける。
所詮俺の力。水が戦闘中のみんなまで届くことはなかったけど、床は水浸し。
その水に向かって、俺は思いっきり槍を突き立てた。
水はそこから音を立てて凍っていく。水が伝ってないところまで凍って、その場にいた人たちみんなの足首あたりまでを、氷が絡めとる。
無事だったのは、俺の声を聞いて天井に逃げた魔王様とテアフィザンだけ。
「よくやった!! イウっ!」
魔王様の声が響き、彼の剣が俺の氷に突き立てられる。すると、氷から光の鎖が飛び出して、そこにいた人たちに絡みつき、みんな気絶してしまった。魔王様の魔法だろう。これで、敵は全部打ち倒した。
床に降りてきた二人に、俺はすぐに駆け寄ろうとした。だけど、駆け出した瞬間、氷で滑って転んでしまう。
「いったーー!!」
「おい……大丈夫か?」
少し呆れた様子で、魔王様が手を貸してくれる。
「あ、ありがとうございます……うわ!」
その手を取って立ち上がろうとしたけど、また氷に足を取られてしまい、立てない。なんでこうなるんだ……
「いった……いたた……」
「……」
魔王様は無言で俺を抱き上げてしまう。
「うわ!! ま、魔王様!?」
「自分で作った氷に自分で足を取られた挙句立てなくなるか。お前らしくていい」
「な、なんでそれが俺らしいんですか!?」
言い返しながらも、こんなふうにお姫様だっこされてると、すごくドキドキする。
ま、魔王様の顔が近くにある……頑張ってよかった!!
嬉しいのに、そばにいて、その顔を見上げていたいはずなのに、恥ずかしくて、つい顔を背けてしまう。俺は結構ヘタレだったのか……
魔王様は、俺を床に下ろしてくれた。けれど床に足をつくと、足首が激しく痛む。
「いった……うわ!! 俺まで凍ってる!!」
足首には、さっき人を捕まえた氷が巻きついている。それが足に力を入れるたびに食い込んで、めちゃくちゃ痛い!!
慌てて氷を叩き割ろうとする俺。なんでこう俺は、最後で失敗するんだ。魔王様がお姫様抱っこまでしてくれたのに、恥ずかしい。
「す、すぐ走れるようになるから待ってください!! お、俺だって、まさか、こんなところ凍るなんて思ってなくて……」
「分かっている。私を助けるためにしたのだろう?」
「へっっ!!??」
声が裏返った。魔王様に誘うような目で見上げられて、そんなこと言われたら、声だって冷静でなんかいられない。
何より、座った状態で片足を両手で持ち上げられると、すごく恥ずかしいからやめてほしい!!
それなのに、魔王様は俺の足に顔を近づけてくる。
「ま、ままままままま魔王様っっ!!?? な、ななななにしてっ……」
「今回は特別だ。褒美をやる……」
「は!?」
魔王様の唇が、怪我をした俺の足首に触れる。そこがふわっと暖かくなって、痛みも赤くなっていた肌も、元に戻っていく。だけどそんなことをされて、俺はもう真っ赤だ。
「ま、魔王さま!!? やめてください!! 足だし……き、汚いからっ……!」
「汚くなどない。私が愛している体だぞ」
「ひゃ!!」
ぺろっと、柔らかい感触。やめてって言ったのに、そんなところを舐められて、ビクビク感じてしまう。
「ま、魔王様っ……! も、もうっ……」
何度もいやらしい音を立てて、俺のそこを味わって、魔王様はやっと唇を離してくれた。
そして魔王様はやっぱり意地悪な顔で笑う。
「もう痛くないか?」
「ひ、ひゃい……」
また声が裏返った……
真っ赤になる俺に、魔王様は手を貸してくれた。敵のところに向かっている最中なのに、ドキドキして仕方ない。
もうしばらく、魔王様を見ていたいのに、廊下の奥から、魔法で氷を溶かしながら、人が飛び出してくる。
だけど、様子がおかしい。その人はすぐに振りかぶった剣を落とすと、魔王様にもたれかかるように倒れてしまう。
「おい!! どうした!?」
魔王様が何度声をかけても、体を揺さぶっても、その人は目を覚さない。
魔王様はその人を抱き上げ、走り出した。
「行くぞ! 走れっっ!!」
廊下の奥からは、まだ人が飛び出してくる。キリがない。
「雑魚ばかり相手にしても意味がない! 退くぞ! テア!!」
叫んだ魔王様について、テアフィザンも俺も、その場を逃げ出した。
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